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小説
第25話 「勝利への願い」







「ビッグバン・カノン………。」


アテナが天上に背をつける程ギリギリの位置まで飛翔し、地上に銃口を向ける。

集束されていく魔力量は、なのはのスターライトブレイカーにはやや劣るものの、そう何度も目にする機会の無いそれは、ティアナ達を戦慄させるには充分だった。

地上を見ると、ティアナは急いでスバルにおぶさり、キャロはエリオに抱えられていた。

それを認めた瞬間、集束が完了した。


(これで終わる………?)


この一射で全てが決すると思っていたアテナだったが、その考えが徐々に変化してきた。

その逡巡が、彼女に引き金を引かせる時を僅かに遅らせた。

頭を振るそぶりを見せずに、頭を切り替える。

そして彼女は、全てが終わると信じて引き金を引いた。










魔法少女リリカルなのはStrikerS─JIHAD

第25話 「勝利への願い」










目を焼くのではないかと思われる程の閃光と、それに匹敵する轟音。

それらがやがて治まった時、ティアナ達は一斉に安堵の息を漏らした。

彼女達は、アテナが地上に強大な砲撃をすると瞬時に読み、急いで天井ギリギリの位置まで上がったのだ。

スバルはティアナをおぶってウィングロードで。

エリオは、キャロを抱き抱えてソニックムーブを使って。

フリードを連れてきているものの、召喚は間に合わなかった。

そして彼女達の視線の先には、こちらに視線を向けているアテナがいた。

アテナに表情の変化は見られず、ただ黙しているだけだった。

しかし、ティアナらに攻撃をしてきたりはしなかった。

互いにゆっくりと地上に下りて行く。

やがてそれが終わったかと思うと、互いに対峙したまま動かなかった。


「アテナって言ったわね。」


その沈黙を、ティアナが最初に破る。


「あなた、戦わされているの?」

「?」


突然言われた言葉に、アテナは首を傾げた。

何故向こうがそんな事を聞いてくるのか。

何故自分の事を気にしてくるのか。

その事が、アテナには分からなかった。


「もしもゼウスに戦いを強要されているのなら、私達があなたの力になるわ。」


極力戦いを避けたいティアナは、アテナが無理矢理戦わされているのだと思った。

そこで、彼女の説得を試みたのだが………。


「違う………。」


アテナははっきりとそれを否定した。


「私は、私の意思で戦う事にした………。」

「どうして?」


今度は、その理由をキャロが聞いてきた。


「ゼウスは私を造ってくれた………。
 それだけ………。」


アテナは“それだけ”とは言ったものの、スバル達はそれを否定したりはしなかった。

理由など、様々なのだ。

それに、自分達が選んだ道も、その理由に近かったりする。


「なら、私達はあなたを止めるわ。」


ティアナは決意を改め、クロスミラージュを構える。

その行動に合わせるように、スバル、エリオ、キャロも同様に身構える。


「そう………。」


アテナもポツリと呟き、長銃を構え直した。

ティアナは数個、魔力弾を生成し、アテナへと射出する。


「………。」


無言のまま、アテナはそれを跳躍してかわす。

それを予め読んでいたエリオとスバルが、彼女を両脇から挟み撃ちにする。


「リボルバー………。」

「紫電………。」


リボルバーナックルのスピナーが回転しだし、エリオの左腕に雷電が走る。


「……ナックル!」

「……一閃!」


打ちだされた魔力弾と、エリオの拳が迫る。


「シールド………。」


アテナはそれを、全体を覆う球体の盾で防ぐ。


「プリズム・ディフュージョン。」


シールドを壊そうと、魔力を更に注ぎ込んだ時、アテナはその目をかっと見開いた。


「えっ!?」

「これは………!?」


スバルとエリオの目の前では、魔力を注がれたシールドが脈打っている光景だった。


「2人とも、早く離れて!」


ティアナの指示に従う2人だったが、踵を返した瞬間、シールドに注がれた魔力が、デタラメに放出された。


「ケリュケイオン!」


キャロのグローブが強く発光し、ティアナの眼前に頑丈な盾を生成する。


「スピアー・バレル。」


ガションと、重い機械音がしたかと思うと、アテナの持つ長銃のリボルバーが回った。

それを、シールドが展開されているティアナのいる方に向ける。

構えて、それを撃つまでのモーションは、乱れなく素早い。


「させるかぁ!」


引き金が引かれ、それがティアナに着弾する前に、エリオが間に割って入る。


「スピーアアングリフ!」


ストラーダで弾丸を弾き、フォルムをデューゼンに切り替え、アテナに突撃する。


「クロスファイアシュート!」


それを援護するように、ティアナの弾丸がエリオの周囲を取り巻く。

