小説 第7話 「蠢く霞 兄妹」 「シャマル、ヴィレイサーは!?」 「落ち着いて、フェイトちゃん。 大丈夫よ。 命に別条は無いわ。」 手術室から出てきたシャマルに、開口一番フェイトが駆け寄る。 それを落ち着かせ、彼のバイタルをはやてに渡す。 「ふむ。 今はバイタルが安定してるみたいやな。」 「えぇ。 ただ………。」 そこまで言って、シャマルは言い淀む。 「例の遺伝子破壊の進行が確認されました。 彼の話だと、左足と左腕らしいんですけど………。」 「速い進行やな。」 「でも、それも本当にごく稀にらしいんです。 だからまだ問題は無いって、ヴィレイサーが………。」 「う〜ん………。 まぁ、今は本人の言う事を信じるしか無いなぁ。」 「エターナルの方もメンテナンスでは問題無いですね。」 「それで、今回の相手だった七星の方の事はどうや?」 「ザフィーラから聞いた話を報告書に纏めてお渡しします。」 「うん、頼むな。」 ◆◇◆◇◆ 「クッソオオオオーーーーー!!!」 スカリエッティのラボの一角では、ミラージュが荒れていた。 「荒れてるね、ミラージュの奴。」 それをモニター越しで見ていたネブラは鬱陶しそうに言った。 「致し方あるまい。 何せ勝てると思っていた相手に一気に形勢を逆転されたんだ。 怒りにとらわれもするだろう。」 ネブラにそう言ったのはゲイルだった。 「ゲイル。 そっちはゼストと上手くやってる?」 「まぁな。 彼はすばらしい騎士だ。」 「知ってるわよ。 けど、ヴィレイサーの事と出会ったらどうなるのかな?」 「今はどうでもいいだろ。」 「そうよ。」 ヘイルとヴァンが現れ、ミラージュが映るモニターを見る。 「アイツ、本気で身体を改造する気か?」 「らしいよ。」 ネブラは興味が無いのか、素っ気なく返す。 「馬鹿な奴だ。」 ゲイルもそれ以上はなんとも思わず、部屋を出て行く。 そこで入ってきたレーゲンとすれ違う。 「よう。 ミラージュの奴の改造計画書を持ってきたぜ。」 それをニクスに渡して、ヴァン達と同様にモニターを覗く。 「反応速度を上げる為の肉体改造、か………。」 「しかも獣型の使い魔をつけるんだと。」 「まさか、ケルベロス?」 ケルベロスとは、ミラージュの家系で長年従えてきた使い魔だ。 ミラージュは、ケルベロスと仮契約をしているのだ。 「本気みたいだね。」 ニクスは書類を手元に置き、ミラージュに聞く。 「ミラージュ、改造の件だけど、許可するよ。」 [本当か!?] 「君の本気さがわかったからね。」 ケルベロスは、ミラージュでさえ手懐けるのが大変だった。 その為、仮契約という形から発展できずにいたのだ。 しかし、ミラージュが肉体改造を行えば、その問題も解決できる。 「ニクス、本当にいいのか?」 「そうよ。」 レーゲンとヴァンがニクスに聞くが、彼は気にしなかった。 「もちろん。 だから許可したんだよ。」 「まぁ、ニクスの決定には何も言えないわね。」 ヴァンは髪を梳いて出て行った。 「そうだな。 じゃあ、俺も次の任務に行ってくる。」 「気を付けてね〜、レーゲン。」 ネブラの言葉に、片手を振ってから任務に向かった。 魔法少女リリカルなのはStrikerS─JIHAD 第7話 「蠢く霞 兄妹」 「………。」 ヴィレイサーは目を覚まし、真っ暗な病室で窓から差し込む月明かりに照らされていた。 ─────僕らの元へ来ないかい? ニクスからの誘いを断ったにも関わらず、未だにその言葉が頭から離れなかった。 違法施設の破壊を引き受けるとは言ったが、さすがに今は敵対関係にあるのだ。 いくらなんでも向こうから誘いに来るとも思えない。 「しばらくは静かにできるのかもな。」 呟き、身体を休める事に専念する。 今の自分には、それ以外何1つできないから。 ◆◇◆◇◆ 翌日。 フェイトは早朝訓練を終えた後、 シャワールームよりも先にヴィレイサーの病室に向かった。 「ヴィレイサー、私だけど………。」 「あぁ、いいぞ。」 そう返され、病室に足を踏み入れる。 「早朝訓練お疲れ様、フェイト。」 「うん。」 「何か用か?」 「あ、その………。」 「うん?」 フェイトは中々用件を言わなかったが、ヴィレイサーは別に急かさなかった。 「こないだの任務の件で、謝りたくて。」 