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小説
第12話 「欲望に染まった絶望 臥した希望」





[ルキノ、コントロールは大丈夫?]

「はい、アースラの事は、隅から隅まで知ってますから。」

それを聞いたフェイトはホッとした。

「あの、フェイトさんはもう大丈夫なんですか?」

[私?]

「はい。
 その………ヴィレイサーさんの事………。」

[まだ、本決まりじゃないよ。
 それに私は、ナカジマ三佐の言葉を信じてるから。]

「そうですね。
 どちらにせよ、なんの痕跡も見当たりませんでしたし………。」

[うん。
 だから信じよう………?
 ヴィレイサーが、戻ってくる事。]

「はい。」



◆◇◆◇◆



Side:フェイト

ルキノとの通信を終え、私はフーッと息を吐く。

ヴィレイサーの話が出たので少し緊張したが、今はもう落ち着いている。

(なのはのお陰かな………。)

このアースラに移る前、自分はなのはに励まされた。

信じて待つ事が、今の私達にできる、最善の選択だと。

そう言われ、私はかつてヴィレイサーに言った事を思い出す。

エクシーガに敗れ、己の存在を探していた時だったか………。

互いの事を話し、だがヴィレイサーは、“信頼”をしていなかった。

裏切られた時、辛いのは誰だかを知っているから………。

デュアリス達からも距離を置き、常に1人の道を選び続けていた。

恐らくそれは、かつて所属していた部隊が壊滅した事によるものだろう。

だから彼は悲しい目をしながらも、1人を選んでいた。

そんな彼に私は、どこか同じような気がした。

自分にも、そんな風に悲しい目をしていた時期があったから。

それを断ち切りたくて………。

なのはが自分を救ってくれたように、私も彼を救いたくて………。

そんな気持ちで、私はヴィレイサーに言ったのだ。



─────私はとことんヴィレイサーを『仲間』として信じ抜く。



─────いつも、いつまでも。



─────あなたは優しいから、必ずそれに答えてくれる。



(そうだった。
 私は、ヴィレイサーを信じ抜くんだった………。
 なのに、彼がいなくなったと勝手に決めつけて………。)

傍にある写真に視線を向ける。

そこには、笑顔の自分と、それに微笑するヴィレイサーが写っていた。

(お願い、ヴィレイサー………。
 必ず帰ってきて………。)

手を結び、窓から見える蒼天に祈った。

Side:フェイト 了










魔法少女リリカルなのはStrikerS─JIHAD

第12話 「欲望に染まった絶望 臥した希望」










本局の一部屋では、スバルとマリエル技官がいた。

[神経ケーブル系統は、完全回復してるから全力で動かしても、痛みは無いはずよ。]

「はい。」

診察台から起き上がり、拳を握り、空を突く。

違和感無く打てた事に喜び、マリエル技官に感謝する。

その後すぐに、愛機─────マッハキャリバーの元へと向かった。

「ごめんね、マッハキャリバー。
 私の事、怒ってるよね………。
 あの時、マッハキャリバーの事まったく考えてなかった。
 自分勝手に……道具扱いして………こんなに、傷付けちゃった………。」

[Non!]

スバルの涙ぐんだ声に、マッハキャリバーがピシャリと言う。

その声に、スバルは愛機の方を向く。

[問題があったのはあなたの全力に応えられなかった、私の力不足です。]

「マッハキャリバー………。」

そこへ、マリエル技官とシャーリーが入ってきた。

どうやら、今後のデバイス達の事についてやるらしい。

そこでスバルは、マッハキャリバーの想いを聞く。

[もう1度チャンスを下さい。
 今度は必ず、あなたの全力を受け止めます。
 あなたがどこまでも、走れるように………。]

その想いにスバルも応えるべく、涙を拭い、向き直る。

「うん………。
 今度は一緒に走ろうね、マッハキャリバー………。」



◆◇◆◇◆



ズドォォォォン!

ガキィン!



