小説
第22話 「破壊と終焉への階」
Side:アルテミス
私が自分の力に目覚めたのは、一体いつからだっただろうか?
正確な年齢はわからなかったが、小さい頃だと言うのはわかる。
親に怒られるのが怖くて、見えなくなりますようにと、神頼みした時だった。
「アルテミス?」
母が私を見つけだし、私は目を閉じた。
しかし、母の口から出た言葉に、私は耳を疑った。
「“ここにもいない”。」
そう言い残し、母は部屋を出て行った。
不思議に思い、自室にある鏡を覗いてみた。
すると、鏡には自分の姿だけが映らなかった。
「神様が、叶えてくれた………。」
私はその時初めて、神に感謝したと思う。
けど、今は亡き祖父が言っていた事を思い出す。
「アルテミス、力を自慢してはいけないよ?」
「どうして?」
「力を自慢しては、周りから人が離れてしまうからさ。
だから、無闇に力を明かしてはダメだ。 いいね?」
「うん。」
祖父が大好きだった私は、言う通りにした。
友達の前でもその力を使わず、対等でいる事を望んだ。
しかし、家族には話すべきだと思い、両親にその事を明かした。
「凄いわ、アルテミス。」
「お前は我が家の救世主だ。」
両親は、私の事を、力を褒めてくれた。
両親に褒められた事が少なかった私は、もっと褒めて欲しかった。
たがらこそ、両親が望んだ事を次々とこなしていった。
それが犯罪だとも知らずに―――――。
◆◇◆◇◆
ある時は姿を消して物を盗み、またある時は人を殺した。
幼かった私は、罪悪感なんてものを持たず、ただ褒められたい一心で、平気で犯罪を行なってきた。
しかし、必ず綻びは出るものだ。
当たり前の所からも。
そして、予想外の所からも―――――。
◆◇◆◇◆
「アルテミスはいますか?」
街の自警団がやってきた。
両親はすんなりと通し、私に会わせた。
「なんでしょうか?」
私は何が悪いのかわからず、自警団に聞き返す。
「アルテミス。
君を窃盗、及び殺人の容疑として逮捕する。」
「え………?」
いきなり腕を引っ張られ、私は有無を言わさず連れていかれた。
「お母さん、お父さん!」
私は必死で叫んだ。
しかし、助けを求める私の手を、2人はとってくれなかった。
「どうして………?」
絶望だけが、私について回った。
自警団の取り調べは、想像以上だった。
毎日行われる拷問。
飲み食いはほとんど許されず、寝る時間もまったくと言っていいほど無かった。
しかも、自分の罪を認めなければ、容赦無く鞭が叩かれた。
耐えられなかった私は、力を使って逃げ出した。
親から、自警団から、そして、その空間から―――――。
いつ誰が自分に牙を剥き、私を殺すかわからないのだから。
彷徨するのは、思った以上に辛かった。
街に戻れば、自分は捕まる。
姿を消して食べ物を盗んでも、すぐに私だとバレる。
ならば、他の街に行くしか道は残されてはいない。
しかし、他の街に行った事の無い私は、どうすればいいかわからなかった。
それでも、歩いて行くと決めたのだ。
今更変える事はできない。
「行こう………。」
だが、歩きだした私を待っていたのは、新たな地獄だった。
中々次の街に着かず、森林の中を彷徨っていた。
お腹が空けば、身近にあるキノコや雑草を食し、腹を壊す。
その苦痛と戦い、虫とも戦う。
雨が降れば、それで渇きを潤した。
それでも、次の街には到着しなかった。
やがて、心が疲れ果てた私は、その森林地帯に座り込んだ。
そんな憔悴しきり、姿を消す事を忘れた私は、更に追い討ちをかけるように、追っ手に見つかった。
しかし、その追っ手は殺された。
既の所で助けに入ったニクスによって。
「君も一緒に来るかい?」
差し出されたその手は、私の不安を拭い去るには充分だった。
ニクスに手を引かれ、辿り着いた場所は、王都ユナイティアだった。
そこで私は、ニクスに世話をされて育った。
力の制御も、限界も知り、使いこなした。
やがて、王様に謁見した私達は、七星という軍隊に所属した。
七星で出会った新たな仲間と共に、侵略を行い続けた。
幸せだった。
仲間がいて、誰かの力になれて―――――。
◆◇◆◇◆
しかしある時、手術が行われた。
それが終わった時、私達は光闇の書の使い手に従う、狗とされたのだ。
私はすぐさま権力者を殺そうと熱り立った。
しかし、それには及ばなかった。
ニクスが最も信頼をよせるゼウスが、永遠の契約者となったからだ。
他の七星の面々も、異論を唱える者はいなかった。
以降は、私達は権力者に従うふりをして、ゼウスの命令のみを聞いていた。
そして、戦い続ける私達の癒しは、ヘラとの会話だった。
ヘラは生まれつき体が弱く、中々外には出なかった。
だが私達が、というよりはゼウスが帰ってきた時は、必ず出迎えてくれた。
ヘラは誰にでも優しく、正に女神とも言えた。
そして、優しいが故に、彼女は周りから避けられていたのかもしれない。
異端者の私達と関わる彼女やゼウスは、周囲から白い目で見られていた。
それでも2人は気にせず、私達と一緒にいてくれた。
◆◇◆◇◆
そんなある日、ヘラは外で演説を行なっていた。
異端者などいない。
我々は皆、同じ存在なのだと。
彼女のお陰で、理解してくれる人達は少しずつだが増えていった。
ようやく世界が微笑んでくれた。
そう信じた矢先、ヘラは帰らぬ人となった………。
ヘラは、反対派の人間達に殺されたのだ。
ゼウスが彼女を見つけた時、既に彼女は冷たくなっていた。
紅い雫だけが、彼女の腹から流れでていた。
「ヘラ、君を殺した世界を、人間を!
