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小説
第17話 「絶望の神前」





「ヴィーナスシステム、起動!」

[Venus System,Get Set.]

ヴィレイサーの周囲を、魔力色である黒い粒子が包み込む。

[Please Teach a Code Name.]

「コードネーム………。
 ドーン・ルチフェル!」

[DAWN・LUCIFER.]

夜明けの堕天使─────

その名に違わぬような、黒く、されど透明感のある翼が、ヴィレイサーの背に生える。

総数12枚のその羽からは、ヴィレイサーの魔力が微粒子となって出ている。

その美しくも、重みのある翼を羽ばたかせる。

その度に、翼から舞う微粒子が、更に煌きながら舞う。

「タイムリミットは5分………。
 一気に行くぞ!」

ヴィレイサーは太刀を引き抜き、ゼウスに肉薄した。










魔法少女リリカルなのはStrikerS─JIHAD

第17話 「絶望の神前」










一方、ニクスから主の復活を知った4人は、目の前の敵と未だに交戦していた。

「ゲイル!
 いや…セイバー!」

短剣を捨て、長剣を両手持ちに切り替えたデュアリスが、ゲイルに迫る。

「フン。」

それを一瞥し、ウィングソーで簡単にいなし、もう片方でデュアリスの脇腹を狙う。

「クッ………。」

既の所でそれに気付き、体を躱す。

「お前達の主は、一体何者なんだ!?」

「貴様らが知る必要は無い。
 それに………。」

剣をかわされ、ゲイルも距離を取る。

「……それに、騎士が主について容易に口を割ると思うか?」

「思えないな………。」

自嘲めいた表情を浮かべ、デュアリスは長剣を構え直す。

「だけど………。」

真剣味を帯びたその声に、ゲイルもウィングソーを握り直す。

「だけど、俺達は必ず捕らえる!」

虚空を一振りさせ、迫りくるデュアリスに、ゲイルは嘲笑する。

「ハアアアアアァァァァァァァ!!!」

上段から思い切り振り下ろされたデュアリスの剣を、
ゲイルはウィングソー1本だけで受け止める。

「っ!」

一瞬瞠目し、しかし力を緩めない。

「残念だが、今の貴様では捕らえられんぞ。
 誰も、な!」

押し返し、デュアリスの体勢を崩し、がら空きになった胴を一閃する。

「グアァ!?」

「浅かったか………。
 だが、動きが悪い貴様には、それで充分!」

そこで動きを止める事は無く、ゲイルの蹴りがデュアリスを捕らえた。

その蹴りに吹き飛ばされ、ビルに突っ込んだ。

「この………。」

諦めず、急いでゲイルを追おうとしたデュアリスの肩に、黒光りするナイフが刺さった。

「ガアァ!?」

ゲイルが牽制用に、先読みして投げてきたのだ。

「セイバーの末裔よ。
 貴様の本気を見れぬ事が残念だ。」

身を翻し、ゲイルはゼウスの元へと向かった。



◆◇◆◇◆



「ハアアアアアアァァァァァ!!!」

振り下ろされた剣を、ヴァンは顔色1つ変えずに、易々と受け止める。

「クッ………。」

それを見たリュウビは、難色を示すしかなかった。

しばしの鍔迫り合いの後、ヴァンは自身の剣に、風を纏わせる。

「っ!」

「吹き飛べ!」

押し返された事と、風圧により、リュウビは普通よりも大きく吹きとばされた。

ビルに突っ込む。

そう思った矢先、空中で体勢を立て直し、制動をかける。

だが、そこで安心した為、迫る砲撃に、彼女は気付けなかった。

「しまった!?」

ヴァンが放ったその砲撃は、リュウビを沈黙させるには充分だった。

「少しは楽しめたけど、この程度じゃあねぇ。」

聊かがっかりだったのか、ヴァンは肩を落とした。

そして、彼女もゼウスの元へと飛翔した。



◆◇◆◇◆



「この感じは………。」

エクシーガは、突如感じた魔力に、驚きを隠せなかった。

(ヴィレイサー………。
 あなたまさか、ヴィーナスシステムを!?)

