小説 第9話 「止まらぬ破壊の闇」 公開意見陳述会前日。 はやては、これから夜通し警備を行うメンバー達に確認を兼ねた説明を行っていた。 ヴィレイサーもそれは例外では無かったのだが、彼は七星の動きが気になっており、 あまりはやての言葉を聞いてはいなかった。 (間違いなく戦闘機人戦はある。 だが、そこに七星が加わった場合はマズイな。 ただでさえ戦闘機人だけでも大変だと言うのに、 七星まで介入してくるとなると、最後のリミッターを外す以外に勝ち目は無いな。) だが、そう簡単に最後のリミッターを外せる訳も無かった。 このリミッターを外す為には、少なくとも彼女の存在が必要となる。 エクシーガ・スラスト。 彼女も自分と同様のリミッターがある。 だがしかし、それを外すには互いが近くにおり、それを承認しなければならないのだった。 ◆◇◆◇◆ 移動手段となるヘリに乗り込んでいると、外にヴィヴィオの姿が見えた。 「なのは、お前に用件があるんじゃないのか?」 「うん。 ヴァイスくん、ちょっと待っててね。」 ヘリから降りてヴィヴィオに駆け寄る。 「どうしたの?」 その質問にはヴィヴィオではなく、アイナが答えた。 「ごめんなさい。 どうしてもママを見送りたいって。」 「アイナさんに我儘言っちゃダメだよ」 「なのは、夜勤は初めてだから、きっと不安なんだよ。」 「そっか。 私、今夜は外でお泊りだけど、明日の夜にはちゃんと帰ってくるから。」 「絶対?」 「うん。 いい子で待ってたら、キャラメルミルク作ってあげる。」 ヴィヴィオの不安がこれ以上増さないように、薬指を彼女の顔の近くに出す。 「うん。」 ◆◇◆◇◆ 「ああいうのを見てると、昔を思い出すね、ヴィレ兄。」 「そうだな。 俺が地球に帰るって言った時、スバルは泣き喚いてそれを阻止しようとしてたな。」 「あんたらしいわねぇ。」 「子供だったんだもん。」 「俺からすればお前はまだ子供だよ。」 「ヴィレ兄が保護者意識をしてるからだよぅ。」 「でも、確かにヴィレイサーさんって、 なんだかお兄さんでもあり、お父さんでもある気がします。」 キャロにそう言われ、ヴィレイサーは戸惑う。 「まだそんな歳じゃねぇよ。」 「もう20歳ですよね? いい加減好きな人ぐらいできてもいいんじゃないですか?」 「まだ20歳だ。 大体そんな事言ったら、ティアナとスバルはどうなんだ?」 「まだ16歳ですから。」 「15歳だもん。」 「どういう逃げ方だよ………。」 やがてなのはがヘリに戻ってきたので、出発する。 「すっかりなのはさんに懐いてますね。」 「そうだね。」 「いっそ、なのはさんの子供にしてはどうですか?」 「受け入れてくれる家庭探しはまだ続けるよ。 いい家庭先を見つけて、ヴィヴィオがそれに納得してくれれば………。」 しかし、それをエリオが否定した。 「納得しない気が………。」 「同感だな。」 ヴィレイサーも彼の意見に同調する。 「まぁその………。 それまでは私が責任持って守ってくよ。 それは、絶対に絶対。」 「でも、そうするとお父さんも欲しいって言うかもしれませんね。」 キャロはヴィレイサーに視線を向けながら言う。 「何故俺を見ながら言う?」 「ヴィレイサーさんが適任者なんですよ。」 ティアナがそう言うが、ヴィレイサーは難しい顔をしていた。 「無理だろうな、俺では。 父親らしい事なんて何1つしてやれない気がする。」 「でもヴィヴィオが言ってたよ。 ヴィレイサーさんは優しい人だって。」 「今まで大して接して無いんだ。 そんな少ない情報での判断は危険だぞ。 大体、親役はお前達だけで充分だろうが。」 「もう。 