訓練シムに戦いの音が響き渡る。

「ウワアアアアァァァァァ!?」

「ハアアアアァァァァァァ!!!」

弾き飛ばされたエリオに、レヴァンティンを上段に構えたシグナムが躍りかかる。

それに臆する事無く、エリオはストラーダを構え、迎え撃つ。

そして、2人がぶつかり合い、爆発が起こる。

近くにいたフリードが驚くが、2人は無事で、得物を相手に向けたままだった。

そこに、アラームが鳴る。

「今日の訓練はここまでだ。」

「はい。
 ありがとうございました。」

息を切らせながらも、シグナムに礼を言う。

「相変わらず何かを教えられる訳ではないが、大丈夫か?」

「大丈夫です。」

「フェイト隊長に心配かけてもいかん。」

レヴァンティンを待機状態に戻し、シグナムはシムを出ていった。




◆◇◆◇◆



一方、ニクス達七星と、戦闘機人達は、アインヘリアルの破壊活動を行っていた。

ヘイルの黒光りする砲身が火を吹き、迎撃に出た戦車を吹き飛ばす。

「弱いくせに戦ってんじゃねぇよ!」

ミサイルとバルカンを併用した肩部のポットを開き、戦場に火薬の雹を降らせる。

火薬の雹が着弾し、周囲は火の海に包まれた。



◆◇◆◇◆



「カートリッジ、ロード。」

背負ったバズーカを構えながら、カートリッジを消費する。

それを、自分に向かって攻撃してくる者達、否、アインヘリアルに向ける。

「貴様らが避ければアインヘリアルに当たるぞ。」

そう警告し、魔導師達がアインヘリアルの方を向く。

その瞬間、レーゲンは引き金を引いた。

「アルバレスト!」

射出された弾丸は速く、迎撃に出ていた魔導師達には止められなかった。

それは見事にアインヘリアルに当たり、爆散する。

「命を張って守れないか………。」

足に備えてある剣の柄を二刀に引き抜き、魔力刃を出現させる。

「死なないと過信しているのなら、戦場に出るな!」

肉薄してくる鬼神に、局員たちは成す術無く落ちていく。



◆◇◆◇◆



「なんとしてでもここは守り抜け!」

指揮官らしき男の声が響き、残りの隊員達はそれに答える。

「何故こうも簡単に………。」

苦々しく呟くが、近くで爆発が起こり、その炎に飲み込まれた。

「つまんないの。
 ここまで弱いなんて………。」

空間が歪んだかと思うと、そこから姿を現したのは、
真紅のバリアジャケットに身を包んだネブラだった。

「幻覚に遊ばれるなんて、弱い………。」

背後を振りかえり、複数のネブラに苦戦している局員達に呟く。

彼女のISの1つ、『ネブラ・バルーン』。

これは、空気中の水分を使い、霧を無理矢理発生させる。

その後、その霧を媒介に、微量な魔力で霧を繋ぐ。

そうすると、ネブラと同じ姿をした霧の人形が完成するのだ。

それを複数簡単に生成し、戦わせている間に、
自分は不可視能力、『ネブラ・ステルス』を使って、指揮官を制圧できるのだ。

「これがアインヘリアルねぇ………。」

自分よりも遥かに大きい兵器を見上げ、ポツリと呟く。

「これを逆に利用させてもらうわよ。」

ニィっと厭らしい笑みを浮かべ、上に飛び乗る。

「双頭の龍(ツインハルパー)!」

ネブラの声に目覚めたかのように、双頭の龍(ツインハルパー)は展開され、まるで、アインヘリアルに噛みつくかのように接続される。

「アインヘリアルの電力を暴走させて………。」

今まで各所から貰ってきた電力をアインヘリアルに逆流させる。

その放電の様子に、他の局員達が気付き、すぐさまネブラに銃口を向ける。

「もう遅いよ………。」

ネブラの言った通り、アインヘリアルは暴走寸前だった。

だがその前にやる事がある。

「あなた達が壊してくれた、ネブラ・バルーン。
 周囲にまだ浮遊してるよ。」

クスクスと無邪気に笑い、慌てている相手を見て、機嫌を良くする。

そして、右手を虚空へ挙げ、バルーンに命じる。

「モード、スリープ。」

霧になり、浮遊していたバルーン達は、催眠ガスに早変わりし、局員達を気絶させる。

「魔力を吸い出して。」

そして、霧に包まれたその空間にいる者達は、一斉に魔力を吸い出された。

「チェッ。
 たったこれだけだなんて………。」

集まった魔力の総量を双頭の龍(ツインハルパー)に収め、残念そうに言う。

「これじゃあ、あたし達の『主』が復活するのはまだ難しいかな?」

転移しながら言ったその言葉を聞いていた者など、当然、いるはずもなかった。



◆◇◆◇◆



「フフン♪」

ウェンディが魔導師の頭を踏みつけ、機嫌良く笑う。

「いやぁ〜、データ蓄積のお陰で、随分と楽に動けるようになったっすねぇ。
 ねぇ? オットー、ディード、そう思わねぇすか?」

気楽に言ったウェンディだったが、オットーとディードの2人は何も答えなかった。

「ウッ………。
 あたし、この2人苦手っす………。」

そう呟いた時、トーレから通信が入る。

[ウェンディ、2号機の方は私とセッテ、ノーヴェで潰した。]

「こりゃあ、お疲れっす。」

[そっちも終わったか?]

