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小説
第11話 「羽ばたく時」





幾つもの報道ヘリが空を駆け、地上本部の凄惨さを伝えていた。

それをチラリと地上から見ていた女性は、すぐに現場に視線を戻す。

銀の髪を揺らし、彼女は周囲を見回し、事件に繋がる何かを必死に探す。

「ほとんど無い……か………。」

呟いた時、別の捜査員の足音が複数聞こえてきた。

急いで場所を移動し、見つからないようにする。

(管理局の服を着ているから、無理に隠れなくてもいいんだけどね。)

それでも、できるだけ相手に顔を見られたくは無い彼女は、走り、姿を隠す。

そして、ある1箇所で足を止めた。

公開意見陳述会が行われていた会場を設けていたビルだ。

(『ヴィレイサー』は、あの階層から落とされたのよね。)

頭を振り、事件の方に集中する。

だがそんな彼女に、戻るようにとの指令が下された。

「了解。」

指令に返事をし、空間から長剣を出現させる。

「帰るわよ。
 アタラクシア。」

[Yes,sir.]

自身のデバイスに告げ、デバイスの方もそれに応える。

[Homing Dash.]

移動魔法を使った瞬間、その女性は神隠しにでもあったかのように消えていた。










魔法少女リリカルなのはStrikerS─JIHAD

第11話 「羽ばたく時」










同時刻。

現場をシグナムに替わってもらったティアナは、スバル達がいる病室に到着した。

ノックをして中に入ると、エリオとキャロがほぼ同時に彼女の方を向いた。

それに遅れて、スバルもティアナを見た。

「ティア………。」

相方のあまりの暗さに、息をつき、ビニール袋を見せる。

「差し入れ。」

3人の近くに歩き、机に袋を置いて中から適当な物を渡していく。

「どうせ、ろくな物食べて無いんでしょ?」

「ありがとうございます。」

キャロはそれを受け取り、顔をほころばせる。

「ん。」

椅子を引き寄せて座り、ティアナはスバルに缶ジュースを渡す。

「ありがとう………。」

受け取ったそれを飲もうと、プルタブを開ける時動かした左手から、
わずかに機械音が聞こえてきた。

「腕、もう動かせるんだ。」

「神経ケーブルがいっちゃってたから、まだうまくは動かせないんだけどね。」

そう言ってから、スバルは一口飲み物を口に運ぶ。

「チビッコ達には、どこまで?」

「あたしとギン姉の生まれとか………ヴィレ兄の生まれの事も。」

「悪かったわね。 私が止めてたの。
 スバルの体の事、しばらく秘密にしておきなさいって。」

ティアナの謝罪に、キャロとエリオは首を振る。

だが、2人は顔を見合わせ、暖かいスープなどを貰ってくると言って、病室を出ていった。

気まずい空気が、しばらくスバルとティアナの間に流れるが、スバルが先に口を開く。

「ティア、ごめんね………。」

「何に対しての「ごめん」よ、それは?」

「いろいろ………。」

「後でマッハキャリバーにも謝っておきなさいよ?」

「うん………。」

力無く頷くが、ティアナはそれを聞いて、一番聞きたい事に移る。

「ねぇ、ギンガさんは亡くなってないのよね?」

「あれくらいの負傷なら、蘇生できると思う………。」

「なら、助けに行けるチャンスがあるって事でしょ?」

それを聞き、スバルはハッとした。

「なのはさんが言ってた。
 「私達はこれから、レリック事件からスカリエッティの追跡に切り替わる」って。
 だから、今度は失敗しない。
 必ず守るし、奪われた物は奪い返す、助け出す。 全部よ。」

「うん!」

ティアナの励ましに、スバルは力強く答えた。



◆◇◆◇◆



「ねぇ、ニクス?」

ネブラがずっと考えていた事を打ち明けるように口を開く。

「なんだい?」

「ヴィレイサーって、本当に死んだの?」

ピクリと眉を動かし、今度はニクスが不思議そうに聞く。

「どうしてそう思うんだい?」

「この目で見ないと信じられないの、私は。」

橙色の両目をニクスに近づける。

「そうは言われても、ミラージュの戦闘データは見たんだろ?
 だったら、それを信じてもらうしか他に無いよ。」

「そうなんだけど………。」

ネブラにしては珍しく、歯切れの悪い言い方をする。

「何か気になる事でもあるのかい?」

「実は、見慣れない奴が一瞬だけ見えた気がするの。」

「「気がする」っていうのは?」

「本当に一瞬だけだったから、わからなくて………。」

それを聞き、ニクスは考え込んだ。

「それは、どんな感じだったか覚えているかい?」

「えっと、紅い何かが走った気がする。」

「紅い、何か………。」

だが、彼の記憶にはそれに該当する人物が思い当らなかった。

「気にする事無いよ、ネブラ。
 それより君は、魔力をできるだけたくさん集めてきてくれ。」

「あぁ………。
 聖王の器が手に入ったからね。
 でも本当に、ゆりかごよりも下層にあるの、アレ?」

「もちろん。
 僕らの主は、あそこにいるよ。」

ニクスの確信じみた答えに、ネブラは納得するしか他に無かった。

「もうすぐですよ、我らが主……ゼウス様………。」

椅子の背もたれに寄りかかり、ニクスはそう呟いた。



◆◇◆◇◆



夕焼けに染まる中、なのは達はゲンヤの元を訪れていた。

「さて、どっから話したもんかな………。」

「できれば、スバルやギンガの事、そして、ヴィレイサーと奥様の事も。」

そして、それに加えるように、フェイトが身を乗り出しながら言う。

「戦闘機人の大元は、人型の戦闘機械。
 こりゃあ、古くは、旧暦の時代からある研究だ。
 人間を模した機械兵器………幾つもの世界で、色々な形式が開発されたが、物になった例はあまり多くねぇ。」

