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小説
第24話 「変わらぬ道 変わる道」








「ウウオオオオォォォォォ!!!」

「ハアアアアアァァァァァ!!!」


互いの咆哮と共に、得物が火花散らし、ぶつかり合う。

そして、しばらく鍔迫り合いしたかと思うと、ほぼ同時に後ろに飛び退く。

ザフィーラとポセイドンは、先程からそれを繰り返し、互いに相手に決定打を与えられずにいた。


「さすがに硬いな、貴様の盾は。」

「光栄な事を言ってくれるな。」


ポセイドンの褒めに、ザフィーラは構えを直しながら答える。

チラリと、僅かな間にザフィーラは自分の嵌めている手甲を見る。

少しだけ傷が付いているが、今後の戦闘に支障を来す事はないだろう。


(しかし………。)


そこまで考えて、ザフィーラはポセイドンの手にあるトライデントに目を向ける。


(向こうはまったくと言っていいほど傷が無い………。
 強度は彼奴の方が上と言う事か………。)


いつまでも先程と同じような鍔迫り合いをしていれば、確実にこちらが敗れる。


(ならば、彼奴に拳を叩きいれるしかあるまい………。)

「呆けている暇があるのかああああぁぁぁぁ!?」


攻めてこないザフィーラに痺れを切らし、ポセイドンが腰に携えた両刃剣を引き抜いて突っ込んでくる。

左手に持ったそれを、思い切り振り下ろす。

それがザフィーラの身体を捕らえるよりも早く、彼は回避行動をとる為に空中に身を躍らせる。


「逃がすかぁ!」


空中にいるザフィーラを一瞥し、トライデントの尖端に魔力弾を3つ形成する。


「アクアフラム!」


トライデントを1度背後に振りかぶり、ザフィーラに向けて水球を放つ。


「くっ!」


それを避け、ザフィーラは接近戦に持ち込もうと、ポセイドンに迫る。

しかしそれは、避けたはずのアクアフラムの追尾によって妨げられる。


「やる!」


速度を上げ、ザフィーラはなんとかアクアフラムから距離を取る。


(このまま手を拱いていては、勝てるものも勝てん、か………。)


苦々しく内心で舌打ちし、ポセイドンが立っている箇所を見直す。


「何っ!?」


しかし、そこには既にポセイドンの姿は無かった。


「貰ったあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」


ザフィーラの頭上から、悪魔の咆哮が響いた。


「っ!」


ザフィーラが目をそちらに向けた時、ポセイドンの刃が彼の肉を捕えた。










魔法少女リリカルなのはStrikerS─JIHAD

第24話 「変わらぬ道 変わる道」










「っ!」


一方、通路をリインとユニゾンした状態で急いでいたはやては、何かを感じてその場に立ち止まる。


[はやてちゃん、どうしたですか?]

「いや、なんでもあらへん。」


頭を振り、リインに何でもないと答える。

しかし、彼女の頭の中では嫌な予感が渦巻いていた。


(今の感じ………。
 まさか、ザフィーラに何か………。)


払拭しきれない不安の闇に、はやては否応なしに明るさを失っていく。


(アカン………。
 ここで私が弱気になってもうたら、皆に迷惑がかかる。)


前を見据え、再び通路を駆ける。


(信じないで、何が『家族』や………。)

[はやてちゃん、あそこに扉が………。]

「ようやっと見つけたで。」

リインの注意に、そちらを見やる。


「行くで、リイン!」

[はいです!]


眼前に迫る扉は、彼女達の決意を汲み取ったのか、ゆっくりと開いていく。

はやては、そこに迷いなく突入した。


「眩しい………。」


あまりの光の強さに、はやては目を庇う。

それが段々と収束していき、やがて視界を遮った腕を下ろす。


「ここは………。」


はやてがいたのは、周囲を岩肌剥き出しの山々が連なった荒野だった。


[あそこにいるのが、私達の相手ですね………。]