アテナはそれを迎え撃たず、フェイトの戦闘データから引き継いだスピードを活かし、急いで距離を取る事にした。

エリオの直線的な追撃は難なくかわしたものの、ティアナの弾丸に追いかけられる。

複雑な軌道を描いて飛びまわるも、弾丸はそれをあっさりと真似して追ってくる。

そして─────


「ディバイン………。」


─────アテナの目の前には、攻撃の準備を完了させたスバルがいた。


「っ!
 しまっ………。」

「……バスタァァァァァァァ!!!」


蒼天の色を宿した砲撃が、アテナを易々と呑みこんだ。




















その頃、ヴィータは眼前に居る相手を睨んでいた。


「テメェがあたしの相手みたいだな。」


グラーフアイゼンの突起を向ける。


「ククク………。
 そのようだな………。」


その立派な風貌には似つかわしくないように、目をギョロリと動かす。


「ようやくだ………。
 ようやく俺様にも殺し合いが出来る時が来た!」


両手を虚空へ広げ、嬉しさを表現する。

しかしその嬉しさは、歪んでいた。


「俺様と戦えるんだ………。
 少しは光栄に思えよ、ガキ。」

「口の悪い奴が相手かよ………。」

「楽しませてくれよぉ?
 俺は、殺したくて………。
 殺したくて、殺したくて、殺したくて、殺したくて、殺したくて!
 人を殺したくて堪んねぇんだからよぉ!」


2つの小刀を逆手に構え、狂気に浸る。


「俺様はフドゥル!
 真名はアレスだ!」

「鉄槌の騎士ヴィータと、鉄の伯爵グラーフアイゼンだ!」

「俺様を楽しませてくれたら、覚えててやるよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


身を低く屈め、瞬時にヴィータに突撃する。

狂気に彩られた、死を呼ぶ刃が迫った。




















「ディバイン………バスタァァァァァァァ!!!」


スバルの砲撃が、アテナを容易く呑みこんだ。

やがてそれが止んだ時、アテナは気絶したのか、床に落下していった。

助けようと、急いでスバルが彼女に向かう。

だが─────


「アラ・バレル。」


─────アテナがそう呟いた瞬間、彼女が持っていた長銃の砲身が分裂した。


「えっ………!?」


スバルは急制動をかけ、アテナから距離を取る為にその場から逃げる。

だが、分裂した砲身の1つが、彼女を背後からおいかけ、砲火を放つ。


「わわっ!?」

「スバル! ッ!?」


急いで援護をしようと、クロスミラージュを構えたティアナだったが、それよりも早く、砲身が彼女に火線を浴びせる。


「ティアさん!」


傍にいたキャロが、彼女にシールドを展開する。

それに魔力は弾かれ、ティアナは傷を負わずに済んだ。


「キャロ、後ろ!」

「へ………?」


ティアナの叫びに、キャロは驚いて自身の背後を振り返る。

頭部に照準が定めている砲身が、今まさに火を噴く瞬間だった。

だが、死を与えるそれが当たる前に、エリオがキャロを助け出す。


「大丈夫?」

「うん、ありがとう。」


無事を確認し、2人を一瞥したティアナは、スバルを援護しようと魔力弾を生成する。


「クロスファイアシュート!」


今までの戦闘で消耗してしまった為、放たれた数はさほど多くは無かった。

アテナは、それを一瞥せずにただその場に立っている。


「ウノ、ドゥエ。」


そう呟いたかと思うと、砲身が2つ、ティアナの魔力弾を次々と落としていく。


「なっ!?」

「遠隔操作が可能なんて………。」

「トレ、クァトロー。」


そして、逃げるスバルの前に、更に砲身が2つ現れる。


「ヤバッ!」

[Protection.]


スピードを落とし、シールドで砲火を防ぐ。


「チンクェ。」


それをアテナが見逃す訳もなく、スバルを追っていた砲身が砲火を浴びせる。

だが、間一髪でエリオがスバルを抱き抱えてその場を離脱する。


「トゥット。」


狙いを定められないように出鱈目に動くティアナ達に、アテナは5本、全ての砲身を迫らせる。


「スターゲイズ。」


ティアナ達4人は砲火から逃げるが、実際はアテナが砲撃で誘導していたのだ。

4人とも近くに固められ、気付いた時にはアテナの砲撃の準備が完了していた。

5本の砲身はそれぞれの位置に停滞し、魔力の糸で星を模る。

そして、アテナは手に残っているグリップを構える。

引き金と、僅かに残された銃口。

その銃口が、淡く輝きだす。


「まさか………!?」

「集束砲!?」


全員が気付いた時には、既に遅かった。


「今度こそ、さようなら………。」


引き金を引き、星型の集束砲が輝きを増して放たれた。


「やらせない!
 キャロ、補助お願い!」

「はい!」


キャロが素早く、ティアナの身体能力を底上げする。


「ファントム………ブレイザァァァァァ!!!」

[Phantom Brazer Phalanx Shift.]


