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小説
紡ぐ想い








 冬の寒さ厳しい12月───。

 ナカジマジムにて働きながら選手としても活動しているフーカ・レヴェントンは、ジムの会長であるノーヴェ・ナカジマに呼ばれて彼女の部屋を訪れていた。


「パーティー、ですか?」

「あぁ。もうすぐクリスマスだから、簡単なものでいいからパーティーをやろうと思っているんだ」

「ええですね」

「それで、悪いんだけど材料の買い出しを頼みたいんだけど……」

「それはもちろん」


 今はフーカも選手として出場しているウィンターカップの真っ只中だ。ノーヴェとしても頼むのは気が引けたのだろうが、幸いにしてフーカは今日の分のトレーニングは終えている。後は早く帰って休むだけだったので、ちょうど手伝う時間があった。


「なら良かった。けど、荷物が多いからレイスを連れていくこと。いいな?」

「はい」


 他人に迷惑をかけるのではないかと考えがちなフーカ。こう言わなければ、恐らく1人で買い出しに向かったことだろう。

 ノーヴェから買い物リストを預かり、フーカは一礼してから部屋を出る。


(今の時間ならレイさんは……)


 足早にトレーニングルームに行くと、ちょうどヴィヴィオのスパーリングの相手をしているのが見えた。


(レイさん、相変わらず早い)


