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小説
第16話 「神の目覚め 舞い降りる堕天使」





「ここか………。」

ミラージュは飛行を止め、自身の下に広がる深い闇を見る。

そこには、巨大な穴がポッカリと開いていた。

スカリエッティが浮上させた、ゆりかごの穴だ。

近くには彼の研究所もある。

後続がまだ来ない為、なんとはなしに周囲に目を向ける。

すると、2つの巨大な影が見えた。

「ほう。
 例の2匹の龍か………。」

ミラージュが呟いたとおりそれは、キャロが召喚した龍だった。

白い飛龍には、エリオが。

そして、その飛竜よりも遥かに大きな龍には、キャロがいた。

「あの2人がいると言う事は、ルーテシア嬢は敗れたか。」

だが、ミラージュはそれ以上の事に興味が無いのか、穴の奥深くに目を移した。

しばらくその場で静止していると、ようやく後続が追いついて来た。

「ハァ、ハァ………。
 逃げるのは、もう、終わりか?」

先程まで刃を交えていたヴィレイサーだ。

「どうした?
 心なしか、息があがっているぞ。」

「黙れ………。」

どうやらヴィレイサー自身も、それを理解しているようだった。

「まぁいい。 ここから更に奥だ。」

そう言って、ミラージュが先行する。

ヴィレイサーは、遠くに見える影を見る。

「エリオとキャロか………。」

[他にも、バルディッシュとヴィンデルシャフトの反応があります。]

「フェイトかシャッハに増援を願い出たいところだが………。
 以前のミラージュ戦の事を鑑みると、それは避けた方がいいな。」

そして、ヴィレイサーもミラージュ同様に、穴の奥へと進む。

その最中、彼は左腕を思い切り掴んだ。

「グアァ………。」

肘から下を強く掴み、急激に起こった痛みに堪える。

(なんだ、この熱さは………?
 まるで、腕が焼き千切られるような………。)

しばらくすると、その激痛は嘘のようにひいた。

だがその代わりなのか、今度は左足の膝から下が、同じように急激に痛みだした。

(クソォ………。
 なんだってこんな時に………。)

しかし、ヴィレイサーには心当たりがあった。

(間違いなく遺伝子の破壊が進んでいる………。
 ミラージュに追いついた時の息切れも、恐らくはそれの所為だろう………。)

本来は薬を摂取しなければならないのだが、公開意見陳述会でのミラージュ戦の最中、
それをどこかに消失してしまった。

どんどんと深淵に足を踏み込むミラージュの背を見ながら、
ヴィレイサーは内心舌打ちした。

(早めに決着を着けないと、明らかに俺が早くに死ぬ………。)

今この場でミラージュを倒すか迷うが、その考えは隣から現れたヘイルによって潰された。

「ミラージュ、何でアレ(ヴィレイサー)がいるんだよ?」

ヴィレイサーを無視し、ミラージュに近づきながら問う。

「ニクスからの命令だ。」

「ニクスからの?
 なんならいいや。」

あっさりと納得し、ヘイルは一足先に更なる闇へと進んだ。

(チッ。 ニクスが奥にいるのかよ………。
 アイツの力はまだ、未知数だってのに………。)

