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小説
第15話 「歪んだ正義 明かされた素顔」





事の発端は、数年前遡る。

「また守れなかったな………。
 死者25名、内、民間人11名。」

事件で犠牲となった人数を上げ、ゼストは悲しげに言った。

「やはり、ミッド地上は事件が多過ぎる!
 優秀な人材は皆、本局に持って行かれる………。」

レジアスは事件が流れているモニターを見て、苛立たしげに言う。

「小さな世界の事は無視してもいいと言うのか!?」

憤慨するレジアスだったが、ゼストの冷静な瞳に、落ち着きを取り戻す。

「すまん………。」

2人は立ち上がり、通路に出てから話を再開する。

「俺はお前のように魔法を使えんし、人を育てる力も無い。
 だが、せめて局の中で上り詰め、力を蓄えれば、或いは………。」

レジアスの熱意に、ゼストも頷く。

「やれるさ、お前なら。」

そして、レジアスは変わった。

それが自分の信ずる“正義”だと疑わずに………。



◆◇◆◇◆



「改革が必要です! この街の平和、正義の為に!」

会議でレジアスは積極的に自分をアピールする。

その熱意に心打たれる者もいれば、逆に鬱陶しく思う者もいただろう。

しかし、レジアスは徐々に勢力を拡大していった。



◆◇◆◇◆



「統制システムの機能向上、すばらしい成果です。」

「ですが、システムについて本局から意見が………。」

「干渉するなと伝えろ!」

彼の正義に、周囲も次第に変わり始めていた。

しかし、それ故に悪魔がひっそりと近づくのだ。



◆◇◆◇◆



「レジアス、近頃良い噂を聞かんぞ。」

「俺は昔と何も変わっていない。」

そう言ったレジアスには、どこか悪魔が見え隠れしているようにゼストには見えた。

「ところでお前の部隊、戦闘機人事件を追っているそうだな?」

「あぁ。
 ついでに、以前俺の部下が引き取った少年の事も調べている。
 戦闘機人の違法施設を叩けば、アイツの事がもっとわかるかもしれんしな。」

「お前にはもっと重要な案件があるはずだ。
 明日には指示するから、そっちに移れ。」

それだけ言い残し、レジアスは1人歩きだした。

彼の背を見送りながら、ゼストは柱の影にいた部下に念話する。

[ナカジマ、アルピーノ。
 例の地点の捜査、予定を早めるぞ。]

命じられ、2人は立ち上がる。

「今夜発つ。
 ただ、ヴィレイサーはこの任に加えるな。」

「了解。」

クイントが敬礼を交えて返す。

「準備を進めておけ。」

「「了解。」」



◆◇◆◇◆



「ゼスト隊長!
 何故次の任務から俺を外すんですか!?」

母のクイントから聞かされたが、まだ納得できなかったヴィレイサーは、
渡されたナックルを持ったまま、ゼストに問う。

「危険だからだ。
 お前のお守をしながら戦うのには無理がある。
 だから、次の戦闘機人の基地を叩く任務には、お前を連れては行けない。」

「しかし!」

隊長であるゼストに、幼いヴィレイサーは反論する。

「いいか、ヴィレイサー。
 俺達は、お前を失う訳にはいかないんだ。
 地球でお前の帰りを待っている家族の為にも。
 そして、俺達自身の為にもな。」

「そうかもしれませんが………。」

「強くなれ、ヴィレイサー。
 その時には必ず、お前を連れて行こう。」

「……はい………。」

完璧に納得した訳では無かったが、これ以上の押し問答は、出撃の準備にまで影響する。

自分の所為で、任務が失敗に終わる事の方が、ヴィレイサーにとっては悲しかった。

「お気をつけて………。」

それしか言えない。

これから出撃する仲間、家族、上官に対し、何もできないお荷物の自分。

それが重圧となり、ヴィレイサーを潰そうとする。

何もできない自分が、歯痒かった。

情けなかった。

憎かった。

その時のヴィレイサーは、そんな気持ちでいっぱいだった。



◆◇◆◇◆



「やっぱり間違いない。
 ここは、戦闘機人プラント………。」

敵を殲滅したクイントは、背中あわせにしているメガーヌに、ポツリと呟く。

その時、仲間から衝撃的な通信が入った。

[分隊長、ゼスト隊長が………!]

