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小説
第10話 「墜ちる者達」





地下をスバルが先行して進んでいる時、何かが迫ってきた。

スバルは急いで立ち止り、マッハキャリバーが防御を展開する。

だが、スバルに躍りかかった相手を見て、彼女は驚いた。

(あの子、まさか………。)

その為、鋭い蹴りが考え事をしていたスバルを捉えた。

「ウワァッ!」

壁に背中から叩きつけられ、息が詰まる。

「スバル!」

相方であるティアナが急いで傍に駆け寄ろうとするが、
周囲に桃色の魔力弾が出現し、囲まれた。

「クッ!」

動きを制限され、苦い思いをする。

そんなティアナの悔しさを知ってか、知らずか、
奥からもう1人、軽妙な声で話しかけてきた少女がいた。

「ノーヴェ、目的、忘れてねぇっすか?」

ノーヴェと呼ばれた、スバルを蹴った少女は癇に障ったのか、鋭い声で返す。

「旧式とは言え、タイプゼロがこんな程度で沈むかよ。」

「それもそうっすね。」

ノーヴェに話しかけた少女は、何かボードを持って現れた。

(どう脱出するか………。)

チラリとスバルの方を窺うと、気絶しているようにまったく動かなかった。

否、そう見えるだけだろう。

ティアナにはハッキリとわかる。

スバルは今、自分の指示を待っているのだと。

長い付き合いなのだ。

互いに互いの事がわからないほど、自分達の信頼は甘くない。

相手に感づかれないように、ティアナは勝機を見出しに入った。










魔法少女リリカルなのはStrikerS─JIHAD

第10話 「墜ちる者達」










一方、ヴィレイサーはギンガと共に電力室に向かっていた。

あそこに敵が来るのは予測していた為、まだそう遠くには向かっていないだろう。

だが、ヴィレイサーは急に立ち止まる。

「どうしたの、兄さん?」

ギンガは周囲を窺うが、特に何も無かった。

「ッ!
 伏せろ!」

ギンガを自分の所へ引き寄せ、叫ぶ。

その瞬間、2人がさっきまでいた場所の側面の壁が破壊された。

「ギンガ、お前は先行しろ!
 コイツは俺がやる!」

「気を付けてね、兄さん。」

「あぁ!」

そう返したのはいいが、彼には勝機があるかわからなかった。

(なんだ、この感じは?
 以前のミラージュよりも強い。)

土煙が晴れるのを待っていると、獣の唸り声が聞こえてきた。

「この青銅のような響きを出すのは………。」

「ケルベロスだ。」

ヴィレイサーの言葉を勝手に続けたのは、ケルベロスに騎乗していたミラージュだった。

「やはりお前か………。」

「クックックッ………。
 ヴィレイサー、貴様を倒すために肉体をも改造してしまってな。
 お陰で強い力を手に入れたが、いつお前を八つ裂きにできるか、
 楽しみで仕方が無かったぞ。
 さぁ、今日こそ死にさらせええええぇぇぇぇ!!!!」

ケルベロスの雄叫びと重なったかと思うと、ミラージュが騎乗したまま突っ込んできた。

「以前よりも速い!?」

太刀を引き抜かず、跳躍してやり過ごそうとしたが、
ケルベロスの尾がそれを許さなかった。

足を掴まれ、地面に叩きつけられる。

だが、それよりも速くシールドを展開し、それを防ぐ。

それに安堵する暇もなく、
ケルベロスからミラージュがヴィレイサー目掛けて飛び降りてきた。

「死ねえええええぇぇぇぇぇ!!!」

鈍い光を放ちながら刃が振り下ろされる。

「くそっ!」

刃の尖端を太刀で止める。

しかし、押し返せずに徐々に死の刃が喉元に迫っていた。

「負けるかあああぁぁぁ!!」

風属性のエレメンタル・カートリッジを使い、風圧で押し返す。

そしてすぐにケルベロスの尾を斬り、その場を離れる。

「逃がさん!」

ミラージュもケルベロスの背に乗り、彼を追った。



◆◇◆◇◆



「アアアアアアァァァァァァ!!!」

「ラアアアアアァァァァァァ!!!」

上空では、ゼストとヴィータが互いの武器と持てる力をぶつけあっていた。

「目的はあんだ!? 正当なものなら話を聞くぞ!」

「若いな………。」

それだけ言うと、彼の周囲に魔力弾が出現する。

それに呼応するかのように、ヴィータの周りにも同じ数現れる。

その2種の魔力弾が同時に敵に迫る。

爆発が起こるが、2人は既にその場を離れており、巻き込まれる事は無かった。

「だが、いい騎士だ。」

ゼストは顔の端に笑みを浮かべていた。

(ヴィレイサーとも戦えば、このように楽しめたのかもしれんな。
 だが、それを叶えるには身体が持たないだろう。)

唯一の心残りであり、会いたい部下。

それでも今は、彼を置いて前へと進まなければならなかった。

己が目的を果たすために。



◆◇◆◇◆



ヴィレイサーはケルベロスから距離を取っていたが、
思いの外速く、すぐに追いつかれてしまった。

(接近戦に持ち込まれなければ、勝機はある。)

やがて、広い一角に出たので、天井ギリギリの所まで高度をあげる。

「エターナル!」

[Destruction Cartridge,Load Cartridge.]

