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小説
魔法少女リリカルなのはVivid Sincerely








 “彼”と出会ったのは、本当にただの偶然だ。たまたま迷子になって、たまたま適当な場所に行き、たまたま見つけた。片手で数えられてしまう、数少ない偶然が積み重なっただけだが、これがもし誰かが仕向けた必然だとしたら──いや、もしそうだとしても気持ちは変わらない。この出会いに感謝するだろう。

 ならばもし、奇跡的な出会いだったとしたら?

 それは答えるまでもなく、その奇跡に喜ぶに決まっている。

 私──高町ヴィヴィオにとって“彼”との出会いは、正しく運命の出会いなのだから。


「リオー、コロナー、どこー?」


 いつもの学院。いつもの時間。いつもの場所でいつもの友達と本を読んでいたヴィヴィオ。ノーヴェが指定したトレーニングの時間に遅れないように、リオが「近道をしよう」と提案してきたのだが、走っていく2人と違って本を抱えていたヴィヴィオは置いていかれてしまった。一本道だから迷うはずがない──そう思っていたのに、走っても走っても、先を行く2人の姿はいつまで経っても見えてこなかった。

 やがて開けた場所に出たかと思えば、中等科の校舎に迷い込んでいた。学院内でのデバイスの使用は制限されているため、いつも傍にいるはずのセイクリッドハートは教室に置いてきてしまった。


「うぅ……ど、どうしよう」


 放課後と言うこともあって、まったく人気がない。しかも急に独りになったせいで急激に心細くなっていく。


「ぐす……」


 次第に涙が出てくる。必死に堪えながら、誰かいないか探し回る。すると───。


「ここ……中等科の、図書室だよね」


 学院には全生徒に解放されている図書室以外に、その科専用のものがある。ヴィヴィオが何気なく踏み入ったのは、中等科のみが入れる図書室だった。しばらく立ち尽くしていたが、程なくして何かに導かれるように歩いていく。


(あ……)


 行き着いた先にいたのは、1人の男子生徒だった。制服からして、中等科のようだ。彼は真剣に本を読んでいるのか、ヴィヴィオの存在には気付いていなかった。


(何だろう……何だか、アインハルトさんみたい)


 少し前から心からの笑顔を見せてくれるようになったアインハルト。それ以前の彼女を彷彿とさせるような寂しそうな面影を感じ、ヴィヴィオはまたお節介な気持ちを抱えていく。


(とにかく、話さないと)


 しかしながら、自分の状況を放っておくこともできず、ヴィヴィオは彼に向かっておずおずと声をかけた。


「あの」

「……はい?」


 やや間があったものの、彼は返事をしてくれた。だが、自分の存在に気付いていなかった割にはかなり冷淡な反応だ。驚くこともなく、ただ機械的な反応だった。その雰囲気を敏感に感じ取ったヴィヴィオは、つい言葉を詰まらせてしまう。


「迷子になったのですか?」

「え?」

「初等科の制服を着ているので」

「あ……あはは」


 迷子など知られたら恥ずかしいものでしかない。ヴィヴィオは誤魔化すように笑うが、彼はそっと手を取った。


「よかったら、送っていきますよ」

「え、でも……」

「怪しさばかり目立つとは思いますが……それでも良ければ」

「……じゃあ、お願いします」


 悪い人じゃない──ヴィヴィオは、そう直感した。

 だから、大丈夫。

 そう。大丈夫──そう思っていたのに。


「レイス、さん?」

「ヴィヴィオさん……貴女さえ、いなければ!
 貴女さえいなければ、僕はこんなにも苦しむことはなかった!」


 “彼”は──レイスは、王殺しの末裔として。ヴィヴィオは、高町ヴィヴィオとして向き合うことを余儀なくされた。


「ねぇ、ヴィヴィオちゃん。貴女は何をしたのか分かっているのかしら?」

「私は、レイスさんのために───!」

「あの子が望んだの? あの子が願ったの? あの子が口にしたの!?」

「そ、それは……」

「貴女が壊したのよ。私のレイスを」


 レイスの姉、プリメラから突き付けられる鋭い言の葉。ヴィヴィオは否定することもできず、項垂れてしまう。


「時間を巻き戻して、やり直したいと思わない?」


 そんなことできるはずがない──そう思うものの、心はプリメラの言葉に傾いていく。


「ロストロギアを使って、やり直させてあげるわ」

「レイス、お前は本当に何も分かってねぇな」

「何がですか?」

「ヴィヴィオが向き合おうとしていたのは、王殺しの末裔なんかじゃない。お前自身なんだよ!」


 親として心からヴィヴィオを信頼するレオンとなのは。それ故に、向き合おうしてこなかったレイスに怒りをあらわにする。


「ヴィヴィオさんは、僕が助け出してみせます」

「あら、あの子に壊されたのに助けるなんて、ヒーロー気取りもいいところね」

「その通りです。でも、それでも!」


 今更助けようなどと誰もが笑うだろう──だが、それがなんだと言うのか。彼女を助けたいと願う気持ちは、間違いなく本物なのだから。


「レイスさん。ちゃんと聞いてくださいね。
 私は、レイスさんのことが───」


 褪せた心に、彼女がくれた色を重ねて。










◆──────────◆

:あとがき
ヴィヴィオ編では、イツキ先生とのコラボかなぁとぼんやりと考えています。

vivid strikeでもありましたが、ヴィヴィオのお節介な性格に甘んじて、彼女の方からレイスに積極的に動いてもらおうかなぁと思っていたり。

そしてこちらはレイスの姉、プリメラをラスボスに据えております。

レイスにとっては、姉だけでなくヴィヴィオやレオンくん達とも敵対しなくてはなりませんから、アインハルト編よりも大変そうな予感。

下手をしたら闇落ちヴィヴィオなんて可能性もありそうですしね(笑)






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