モニターに映されたゼストは、素人目にも、瀕死なのは明らかだった。

すぐに救助に………。

そう思った矢先、敵の増援が、2人を囲んだ。

それは、ガジェットのW型だった。

無数の尖端の鋭い四肢が、2人に迫った………。



◆◇◆◇◆



「こんな所まで入られたか。」

倒した兵士を一瞥し、トーレは苦々しく言う。

「遺体を回収しよう。」

そう言ったのは、ゼストに右目を奪われたチンクだった。

「ドクターの研究に役立ててやらねば。」



◆◇◆◇◆



その日、レジアスにスカリエッティからの通信が入った。

[困るね、大事な実験施設が1つ壊されてしまったよ。]

「命令が追いつかなかったようだ………。」

スカリエッティの声には、どこか愉しんだような色が窺えた。

[1対1で、Sランク騎士の撃破。 中々だろう?]

映し出された戦いの映像記録には、傷が見受けられる戦闘機人と、
血塗れになり、ピクリとも動かない騎士─────旧友の姿があった。










魔法少女リリカルなのはStrikerS─JIHAD

第15話 「歪んだ正義 明かされた素顔」










「お前に問いたかった………。」

ゼストは武器を構えずに、座したままのレジアスに淡々と告げていく。

「俺は良かった。 お前の正義の為なら、殉じる覚悟もあった。
 だが、俺の部下達は何のために死んでいった!?
 ナカジマとアルピーノには、子供もいたんだぞ!」

気の小さい者なら、それだけで死んでしまいそうな咆哮に、
レジアスは目を逸らすしかなかった。

「どうしてこんな事になってしまった………?
 俺とお前が夢見た正義は………。」

そこで言葉を区切り、レジアスを双眸に捉える。

「……いつの間に、こんな姿になってしまった………?」

レジアスが口を開きかけたその時………。



ガシャーン!



