小説
第8話 「生と死 2つの狭間での愛」
「あ、おはよう、ヴィレイサー。」
「おぉ、フェイト。
おはよう。」
フェイトの明るく明瞭な声の挨拶に、ヴィレイサーは短く返す。
それでもフェイトは笑顔だった。
訓練場に一緒に向かう途中、ヴィレイサーはその理由を聞いてみる。
「フェイト、何かいい事でもあったのか?」
「どうして?」
「いや。
いつもより笑顔な気がしただけだ。」
「そうかな?」
「俺の気の所為かもしれん。
気にするな。」
訓練場に到着したので、それ以上の会話は無かった。
魔法少女リリカルなのはStrikerS─JIHAD
第8話 「生と死 2つの狭間での愛」
「お前らお疲れ様。」
訓練が終わり、クールダウンしているフォワード陣に、ヴィレイサーは告げる。
「ヴィレ兄も終わったの?」
「あぁ。」
シグナムとの模擬戦だったのだが、なんとか勝てた。
「お疲れ様です。」
「お前らもな。」
◆◇◆◇◆
「ヴィレイサー、隣、いい?」
トレイを持ったフェイトが訊ねる。
「許可は別にいらないだろ。
お前の好きにしろ。」
「じゃ、失礼します。」
◆◇◆◇◆
「ねぇヴィレイサー、ここの部分なんだけど………。」
「そこはちゃんと纏めておけよ。」
「うん。」
◆◇◆◇◆
「私、高町なのはは思うのです!
最近、私の友人フェイトちゃんが、
ヴィレイサー・セウリオンと話す機会が増大している気がします!」
部隊長室で、はやてを前に、なのはそれを高らかに宣言する。
「それはきっと、フェイトちゃんがヴィレくんの事が好きやからや!」
「うん!」
はやての確信じみた言葉に、なのはも頷く。
「なんで僕らまで………。」
スバルの隣にいるエリオは不思議でしょうがなかった。
「あたしもその意見には同感だな。」
ヴィータまでもがエリオに同意する。
「ええやん。
人員は多い方がおもろいやろ?」
「ですが、その分バレるリスクも大きいですよ。」
「キャロ、そのスリルも楽しいんやで!
それに………2人の動向も皆で楽しみたいやん。」
意地の悪い笑みを浮かべて、はやてがスバルを見る。
「フェイトさんがお義姉さんになるんだ〜。」
「スバル、戻ってきなさい………。」
「もうすっかり結婚しとるみたいやな。」
「脳内だけだけどね………。」
スバルの様子に、全員苦笑いした。
「さて、そこでフェイトちゃんに尋問をしようと思う!
ってな訳で、なのはちゃん、よろしくや。」
「私だけ!?」
「ええか、なのはちゃん。
これは、なのはちゃんにしかできへんねん。
しっかりと頼むで。」
まっすぐに見られ、視線を逸らせなかったなのはは、頷くしかなかった。
とりあえず空き部屋にフェイトを呼び、聞く事にした。
そして、はやてとシャーリーを始めとするロングアーチスタッフが、
別室から監視モニターを通じて、それを見る。
ちなみに、フォワード陣は訓練の為、見られない。
◆◇◆◇◆
「それで、フェイトちゃんはヴィレくんの事をどんな風に思ってるの?」
「そ、それは………////////////」
フェイトは顔を赤くしているだけで、答えなかったが、
決心がついたのか、口を開く。
「わ、私は………………私はヴィレイサーの事が好き!」
フェイトがそう宣言した時、ヴィレイサーが入ってきた。
「なんだと?」
「「え?」」
「ヴィ、ヴィレイサー!?」
「今なんつった?」
「え、えぇっと、その………。」
フェイトは顔を赤くしてパニックに陥っていた。
◆◇◆◇◆
「アカン!
まさかここで、ヴィレくんが入ってくるとは!」
はやても慌てており、なのはに指示をとばせずにいた。
◆◇◆◇◆
「まさかとは思うが………。
俺に好意を持っているとか言うんじゃないだろうな?」
「え?」
「お前、俺の身体の事をわかって言っているのか?」
「ぁ………。」
ヴィレイサーの遺伝子崩壊の事を、フェイト達は知っている。
「そんな想い、捨てちまえ。」
冷酷に言い、書類を置いて部屋を出ていった。
「待ってよ、ヴィレイサー!」
フェイトはすぐさま彼を追いかけていった。
◆◇◆◇◆
「見つけたよ、ヴィレイサー。」
走ってきたと思っていたが、どうやら途中で息を整えたらしい。
フェイトは屋上で1人佇んでいるヴィレイサーを呼んだ。
「すまないな、フェイト。
俺はお前に応えられない。」
「ヴィレイサー………。
それでも………それでも私は好きだよ、ヴィレイサーの事。」
「応えられないのに、何故お前はそれを言う?」
「伝えたいだけだよ。
それだけじゃあダメ、かな?」
上目遣いに聞いてくるが、ヴィレイサーは何も言わなかった。
「俺はいつ死ぬかわからない。
だが、お前の気持ちに応えれば俺が死んだ時、悲しい想いをするだけだ。
死して尚、誰かを悲しませるだけなら、俺は誰もいらない。」
「ヴィレイサー………。」
「すまない。」
それだけ言って、フェイトの脇を通り抜けようとしたが、それは許されなかった。
「フェイト?」
「ヤダよ、ヴィレイサー………。
そんな悲しい事言わないでよ………。」
フェイトが泣きながらヴィレイサーに抱きついていたのだ。
「どうやら俺は、生きていても誰かを悲しませてしまうみたいだな。」
自嘲気味に言い、フェイトを離す。
「答えを出すのに時間をくれないか?
必ず、答えを出す。」
フェイトの涙を指で拭い、優しく彼女に言い聞かせる。
「うん。」
◆◇◆◇◆
一先ずフェイトを落ち着かせ、一緒に階段を下りていると、
途中でなのはと出くわした。
「ヴィレくん、フェイトちゃんから告白は受けた?」
「それがどうかしたのか?」
「答えは?」
「まだ出てねぇよ。」
それを聞いたなのはは、嘆息した。
「もう………。
ちゃんと答えなきゃダメだよ。」
「お前にとやかく言われる筋合いは無い。」
「フェイトちゃんは頑張ったんだよ?
それなのに………。」
「いいの、なのは。
待ってるからね、ヴィレイサー。」
そう言って、フェイトはヴィレイサーの腕に抱きついてきた。
「はやて、そこからカメラで撮影するな!」
「なんや、バレとったか。
それにしても、たったこれだけでモテモテになったなぁ。」
「テメェか、焚きつけたのは!」
「フェイトちゃんが頑張っただけやで。」
「そうだよ、ヴィレくん。」
「うん。」
「まったく………。
いつまでもこうして引っ付くな。
いい加減鬱陶しくなるし、歩き辛いし。」
「はぁ〜い♪」
すんなりとフェイトは離れた。
「フェイト。
以前約束した模擬戦、今からやるぞ。」
「いいの?」
「だから提案しているんだろうが。」
「そうだね。
ありがとう。」
外に出ながら、ヴィレイサーは思った。
(この身が朽ち果てる前に、必ず………。)
しかし彼の想いとは裏腹に、遺伝子崩壊は徐々に進行していた。
既に、左足は自由が利き辛くなる回数が増えてきていた。
それでも彼は生き抜く事を決意する。
大切な人の為に………。
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