ファントムブレイザーの強化版を放ち、僅かだがアテナの集束砲の着弾を遅らせる。


「今の内に!」

「はい!」


エリオはキャロを抱えて、そしてその2人が射線上から退避した後、ティアナはスバルを連れて逃げ出した。

壁にアテナのスターゲイズが着弾し、轟音を響かせる。


「ティア、大丈夫?」

「身体自体はね。
 だけど、今ので魔力を使い過ぎたみたい………。」

「急いで決着をつけないと、私達が危ないね………。」


アテナの方を見ると、彼女の表情はまったく変化していなかった。

感情の起伏があまりにも乏しいのだ。

そんなアテナを見て、エリオとキャロは苦しそうだった。

共に笑えれば、どれほど楽しいのか………。

それが気がかりだった。

2人の横顔を目にし、ティアナは大きく息をついた。


「助けるわよ。」

「「え?」」

「笑わせてあげたいんでしょ、あの子を?」

「はい!」

「大丈夫。
 私達4人なら、絶対に助けられるよ!」

「はい。」


ティアナの言葉にキャロが頷き、スバルの言葉にエリオが頷いた。


「いい?
 次を撃たれたら、私達に勝機は無いわ。
 だから………。」


そこまで言って、ティアナは3人を見回す。


「…だから、絶対に撃たせないで!」

「うん!」

「分かりました!」

「やります!」


全員が頷いた所で、ティアナ自身も頷き返した。

そして、スバルとエリオが先行して走り出す。


「アラ・バレル………。」


数で圧倒しようと、アテナは長銃の砲身を分離させた。


「シューティング・レイ!」


それらの銃口がスバル達前衛組を狙う前に、キャロが援護射撃で射線を封じる。


「クッ!」


接近されては面倒だと思い、アテナは銃身を回収する。

そしてすぐさま、スバルに長銃を向ける。

だが、それが撃たれる前にエリオが眼前に立ち塞がった。


「ッ!」


咄嗟にエリオが出現した事に、アテナは驚き、僅かに引き金を引く行動が遅れる。

その隙をついて、スバルがアテナの長銃を鷲掴みにする。


「IS、振動破砕!」


そして、リボルバーナックルのスピナーが回転しだした。

アテナの長銃が、ミシミシと音を立てていく。


「アラ・バレル!」


砲身を分離させるとともに、アテナも急いでその場から離脱する。


(残っているのは……ウノ、クァトロー、チンクェだけ………。)


残された砲身を確認し、先程と同じように自分の意思で操作する。


「させない!」


その銃口がアテナの周囲を駆けた瞬間、ティアナがクロスミラージュを構えた。


「ヴァルアブルバレット!」


ダァンと、3発の銃声が轟く。

オレンジの弾丸は、一直線にアテナの銃身を貫いた。

自身の近くで爆散した銃身の煙と炎に、アテナは目を閉じた。


「デヤアアアアアアァァァァァ!」

「ッ!」


突撃してきているのか、エリオの声が徐々に大きくなってくる。

アテナは急いで残った銃身を構え、隠しナイフを瞬時に取り出し、銃剣に切り替える。


「サンダー……レイジ!」


突き立てられたナイフと、ストラーダがぶつかり合う。

ガキィンと金属音が鈍く響き、火花を散らす。

鍔迫り合いが続く中、ストラーダから雷撃が見舞われる。


「クッ………。」


その苦痛に顔を歪め、アテナは怯む。


「ウオオオオオオォォォォォォ!!!」


そして、スバルが全力で走ってくる。

ローラーは、分離したバレルに損傷を与えられていたのか、バチバチと音を立てて、今にも危うい状態だった。

それでも、スバルはアテナに向かって走り続けた。

仲間の為に─────

勝利の為に─────

そして、アテナを助ける為に─────

エリオがソニックムーブを使って、その場から離脱する。

アテナも、スバルが接近している事に気がつき、エリオが離れた時を見計らい、高速でスバルにナイフを突き立てて突撃した。


「マッハキャリバー!」

[Protection.]


アテナがナイフを構えている位置“だけ”にシールドを何重にも展開する。

このまま互いに、速度を上げた状態で衝突しては、一点に集中しているアテナのナイフがシールドを貫通するからだ。

そして、その予測は見事に当たった。

アテナのナイフは、スバルのシールドの途中まで突き刺さった。


「ぁ………。」


彼女がその事に気が付いた時、スバルは既に集束砲の準備を終えていた。


「ディバイン……バスターーーーーーー!!!」


空色の砲撃が、再びアテナを呑みこんだ。




















「はぁ、はぁ………。」


全員、魔力が底を尽きかけている所為もあって、息も切れ切れだった。

しかし、そんな彼女達の近くには、“外へ出る為の扉”があった。

即ち、アテナに勝利したと言う事だ。


「やったね、皆。」


スバルの笑顔に、全員が笑った。

彼女達の傍らでは、アテナが静かに目を閉じていた。


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