彼の背後にあった窓ガラスが粉々に砕け散った。

「イタタタ………。」

ガラスに勢いよく叩きつけられたのは、ネブラだった。

彼女がキッと仰ぎ見た蒼天には、二刀流に剣を構えているヴァンガードがいた。

「もう、最悪………。」

立ち上がり、唖然としているレジアス達を、否、1人の女性局員を見る。

その隙に、ヴァンガードが急速に接近する。

「覚悟!」

左右の剣を思い切り振り上げ、それを躊躇無くネブラに振り下ろす。

だが、それは叶わなかった。

「ウグッ!?」

ヴァンガードは何かに捕らえられていた。

「残念でした。
 気付かれないようにバルーンを出してたんだよね。」

ネブラの言った通り、ヴァンガードを捕縛していたのは、
彼女のISで作られた人形が放った、ヒュギエイアのワイヤーだった。

「さすがにこれ以上戦って魔力を消耗するのはマズイね………。」

ヴァンガードを無視して、ネブラはゼスト達4人を順々に見て行く。

ゼストは得物を構えるが、その行動にネブラは嗤った。

「その身体でやるの?
 すぐに消えちゃうよ?」

限界が近い事を見透かされ、ゼストは逡巡する。

その刹那の迷いを見逃さず、もう1体のバルーンを生成する。

「しまった!?」

ゼストが気付いた時には、既に自分はヴァンガードと同じように捕らえられていた。

「あたしは別に、そこのおっさんと副官には興味無いから、危害を加えないでね。」

そう言って、ネブラは残った女性局員の正面に立つ。

「やっほー、ドゥーエ。」

「このタイミングで明かすのは、どうかと思いますよ?」

ネブラが話しかけた局員は、黒い笑みを浮かべ、本性を表す。

戦闘機人のNo,2のドゥーエ。

彼女の任務は、隠密行動で潜入し、用済みとなった者の始末だった。

それを予め聞かされていたネブラは、すぐにドゥーエだと見抜いた。

「では、あの2人が動けない事ですし、始末しましょうか。」

固有武器を装着し、ドゥーエはレジアスに近づいて行く。

だが─────

「ウグァ!?」

─────彼を殺すには至らなかった。

それどころか、ドゥーエを双頭の龍(ツインハルパー)が捕らえていた。

「な、何を………?」

驚愕に見開かれた目を、真後ろで双頭の龍(ツインハルパー)を使うネブラに向けようとする。

「ごめんねぇ〜。」

謝罪の言葉を口にするものの、そこにはまったく誠意が込められていなかった。

「どうしても、魔力を集めなきゃいけないから、あんたの貰うね?」

双頭の龍(ツインハルパー)が1度だけ発光し、ドゥーエから魔力を含めたエネルギーを吸い取る。

「な〜んだ。
 たったこれだけか。」

双頭の龍(ツインハルパー)からドゥーエを解放し、ネブラは残念そうに呟く。

「役立たずは、もう消えちゃっていいよ♪」

攻防一対の盾から、魔力刃を発生させ、ドゥーエに振り下ろす。



ガキィン!



