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小説
第27話 「正義の鉄槌」







「おせぇ………おせぇおせぇおせぇ!」


 鉤爪の備わった手甲を閃かせ、アレスはヴィータに向かって叫ぶ。


「おっせぇんだよ、愚図!」

「うるせぇ!」


 文句ばかりのアレスに、ヴィータはグラーフアイゼンで、複数の鉄球を放ちながら苛立たしげに舌打ちする。


「だから言ってんだろ、おせぇってよぉ!」


 ヴィータから差し向けられた鉄球を、鉤爪が付いた手で鷲掴みする。


「それに、攻撃がぬりぃんだよ!」


 それを証明するように、アレスは掴んだ鉄球を握り潰した。


「なら、掴めねぇコイツならどうだ!?」


 一際大きな鉄球を出し、ヴィータはグラーフアイゼンで思い切り叩く。


「コメートフリーゲン!」


 一直線にアレスへと飛来するそれに、受け手であるアレスは微動だにしなかった。そして、その巨大な鉄球を一身で受け止める。


「へへっ………少しはきいたぜぇ?」

「ソイツはありがとよ」

「そぅらぁっ! 次は俺様のを受けろや! ガキィッ!」


 アレスは鉤爪の尖端に魔力を込めて、爪の長さを伸ばす。


「デスクロー!」


 黒い爪は大きくしなり、ヴィータに襲いかかった。










魔法少女リリカルなのはStrikerS-JIHAD

第27話 「正義の鉄槌」










「ここか………」


 眼前に聳え立つ荘厳で純白な扉を目にして、シグナムはレヴァンティンを持つ手に自然と力が籠る。


「レヴァンティン、準備はいいか?」

[Ja.]


 愛機の心強い返事に、シグナムはうっすらと笑みを浮かべ、扉を開いた。目を焼くのではと思うほどの閃光に目を庇う。


「私の相手はお前か」


 やがて目映い光が収まった時、シグナムの目の前にレーゲンが腕を組んで立っていた。


「ベルカの騎士か」


 組んでいた腕を解き、レーゲンはシグナムと視線を絡める。

 左の腰に携えたサーベルを引き抜き、剣尖をシグナムへと差し向ける。右手にはサーベルを、左手にはそれの鞘を持っていた。


「盾ではなく、鞘を持つのか」

「変わり者とはよく言われる。
 だが、だからとて弱くはないぞ」


 不敵な笑みを見せるレーゲンに、シグナムは身体を強張らせた。


「俺の名はレーゲン。 真名はデメテルだ」

「烈火の将、シグナムだ」


 レヴァンティンを抜刀し、レーゲン─────デメテルと同じように剣尖を相手に向ける。


「シグナム………か。 その名、忘れぬようにしよう」


 言い終えるや否や、デメテルは脱兎のごとくシグナムへと踊りかかった。




















「惜しいなぁ………」


 目の前にある光景に、アレスはこれみよがしに肩を落とす。


「もうちょいで首がすっ飛びそうだったのによぉー………」

「あんま調子にのんなよ」


 真横に一閃された鉤爪を、ヴィータは仰け反る事でかわした。紙一重だったにも関わらず、どこも切ってはいなかった。


「まぁ、この俺様を楽しませてくれんだ。 すぐに死んじまったら、それこそ屑だ」


 また戦いを楽しむ顔に戻ったアレスに、ヴィータはグラーフアイゼンの尖端を向けながら言う。


「テメェ、そんなに強いのに、何でゼウスに刃向かわねぇんだよ?」

「あぁ? 何だぁ、いきなり?」


 ヴィータの唐突な言葉に、アレスは首を傾げる。


「何でゼウスを倒そう………とか思わねぇんだ?」

「ソイツァ、俺様がアイツに生み出されたからだ」

「生み出された?」

「あぁ。 アイツが光闇の書を介して、自分の魔力と捕まえた尼の戦闘データで作ったんだよ」

(捕まえた………フェイトか!)