「眼前の敵から目を逸らすとは……余裕だな、女!」

レーゲンの注意に我に返り、迫る光刃を受け止める。

「ウグゥ………。」

勢いも加わったレーゲンの刃は重く、エクシーガは簡単に折れた。

「ウアァ!」

下方へ吹き飛び、それでも双眸はレーゲンから離さない。

そのお陰で、レーゲンが放ったバズーカの弾丸をかわす。

だが、弾丸をかわした為、更にレーゲンとの距離が離れてしまった。

「しまった………。」

急いでそれを追うべきだったのだが、
彼女の近くを、ゲイルとヴァンが通った事で、思い止まる。

「デュアリス、リュウビ!」

先程まで自分と同じように戦っていた2人が来なかったので、
負傷したと判断し、急いで2人の所へと向かった。

(ヴィーナスシステムは、もっと近くにいないと互いに完全解除が出来ない………。
 お願い、ヴィレイサー………もう少しだけ耐えてて。)

リュウビに駆け寄りながら、今最も危険な立場にある仲間を想う。



◆◇◆◇◆



「クソッ!」

一方、ヴァンガードはネブラを見失ってしまった。

「ヴァンガード!」

そんな彼の前に、アギトとユニゾンしたままのシグナムが来た。

「シグナム!
 そっちはどうだ?」

「問題ない。
 グランガイツ殿も、六課で療養する事になった。」

「そうか。
 ネブラを見失っちまった………。」

周囲を探りながら、苦々しげにぼやく。

「なら、テスタロッサの元へ急ごう。
 あそこに、七星の面々が集まっているそうだ。」

「わかった、行こう!」

ヴァンガードとシグナムは、フェイト達の所へ向かった。



◆◇◆◇◆



そして、フェイトはニクスと交戦中だった。

二刀流のライオットを振るうも、それは悉くかわされ、
代わりにニクスが放ったドラグーンが、フェイトを取り囲む。

「遅い!」

しかし、それらから放たれる砲火をフェイトはいとも容易くかわした。

その時、いきなり膨れ上がった膨大な魔力の気配に、そちらを見やる。

そんな彼女の瞳に映ったのは、堕天使のような姿をしたヴィレイサーだった。

「ヴィレイサー?」

生きていた。

自分の大切な想い人が─────

答えを待ち焦がれている自分の相手が─────

その感慨深い気持ちが、彼女の心を暖かくした。

だが、その繋がりが彼女の敗因となる。

「ここまでだね。」

「っ!?」

気付いた時には、既に周囲をドラグーンで囲まれていた。

ニクスは笑みを浮かべて、フェイトを見下ろしていた。

(まだ負けじゃない。
 必ず、抜け道はある。)

視線を巡らせ、僅かな隙間も見落とさないようにする。

(あそこからなら、脱する事が出来る。)

自身を囲むドラグーンの配置で、抜けだす事が出来る箇所を見つけ、身構える。

その瞬間、ドラグーンが一斉に火を噴いた。

しかし、それらを全てかわしきったフェイトは、安堵の息をもらした。

だからこそ、彼女は気付かなかった。

ニクスが、自分の背後に既に回り込んでいる事に。

背後に戦慄を覚え、フェイトはそちらを振りかえった。

体が振り返り切るその直前、ニクスの正拳が彼女の腹に叩き込まれた。

「カハッ………。」

フェイトは成す術無く、ニクスに倒れ込んだ。

「任務完了。」

ニクスの冷徹な声だけが、風に運ばれた。



◆◇◆◇◆



一方、ヴィレイサーは引き抜いた太刀を一閃し、翼をはためかせてゼウスに迫っていた。

「速いっ!?」

一瞬、ヴィレイサーを視界から見失い、ゼウスは驚愕する。

だが、さすがはニクス達を統べる者だけあって、冷静に対処する。

「そこか!」

ヴィレイサーが太刀を振り下ろした刹那、ゼウスもそれを受け止める。

「っ!?」

「フン。
 風を切る音でわかるものだぞ。」

押し返し、肉薄してくるゼウスに、ヴィレイサーは翼をはためかせ、距離を取る。

「早くも逃げの一手か、人間!」

「なにを………。」

太刀を鞘にしまい、別の武器を取り出す。

[Buster Rifle.]

「バスターライフル、ギア1。」

バスターライフルと呼ばれ、片手に出現した黒光りするそれは、
ヴィレイサー自身の身長に匹敵するほどの長さで、通常の銃よりも大きな口径だった。

恐らく、1射で収束砲に匹敵するほどの威力が出せるのだろう。

「ほう。
 少しは楽しめそうだな。」

ニヤリと笑い、狙いを定められぬように、デタラメに動く。

「チッ………。」

素早いその動きに舌打ちするも、ヴィレイサー自身も翼を煌かせ、高速で動く。

ゼウスに軽々と追いつき、狙いを定める。

だが、高速で動いている中、いきなり重い銃身を動かしたため、
簡単には狙いが定められず、ゼウスを取り逃がす。

「戦い方がなっていないな、人間。」

「うるせぇ!
 バスターライフル、ギア2!」

[Twin Buster Rifle.]

