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小説
第26話 「戦の篝火」







「バルムンク!」


はやての咆哮に合わせるように、8つの魔力刃が中心から大きく開き、ヘファイストスに八方から収束するように迫る。


「不屈の鎧(ガーディアヌス)!」


しかし、迫りくるそれらをかわす気が無いのか、ヘファイストスは慌てる事無く鎧を発光させる。

鎧から発せられた光は、あっという間にヘファイストスを包みこみ、はやてが放ったバルムンクを全て防御する。


「クラウ・ソラス!」


ヘファイストスの防御を貫こうと、はやては収束砲を瞬時に放つ。


「神の神秘(ラジエル)!」


すると今度は、ヘファイストスは指に嵌められている指輪を輝かせる。

鎧から展開した障壁を削除し、前面に巨大な盾を具現させる。


「残念だが、そう簡単には貫かせんぞ。」


不敵な笑みを見せるヘファイストスに、はやての頬を冷や汗が伝った。










魔法少女リリカルなのはStrikerS─JIHAD

第26話 「戦の篝火」










「ザフィーラ以上に硬い防御やな………。」

[はいです。]


ヘファイストスのその防御力に、はやてとリインフォースUは舌を巻いた。

しかし、だからと言って諦めている訳ではない。


「ヘファイストス!」

「何だ?」


武器を構え、しかし突撃してこないヘファイストスに、はやては声を限りに彼の名を叫ぶ。


「アンタはどうして、ゼウスに味方しているんや?
 この世界を壊す事を………アンタも望んでるんか?」

「まさか。
 ただ私は、私を生み出したゼウスに感謝を示しているだけだ。」

「生み出した?」

「そうだ。
 貴公らの仲間であるあの女………フェイトと言ったか?
 私は彼女の戦闘データを基盤に、光闇の書より生み出されたのだ。」

「フェイトちゃんの………。」

「とは言え、他の奴等ほど色濃くは受け継いではいない。
 それに、光闇の書から生み出された我らは、身体は魔力で出来ていると言って過言ではない。」

「ゼウスは、そんなにも魔力を持っているんか………。」

「ふふ、バケモノだと思えるだろう?
 だがそれは間違いだ。 ただ魔力が強大なら、そこら辺にも転がっているだろうしな。」


ヘファイストスは得物である双剣を構えずに淡々と語り続ける。

それは、巨大な魔法を使う為の時間稼ぎとも思えたが、彼がそんな事をするとは、はやてには到底思えなかった。


「ただ………。」

「なんや?」

「この世界を滅ぼすのも、或いは一興かと思うぞ。」


微かな笑みを浮かべ、ヘファイストスは双剣を上段と下段に構える。


「悪いけど、その一興は私らが止めさせてもらうで。」


シュベルトクロイツで虚空を薙ぎ、はやては自身の周囲に魔力弾を数多く生成する。


「全力で来るがいい……八神はやて、そしてリインフォースUよ!」

「無論や!」


答え終わると同時に、はやてはリインを介して生成した魔力弾を全て放つ。

だが、ヘファイストスはそれらを全て身体を捻る事で紙一重で避けて行く。


「させへん!」


接近戦に持ち込まれぬよう、はやてはその場から離れるべく飛び退く。


[フリジットダガー!]

「遅い!」


リインが生成した短剣が、ヘファイストスに急速に迫るが、それらは彼の双剣の元に斬り伏せられた。


「バルムンク!」


一列に並べた魔力弾を、息を吐かせぬ速さでヘファイストスに迫らせる。


「神の神秘(ラジエル)!」


それをよけようとせず、ヘファイストスは迫りくる数多のバルムンクを真正面に捉える。

再び彼の指輪が発光し、それに合わせて、切っ先をバルムンクに向けた左側の双剣も輝きを増していく。


「硬化の剣(ハーデン)!」


肉薄してきたバルムンクは、全てその剣に触れただけで真っ二つに引き裂かれていく。


「さすがに硬いな………。」

「だからと言って、貴様が勝てない訳ではない。
 どうやらそれは理解しているようだな。」


ヘファイストスの左手にある剣が、スゥっと光を失っていく。


「先の連なった魔力弾も、一点に集中させて貫通力を高めたつもりだろう。」

「ええ勘をしてるな。」

「褒めた所で戦況は変わらんぞ。」

「それでも………ええ騎士を見るんは、悪い気はせえへん。」

「言ってくれる。
 私からすれば、貴公らの方がよっぽど良い騎士………いや、魔導師だ。」

「こんな戦場で出会わんかったら、素直に喜びたかったわ。」

「或いは、そうかもしれぬな。
 だが、だからとてこの戦いの手を緩めるわけにもいかぬ。」

「もちろんや。
 私も全力で行かせてもらうで!」

[捕らえよ、凍てつく足枷! フリーレン・フェッセルン!]