 ヴィータはアレスの告げた『捕まえた』人物がフェイトだとすぐに気がついた。


「アイツに刃向かおうもんなら、光闇の書を通してソッコーで魔力を抜かれるからなぁ。
 簡単にゃあ刃向かえねぇんだよ」

「なるほどな」

「それに、俺様は殺す事が楽しいんだ。
 自分を殺すなんて事、すると思うか?」

「思えねぇ」

「だろ? さぁ、コレで冥土の土産話は終わりだ。
 分かったら………………死ねやぁ!」


 鉤爪を鋭くし、アレスはヴィータに踊りかかった。


「そんな簡単に死ねるかよ!」


 爪を立てて肉薄してくるアレスに、ヴィータは彼の横からの一閃を、高度を上げてかわす。


「喰らいやがれ!」


 そして、アレスの斜め上からシュワルベフリーゲンを放つ。


「あぁ? 今更、んなのが効くと思ってんのかよ!?」


 ヴィータが打ち出した数個の鉄球を見ても、アレスはなんとも思わない。


「ウォラァッ!」


 鉤爪に魔力を付与して、グローブのように巨大化させたクローを片手だけ振るって、鉄球を粉砕する。


(真下ががら空き!)


 しかし、ヴィータは鉄球を陽動に、アレスの真下へと回り込んでいた。


「アイゼン!」

[Jawohl.]


 カートリッジが排出され、グラーフアイゼンの形態が切り替わる。


「ラケーテン………!」

「真下か!?」


 ヴィータがグラーフアイゼンを振り回している事に、アレスが気が付いた。

 だが─────


(おせぇよ!)


 ─────ヴィータの攻撃は既に目前にまで迫っていた。


「……ハンマー!」

「クリムゾンネイル!」


グラーフアイゼンが当たる─────!そう確信したヴィータだったが、アレスの足に深紅の光が収束し、足を全て覆う紅色の装甲が具現した。


「かてぇ………!」

「ハハッ! 残念だったなぁ!」


 火花を散らすグラーフアイゼンと自分のクリムゾンネイルを見て、アレスは空いている方の足でヴィータを襲った。


「くそっ!」

「ヒャハハッ! 避けんので手一杯みてぇだな、ガキぃ!」

「うるせぇ!」


 既の所で距離を取り、ヴィータはアレスから離れた。


(飛び道具は無いだろうな?)


 訝しむヴィータだったが、その疑問はすぐに解消された。


「そぉら! ウィンドクロー!」


 アレスが後ろに振りかぶった右手の掌に魔力が集中し、緑色の掌サイズの球体を作った。そして、距離を取り続けるヴィータに向かって思い切り投げられた。


「こなくそっ!」


 弾速の速いそれを見て、直撃を避けるべく身を捻る。ギリギリの所で、ヴィータはかわす事が出来た………はずだった。


「アグッ!」


 しかし、痛みを感じて右肩を押さえると、湿った感触に気が付く。


「何で………」


 右肩を押さえた手を見ると、その手は鮮やかな赤色に染められていた。血だ。確かに攻撃は避けたはずなのに、何故か右肩を切っていた。


「休んでんなよ! 休むんなら死んでからにしろやぁっ!」


 次々に投げられる緑色の球体に、ヴィータはシュワルベフリーゲンで対処しながら逃げ回る。


「どうしたどうした!? 防戦一方じゃねぇかよぉ!」

「野郎………!」


 ギリっと奥歯が砕けるのではないかと思うほど、歯ぎしりする。


「おらおらおらぁ!」


 ヴィータを屠ろうと、息を吐く暇すら与えずにウィンドクローを射出し続ける。それをかわし続け、ヴィータはある事に気がついた。ウィンドクローが自分の脇を駆け抜ける時、微かに聞こえるのは、風の音だった。


「なるほどな」


 恐らく、最初に紙一重でかわしたと思っていたそれは、強力な鎌鼬が発生していた為に、ギリギリ避けた程度では避け切れなかったのだろう。合点がいったヴィータは、しかし、どう対処するかを迷う。


(一直線に並んでりゃあ、ギガント級で全部ぶっ壊せる)


 だが、ギガントハンマーを使ってアレスまで追い込めるかは分からなかった。確かにウィンドクローは全て破壊できるかもしれないが、ギガントハンマーがア レスに直撃するまでは時間を要する。その間に、別の攻撃を喰らってしまっては意味がない。ウィンドクローは弾速も速い為、ギガントハンマーを振り下ろして いる隙に背後から穿つ事だって可能だ。


(どうする………?)