俺達が殺し尽くしてあげるよ………。」
笑っていた。
ゼウスは、涙を流しながら笑っていた。
しかし、それを実行に移す前に、ゼウスは反逆罪で“永遠の棺”に閉じ込められ、私達七星は光闇の書に封じられ、永い刻を眠り続けた。
だが、それでも世界への憎しみは薄れなかった。
むしろ増したと言っても過言では無い。
だから誓った。
ゼウスを再び目覚めさせ、全員でこの世界を殺すと―――――。
そして私達は、その刻を迎えようとしている。
目の前に立ちはだかる敵を排除すれば、もうすぐ―――――。
Side:アルテミス 了
魔法少女リリカルなのはStrikerS─JIHAD
第22話 「破壊と終焉への階」
互いに得物を構えたまま動かない。
いや、正確には“動けない”のかもしれない。
(アルテミス………。
さすがにそう簡単には隙を見せないか………。)
アルテミスから視線を外さず、ヴァンガードは緊張していた。
ゴクリと唾を飲む。
それと同時に、緊張の汗が頬を伝う。
それを拭おうと、片手を動かした刹那―――――
「ハアアアアアァァァァァ!!!」
─────今まで以上の咆哮を上げ、アルテミスが攻防一対の盾に仕込んだ魔力刃を発生させて迫る。
「クッ!」
迫り来る真紅のコートが、アルテミスの妖艶さを、毒々しさを―――――
最早、全てを表していた。
咄嗟に剣を交差させ、振り下ろされた刃を受けきる。
しかし、それで攻撃を終わらせるはずも無く、アルテミスの蹴りが牙を剥く。
「クッ!」
迫る足蹴をかわせず、ヴァンガードは吹っ飛ばされる。
しかし、途中で体勢を立て直し、吹っ飛ばされていた間に射出されたスモーク弾を切り裂く。
煙が視界の全てを覆う前に、高度を上げ、アルテミスを捉える。
彼女も、その双眸にヴァンガードを見据える。
しかし、ヴァンガードのように空戦に持ち込む気は無いのか、彼女はその場から動こうとしない。
「双頭の龍(ツインハルパー)。」
呟き、彼女の背部にある双頭の龍(ツインハルパー)が前面に大きく歪曲した鉤爪を展開する。
そして、その中央には自分の攻防一対の盾を構える。
その途端、2つの鉤爪と、盾の尖端に魔力が集中しだした。
「マズイ………。」
その魔力の多さに、ヴァンガードは戦慄する。
「このまま放置する訳に行くか!」
双剣を一閃させ、数個の魔力弾を瞬時に生成する。
「アイスバレット!」
それらを、一斉にアルテミス目掛けて放つ。
しかし、バラバラの箇所に当てたのでは、収束している魔力の奔流に掻き消されるだけだ。
(だから、全ての弾丸を一点に………。)
精神を集中させ、僅かな逸れも許さない。
「いっけえぇ!」
ヴァンガードの咆哮と共に、魔力弾はアルテミスに着弾した。
「やったか?」
未だに煙る箇所を上空から見下ろすも、そう簡単には判断出来ない。
そして、ゆっくりと煙が晴れた。
「なっ!?」
しかし、そこにいたアルテミスは、全くと言って良いほど無傷のままだった。
「そんな………。」
しかも、アルテミス側の魔力収束は完成していた。
3点の尖端に、今すぐにでも溢れだしそうな魔力が、球状になっていた。
「あの程度で止められると思って?」
クスクスと子供染みた笑みを見せるアルテミス。
ヴァンガードに狙いを定め、盾から発生した紅い弓弦を引く。
「チッ。」
舌打ちし、回避行動に移ろうとしたヴァンガードだったが、それは叶わなかった。
「逃がさない。」
アルテミスがそう宣言した刹那、ヴァンガードは左右からワイヤーで捕縛された。
「なっ!?」
いつの間にやら、左右に霧と魔力で結合されたバルーンが配されていたのだ。
そこから射出されたワイヤーに両手両足を捕らえられ、身動きが取れない状態に陥った。
「消えて。
デッド・トライアングル!」
そして、死の三角形が放たれた―――――
その頃、ザフィーラは自分が相見える敵がいるであろう扉の前にいた。