「謝る? それはまた何故だ?」 フェイトの言わんとする事がわからず、ヴィレイサーは聞き返す。 「どうしてって………。 私の我儘の所為で、ヴィレイサーがそこまで傷ついたんだよ!」 座っていた椅子から立ち上がり、声を荒げる。 フェイトが勢いよく立ちあがったので、椅子は倒れてしまった。 「それに、私は何もできなかった。 ただヴィレイサーを傷つけてしまっただけなんだよ………。」 「落ち着け、フェイト。」 身体を休めていたベッドから降りて、椅子を元に位置に戻す。 ベッドに再び戻る時にフェイトの肩を軽く叩いて椅子に座らせる。 「ごめん、取り乱しちゃって………。」 「いいさ。 だが、自分を責め続けるのだけは止めろ。」 「でも………。」 反論しようとしたフェイトの瞳には、涙が滲んでいた。 「でも、私………。」 「お前を連れて行くと判断したのは俺だ。 それに、俺はお前を守れなかった。 だからむしろ、俺が謝りたいぐらいだよ。」 優しく言いながら、ヴィレイサーはフェイトの頬に触れる。 そして、今にも零れ落ちそうな涙を指で拭ってやる。 「怖い想いをさせてすまなかった、フェイト。」 「ヴィレイサー………。」 堪えきれず、フェイトは泣きだした。 ヴィレイサーは彼女を抱き寄せて、泣き止むまでずっとそうしていた。 かつて、彼女が辛かった自分にしてくれたのと同じように。 ◆◇◆◇◆ それから数週間後。 ギンガが機動六課へとやってきた。 「ギンガとスバルの模擬戦はギンガの勝利か。」 「だね。 それじゃあ、今度は5人対隊長陣4人で模擬戦をやるよ。」 「「「「「はい!」」」」」 「今回の勝利チームはその後俺と戦ってもらうからな。」 「ヴィレ兄と!?」 「そうだ。 戦いたくないからと言って手を抜くなよ?」 「あたしらが見抜けない訳ねぇからな。」 ヴィータがスバルにアイゼンを向ける。 「そんな事しませんよ!」 「全力で叩き潰してやれよ。」 それだけ言って、ヴィレイサーは攻撃が来ないであろう位置に移動して行った。 「久々にヴィレ兄と組み手したい!」 「小さい頃やってたものね。」 「そうなんですか。 じゃあ、勝ちに行くわよ!」 ティアナの掛け声に、皆も倣う。 ◆◇◆◇◆ 「この程度のセキュリティーって………。 あたしらの事なめてるのかしら。」 ネブラは公開意見陳述会の会場に単独で簡単に侵入した。 「これじゃあ潰しがいが無いよぅ。」 容姿が子供の彼女は、普段はその見た目通りに幼かった。 しかし、だからと言って任務に真面目である事に間違いは無かった。 彼女はニクスに命を救われたからだ。 ◆◇◆◇◆ 七星がまだ結成される前の事だった。 ネブラは幼い頃から、周りの同い年の少年少女とは明らかに違っていた。 大人でも使う事が出来ないとされていた、 不可視になる魔法を簡単に使いこなせたからだ。 しかし、それを遊びに活用する事は無かった。 自分は皆と変わらない事を証明するかのように。 彼女の考えを知った周囲の友達は、友達の関係を止める事は無かった。 しかし、親は違った。 ネブラの異端の不可視能力を使って、ネブラに犯罪をさせていった。 親の言う事を聞くしかなかったネブラは、間違いだと気付きながらも、 親に対して反抗する事ができなかった。 やがて、犯罪が露呈した時、親はネブラが独断でやったと言い張り、 彼女を売るような形で警察に引き渡したのだった。 死刑に処されると思い、ネブラは脱走した。 友達に迷惑をかける訳にも行かず、あてはどこにも無かったのに。 不可視能力を使って逃げ続けていたが、その力を使うには条件があったため、 すぐさま見つかってしまった。 連れ戻されずに、逃げ出した場所で死亡したように見せかける為、 ネブラを見つけ出した職員はその場で殺そうとしたが、そこへニクスが現れた。 ニクスは職員を諭そうとしたが、それは叶わなかった。 あまりの正論ぶりに、職員が逆上したのだ。 向かってくる職員に、ニクスは溜息を1つついただけだった。 勝負は一瞬だった。 本当に、瞬きをしている間に職員は殺されていた。 ニクスはネブラに手を差し伸べ、こう言った。 ─────僕らの居場所を、一緒に探そう 彼も能力の高さから、親に捨てられたのだと言う。 