ヴィレくんなら大丈夫なんだから、自信を持ってよ。」 「気が変わったら考えてやるよ。」 これ以上は御免だと言うように、適当な事を答えた。 魔法少女リリカルなのはStrikerS─JIHAD 第9話 「止まらぬ破壊の闇」 「公開意見陳述会、始まりましたね。」 キャロがモニターを見ながら、緊張の入り混じった声で言う。 「しっかり警備しとけよ。」 ヴィータは見回りを開始する為に、エリオとキャロにその場を任せる。 ◆◇◆◇◆ 一方、ヴィレイサーはギンガと共に見回りを行っていた。 「どう来ると思う?」 「わからないな。 七星なら一気に制圧できるんだろうが………。 間違いなく戦闘機人が主流になってくるだろうな。」 「どうして?」 「七星がここを襲撃する理由が思い付かないからだよ。」 「でも、それはスカリエッティ達にも同じ事が言えると思うけど………。」 「アイツらは力の誇示がしたいのかもしれない。 あの男は、自分の作品を見せびらかすのが好きそうだからな。」 ヴィレイサーは、遺伝子操作を受けた時、スカリエッティと面識ができた。 その為、彼の性格を少しだけ知っていた。 「つまり、その力を誇示して兵器として買わせるって事?」 「恐らくはな。 力を欲しがる奴はいくらでもいるだろうから。」 「でも、威力証明なら他の所でも………。 それに、七星が加わる理由もわからないわ。」 「七星は完璧に加わって無い。 恐らく、自分達が動きやすいから同行しているんだろう。」 夕刻に染まりつつある空を見上げ、ヴィレイサーは言った。 「兄さん、無理しないでね。」 何か思いつめているのを察したギンガは、優しく静かに言った。 「あぁ。 ありがとう、ギンガ。」 ◆◇◆◇◆ Side:ゲイル もうすぐで公開意見陳述会も終わりを迎えようとしていた頃。 ゼストは敵に捕捉されない位置から地上本部と、 その内部で演説しているレジアス中将をモニタリングしていた。 「連中の尻馬に乗るのは、どうも気が進まねぇ………。」 そう呟いたのは、ゼストの脇で浮遊していた融合騎のアギトだった。 「それでも、貴重な機会だ。」 アギトに言ったのはゲイルだった。 「ゲイルの言う通りだ。 今日で全てに決着が着くのならそれにこした事は無かろう。」 「つーか、あたしはルールーの方も心配だ。 いくらネブラが着いてるとは言え、大丈夫かな?」 「心配ならばルーテシアに着いてやればいい。」 「今回の事に関しちゃあ、旦那の事の方が心配なんだよ。」 「ゼスト。 お前の目的はレジアスだろ? アギトが最後まで援護するさ。」 「そうさ。 旦那の事、護ってあげるよ。」 「そうだな。 ではゲイル、お前はルーテシアの方を頼むぞ。」 「あぁ。」 ゲイルはそんな返事をした後、再び地上本部に目を向けた。 (ニクスの指令とは言え、堕天使をミラージュに任せるとは………。 本当に殺す気だろうな。) 仮面の奥底にある瞳が、鈍い色をたたえていた。 Side:ゲイル 了 ◆◇◆◇◆ 「ナンバーズ、No3〜No12まで準備完了。」 ウーノがスカリエッティを振り返り、そう告げる。 「楽しそうですね、ドクター。」 「あぁ。 この手で歴史を変える瞬間。 研究者として、技術者として心が躍るじゃないか。」 椅子から立ち上がり、高らかに宣言する。 「さぁ、始めよう!」 「はい。」 ◆◇◆◇◆ 任務が開始され、ネブラは双頭の龍(ツインハルパー)からヒュギエイアを射出し、 ルーテシアのデバイス、アスクレピオスに接続する。 「ヒュギエイアより、魔力供給開始。」 ネブラが言うと、ヒュギエイアがルーテシアの魔力色に染まり、魔力供給を開始する。 