だが、いつの間にかバルーンから脱したヴァンガードが、間一髪でそれを防ぐ。

「え?
 なんで助けるの?」

ネブラは訳がわからなかった。

ドゥーエとヴァンガードの2人には、接点は無いのだ。

むしろ敵同士だ。

助けるのではなく、捕らえるのならまだわかるが………。

「助けるのに、訳なんているのかよ!」

ドゥーエを抱え、ヴァンガードはそう吠えた。

それを聞いたネブラは、クスクスと嗤いだした。

「クフフ………。
 アハハハハハハハ。」

よほどおかしかったのか、ネブラはお腹を押さえて笑っている。

「バッカじゃないの?
 他人なんてどうでもいいって思うのが、あなた達人間でしょ?」

「確かにそういう奴もいる。
 だけど俺は、救える命は救う!
 だから、この人も救ってみせる!」

ヴァンガードの叫びに、ネブラの顔が歪んだ。

「嘘だ………。
 そんな奴、いるはず無い!」

「え………。」

ヴァンガード以上に声を張り上げたネブラの目には、涙が浮かんでいた。

「だったら………だったらどうして“ヘラ”は………。」

「“ヘラ”?」

聞いた事のない名前に、ヴァンガードは聞き返したが、
ネブラはそれに答えず、攻防一対の盾から、3連装のスモーク弾を放つ。

それは着弾と同時に、白い煙を周囲に撒き散らした。

「クッ!」

煙からいち早く脱したが、それが晴れた時には、ネブラの姿はどこにも無かった。

「騎士ゼスト、大丈夫ですか?」

最早ネブラを追い切れないと判断したヴァンガードは、ゼストに駆け寄る。

「何故俺の事を?」

バルーンで作られたネブラを蹴散らしたヴァンガードに、ゼストは聞く。

「仲間のヴィレイサーから聞いています。
 映像でも、あなたの事が一瞬だけ流れてましたから。」

「そうか。」

消耗したのか、ゼストはその場に座り込んだ。

「旦那!」

その時、融合騎のアギトがシグナムと姿を現した。

「ヴァンガード!?
 何故お前が?」

「俺だけじゃない。
 エクシーガ、デュアリス、リュウビ、ヴィレイサーも一緒だ。」

「ヴィレイサーも………。」

「あぁ。
 悪いけど俺は、まだ敵を追う必要があるからこれで。
 この戦闘機人と、ゼストさんの事を頼む。」

シグナムが頷いたのを確認し、ヴァンガードは一足先に飛び出した。

「アギト、お前はシグナムと動け。」

「旦那、どうして!?」

「俺はもう、お前とユニゾンできるほどの体力が無い。
 だが、敵は待ってはくれんからな。」

アギトはシグナムの方をチラリと見やる。

「わかった。
 あたし、やるよ。」

「すまない。」

「旦那が気にする事無いさ!
 シグナム、頼む。」

「あぁ、もちろんだ。」

アギトに手を差し出し、受け入れる準備をする。

「行くぞ、ユニゾン・イン!」

眩い光に、その場にいた全員が目を覆った。

それが治まった時、そこには、烈火の騎士と呼ぶにふさわしい姿のシグナムがいた。

彼女は何も言わず、無数のガジェットがいる戦場へと舞った。



◆◇◆◇◆



空を駆けるゲイルに、デュアリスは奇妙な感覚を持っていた。

(おかしい………。
 奴は間違いなく“俺と同じ、プロジェクトFで生み出されたセイバーのコピー”。)

両剣を振るい、追い詰めようとするデュアリスだったが、
ゲイルの素早さ、技量、剣の使い方、そのどれもが、今の自分を上回っていた。

だがそれこそが、デュアリスの奇妙に思う気持ちを更に駆り立てた。

今まで、自分と同じように造り出されたセイバー達と模擬戦を繰り返してきた。

なのに、そのどのセイバーの戦い方とも、ゲイルの戦い方は合わなかった。

(確かに何人かのセイバーのコピーは、似ている部分があった。)

それもそのはずで、遺伝子の塩基配列パターンは同じ。

だが、全ての者が何もかも同じになる訳では無かった。

それが証拠に、全員、顔立ちや体つきは違ったのだ。

しかも、ある者は剣の戦い方に長け、またある者は戦術に長けていた。

(だと言うのに、奴はそのどれをも凌駕している………。
 一体何故………?)

「ハアアアアアアァァァァァァァ!!!!!」

不安を振りはらうように、デュアリスは、咆哮しながらゲイルに肉薄する。

だが、ゲイルはそれをあっさりとかわす。

「ゲイル、あんたは俺と同じじゃないのか!?」

「同じとは?」

「俺は、太古の騎士、“セイバー”の遺伝子情報からプロジェクトFで造られた。
 あんたからも同じ感じがするんだよ!」

「確かに、遺伝子情報が近い者同士は、互いに感応するらしいな。
 だが、その考えは残念だが見当違いだ。」

「なら、あんたは一体誰なんだ!」

デュアリスは左手に持った短剣を、ブーメランの要領で投げる。

ゲイルは迫る短剣を、ゲイルはクレイモアではじく。

しかし、巨大な剣で弾いたが故に、一瞬だけ自分の視界が一部遮られた。

その隙に、デュアリスは死角から仕掛ける。

「っ!」

目の前にいたと思っていたデュアリスがいない事に慌てたゲイルだったが、
視界の隅で、影が動いたのを見逃さなかった。

「上か!」

既にギリギリの所まで迫ってきていたデュアリスの刃を、既の所で気付き、
身を捻ってそれを避けようとする。

しかし、さすがに気付いたのが遅かった為、避けきれず、額に刃が走った。

デュアリスが振るったその刃は、額だけでなく、仮面をも切った。

虚空に舞い、地に落下していく仮面の下から晒されたその素顔に、
デュアリスは驚愕せざるを得なかった。

何故なら………。

「え………………お、俺………?」

そう。

ゲイルの素顔は、デュアリスと瓜二つだったからだ。

「そうだ。
 貴様は俺だ。」

「ま、まさか………。」

「そうだ。
 “俺がセイバー”だ。
 言うなれば、貴様らのオリジナルだ。」





第15話 「歪んだ正義 明かされた素顔」 了


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