リインの言葉に、1つの山に目を向ける。

その山頂には、重装備をした男が立っていた。

目を閉じたままだが、その威圧感は凄まじいものだった。


「来たか………。」


ポツリと呟き、彼はゆっくりと目を開く。


「字はヴォルケ。
 真名はヘファイストス。」


名乗ってきたヴォルケ─────ヘファイストスに、はやては驚く。

しかし、すぐに我に返りリインとのユニゾンを一旦解除する。


「私は八神はやて!」

「私は、リインフォースUです!」

「はやてとリインフォースか………。
 忘れぬようにしよう。」


言いながら、ヘファイストスは腰に携えた片刃の双剣を引き抜く。


「リイン、気を抜いたらアカンよ?」

「もちろんです、はやてちゃん!」


互いに頷き返し、はやてとリインは声を合わせる。


「「ユニゾンイン!」」


白く眩い閃光が走り、それが収まったかと思うと、はやてはユニゾンの状態になった。

シュベルトクロイツを一閃させ、はやては夜天の書を開く。


「では………。」


双剣を上段と中段に構え、ヘファイストスも戦闘の姿勢を取る。


「参る!」


その言葉と同時に、ヘファイストスははやてに突撃した。




















「チッ………。」


ポセイドンは左手にある剣に付着した血を、剣を一閃させる事で拭う。

ザフィーラを斬ったというのに、彼の顔は晴れる気配が無かった。

いや、むしろ苦虫を潰したような感じだ。

彼の目の前には、肩から少しだけ出血させているザフィーラが、未だに毅然とした態度でその場に直立していた。


「よくもまぁ、かわせたものだな………。」


ザフィーラの傷は浅く、ポセイドンの刃が僅かしか当たらなかった事を物語っていた。


「殺せなくて残念に思っているようだな。」


ポセイドンの心を乱そうとしているのか、ザフィーラは不敵な笑みを浮かべる。


「ククククク………。」


しかし、突如としてポセイドンは不気味な声を漏らし始めた。


「クク………。
 アッハハハハハハ!」


身体を大きく仰け反らせて、ポセイドンは盛大に笑う。


「確かに………。
 確かに貴様を今の一撃で仕留められなかった事は残念だ………。」


剣を鞘に戻し、トライデントを後ろ手に構える。


「だが、もっと俺を楽しませてくれるという点では………。」


そして─────


「感謝しているぞおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」


─────トライデントを回転させながら、ザフィーラに肉薄する。

ザフィーラの頭上まで来た所で、回転させていたトライデントを両手に持ち、頭から後ろに振りかぶり、思い切り振り下ろす。


「ラアアアアアアァァァァァァ!!!」

「テヤアアアアアアァァァァァ!!!」


振り下ろされたそれを、ザフィーラは片腕の手甲で受け止め、残った拳をポセイドンの土手っ腹に叩きこむ。


「ゴハァッ!?」

「ハアアアアアァァァァァ!!!」


怯んだポセイドンに、ザフィーラは回し蹴りをお見舞いする。

そして、ポセイドンはそのまま大海原へと叩きつけられた。



ドパーン!



水飛沫が高く上がり、ポセイドンは海中に没した。

ザフィーラは、ポセイドンが没した所まで近づき、少し離れた場所で待機する。

無闇に水中に身を投じれば、どうなる事か分かったものではないからだ。

しかし、いつまで経ってもポセイドンが浮かんでくる気配は無かった。


(どういう事だ………?)


周囲を見回すも、どこにもポセイドンの姿は無かった。

波の音だけしか聞こえない空間。

その波音が、不気味さを増しているように、ザフィーラには思えてならなかった。


「む………?」


その時、ザフィーラの視界が僅かに曇った。

それに気が付いた瞬間─────


「ッ!? これは………!?」


─────彼は巨大な水球に閉じ込められてしまった。

息が苦しい………。

そう思っていた矢先、眼前の海面が割れる。


(なっ!?)