 必ず勝算はある。それだけを信じて、ヴィータは尚も回避行動を続けていた。


「屑が………!」


 しかし、アレスはその戦い方に苛立ちを募らせていた。舌打ちし、ヴィータを睨む。


「テメェ! 逃げてばっかじゃねぇかよ!」

「うるせぇ! あたしの戦い方に文句があんのなら、ウィンドクロー(それ)を止めろ!」


 まったく反撃してこなくなったヴィータに飽きたのか、アレスはがなる。しかしヴィータはこれを好機と捉え、ウィンドクローを止めさせようとする。当然、上手くいくとは思ってはいないが、勝てる見込みがあるのならなんだってやるつもりだった。


「結局、テメェは俺の渇きを満たせねぇか………。
 だったら、さっさと始末して他の奴も殺すっきゃねぇなぁ!」


 左手でウィンドクローをヴィータに向かって投げ続け、右手には特大サイズのウィンドクローを生成する。


「下手くそ!」


 だが、ウィンドクローが両手から投げ出される事が無くなったお陰で、ヴィータにも余裕が出来た。


「はっ! 小せぇウィンドクローで仕留めたってつまんねぇんだよ!」


 形成が終わったのか、アレスの右手には巨大なウィンドクローがあった。その内部には風が逆巻いており、鎌鼬だと予想したヴィータの予想は的中した。


「コイツをテメェにぶつけりゃあ、鎌鼬でバラバラになるぜぇ?」

「はっ、やってみやがれ!」


 惨殺する光景を思い浮かべているのか、アレスは嗤っている。しかし、それに恐怖を感じる事も無く、ヴィータはグラーフアイゼンで虚空を薙いだ。


[Load Cartridge.]


 カートリッジが数個消費され、グラーフアイゼンの形態がギガントフォルムとなる。


[Gigant Form.]


 それに対して、アレスは臆する事無く右手を後ろに引いてヴィータへと突っ込んだ。


「ウィンドクロー・プリズン!」


 ゴオッと、一際大きな風の音が響いた。そう思うと、アレスは自分の前に撃ちだしたウィンドクローを並べ、ヴィータの近くにまで迫っていた。


「轟天…爆砕!」


 しかし、ヴィータはそれに慌てずに対処する。空を薙いだグラーフアイゼンが、通常のギガントフォルムよりも巨大になり、ヴィータの腕力によって軽々と背後に振りかぶられた。


「ギガント、シュラーーーークッ!!!」


 ギガントフォルムが風を切り、アレス目掛けて振り下ろされた。


「なろぉっ!」


 舌打ちし、アレスは残ったウィンドクローを一点に集中させてギガントフォルムに向かって放った。だが、そのどれもが脆さを………そして、ギガントフォルムの強度を誇示するだけに終わった。


「う……ウオオオオオォォォォォォッ!」


 それでも、アレスは退かなかった。戦い(こんな楽しい事)を止められるほど、自分は愚かでは無い。そう思っていたし、なにより“この程度”の攻撃で自分 が負けるはずはない。それを確信していたアレスは、右手にあるウィンドクロー・プリズンを、迫りくるギガントシュラークに向かってぶつけた。


「打ち抜けえええぇぇぇぇっ!!」


 ヴィータもアレスとギガントシュラークがぶつかり合っている事に気がつき、吼えた。

 アレスのウィンドクロー・プリズンとヴィータのギガントシュラークが火花を散らす。その火花に合わせて、ガリガリと嫌な音がヴィータの耳には微かに聞こえ、アレスの耳は劈かれた。


「くっそっ!」

「ま、だぁっ!」


 拮抗し続ける互いの力(わざ)に、ヴィータは苛立ちを募らせるが、アレスは未だに立ち向かってきた。


「……つぅ!」


 グラーフアイゼンを握る力を更に強めた時、ヴィータが痛みに顔を歪めた。見ると、右肩からの出血が酷くなっていた。


「さっさと………ぶっ潰れろぉっ!」


 勝利を信じ、ヴィータは出血が増えようとお構いなしに吼号した。それに応じたのは、グラーフアイゼンだった。アレスへの一撃が、確実に迫っていく。


「俺は………。 俺が………! こんなぁ………! こぉんな奴にいぃっ!」


 アレスの憎しみの籠った叫びが聞こえた刹那、ギガントシュラークを止めていた枷が外れたかのように、一気に彼へと迫った。力の均衡が崩れた事を見逃すほど、ヴィータは零落れてはいなかった。