ネブラは頷き、彼の手を取った。 自分の居場所を、仲間の居場所だけでも見つけ出す為に。 ◆◇◆◇◆ (ここがシステム管理室。) 隣にいた職員を共に中に入り、ネブラは周囲を見回す。 だが、誰も彼女の姿は目に入っていなかった。 それもそのはずで、今彼女は見えない状態にあった。 IS、ネブラ・ステルス(霧による不可視)を使ったからだ。 だが、不可視と言っても声や足音は出てしまう。 その問題も特に大したものでは無かった。 彼女は音もなくふわりと浮きあがる。 そしてそのまま飛行して、システム管理室よりも奥にある、バッテリー室へと向かった。 あっという間に到着し、ネブラは落ち着いたので大きく息を吐く。 「疲れた。 けど、あともう一仕事だよね。 双頭の龍(ツインハルパー)!」 ネブラの背にある大きな翼のようなものが展開した。 それをバッテリーの適当な箇所に噛ませる。 「エネルギー、もらっていくね♪」 バッテリーのエネルギーを吸い取り、自分の双頭の龍(ツインハルパー)の『餌』にする。 双頭の龍(ツインハルパー)は、魔力ではなく電力で動くのだ。 「これぐらいでいいかな。 これ以上盗ったら、さすがに変化を隠しきれないか。」 ネブラは呟き、地面の飛び降りる。 彼女の周囲に発生している霧は、周囲のメーターを狂わせる能力も持っており、 それを自由に弄る事も出来る。 「さてと、後は外からの進入口を作って、仕事は終わりだね。」 そして、暗闇の中へと消えて行った。 ◆◇◆◇◆ 「それじゃあ、スバルとギンガ、ヴィレイサーも借りるわね。」 「はい。」 スバル達3人は、身体検査の為に1度病院へと向かった。 「まったく………。 俺はほぼ毎日六課で検査だってのに………。 こっちでもしなきゃなんねぇとはな。」 「けど、兄さんは本当に身体を大事にしないと。」 「そうだよ、ヴィレ兄。」 「あぁ、熟知してるよ。」 妹2人からの注意に、ヴィレイサーは笑って返す。 ◆◇◆◇◆ 「うん、3人とも問題無し。 もう上がっていいよ。」 マリエル技官にそう言われ、ヴィレイサーは起き上がる。 上着を着て、外に出た後ギンガ達を待つ。 検査内容が違うので、2人とは別室なのだ。 「問題無し、か。」 左足に力を入れて、片足だけで立ってみる。 『今回は』バランスを崩す事無く、まっすぐに立てた。 「やはり既にダメになっている部分は無いのか。」 とりあえずまだ生きながらえる事はできそうだった。 それに安堵した所で、ギンガ達が仲良く出てきた。 「ヴィレ兄、一緒に六課に戻ろう。」 「あぁ、もちろん。」 「その前に、チョコポットを買ってっていい? 皆へのお土産に。」 「持ち合わせは大丈夫なのか?」 「うん。」 「それじゃあ行くか。」 「「はーい。」」 ◆◇◆◇◆ 「お待たせ〜。」 「少し持つぞ。」 「ありがとう、ヴィレ兄。」 「ねぇスバル、兄さん。」 「なぁに?」 「この先、間違いなく戦闘機人戦があると思う。」 「そうだな。 そして、七星も………。」 「頑張って行こうね。」 「大丈夫だよ。 私達には、母さんが残してくれたリボルバー・ナックルがあるし。 それに、キャリバーズもいるしね。」 そう言って、スバルはマッハキャリバーを取り出した。 ギンガも微笑み、ブリッツキャリバーを取り出す。 「そうだな。 それに、皆もいるしな。」 ヴィレイサーもそれに同意する。 ◆◇◆◇◆ 「あれが、ヴィレイサー・セウリオンか………。」 それを屋上で見ていたのはゲイルだった。 今はゼストと行動を共にはしていない。 違法施設破壊の帰りにヴィレイサーを見かけた為、それを見ていただけだ。 「フッ。 こんな所で気にしていても何の意味もなさぬな。 帰るとするか。」 水色の上着を翻し、帰宅を急いだ。 ◆◇◆◇◆ 「さて、もうすぐ祭りの開始だ。」 スカリエッティはナンバーズを前に、上機嫌だった。 「君達の仕事は、『聖王の器』の確保、地上本部の制圧、 タイプゼロ2機、Fの遺産の回収。 特にゼロ・ファーストの方は余力があれば願いたいね。 今回は七星の彼らも出る。 ちゃんと協力し合ってくれたまえ。」 白衣を翻し、スカリエッティは高々に宣言する。 「さぁ、祭りの始まりでもうすぐだ!」 第7話 「蠢く霞 兄妹」 了 [*前へ][次へ#] |