「そろそろ着くぞ。
 貴様の、最期の戦場に。」

ミラージュの言う通り、すぐに地が見えてきた。

そこには、先に行ったヘイル、そしてもちろん、ニクスの姿があった。

ヴィレイサーは地に足を付き、周囲を見渡す。

外からの光がまったく差し込まないからなのか、数多くの照明が点在していた。

「ようこそ、ヴィレイサー。」










魔法少女リリカルなのはStrikerS─JIHAD

第16話 「神の目覚め 舞い降りる堕天使」










「ようこそ、ヴィレイサー。」

凛とした、よく通るその声に、ヴィレイサーはニクスの方を仰ぎ見た。

ニクスは石の階段を上り、やがて立ち止まる。

「よもや、生きていようとはね。」

「しぶとくて悪かったな。」

表情を変えずにヴィレイサーは返すが、エターナルは無闇矢鱈に抜刀しない。

下手に刺激すれば、明らかにこちらが不利だからだ。

だが、いつでも逃げ出せる準備はしておく。

死ぬ訳には行かないから。

「確かに、以前までは君が生きているのが厄介だったよ。」

ニクスは微笑み、ヴィレイサーを見下す。

「けど今は、君にいてもらわなきゃ困るんだ。」

「どういう風の吹き回しだ、一体?」

「何、ただ僕らの主の復活に手を貸してほしいだけさ。」

ニッコリと笑い、背にある巨大な扉を叩く。

随分と古いものなのか、所々にヒビが見て取れる。

埃が堪った箇所も、チラホラと見受けられた。

「断る。」

右手を払うように振り、拒否の意思を示す。

「俺にはメリットが無いだろ。」

そう答えると、ニクスは嗤いだした。

「アハハハハハ。」

「何がおかしい?」

突如嗤いだしたニクスに、ヴィレイサーは眉を顰め、問う。

「いや、すまない。 やっぱり『人間』なんだと思っただけだよ。
 どうも『人間』っていうのは、メリットやら見返りやらが無ければ働けないらしいね。」

ニクスは肩を竦め、ミラージュとヘイルも嘲笑した。

「メリットは無いよ。
 だけど、人助けと思って、協力してくれないかい?」

同志に向けられたようなニクスの手をしかし、ヴィレイサーは断った。

「散々俺を殺そうとしといて、今更だろ。」

「そうか、残念だよ………。」

差し出した手を引っ込め、冷徹な顔つきになる。

「……本当に残念だ………。」

まるで下等生物を見る目付きに変わり、ニクスは手を上げる。

「IS、ニクス・アーセナル」

彼の背後の空間が割れ、そこからドラグーンが顔を覗かせる。

「悪いけど、無理にでも協力してもらうよ。」

言い終えるや否や、上げていた手をヴィレイサーに向けて下ろす。

その瞬間、いくつものドラグーンが迫ってきた。

「誰が!」

エターナルを薙刀に切り替え、一閃する。

その一閃に、3つのドラグーンが爆散する。

「ヘイル、ミラージュ。」

「おう。」

「了解。」

2人も動き出し、ヴィレイサーに幾つもの砲火を浴びせる。

「チッ………。」

それらを紙一重でかわし、或いはエターナルの刃で軌道を僅かに逸らす。

だが、敵の戦い方に、ヴィレイサーは疑問が生じた。

(コイツら、俺を殺そうとしない………。
 何で………?)

ヴィレイサーの疑問通り、彼らは致命傷となりうる攻撃を仕掛けて来なかった。

だが、戦いが長引けば長引くほど、今のヴィレイサーには不利だった。

薬の持ち合わせが無い上、いつ左腕と左足が激痛に襲われるかわからないのだ。

やはり、早目に逃げるべきなのだが………。

「逃がすか!」

上空を窺ったり、飛行すれば、ヘイルの砲火に遮られた。

(個々に撃破していくしか無いか………。
 だとすれば、一番厄介なニクスを最初に………。)

ニクスを紫の双眸に捉え、薙刀を構え直す。

(やはり僕から狙うか………。
 “そうだ、それでいい”。)