「アスクレピオス、限定解除。」 双頭の龍(ツインハルパー)に蓄えられた電力を魔力に変換し、 それをヒュギエイアを通じて、味方に供給する事ができるのだ。 ◆◇◆◇◆ クアットロのISにより慌てふためく管理室に、 セインが催眠ガス入りの爆薬を放る。 それにより、管理室は簡単に陥落した。 ◆◇◆◇◆ 「ここか。」 そして、その奥の電力室では、 ネブラが作っておいた箇所からチンクが侵入を終えていた。 スティンガーを取り出し、的確な箇所へと放って突き刺す。 「IS、ランブルデトネーター。」 轟音と共に爆発が巻き起こり、その一帯を火の海へと変えた。 その影響で防壁の出力が落ちたのを確認してから、 ルーテシアが遠隔召喚でガジェットを召喚する。 ◆◇◆◇◆ [よぉし、ディエチ、やるぜ。] 「うん、ヘイル。」 そして、地上本部から距離を取っていたディエチに、ヘイルから通信が入る。 ヘイルはネブラのヒュギエイアからの魔力供給で、 彼女の不可視能力をその身にまといながら静かに接近していた。 [俺も所定の位置に着いた。 やれ。] 「IS、ヘヴィバレル。 バレットイメージ、エアロズル・シェル、発射。」 引き金を引き、巨大な収束砲を放つ。 それは見事に地上本部を捉え、一部を破壊した。 それを見たヘイルは笑っていた。 「壊れていくぜ。 脆い、脆すぎるぜぇ!」 ネブラの不可視能力を解除し、全砲門を開く。 拡散砲と収束砲、肩部にミサイルとバルカンを併用するポッドがある。 「IS、ヘイル・フルブラスト。」 一遍に砲火を放つ。 それは、ISによって不規則な箇所に降り注いだ。 まるで火薬の雹のように。 その砲火に怯んでいる間に、ガジェットが特攻を開始していた。 ◆◇◆◇◆ そして、別空域ではトーレとセッテ、加えてヴァンがいた。 「セッテ、お前は初戦闘だが。」 「心配ご無用。 伊達に遅く生まれていません。」 セッテはブーメランを構え、戦闘態勢に入る。 トーレもライドインパルスを発生させ、迎撃に出た魔導師を叩き潰していく。 「元気ねぇ………。」 それを遠目に見ていたヴァンだったが、背部の収束砲を前面に突き出す。 「マルドゥーク。」 翡翠色の砲撃を、2人が取り漏らした魔導師に容易く当てていた。 「堕天使………。 今日のミラージュの相手はきついわよ。」 ◆◇◆◇◆ ゼストはスピードを活かし、地上本部に接近していた。 すると、どこからか警告が聞こえてきた 「こちら管理局。 あなたの飛行許可と、識別コードが確認できません。 ただちに停止して下さい。」 それでも突き進むと、目の前からいきなり魔力弾が飛んできた。 「ニャロォ!」 追尾弾だとすぐに判断したアギトがそれを破壊するが、 完璧には破壊できず、実弾が2人に迫ってきた。 それを既の所でゼストがシールドを展開して防ぐ。 だが、その好機を逃さず、ヴィータが背後からアイゼンを振りかぶる。 「ギガントハンマー!」 それはゼストを捉えたかに見えた。 だがそれは外れ、相殺と防御で防がれた。 「ぶっ潰す!」 そう宣言したヴィータの眼前には、 いつの間にかアギトとユニゾンをしていたゼストがいた。 「すまんな、アギト。」 [なんのこれしき。 旦那の為ならいいって事よ。] 「管理局機動六課、スターズ分隊副隊長、ヴィータだ!」 「ゼスト。」 名乗ってから彼は機動六課と聞いて、彼を思い出す。 かつて自分の部下をしていた少年。 今はしっかりとした一人前の男。 (ヴィレイサー………。 お前との約束だけが、心残りではあるな。) 口の端に笑みを浮かべ、ゼストはヴィータと対峙した。 第9話 「止まらぬ破壊の闇」 了 [*前へ][次へ#] |