「喰らいやがれえぇーっ!」

「ぐ……おおおおおぉぉぉぉっ!?」


 ギガントシュラークが、アレスへと直撃した。その感触が、ヴィータにも分かった。

 グラーフアイゼンをギガントフォルムからハンマーフォルムに戻し、肩で息をしながらヴィータはアレスを見た。


「…っ、はぁ、はぁ………」


 気絶しているのか、彼は仰向けで地面に転がっていた。


「勝った……のか?」


 誰に確認する訳でも無く、ヴィータは呟いた。


「ハハッ………」

「ッ!?」


 その時、アレスが口角を動かし、嗤った。


「ハハハ………。 アッハハハハッ!」


 ゆっくりとした動作で起き上がり、アレスはヴィータを見上げる。


「テメェはまだ、俺様に勝ててねぇよ。 愚図」


 手と足の両方に、甲を付け、アレスは身を屈める。


「そぉらぁ……今度こそ死ねやぁっ!」


 思い切り大地を蹴り、1発の弾丸のようにまっすぐにヴィータへと肉薄する。しかし、アレスのその速さに、ヴィータは驚き、回避行動が遅れてしまった。


「こんにゃろう!」


 左足を浅く切られ、ヴィータはアレスの軌跡を目で追った。


「どこ見てんだよぉっ!?」

「くあっ!?」


 だが、アレスのその速さは追い切れるものではなかった。軌跡を見失ったヴィータが、周囲を見回した時には、アレスは既に彼女の背中を切り裂いていた。ヴィータが痛みに身体を仰け反らせると、彼女の頭上にある帽子がゆっくりと落下していった。


「コイツでぇっ!」

「…舐、めんなっ!」

[Eisengeheul.]


 鉤爪を突き立てて突進してくるアレスに対し、ヴィータは急いで鉄球をグラーフアイゼンで叩いた。


「うおぉっ!?」


 叩かれた鉄球は、目映い閃光と轟音を迸らせた。ヴィータの目の前まで迫っていたアレスだったが、その閃光と轟音に、思わず動きを止めた。


(今の内に………!)

「こ、のぉっ……程度ぉっ!」


 動きが止まっている間に反撃に転じようとしたヴィータだったが、彼女よりも早く、アレスが動いた。


「なっ!?」

「ハハァッ! ウィンドクロー・プリズン!」

「がああああああぁぁぁぁぁっ!?」


 グラーフアイゼンを振りかぶったのも束の間、アレスは閃光と轟音を物ともせず、ヴィータに右手を突きだした。いつの間にか形成されていた巨大な風の球が、ヴィータを包みこむ。


「あああああぁぁぁぁぁっ!!」

「おぉっ! もっとだぁっ! もっと喚け! 叫べぇっ!」


 内部に閉じ込められたヴィータを、鎌鼬が際限なく襲う。その度に漏れる叫びに、アレスは気分を良くしていた。


「でもまぁ………」


 右手にあるウィンドクロー・プリズンでヴィータを閉じ込めたまま、アレスは左手の鉤爪を構える。指を全てつけて、手刀の形を取る。そして、鉤爪がヴィータに向けられた。

 その時─────


「ぐぅおぉっ!?」


 ─────アレスの背に衝撃が走り、彼は呻いた。その所為で、ウィンドクロー・プリズンは消失し、ヴィータはアレスから急いで距離を取った。


「テメェ………。 いつの間に鉄球を放っていやがった!?」

「お前に背中を切られた時だよ。
 あん時、帽子の中に鉄球を忍ばせといて、後でアイゼンに頼んで動かしてもらったんだよ。
 まぁ、もしもの時の為の保険って奴だ」

 
不敵に笑うヴィータだったが、全身を滅多斬りにされた痛みが襲い、顔を顰めた。


(チッ………早いトコ決着(ケリ)をつけねぇとヤベェな………)


 思った以上にダメージを喰らい過ぎたのか、少しふらつきを覚えるほどだった。


(こんなに血だらけじゃあ、またシャマルに怒られんなぁ)


 浅い部分が多いとは言え、至る所から出血をしているヴィータは、グラーフアイゼンを握り直した。その微かな振動にも、彼女から零れた鮮血が反応し、重力に従って地に伏し、或いはグラーフアイゼンを湿らせた。


「コイツで決める!」


 ぶんっとグラーフアイゼンを一閃し、空を切る。


「アイゼン!」

[Jawohl.]