バスターライフルを2対にし、速度を落とし、翼を思い切り羽ばたかせ、
ゼウスよりも高い位置に、素早く移動する。

「IS、マルチロックオン。」

ゼウスからの攻撃はこないが、彼をしっかりと双眸に捉え、動きを読む。

「ダブル・インパクト!」

時間差で砲撃し、1射がゼウスを捕らえた。

「グオォ………。」

シールドを展開するも、あまりの砲撃の重圧に、膝をつきそうになる。

やがて砲撃が止み、彼の周囲は大きく陥没しているも、
ゼウスを跪かせるまでには至らなかった。

「強い………。」

「少しはやるようだな、人間。
 だが、残念だが俺を倒すにはまだまだのようだな。」

(確かに………。
 今の俺は、遺伝子破壊の進行により、万全じゃない。
 しかも、ヴィーナスシステムを完全に開放しきれていない事による疲れもある。)

ゼウスを睨み、自身の勝因を導き出せない体を憎む。

(だが、ここで諦める訳にはいかない!)

再び2対のバスターライフルを構え、肉薄するゼウスに、引き金を引く。

だが、時間差のそれも大きく飛翔された事によりかわされた。

「畜生………。」

上空から迫る相手に、重い銃身をすぐさまあげるのは難しいと判断し、
その場から真下に急降下し、地面スレスレを飛ぶ。

「ふん。」

それを鼻で笑い、ゼウスは手に魔力を収束させる。

「ゴッド・ブレス!」

開いた手から放たれた巨大な収束砲に、ヴィレイサーは瞠目した。

自分と奴とでは、未だにここまでの戦力差があるのだと。

「クッ………。」

迫る砲撃を、急旋回してかわし、すぐさま引き金を引く。

だがその時には既に、ゼウスの姿は無く、
ヴィレイサーが放った砲撃は、虚空を薙ぎ払っただけだった。

「何!?」

自分がゼウスに背を向けながら、迫りくる収束砲から逃げている間に、
ゼウスも移動していたのだ。

それを認識したのは、彼が後ろから刃を煌かせて迫っている時だった。

背後からの殺気に戦慄を覚え、そちらの方を振り返る。

だが、時既に遅く、ヴィレイサーに、太陽光に照らされながらも、
鈍い光を湛えている刃が真一文字に肉薄していた。

なんとかかわそうと、その場から高い位置に飛翔した時だった。

「グアァ!」

“左足に、刃が喰らいついた。”

かなりの勢いが加えられたその刃に、
ヴィレイサーの左足は紙切れのように容易く膝から下が斬られた。

一瞬、傷口が焼ける程熱くなるも、すぐさま絶望に染まったように冷たくなる。

「グアアアアアアァァァァァァァ!!!!!」

あまりの激痛に、気を失うかとも思えるほどだった。

それを耐え凌ぐように、声を限りに激痛の酷さを物語る叫びが響いた。

「ククク。
 やはり大した事が無いな、人間。」

「グアァ………。」

[First Aid.]

エターナルが施した応急処置により、なんとか止血だけ行われた。

だが、そうしている間にもゼウスが再び接近してきていた。

「この………。」

怒りを露わにし、冷静さを欠いたヴィレイサーは、
その状態のまま右手のバスターライフルを敵に向ける。

「甘いな。」

ゼウスはそれを嘲笑し、すぐさま銃口に定められぬように、ヴィレイサーの真下を駆ける。

「チッ………。」

舌打ちし、自分の下を駆けて背後に回ってくると予測をたて、背後を見やる。

しかし、ゼウスの姿はどこにも無かった。

(どこだ!?)

その逡巡を見逃さず、ヴィレイサーの背後から死をもたらす刃が迫ってきていた。

[リーダー、後ろです!]

切羽詰まったエターナルの警告に、驚愕する間もなく、そこから離れようとする。

だがしかし、それは間に合わず、背中に死の光芒が一閃される。

「ガアァ!?」

鮮血が飛び散り、虚空から地に落ちるまでに、紅い花を開く。

意識が飛びそうになる激痛に耐え、ヴィレイサーはゼウスから距離を取る。

「ハァ……ハァ………。」

呼吸も荒くなり、今にも墜ちそうだった。

だが、今ここで自分が挫ければ、それこそ全てが終わる。

それだけは許せない。

「アイツが答えを待ってくれているんだ。
 絶対にここで負ける訳にはいかない………。」

フェイトを思い出し、冷静さを取り戻す。

遠退きそうになる意識を確実に繋ぎ止め、エターナルに告げる。

「ギア3!」

[Unison Buster Rifle.]

2対のバスターライフルを左右で合わせ、合体させる。

威力が格段に上がるが、もちろんその分魔力消費も大きい。

更には、2対の時よりも取り回しが聞き辛い為、当てるのはかなり難しくなる。

それでもヴィレイサーはこの形態にした。

「行くぞ。」

[Yes,Leader.]