「ここか………。」
呟き、早目に決着を着ける事を決意する。
主であるはやてからの魔力供給により、今でこそ人型でいられるが、その負担は決して軽くは無い。
死ぬ気は到底無いが、主への負担を軽減すべく、ザフィーラは戦いを急いでいた。
拳を握るザフィーラを迎えるように、扉は独りでに開いた。
ゆっくりとそこへ足を踏み入れる。
眩い閃光が収まり、次第に目が慣れてきた。
「海の近くか………。」
ザフィーラの言う通り、彼は今、海岸沿いにいた。
辺りを見回すが、そこには人っ子1人いない。
生き物も一切見つける事が出来なかった。
あるのは、左手に広がる大海原と、足元に砂浜。
そして、右手側には草原だけだった。
「ほう。 俺の相手は貴様か。」
すると、上空から聞いた事のある声が聞こえてきた。
そちらに目をやると、紺碧のラフな服に身を包んだミラージュの姿があった。
「ミラージュ………。」
かつて自分は、グラディエーターモードの彼に敗れている。
勝算は低いかに見えた。
しかし、この段階で怖じ気づいては、その勝算は0に等しい。
例え絶望的でも、望みを自分で手放す訳にはいかない。
「ふん。
いくら貴様でも、さすがに同じ轍は踏むまい。」
地に降り立ち、ミラージュは笑う。
「ミラージュ、貴様も疎まれてきた身か?」
ザフィーラの問いにしかし、彼は首を振った。
「俺は疎まれたと言うより、蔑まれてきたな。」
両手をバッと広げ、自嘲するような笑みを見せる。
「俺が生まれた家は代々、騎士を輩出する家系だった。
だが俺は、輩出するに値する騎士にはなれなかった。」
草原に背を向け、大海原へと足を運ぶ。
「だから俺は、蔑まれ、罵られ………そして捨てられた。」
ザフィーラの方を向いた瞳は、憎しみに染まり、不気味さを増していた。
「そんな俺を拾ったのはゼウスだった。
奴は俺に才能を見出だしてくれた。」
「それが、グラディエーターモード………。」
「そうだ!
その才能を見つけ、開花させてくれたゼウスに、俺は全てを委ねた。」
狂喜に染まった笑みを浮かべ、ミラージュは高笑いする。
「そして俺は、俺を捨てた村を滅ぼした。」
「なんだと!?」
「ククク………。」
頭を手で抑え、笑みを零す。
「逃げる人間どもを、村に巣食う鳥獣どもを! 全てを屠ったぁ!
この快感が、俺の全てだぁ!」
「貴様………。
罪悪感も無いと言うのか!」
「何を当たり前の事を聞いている?
下らん………。」
ミラージュの愚問だと言う返答に、ザフィーラは戦慄する。
「俺を手放さなければ、誇れただろうに………。
グラディエーターの力を!
自ら捨てたのだ! その報いを受けただけだ!」
「報い………。」
「そうだ!
そして、殲滅した俺に新たに芽生えた快感。
それがゼウスに従う最大の理由だ!
俺は殺す………………全てを!
殺す事が、俺の最善の道だ!」
「させん………。
そんな事は、俺が決してさせん!」
「面白い………。」
ザフィーラの宣言を聞き、ミラージュは空間から群青色のトライデントを取り出す。
「ならばやってみせるがいい。」
頭上で回転させ、ブンと空を切って下段にトライデントを構え、ザフィーラに向ける。
「当然だ。」
ザフィーラは拳を構え、迎え撃つ。
「貴様を屠る前に、今1度名を聞いておこう。」
「盾の守護獣、ザフィーラ。」
「ザフィーラ、か………。
我は、字はミラージュ。
真名は、ポセイドン!」
トライデントを一閃し、高らかに宣言する。
「さぁ、俺に殺させろ………。
貴様を……世界を………。」
ミラージュ、否、ポセイドンはザフィーラに突っ込む。
「……そして………全てをおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
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