うっすらと笑い、迫り来る堕天使を迎え撃つ。

攻防一対の盾から魔力刃を出し、ヴィレイサーの薙刀を先に思い切り弾く。

そのまま一気に肉薄しようとするが、薙刀を弾かれながらも、
その勢いを利用した、柄の部分が迫っているのに気付き、跳躍して距離を取る。

その後、ヴィレイサーも跳躍したニクスを追うように、飛翔する。

ニクスはヴィレイサーに近付かれまいと、ドラグーンを数個差し向ける。

放たれる砲火を身を捻りかわし、或いは防御できるギリギリのシールドでそれを防ぐ。

それに焦りを感じたのか、ニクスの動きに隙が生まれた。

ヴィレイサーはそれを見逃さず、間髪入れずに砲撃を叩き込む。

「逃がすか!
 レイディアント・ランチャー!」

漆黒の砲は、完璧にニクスを捕らえた。

だが、それが“誤り”だった。

「スペキュラム!」

ニクスはヴィレイサーの放った砲撃に対し、
それと同等、もしくはそれ以上の大きな鏡を展開する。

その鏡に受け止められた砲撃は、反射され、
ニクスがいた扉に飾られた球体に吸い込まれた。

「なっ!?」

「魔力の寄付、ありがとう、ヴィレイサー。」

そして扉に刻まれた線に、魔力が走り、発光しだした。

「ついに目覚める………。」

「我等が主、“ゼウス”が。」

ヴィレイサーの背後で見守っていたヘイルとミラージュは、
主の復活を今か今かと待っていた。

そして、扉は開かれた。

白い煙の中に、人影が見えた。

「今なら、まだ!」

捕らえられると信じ、ヴィレイサーは人影に突っ込む。

「ハアアアアアアァァァァァァ!!!!」

だがヴィレイサーの刃は通る事無く、見えない壁に阻まれる。

「クッ………。」

集められた魔力が、周囲を無理矢理に威圧する。

その魔力による威圧たるや、凄まじく、力無き者は否応なしに跪かせるほどだった。

そして、ようやくその力が収束した時、扉から1人の男性が現れた。

気高く、美しい漆黒の長い髪をなびかせ、ゆっくりと閉じていた目を開く。

開かれたその瞳は、何者をも魅了するように青く、
その双眸は、ヴィレイサーを、そしてニクス達を捉えた。

「懐かしいな、ニクス、ヘイル、ミラージュ。」

「はい。
 我らが主、ゼウス………。」

「フン。 主…か………。
 俺はお前達を見殺しにしたというのに、まだ主と敬うか。」

「アレは“ヘラ”が死んだのだから、致し方ありません。」

ヘイルにそう言われるが、ゼウスは残念そうに肩を落とした。

「そうだったな………。
 “ヘラ”は、………。」

「ゼウス。
 一先ず“この世界を消滅させましょう”。
 僕らの願いを叶えるために。」

ニクスは冷徹な笑みを浮かべ、空を仰ぎ見る。

「どんな世界かは知らんが、そうさせてもらうか。」

ゼウスの答えに、ヴィレイサーはそれを止めようと試みて動こうとするが………。

「まずはお前から死ぬか、人間?」

こちらに目を向けずに、されど背筋が凍る程の恐ろしい声に、
ヴィレイサーは動けなかった。

「っ………。」

立ち止ったヴィレイサーを見て、ゼウスは笑う。

「人間にしては、賢明な判断ができるようだな。」

「参りましょう。」

ニクスが先行し、その後をゼウスが。

そして、ゼウスを守るように、ミラージュとヘイルが彼の両脇を固める。

「クッ………。
 このまま黙って、見過ごすわけにはいかないってのに!」

怖気づいた自分に怒り、すぐさま4人を追おうとする。

[ですが、どうやって渡り合うと言うのです?
 特に、ゼウスと呼ばれた彼には、太刀打ちできるかすら怪しい。]

エターナルの言う事は尤もだ。

「確かにお前の言う通りだ。
 だが、見過ごしていい事でも無いだろ。
 それに、外には………。」

そこで言葉を切り、天を仰ぎ見る。

「……外には、俺の答えを、待ってくれているアイツがいる………。」

金の髪を揺らし、こちらに笑顔を向ける彼女。

それを脳裏に思い起こす。

「エクシーガに通信を………。」

リミッターを完全解除する為、エクシーガに連絡を取ろうとするが………。

[ダメです、リーダー。
 通信が繋がりません。]

「チッ………。
 こんなにも深い所にいるからか………。
 仕方が無い。 5分の間にけりをつけるぞ。」

急いでゼウス達を追う為、飛翔した。



◆◇◆◇◆



[ネブラ、ゲイル、レーゲン、ヴァン。
 ゼウスが目覚めた。
 眼前の敵から離脱して、例のゆりかごがあった箇所に集合してくれ。]