リインがヘファイストスの周辺の水分を凍結させ、彼を氷の中に閉じ込める。


「まだ終わらせん!
 アーテム・デス・アイセス!」


ヘファイストスを封じた僅かな瞬間をフルに活用し、はやては広域魔法を放った。


「クッ! しまっ………。」


ヘファイストスがフリーレン・フェッセルンを壊した時には、アーテム・デス・アイセスが着弾する寸前だった。




















「ここ…だよね。」

[Yes.]


眼前に聳え立つ純白の扉を見上げ、なのはは固唾を呑む。

不安なのか、レイジングハートを握る手に自然と力が籠る。


[Master.]

「大丈夫だよ、レイジングハート。
 ちょっぴり不安だけど、それはいつもの事だし………。
 それに………フェイトちゃんは、絶対にヴィレくんが助けてくれるよ。」


愛機を安堵させるように笑みを浮かべ、彼女は扉に向き直った。


「行こうか。」

[Yes,My Master.]


なのはの確認に、レイジングハートはさも当然のように答えた。

その決意を汲み取ったのか、扉は独りでに開かれ、なのはは内から溢れだした閃光に目を閉じた。


「ッ……寒い………。」


あまりの寒さに、なのははゆっくりと目を開いた。


「ここ………。」


寒いのも当然で、今彼女がいるのは氷山の並ぶ空間だった。


「俺の相手は女かよ………。
 チッ、つまんねぇなぁ。」

「貴方は………。」


なのはの目の前にいたのは、黒と紫に彩られた重装甲を纏ったヘイルだった。

今までよりも、相当な火力を積んでいるのだろう。


(あの重装甲の中身は、ミサイルってところかな。)


何も言わず、ただヘイルを睨むなのはに、ヘイルは嗤った。


「メンドくせぇが、一応礼儀って奴だ。
 俺はヘイル。 真名はディオニュソスだ。
 女ぁ、テメェの名は?」

「高町なのは。」

「呼びにきぃ名前だなぁ………。
 まぁ、これから楽しい戦争(どんぱち)になるなら、文句はねぇな。」

「女性だと思って甘く見ると、痛い目を見るよ。」

「ソイツぁ、楽しみだ。
 せいぜい痛い目を見させてくれや。」


ニィッと口元を歪めて笑い、以前のものよりも口径が広がったライフルとそれに合わせて改造された魔力圧縮銃を、右手と左手にそれぞれ構える。


「さぁ、戦争(パーティー)の始まりだぁ!」


ガコンと鈍い音を立てて、重装甲から数多のミサイルが放たれた。




















[やった……ですかね?]

「どうやろうな………。」


リインフォースUからの質問に、はやては困ったような顔をした。

いかんせん、ヘファイストスを倒したと確信を持って言えない。

何故言えないのか?

その根拠もまた、彼女の口からは出てこなかった。


『なるほど。
 これは中々に素晴らしいな。』

「ッ! やっぱり、そう簡単には終わらんみたいやな、ヘファイストス!」


凍りついた一部の場所から、くぐもったヘファイストスの声が聞こえてきた。

それに一瞬だけ驚くが、予想はしていた事だ。

はやては大して取り乱す事無く、シュベルトクロイツを握り直す。


(せこいけど、今の内に!)


次の魔法を撃とうと、ヘファイストスが動けぬ事を利用してまた魔法の詠唱にかかった。


「悪いが、撃たせはせん!」

「なっ!?」


一瞬の内に、自身を凍てつかせていた氷を破り、ヘファイストスははやてに斬りかかった。


「クッ!」


既の所でシュベルトクロイツで刀身を受け止める。


「接近戦は不向きのようだな。」

「そうなんよ。
 けど、対策を取ってへん訳や無いよ。」


頬を冷や汗が伝うが、はやては笑った


[この距離なら、外しません!]