 ヴィータの咆哮に、愛機はすぐさま応えた。残されたカートリッジをすべて消費し、グラーフアイゼンを天高く振りかぶった。グラーフアイゼンは素早く形態をツェアシュテールングスフォルムに変更する。


「おもしれぇ………。
 もういっちょ、真正面からぶつかってやらぁっ!」


 その隙にアレスが攻撃してくると思っていたが、どこまでも戦いを好むようだ。あっさりとヴィータを倒す事がつまらないのだろう。


「デスクロー・アサルト!」


 黒く禍々しい靄のような魔力がアレスを包みこんだ。


「お、ぉ……おおぉっ!」


 めきめきと、手足の鉤爪が鋭く、そして巨大になっていく。


「おおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!」


 鉤爪の形が鋭利になっていく事で、アレスの咆哮もより大きなものとなっていく。


「おおおああああぁぁぁっ!」


 やがて靄が晴れた時、手足に備わった鉤爪はより一層、鋭利さを増していた。


「行くぞぉッ! ヴィーーータァァァッ!」

「来やがれっ!」


 ドリルの反対側に備わった噴射推進機構が火を吹き、アレスへと思い切り振り下ろされた。


「ツェアシュテールングス……ハンマァーーーッ!」

「アサルトブレイク!」

 
ヴィータのツェアシュテールングスフォルムを、アレスは真正面から鉤爪で対抗した。火花が迸り、独特の金属音が不規則な音楽を奏でた。


「ぶっ壊れろよ!」

「ハハハハハッ!」


 中々壊れないアレスの鉤爪に、ヴィータは焦りを覚える。それに対して、アレスはまだまだ余裕の笑みを浮かべていた。


「わりぃけど、終わりだ!」


 アレスは回転するドリルとは反対側に回りながら、爪でドリルを削っていく。だが、無論アレスの鉤爪もただでは済まない。互いの得物に罅が入り、或いは砕けたそれの破片が落下していく。


「チッ………アイツの方が有利かよ!」


 ヴィータは削られていく愛機を見て、舌打ちする。

 アレスの鉤爪は、両手足に備えられている。ヴィータに止めを刺す方法は、鉤爪かウィンドクローのどちらかだろう。つまり、鉤爪が壊れても、アレスにはまだ攻撃方法があるのだ。しかし、ヴィータにはグラーフアイゼンが壊れた際の攻撃方法がない。


(なら、アイゼンが壊れちまう前に、やるっきゃねぇ!)


 グラーフアイゼンを握る力を強めた、その時─────


「ウッ………!」


 ─────全身を切り裂かれた痛みが増した。


「へっ………! おらぁっ! もらったぁーっ!」


 その痛みによって、グラーフアイゼンに込める力が弱まった。一瞬の隙を見逃さず、アレスはツェアシュテールングスフォルムのグラーフアイゼンを押し返し、柄の中で最も脆そうな箇所を鉤爪で切り裂いた。


「アイゼン!?」


 鉤爪によって切り裂かれ、グラーフアイゼンはツェアシュテールングスフォルムを解除せざるを得なかった。すぐにリカバリーを行い、ハンマーフォルムになる。


「コイツでぇっ!」


 だが、その時には既にアレスが鉤爪を立てて迫っていた。


「アサルトワルツ!」


 ヴィータの周囲を一回転しながら、彼女の肩を、腕を、足を………切れる所を根こそぎ切り裂いていく。しかし、ヴィータも負けじとフィールドタイプの防御魔法を全身に纏わせ、なんとか致命傷を避ける。


「ハハァッ! 死ぃねぇやぁっ!」

「このぉ……っ!」


 最後の攻撃と言わんばかりに、アレスはヴィータへと突貫する。


「ハッ!」


 グラーフアイゼンを構え直すヴィータだったが、それよりも早く、アレスがヴィータの手からグラーフアイゼンを直上に蹴り飛ばし、彼女の胴をがら空きにした。


「舐…めんな!」


 そして、突き刺そうと迫るアレスの鉤爪に対し、ヴィータは肩を貫かれながらも、落下してきたグラーフアイゼンを“口に銜えた”。


[Load Cartridge.]


 それを待っていたかのように、グラーフアイゼンはラケーテンフォルムに切り替わった。そして、肩に突き刺さったアレスの鉤爪を無理矢理引き抜き、それと同時に身体を回転させる。


「ラケーテン………!」

「なっ!?」

「……ハンマアァーッ!」


 ラケーテンフォルムの噴射推進機構を利用し、加速したハンマーの尖端が、アレスの腹に直撃した。




















「あたしとアイゼンの勝ちだな………」


 地べたに座り込み、ヴィータは気絶したアレスと、自分の隣にある、外へと通ずる扉を見た。


「さて、あたし達は一足先に戻るか」


 立ち上がり、怪我の治療をすべく外へと出て行った。


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あきゅろす。
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