それは、海底に足をついていたポセイドンがやったのだ。

彼はゆっくりと飛翔し、ザフィーラの目の前にまで来て、静止する。

割れた海面は、大きなうねりと音をたてて、元の状態に戻っていく。


「貴様の拳と蹴り、中々のものだったぞ。」


蹴られた時に唇を切ったのか、そこから血が滲んでいる。

それを腕で粗く拭い、トライデントを突きつける。


「その水球からは出られまい。
 空気中の水分と、魔力を結合させて作った特製だからな。」


水球の中にいるザフィーラは、不敵に笑うポセイドンを睨む事しか出来なかった。


「貴様も、今度こそ終わりだ。」


トライデントを後ろ手に下げ、空いた左手を水球に向ける。

ゴポゴポと、水球の中に別の小さな水球が数多く作りだされる。


(まさか………!?)


その水球は、先程ポセイドンが放ったアクアフラムに酷似していた。


「さらばだ………………ザフィーラ!」


言い終えるや否や、ポセイドンは開いていた左手を閉じる。


「ビッグバン・バブル!」


その声が轟いた刹那、ザフィーラの周囲にあった水球が、次々と爆散していく。

巨大な水球の中では、ザフィーラがもがき苦しんでいた。

それを嘲笑い、“殺す”という目的を達成できそうな事に、ポセイドンは悦に浸る。

やがて、内部のアクアフラムが起こした爆散に被弾したザフィーラの血によって、巨大な水球は赤く濁っていく。

そしてその水球は、最後の爆発によって弾け飛んだ。

それと同時に、ザフィーラは虚空を舞い、落下していった。


「確実に、仕留めさせてもらうぞおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」


剣を再び引き抜き、落下しているザフィーラに急接近する。


「死ぃぃぃぃぃねええええぇぇぇぇぇぇ!!!」


狂気の笑みを浮かべ、ポセイドンが陽光に照らされて不気味さを増した剣を振りかぶる。


「…せ…か………。」


死の刃が、ザフィーラを捕らえようとした瞬間、彼は意識を取り戻した。


「……させるかああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

「何!?」


振り下ろされた刃を掴み取り、空いた方の手も敵の得物を掴む。

そのままグイッと自分の方に引き寄せ、ポセイドンの胴に膝蹴りをする。


「グオッ!?
 こぉのぉ………!」


膝蹴りをすると同時に掴んだ得物を離し、ポセイドンは吹っ飛ばされる。


「牙獣走破!」


追撃を狙うザフィーラは、その場から踏み込んで蹴りの体勢で突っ込む。


「こぉぉぉぉぉのおおおおおぉぉぉぉぉぉx!!!」

怒り狂ったポセイドンも、咆哮し、ザフィーラの蹴りと自身のトライデントをぶつける。


「俺は………。」


ぶつかり合う金属音が響き、すれ違った後にもう1度ザフィーラに肉薄する。


「俺にとってはもう!
 人殺しの道しか無い!」

「愚かな………。」


人を屠る事に悦を見出したポセイドンに、ザフィーラは憐みを持つ。


「その道しか選べぬと、何故言い切れる!?」


突き立ててきたトライデントに、拳をぶつける。

火花が散り、戦いと言う愚かな行為を彩る。


「俺の心は、あの村と共に葬ったんだよおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

「貴様自らその他の道を閉ざしたと、何故気付かん!?」


一閃されたトライデントを受け止め、その尖端を力技でへし折る。

破片が舞い、ポセイドンは目を見開く。


「もしもそうだとしても、俺は決して選ばん!
 この道が、俺を! ゼウスを! ヘラを! 仲間を救ううううぅぅぅ!!!」


ザフィーラを蹴り飛ばし、ポセイドンは己を救い、自分の存在を見出してくれた能力(ちから)を発動させる。


「グラディエータァァァァァァァ!!!」


腹の底から、全てを吐き出すかのように、戦慄を覚える雄叫びをあげる。

足の甲に鋭いクローが装着され、取り回しの簡単な長さの太刀が、両手に収まる。


「殺す………。
 それこそが、今の俺の生き甲斐であり、俺という存在そのものに繋がる!」

「真に貴様の存在に繋がるは、仲間との日々のはずだ!」

「黙れえええええぇぇぇぇぇぇ!!!」


その場で仰け反り、大空を見ながら叫び散らす。