「えぇい!」

「グオッ!?」


土手っ腹にはやての蹴りが入り、ヘファイストスは体勢を崩す。


「貰った! クラウ・ソラス!」


弾速と威力に優れたクラウ・ソラスなら、確実にヘファイストスを捉える。

そう考え、はやてはシュベルトクロイツを、ヘファイストスに向かって思い切り振り下ろした。


「交差する鋼(クロス・シルト)!」


クラウ・ソラスが着弾するよりも早く、ヘファイストスは急激に腕を上げ、双剣を交差させる。


「ほんまに硬いなぁ、ヘファイストスは………。」

「言ったはずだ。 そう簡単には貫けさせぬと。
 が、しかし………。」


交差させていた双剣を戻し、腕を軽く上げる。


「腕はかなり痺れた。
 惜しい所まで行ったという事だろうな、貴公の力は。」

「惜しいっちゅう事は、もう一押しって事やな。」

「だが、これ以上は私とて簡単には喰らう気はないぞ。」

「少しだけ………と思ったけど、かなり無理せんと、ヘファイストスには勝てそうもないな。」

「光栄な事を言ってくれる。」


双剣を構え、不敵に笑うヘファイストスだったが、それは油断を含んではおらず、一筋縄ではいかない事を示していた。


「リイン………。」

[はい。]

「“突貫する”から、援護は任せるで。」

[もちろんです。]


リインフォースUの心強い返事に、はやては顔を綻ばせる。


「一気に行くで!」


バサッと自身の翼を羽ばたかせ、はやては1度、ヘファイストスから離れる。


「どう来るか………。」


その様子を見守り、ヘファイストスはふぅと深く息を吐いて、双剣を交差させる。

剣と剣が交差した場所には、徐々に魔力を込められていく。


[フリジットダガー!]


リインフォースUが、はやての周囲にダガーを展開した。

その瞬間、はやてはシュベルトクロイツを一閃させ、その尖端に魔力を集中させる。


「穿て! ジュワユース!」


シュベルトクロイツの尖端に集中させた魔力をそのままに、彼女はその尖端をヘファイストスに向けて突撃する。


「風天の剣(ビューフォート)!」


それに対して、ヘファイストスは驚きに目を見開いた。

広域殲滅型だと思っていたはやての突撃が予想外だったのだ。

しかし、それに数瞬だけ時間を奪われながらも、交差させた双剣を交互に振るう。

すると、真っ白な刃が突撃をしかけるはやてに飛来した。

迫りくる風の刃を目にして、しかしはやてはスピードを緩めない。

「リイン!」

[はいです!]


はやてに応え、リインフォースUが予め展開しておいたフリジットダガーを、ヘファイストスが放った刃とぶつける。

刃とダガーが触れ合った瞬間、ダガーは粉々に砕け散った。

だが、事態はそれだけには収まらず、ダガーに触れた刃は、立ち所に凍りついた。


「何ッ!?」


またも予想していた範疇を超えた展開に、ヘファイストスは驚きを隠せなかった。


「もらったぁ!」


それに気を取られていたヘファイストスに、はやての持つシュベルトクロイツの尖端が到達した。


「甘い!」


だがそれは、ヘファイストスの身体には届かなかった。

既の所で、振るっていた双剣を自身の身体の前に構え、シュベルトクロイツの尖端を受け止めたのだ。


「はぁっ!」

「クッ!」


受け止めたはやてを押し返さず、後ろ側に添えた剣を、彼女に向かって振り下ろした。

押し返されなかった事で、離れる事が遅れたはやての肩から、鮮血が滲む。

痛みに顔を歪めるはやてだったが、ヘファイストスはその隙を見逃さず、息を吐く暇もなく彼女を追い詰めようとする。


「貫く閃光(ミカエル)!」


バッと双剣を虚空に放り、腰にある長いレイピアを引き抜いた。

ヒュンと風を切る音が耳を劈き、頬に出来た傷口から、真っ赤な血が伝った。

それでも、はやては勝機を見失ってはいなかった。

寧ろ“これは好機”だとさえ考えていた。

レイピアの弱点は、『1度引かなければ使えない』と言う点だった。

貫く事に関しては確かに秀でているが、斬る行為には向かないからだ。


「ジュワユース!」


再び、シュベルトクロイツの尖端に魔力を込めて突撃する。


(今更武器を引いても、遅い!)