翼を大きく羽撃かせた。

ゼウスがそう思った時、ヴィレイサーの姿が数多く現れた。

その現れたヴィレイサーは、現れた順に消えて行く。

残像を出しながら、高速で移動しているのだ。

「先程よりも、速い………。」

その変化ぶりに舌打ちし、残像を残しながら移動するヴィレイサーを探る。

(翼から出る魔力の微粒子で作られた俺の残像は、本の数秒しか持たない。
 だが、素早く移動すれば、その残像に相手は惑う。
 その隙に、必ず、撃つ!)

ゼウスを魔力の微粒子で作られたヴィレイサーの残像で囲み、
自分自身は、彼の斜め上の位置に陣取り、バスターライフルを構える。

(これで決める!)

カートリッジを3発射出し、引き金を引こうとする。

だが、それは叶わなかった。

(な、なんだ………?
 左指だけ動かない?)

左手の感覚が急激に遠ざかり、引き金が引けなかった。

(まさか!?
 遺伝子の拒絶反応による麻痺!?)

その一瞬が、彼から勝機を奪った。

「フン。
 そんな所でのんびりとしていていいのか?」

ゼウスが射撃体勢に入ったヴィレイサーを見つけ、肉薄してきた。

ゼウスにとっては正に神がもたらした好機。

だが、ヴィレイサーにとっては絶望となった。

迫りくる死の刃に、ヴィレイサーは必死に引き金を引こうとする。

「人間、死ねえぇ!」

「誰がああああぁぁぁぁぁ!」

ゼウスがすぐ目の前にまで迫った時、ようやっと引き金が引けた。

そこから繰り出された黒い砲撃に、ゼウスの体が飲み込まれた。

「グ………。
 グオオオオオオオォォォォォォ!?」










「ハァ……ハァ………。」

ようやくヴィレイサーの砲撃が止んだ。

息も切れ切れに、煙っているそこを見る。

「やった、のか………?」

確認するまで気は抜けない。

だが、さすがに膨大な魔力を放出した所為で、憔悴しきっている。

一瞬、疲れた事から、煙っている所から目を離した。

その刹那………。

「ウオオオオオオォォォォォォ!!!!」

「なに!?」

ゼウスの刃が、ヴィレイサーの“左腕を斬り落とした。”

「ウワアアアアアァァァァァァ!!!!」

襲いくる激痛に耐えたヴィレイサーだったが、ヴィーナスシステムが限界時間に到達した。

翼が消え、地に落下する。

しかし、エターナルが緩衝材を発生してくれた事で、なんとか命拾いした。

「中々の攻撃だったぞ、人間。」

そう言ったゼウスも、疲れているのか、息が上がっていた。

「さすがにこれではこの世界を潰すには至らないか。」

退いてくれる。

その考えに安堵したのも束の間、
ゼウスの傍に来たニクスに抱えられた人物を見て、瞠目する。

「フェイト………?」

ニクスに抱えられたフェイトは、気絶しているのか、まったく微動だにしなかった。

「この女を利用させてもらおう。
 だが、デバイスは邪魔だな。」

ゼウスが、ウェイトフォームのバルディッシュに手を掲げる。

すると、バルディッシュは抵抗する事無く、外され、待機状態になる。

フェイトもバリアジャケット姿から、六課の服装に戻る。

「これは将来の手向けとして受け取っておけ。」

バルディッシュは放られ、ヴィレイサーの目の前に無力を現すかのように落下する。

「30日だ。
 その日数が経過した時、俺が閉じ込められていた場所に来い。
 そうすれば、再び相見えるだろう。」

「フェイト!
 おい、フェイ……グァ!」

ゼウスの言葉に耳を貸さず、ヴィレイサーはただフェイトの名を叫ぶ。

例え痛みが声を、息を詰まらそうとも。

『目覚めてくれ』 ただそれだけを込めて。

「フェイト!」

だが、ヴィレイサーの言葉は虚しく響くだけだった。

「では、な。
 人間、30日後を楽しみにしているぞ。」

七星の全員がゼウスを取り巻き、共に転移魔法を使って消えてゆく。

「待ってくれ………。
 フェイト………………フェイト!」

残った右手を、力の限りフェイトに向けて伸ばす。

それで何かが変わる訳でもない。

それはわかっている。

だがそれでも、やらずにはいられなかった。

目の前で、答えを待っている人が─────愛する人が消えてゆく。

「フェイトォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

ヴィレイサーの慟哭だけが、戦場に響いた。





第17話 「絶望の神前」 了


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