そこまで語り、1度手を握り直す。

「それが………ある時期、劇的な進化を遂げた。
 25年ばかり前の事だな。」

それを引き継いだのはクロノだった。

[機械と生体技術の融合自体は、特別な技術じゃない。
 人造骨格や、人造臓器は古くから使われている。
 ただ………。]

言い淀んだクロノに次いで、カリムが語りだす。

[足りない機能を補うのが目的ですから、強化とは程遠く、
 拒絶反応や、長期使用におけるメンテナンスの問題も有ります。]

「だが戦闘機人は、“素体となる人間の方を弄る事”で、それを解決しやがった。」

ゲンヤの口から出た真実に、皆、驚くしかなかった。

「誕生の段階で、戦闘機人のベースとなるよう………。
 機械の体を受け入れられるよう、調整されて生まれてくる子供達。
 それを生み出す技術を、あの男は作り出した………。」

[それが、ジェイル・スカリエッティ………。]

カリムの言葉と同時に、モニターにスカリエッティの情報が映し出される。

「11年前、ウチの女房は陸戦魔導師として、捜査官として戦闘機人事件を追っていた。
 違法研究施設の制圧、暴走する試作機の捕獲………。
 スバルとギンガは、事件の追跡中に女房が助けた、戦闘機人の実験体なんだ。
 ウチは、子供ができなくてな………。
 2人とも、髪の色や顔立ちが自分とそっくりだからってよ。」

そこで一息つき、その時の事を思い出すようにしばし目を閉じた。

「そして、娘として育てるって言いだした。
 技術局のメンテだのなんだのはあったが、2人とも実に普通に育ったよ。
 ヴィレイサーを見つけたのは、それから数年後だ。」

パネルを操作し、あどけない顔立ちをした少年と、2人の少女が遊んでる写真を出す。

ヴィレイサーと、スバル、ギンガだ。

「ヴィレイサーも、違法施設の制圧時に助けたんだ。
 最初は俺達に少し警戒気味だったんだけどな。
 女房の人柄のお陰か、アイツは俺達に心を開いてくれた。
 だが、アイツの体に組み込まれた遺伝子情報は、制圧時に一緒に吹き飛んだみたいでな。」

苦笑いし、別の物をモニターに出す。

「だが、スカリエッティの話だと、同じ遺伝子情報を持つ者同士は、
 互いに相手を感知できるらしいんだ。
 で、今わかってるのは、これだけだ。」

「七星の全員………。」

「それと、奥様の遺伝子。」

「後は、暴走の抑制遺伝子として、エクシーガのか………。」

「そうだ。
 で、アイツの話じゃあ、抑制遺伝子があまり効果を発揮していないらしい。」

「数多くの遺伝子がある為、抑制しきれていない………。」

フェイトが沈痛な面持ちで言い、ゲンヤは頷いた。

「あぁ。
 処方してくれた薬で、なんとか進行を遅らせてはいるみたいだが、
 それもいつまで持つか………。」

「でも、ヴィレイサーは………。」

「確かにアイツは今、行方不明だ。
 だがな、俺はアイツが生きていると信じてる。」

[それはまた、何故ですか?]

クロノに問われ、そちらに向き直る。

「スバルから聞いた話じゃあ、かなりの出血量だったらしいが、
 それが会場の外では一切見当たらない。
 しかも、デバイスがなんの反応もしない事を考えると、
 どこかでひっそりと傷を癒してるのかもしれねぇ。」

ゲンヤの言葉に、誰も、何も言えなかった。

そんな考えは最早、絶望的なのだから………。



◆◇◆◇◆



そして、スカリエッティのラボでは、チンクの容体をノーヴェ達が気にしていた。

「チンク姉の様子は、どう?」

セインはノーヴェ達に駆け寄りながら聞く。

「基礎フレームの破損が、かなりな。」

ノーヴェが暗い声で言う。

「ゼロセカンドのIS、振動破砕って、
 私達のフレームとかに、もの凄い威力が出るみたいね。」

クアットロが興味深そうにパネルを操作する。

「対人、対物に対してもかなりの威力か………。」

セインの呟きに、ノーヴェは自分の右腕と、生体ポットに眠るチンクを交互に見た。

「あたしらと生まれ方が違うけど、オリジナル………。」

セインとウェンディが、チンクと同様に眠っているギンガを見る。

「ドクターの技術が使われているのは確かだけど、誰が造ったのかは不明ね。」

「チンク姉の仇、必ず討つ!」

(威勢のいい事だ。)

それを傍から見ていたゲイルは笑った。

(それにしても………。
 彼奴は本当に死んだのか?)

ゲイルもネブラ同様、ヴィレイサーの行方を気にしていた。

ヘイルに現場を見てきてもらったが、奴の痕跡は無かった。

しかしそれは、逆を言えば、死んでいた痕跡も無いという事だ。

(彼奴は本当に死んだのか、それとも、或いは………。)



◆◇◆◇◆



一方、はやてはある一隻の船を見ていた。

そんな彼女の後ろから、アコースが駆け寄る。

「はやてとクロノくんの頼みだから、なんとか許可は取れたよ。」

「これからの事考えると、本部は移動できた方がええからな。」

視線を船に戻し、優しく呟く。

「アースラ、お休み前に、もう少し手伝ってな。」





第11話 「羽ばたく時」 了


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