レイピアを後ろに引こうとしたヘファイストスに迫り、はやては勝利を確信した。

だが、ヘファイストスにシュベルトクロイツが当たると思った刹那、背筋が冷たく感じ、ぞっとした。


「ッ!」


慌てて急制動をかけて、はやてはヘファイストスから離れようとした。

だが─────


「煌めく一閃(ガブリエル)!」


─────ヘファイストスが振るった一閃は、はやての腹部を切り裂いた。


「あぐっ………。」


苦痛に負けて、はやては傷口にそっと触れる。


[は、はやてちゃん!]

「大丈夫や、これくらい………。」


焦りの声を上げるリインフォースUに、はやては乱れた呼吸を整えながら笑みを浮かべる。

ヘファイストスの左手には、いつの間に抜刀したのか、はやての血が付着した長剣が握られていた。


「悪いが、次で止めだ!」


両手にある武器を虚空に投げ、彼は空いた右手を上に上げ、眼前まで素早く振り下ろした。


「絶望(パンドラ)!」


ヘファイストスのその声に応えるように、先に放られた双剣、そして、今しがた投げられたレイピアと長剣が動き出した。

それらは一挙に、はやてへと迫った。

それらを、痛みに耐えながらかわし、しかし時折四肢に刃が掠めた。


「リイン、最後の賭けや。
 協力してな?」

[はい!]


リインフォースUに、最後の作を命じ、はやてはヘファイストスへと肉薄した。

だが、その行く手を阻むように、ヘファイストスの武器がはやての眼前に一列に並び、一直線に向かってくるはやてに、一斉に迫った。


「「ユニゾンアウト!」」

それがはやてに当たる─────そう思った時、彼女を目映い光が包んだ。

その光はすぐに収まり、ヘファイストスに状況を明かしてくれた。

はやてとリインフォースUはユニゾンを解除し、はやては一列に並んだ武器の下を、そしてリインフォースUははやてとは逆に、武器の上を飛んだ。

攻撃を回避した2人を見て、ヘファイストスは真っ先にはやてを狙おうとした。


「フローズンセイバー・ラッシュ!」


動き出したヘファイストスよりも早く、リインフォースUが、フリジットダガーをより強化した魔法でヘファイストスを怯ませる。

リインフォースUの身体よりもずっと巨大で、はやての上半身程の大きさを持つ氷結の剣が、ヘファイストスを襲う。

普通なら、これほどの大きさの剣を複数作り出す事は難しい。

しかし、先に放ったアーテム・デス・アイセスの残された冷気が、それを可能にしたのだ。

なのはが使う、スターライト・ブレイカーと同様に、散布された魔力を再構成し、はやてとリインフォースUはそれに加えて、先に使った魔法の特性を再利用する事が出来るのだ。


「これで終いや、ヘファイストス!」

「まだぁっ!」


眼下から身を踊らせたはやてが、再びジュワユースを使ってヘファイストスに迫る。

しかし、ギリギリの所でそれはかわされた。


「これでえぇっ!」


手近に呼び戻した長剣を握り、ヘファイストスははやての頭に向かって一閃した。

だが─────


「何っ!?」


─────剣尖がはやての頭部を捉えた刹那、“はやては雪のように儚く散った”。


「それは、私がアーテム・デス・アイセスの冷気で作った偽者です!」


リインフォースUの説明に、彼女の方に身体を向けた。


「ッ!?」


そして、ヘファイストスは己が負ける事を確信した。


「今度こそ、正真正銘の終いやで………ヘファイストス!」


何故なら、眼前には不敵に笑うはやてがいたからだ。


「ラグナロク!」


ゼロ距離で放たれたはやての最大の魔法に、ヘファイストスと彼の叫びは、いとも容易く呑みこまれた。




















「勝利………したみたいやな。」


気絶したヘファイストスと、自分の近くにある出口へと通ずる扉を見て、はやては緊張の糸が解れたようにその場に座り込む。


「皆、頑張りぃや………。」


各々の敵と戦闘している仲間に想いを馳せて、彼女はリインフォースUと笑った。


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あきゅろす。
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