ニクスが、巨大な穴の出口付近で、七星の残りの4人に全体通信をする。

それを各人承諾し、すぐさま戦線を離脱した。

「これが、この世界の風景か………。」

穴から出、周囲を見回す。

だが、ある人影を見て瞠目する。

「あれは………。
 ヘラ……なのか………?」

ゼウスの視線の先には、エリオとキャロを笑顔で抱きしめているフェイトがいた。

「そっくりだな………。」

ヘイルも同意見なのか、ミラージュ同様に首を縦に振った。

「ですが、所詮は別人ですよ、ゼウス。」

「ニクス、ヘラの遺伝子情報は残っていたな?」

「えぇ。
 なるほど、そういう事ですか。」

これからゼウスが言わんとしている事を察し、ニクスはISを使ってドラグーンを展開する。

「ゼウス、あの女を器にするのか?」

「そうだ。
 遺伝子情報さえあれば、早くて10日ぐらいで成功か失敗かわかるだろう。
 失敗したのなら、捨てればいい。 人間など、死んだところでなんら問題無い。」

「そうだな。」

3人の会話を背後に聞き、ニクスは幸せそうにしているフェイト達に肉薄した。

「え、何!?」

いきなりドラグーンに周囲を囲まれ、フェイトは驚愕した。

「フェイトさん………!」

エリオが指さす所には、ニクスが氷のように冷たい笑みを浮かべている。

「あなたには、僕らについてきて頂きたい。」

「それは出来ない………。
 私は、ヴィレイサーを待っているから………。」

「そうか。
 じゃあ、実力行使といこうか。」

そう言うや否や、ニクスが放ったドラグーンが、一斉に火を吹く。

それを、エリオとキャロを抱えて、真ソニックフォームでの速さで全てかわす。

「ほう、速いね。」

空に逃げたフェイトを見上げ、ニクスは楽しそうに言う。

「エリオ、キャロ。
 2人は離れてて。」

「でも、フェイトさん………。」

「今はもう、魔力が底を尽きてるんじゃあ………。」

2人の心配は尤もだったが、それでもフェイトは戦う事を選んだ。

「大丈夫だよ。
 ちゃんと戻るから。」

地に降り立ち、2人を1度抱き締めながらそう言う。

そして、バルディッシュを、ライオットザンバー・スティンガーにして、構える。

「行くよ、バルディッシュ。」

[Yes,Sir.]

主の戦いに応えるべく、愛機は最後の力を振り絞る。

「2刀流か………。
 どれほどのもか、見せてもらうよ。」

迫る金色の閃光に、恐れをなす事無く白銀の雪が迎え撃つ。



◆◇◆◇◆



「なんとか追いついたか………。」

3人でその場に浮遊しているゼウス達を見つけ、ヴィレイサーは駆け寄る。

「む?
 なんだ、逃げていれば助かったものを………。」

ヴィレイサーの瞳にたぎる、戦う意志に、ゼウスは嗤う。

「確かに力の差は歴然かもしれない………。
 だが、だから敗北が決定している訳じゃない!」

「そうかもな。
 その意志、いつまでも残している訳にもいかんな。
 今ここでその灯火、消し去ってくれる!」

ゼウスはバリアジャケットを持ってはいない為、眠っていた時の服装と武器で戦う。

「ヴィーナスシステム、起動!」

[Venus System,Get Set.]

切り札を開放し、強大な魔力がヴィレイサーを包む。

[Please Teach a Code Name.]

「コードネーム………。
 ドーン・ルチフェル!」

[DAWN・LUCIFER.]

コードネームを叫んだ瞬間、ヴィレイサーの背に、左右6枚、総計12枚の羽が生える。

その12枚の羽は、堕天使のごとく黒く、しかし半透明で美しかった。

そしてその羽からは、ヴィレイサーの魔力が、微粒子となって出続けていた。

それを1度、思い切り羽ばたかせる。

すると、羽ばたかせたと同時に、微粒子の魔力が煌きながら舞い散る。

「タイムリミットは5分………。
 行くぞ、エターナル!」

[Yes,Leader.]

ヴィレイサーは、太刀を抜刀し、翼を煌かせた。





第16話 「神の目覚め 舞い降りる堕天使」 了


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