トーレから代わって聞こえてきたノーヴェの声に、ウェンディは頷いてから返す。

「もちろん、完全制圧っす。
 オットーとディードが、本体にザックリ、ダメージを。
 で、1号機はクア姉とセイン姉と、ディエチ。
 4号機はヘイル、5号機はレーゲン。
 んで、後は6号機をネブラが。 後は7号機っすけど………。」

まだ終わって無い為、少し不安な声になる。

[やってるのはニクスだったな。
 奴の戦い方は、我々もまだ1度も見ていないから、気にはなるが………。]

「まぁ、簡単に終わるっすよ。
 なんてったって、七星のリーダーなんすから。」



◆◇◆◇◆



「後はこの7号機だけだと!?」

聞かされた報告に驚く指揮官に、更に状況説明が聞こえてきた。

「隊長、敵が来ました!」

「射程距離になったら撃て!」

「はい!」

慌ただしく動き出す局員を見下し、ニクスは嗤った。

「『人間』は愚かだね。
 敵を見たら、すぐに武器を取り、攻撃する。
 それが敵わないと知りながらも………。」

敵の射程距離に入らない位置で止まり、純白のバリアジャケットを展開する。

そして、初めて自分の武装を見せる。

「IS、ニクス・アーセナル。」

彼の背後の空間に、1本線が入り、その空間が開く。

そこからは、雪が風と共に吹きすさび、寒さを一気に増す。

そして、露わになったその武装は、円錐型と、スクエア型の砲身だった。

それらの砲身は、空間から少し顔をのぞかせただけで、待機している。

「行け、スターダスト。」

そう言いながら、右手を敵に振り下ろす。

それが合図となり、スターダストと呼ばれた数多くの砲身が、一斉に迫る。

砲身は敵の攻撃を悉くかわし、逆に砲撃をあてる。

ニクスはそれをただ見下ろしているだけに見えたが、数多くのスターダストの制御は、彼にも大きな負担となっている。

「もうそろそろいいか。」

ポツリと呟き、円錐型のスターダストを3つ。

スクエア型のスターダストを8つ残す。

そして、ニクスは右手に魔力刃を発生させる複合シールドを持ち、残った局員に肉薄する。

「な、なんだ、コイツは………。」

あまりの圧倒的な力の差に、目を見開いているしかなかった局員の叫びに、
ニクスは嗤って答えた。

「僕は………いや、僕らは、『神』だ。」

その言葉は、ドラグーンからの一斉砲撃によって爆散させられたアインヘリアルの轟音に紛れ、
誰にも届く事は無かった。



◆◇◆◇◆



[ドクター、アインヘリアル、全機破壊完了しました。]

ウーノからの通信に、スカリエッティは頷き返した。

[あなたの娘達も、本部に向かってます。]

ニクスからの通信を別モニターに映し、そこにナンバーズ達が見える。

「いよいよ復活の時だ………。」

両手を高々に挙げ、笑みを浮かべる。

「こんな世界を創り出した管理局の諸君。」

全周波数に無理矢理割り込み、スカリエッティは丁重に、
だがしかし、憎たらしい口調で告げていく

彼のアジトの外では、ルーテシアが召喚した地雷王が地震を起こしていた。

そして、幾つかの岩肌が砕けるとともに、
スカリエッティが求めてきた『力』が姿を現す。

「見えているかい!? 君たちが忌避しながらも求めていた絶対の力!!」

高らかに宣言した、その刹那。

大地を切り裂き、そして揺り動かして、『それ』は浮上した。

「『聖王の揺り籠』だ!」



◆◇◆◇◆



「アレが、『聖王の揺り籠』………。」

ゲイルはそれを一瞥したが、傍に来たヘイルからの指示に従う。

「下らねぇもんが、まだあったんだなぁ………。
 けど、アレを浮かせてくれて感謝するぜ。
 変人ドクターさんよぉ。」

これから自分達の、『真の目的』が始動できる事に、ヘイルは笑いを堪え切れなかった。

「ヒャハハ………。
 アッハハハハハハハハハハハ。」



◆◇◆◇◆



[待ち望んだ主を得て、古代の技術と叡智の結晶は今その力を発揮する!]

通信から聞かされる演説と映像に、なのは達は瞠目した。

揺り籠の玉座のような所に座らされていたのは、ヴィヴィオだった。

ケーブルから伝わる電流に、弾かれたように目を覚ます。

彼女の悲痛な叫びだけが、なのは達の耳に、残った。





◆◇◆◇◆





そして、スカリエッティの演説を聞いていたとある4人の男女は、息をついた。

「最後の子、あの子だよね?」

1人の女性の質問に答えたのは、修理中のデバイスだった。

[間違いありませんね。]

「今の俺達にできるのは、アイツが目覚めるのを待つことだけだ。」

「そうね。」

彼らの視線の先には、様々な医療器具に繋がれた、1人の青年の姿があった。





第12話 「欲望に染まった絶望 臥した希望」 了


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