そんなポセイドンの周囲には、魔力弾が数多く生成されていく。


「俺は………俺は認めん!」


右手にある太刀で虚空を薙ぎ払い、もう一方の太刀の切っ先をザフィーラに向ける。


「俺にとって、殺戮は俺そのものだ!
 他の愚行に現を抜かすなど………。」


荒い呼吸を徐々に安定させながら、魔力弾を生成する事を止めない。


「絶対に認めん! 絶対になぁ!」

「ならば俺は、認めさせよう………。
 貴様の存在がそれだけではないという事を!」

「貴様に認めさせられるなど、そんな事があってたまるか!
 俺を認めるは、ゼウス達だけでいい!」

「そうまでして、人を認めんか………。」

「当然だ!
 彼奴等はヘラを殺したのだ!
 それだけで、彼奴等を殺し尽くす理由になる!」

「ヘラがそれを、望んでいると!?
 本当にそう思っているのか!?」

「死者に口は聞けん………。
 だがしかし! 例え望んで無くとも、俺達が選んだ道だ!
 誰にも変える事は出来ん! 決してなああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「悲しいな………。」


叫び散らすポセイドンに、ザフィーラは1度、目を伏せる。


「悲しい事など………。」


両手にある太刀を後ろに回し、突撃する体勢をとる。


「あるものかああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


最早何も通じないと、ポセイドンの叫びが訴えていた。

それを受け止め、ザフィーラも彼に突っ込む。

一閃される剣を受け、或いは捌く。

それがザフィーラの肉体を捉えきれない事に、ポセイドンは焦りを覚える。


「アアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!」


デタラメに繰り出される剣と、足のクロー。

その1つでも肉体を貫けば、ザフィーラは敗北するだろう。

それでも冷静さは欠いていないからか、その攻撃はザフィーラに届かない。

そして、ポセイドンの攻撃が大ぶりになった、その隙を狙い、ザフィーラの拳が彼の顔を捉えた。

殴り飛ばされ、海中に今一度没するかと思ったが、ポセイドンはその場で急制動をかけて、踏みとどまる。

しかし、ポセイドンが反撃に出ようとするよりも早く、ザフィーラが動いた。


「縛れ! 鋼の軛!」


白銀のそれが、ポセイドンの太刀とクローをいとも容易く壊す。


「バ、バカな………。」


敗れる事など、思いもしなかったのだろう。

ポセイドンの瞳は、絶望の色を湛えていた。


「俺は………俺は敵を殲滅してこその俺だ!
 負ける事など、許されん!」


軛の捕らえられながらも、ポセイドンは身体を動かそうとする。

残る武器は、短刀ぐらい。

ここで負けるぐらいなら、命を散らす。

その方がかなりマシに思えた。

だが、短刀にまで手が届かない。

ならば、舌を噛みちぎるぐらいしか、自分に残された道は無い。

そう思い、舌を噛み千切ろうとするが………。


「むっ!?」


ある感覚が、彼の頭をよぎった。


「アルテミス………。
 負けたのか、お前も………。」


アルテミスの敗北だ。

12神は今、光闇の書とゼウスによって、意識を共有する事が出来る。

しかし、常時その状態にあっては戦いに支障が出ると、ゼウスが敗北した時のみ、その事を全員に知らせるように変更したのだ。


「アルテミスが負けるとはな………。」


仲間が負けた事に、ポセイドンは悲しみを覚えた。


「ふん………。
 俺達の中で一番幼いアイツを遺して逝ける薄情者など、居はしないな。」


自嘲し、自分も負けた事に身を委ねる。


「どれ………。
 もう少し、生き延びてみるか………。」


そう言って、ポセイドンは意識を手放した。

気絶した彼の顔は、どこか自嘲めいていたが、笑顔に見えた。


「勝利したか。」


大きく息をつき、ザフィーラは砂浜で身を休める。


「残りの人型としての魔力は、主に………。」


呟き、彼は狼の状態になる。

それと同時に世界が一瞬だけ歪み、外へと続く扉が具現する。


「すまんが、少し休ませてもらおう………。」


外に出るよりも早く、ザフィーラも意識を失った。


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