入り口から顔を出したその刹那、すぐさま砲撃を放つ。

「レイディアント・ランチャー!」

「なに!?」

見事に着弾し、轟音が起きる。

仕留めたと思えたが、その安堵は隙に早変わりした。

いつの間にか背後に迫っていた事に、ヴィレイサーは気付く事ができなかった。

ケルベロスの牙が、ヴィレイサーの腹部を捉えた。

「ガハッ!」

鮮血が飛び散り、ヴィレイサーは意識が急激に遠のいた。

出血量からして、急いで止血しなければ、間違いなく死ぬだろう。

「俺の反応速度を甘く見た貴様の負けだ。
 安心して死んでゆけ、ヴィレイサー・セウリオン。」

殺すという目的はまだ完遂していないが、もう死を目前にしているのだ。

放っておいても死ぬ事は火を見るより明らかだった。

だが、それでもかろうじて意識を取り戻したヴィレイサーは、
太刀をケルベロスの目に突き刺した。

雄叫びにも似た悲鳴をあげ、ケルベロスが暴れる。

その隙になんとか脱し、逃げ出そうとしたが、それは叶わなかった。

ミラージュが立ちはだかったのだ。

「死に損ないが………。」

肉体改造を施しているミラージュは自信がある為、ケルベロスを下がらせる。

「地獄に堕ちろ!」

太刀ではなく鉤爪を使い、肉薄する。

意識が戻ったとはいえ、不利な状況に変わりは無かった。

迫りくる爪を、エターナルからの指示でなんとかかわす。

「ウグッ………。」

「遅いな。
 喰らっていいぞ、ケルベロス。」

ミラージュからの攻撃をかわし、再び逃げようとしたが、ケルベロスが牙を剥いた。

「しまっ………。」

噛みつかれ、壁に激突したが、
その壁を粉砕するほど、ケルベロスの勢いは強く、奥のフロアへと突っ込んだ。

そこには、血だらけになったギンガの姿があった。

「ゼロファーストか。
 セカンドの方はどうする?」

「今はファーストの方だけで構わんだろう。」

ミラージュの問いかけに答えたのはチンクだった。

その時、咥えていたヴィレイサーを放り、ケルベロスが一点を睨む。

「新たな敵か。
 俺は目的を果たした。」

最早微動だにしないヴィレイサーを見下し、
ミラージュは移動魔法を使ってその場を離脱した。

その直後に現れたのは、スバルだった。

「ギン姉?
 ヴィレ兄?」

目の前にいる2人の醜態を目の当たりにし、スバルは感情の制御ができなくなった。

「ウ、ウウウ………。
 ウウウウウアアアアアアアアァァァァァ!!!!」

感情を爆発させ、本当の自分を───戦闘機人の姿を晒す。

「返せ………。」

低い声でそう言いながら、カートリッジが幾つも射出される。

「ギン姉を………………ヴィレ兄を………。
 かああああせええええええええ!!!!!」

敵を薙ぎ払い、兄と姉を助けるべく駆け出す。

「くっそっ!」

ノーヴェの繰り出す弾丸にも怯まず、突っ込む。

そして、ノーヴェの張ったシールドをいとも容易く打ち砕いた。

ノーヴェを排除すべく、蹴りを繰り出し、ノーヴェもスピードを付けて蹴る。

しかし、スバルの蹴りには敵わず、ノーヴェは吹き飛ばされる。

「ノーヴェ、ウェンディ、2人はここからゼロファーストを連れて脱しろ。」

チンクがスティンガーを投げ、爆発させてスバルの動きを止める。

「堕天使はどうする?」

「そこの窓から外にでも放れ。」

「あいよ。」

ノーヴェは思い切りヴィレイサーを外へと投げた。

「ヴィレ兄!」

スバルは叫ぶが、それに応える事は無かった。

虚空へとその身を抛られた彼は、何をする訳でも無く、
落下し、そして窓からは見えなくなった。

そして、それに驚いている間にギンガを連れ去られてしまった。

「ギン姉!」

駆け出したが、再びスティンガーが迫る。

最早ボロボロになっているマッハキャリバーが、主を守るべくシールドを張る。

だが、スティンガーの数が多過ぎた為、全てを防ぎきる事が出来ず、
スバルの身体の、戦闘機人である部分が露わになった。

チンクは救出に来たセインにより、なんとかその場を離脱した。

残されたスバルの慟哭だけが、ただ響いていた。



◆◇◆◇◆



一方、機動六課へと向かっていたエリオ達の眼には、燃え盛る炎だけが映っていた。

それを茫然と見つめていると、1つの影が見えた。

「ヴィヴィオが………!」

キャロが驚く中、エリオは自分の出自の事を思い出し、すぐに愛機に呼び掛ける。

「エリオくん!?」

「キャロ、サポートをお願い。」

それだけ言って、エリオは空中へと身を躍らせる。

そしてブーストを使い、ヴィヴィオを連れ去るルーテシアに肉薄する。

「その子を………ヴィヴィオを返せ!」

その叫び声に気付いたルーテシアは、ガリューを差し向ける。

蹴られ、体勢を崩したものの、すぐさま向き直る。

そして、2度目のガリューとのぶつかり合いで、互いに負傷する。

しかし、そこで怯んだのがまずかった。

「少しはやるようだな、小僧。」

そう言ってエリオの背後に現れたのはゲイルだった。

振り向き、気付いた時には、
ゲイルの2対のクレイモアという大剣が振り下ろされていた。

「エリオくん!」

遠くでキャロの声が響いたが、それはすぐに聞こえなくなった。

オットーが彼女に気付かれない内にバインドをかけたのだ。

成す術無く、キャロは海中に落ちていった。

「Fの遺産を回収する事は無理だったか。」

ウィングソーを腰に戻しながら、傍に来たディード達に詫びる。

「気にせずとも、その内向こうから再び来るでしょう。」

「ここはガジェット達に任せ、我々は撤退しましょう。」

「そうだな。
 ルーテシアもそれでいいか?」

「うん………。」

六課を燃やし尽くす地獄の業火のような炎だけが、音をあげていた。





第10話 「墜ちる者達」 了


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