 声をかけることはせずに黙って眺めていると、視線に気が付いたのかヴィヴィオが動きを止めた。


「フーカさん、お話し終わったんですか?」

「はい。なんでも、クリスマスパーティーをするらしく……その買い出しを任されました」

「そうでしたか。あ、もしかしてレイスさんと一緒に?」

「はい」

「だそうですよ」

「分かりました」


 両手にはめていたミットを外し、レイスは一礼する。


「では、また後で」

「はーい♪」


 手を振るヴィヴィオに笑み、リングから降りるレイス。


「量がありますから、少し休みますか?」

「いえ。日が暮れると冷えますから、気にせず行きましょう」


 レイスはナカジマジムに所属する全選手のトレーニング相手をつとめている。普段はアインハルトと同じ学院に通い、放課後は勉強とトレーニングの両方に励んでいるのだとか。


「うぅ、流石に寒いですね」


 ジムの外に出ると、いきなり冷たい風が吹いた。いくら温かい格好をしていても、やはり首回りや顔は寒さが響いてしまう。


「フーカさん、使ってください」

「え?」


 差し出されたマフラーを見て、目を瞬かせる。


「風邪をひいたりしたら大変ですから」

「いやいや、それはレイさんかて同じですから」

「フーカさんは次の試合がありますから。僕よりずっと、体調を崩したら大変です」

「それは、まぁ……」


 有無を言わさぬ雰囲気に呑まれ、フーカは大人しくレイスにマフラーを巻かれることに。


「温かいです」

「それなら良かったです」


 少しでも風が抑えられて安堵するフーカとレイス。2人はリストに改めて目を通してから歩みを進めた。


「そういえば……ウラカンは一緒ではないのですか?」

「えぇ。寒さもありますから、連れて歩くのは悪い気がして。
 それに、レイさんがご一緒してくれるので、何かあったとしても大丈夫かなぁと」

「それもそうですね」

「なんだか頼りきりになってしまいました……」

「構いませんよ。フーカさんに頼られて、悪い気はしませんから」


 レイスの言葉に、フーカは顔を綻ばせる。孤児院にいた時から頼られることの多かったフーカにとって、レイスは兄のような存在になっていた。


「時に、レイさんはクリスマスの思い出とかありますか?」

「思い出、ですか……フーカさんは、どうなんですか?」

「儂は、孤児院にいた頃に何度か。小さいながらも楽しいパーティーでした」

「贅沢はないでしょうけど、確かに楽しそうですね」


 孤児院では喧嘩など数少なく、明るい毎日を送っていたと聞く。フーカはその時のことを思い出したのか、笑顔だ。


「それで、レイさんは?」

「えっ……えっと、その……楽しむようになったのは、割りと最近なので、なんと言えばいいのやら」

「そ、そうでしたか」


 フーカはすぐにしまったと言う顔をして口をつぐむ。レイスも彼女のその反応を予見していたからこそ、言いたくなかったのだ。


「でも、楽しんでいることには間違いありませんから。それに、今年はフーカさんもいますし」

「わ、儂がいるのは関係ないような?」

「そんなことありませんよ」


 首を傾げるフーカに、今度はレイスが笑顔を見せた。


「あ……」


 しばらくして、フーカが唐突に足を止めた。不思議に思って彼女の視線の先にあるもの見て、レイスは納得する。美味しいと評判の餡まんの移動販売だ。


「食べたいんですか?」

「えっ!?」


 レイスに気付かれたのだと分かり、フーカは顔を真っ赤にしていく。


「ぜ、贅沢は敵ですから!」

「贅沢と言うほどの値段でもないと思いますけど。フーカさん、お給料を頂いていますよね?」

「そ、それは……でも、ヴィヴィさん達は頑張って特訓している頃ですから」

「後で別に買って帰ればいいのでは?」

「うぅ……」

「……フーカさん、正直に答えてください。食べたいのか、食べたくないのか」

「た、食べたい……です」


 やっとのことで本音を言えたフーカだったが、レイスに食い意地を張っていると思われたくなかった。そのことも伝えると、レイスは「気にしすぎですよ」と苦笑いし、移動販売のワゴンに駆けていった。


(うぅ……恥ずかしいのじゃ)


 顔から火が出るのではないかと思うほど、フーカは真っ赤になっていた。普段から食い意地をまったく気にしない訳ではないのだが、レイスといると、ついつい気になってしまう。食い気だったり、贅沢だったり、女の子らしさだったり。1つ気になれば、そこから伝播していくように次から次へと気にしていくのだ。


「はぁ……」

「溜め息なんて、らしくないですよ」

「あ……ありがとうございます」


 買ってきてくれた餡まんを受け取り、まじまじと見詰める。外見からでも、美味しそうな雰囲気が伝わってくる。


「い、頂きます」


 我慢できず、一口。程よい温かさをもった餡が、早速甘さを伝えてくる。フーカの表情もそれに合わせて嬉しそうなものになっていく。


「ん〜、美味しいです」

「流石に有名店だけはありますね」

「あぁ、幸せな気持ちになります」

「フーカさんのその表情を見ると、僕もほっとします」


 程なくして餡まんを平らげた2人は、ベンチに腰掛けたまま少しばかり会話を弾ませる。


「ウィンターカップ、どうですか?」

「まだなんとも。師匠には遠く及びませんし、皆さんから日々勉強させてもらっている状況ですから」

「自信は、ないですか?」


 その問いに、フーカはしばし考え込む。やがて面を上げると、強く拳を握り締めた。


「正直なところ、自信はないです。師匠にもヴィヴィさん達にも、模擬試合で勝ったことがありませんから。
 でも……だけど、師匠に教えてもらって、会長やコーチの方々に鍛えてもらって、みんなに背中を押してもらって……そうして手にした覇王流の名に恥じない戦いをしたいと、そう思うとります」

「……そうですか。なら、僕から言えることは何もありませんね」

「そんなことは! 昨日の試合、レイさんの応援があったから頑張れましたから」

「それこそ大袈裟なような……」


 レイスは苦笑いするが、フーカは首を振って大袈裟ではないと示すとずいっと身を乗り出した。


「儂が言うのだから大袈裟ではありません」


 言い切り、しばしの沈黙。そこでふとフーカはレイスとの距離が近すぎることに気が付き、顔を赤くしていく。


「と、とにかく、儂にはレイさんの声援が必要不可欠なんです。
 なんたって儂は、レイさんのことが───」


 そこまで言ったところで、何故かフーカの言葉は紡がれなくなった。目を瞬かせるフーカに、レイスも不思議そうに首を傾げるしかできない。


「フーカさん?」

(儂は今、なんと言う気じゃった……?)


 目の前でレイスが自分の名前を呼んでいるのに、フーカは言いかけた言葉をひたすら反芻するだけで応える余裕がなかった。


(儂は、レイさんのことを……!?)


 好き──この言葉がリフレインする度に、これまで自分が気にしてばかりいた理由が正しく好きだからだったのだとはっきりと認識していく。

 もうどう反応していいのか分からず呆然とするしかないフーカ。それを見てレイスは、何故かお互いの額をぴたりと当てた。相手の吐息すらはっきりと感じられる程に近い距離。当然、いきなりそんなことをされれば───


「わあああぁぁ!?」


 ───フーカは驚きのあまり強く拳を握ってレイスを殴ろうと繰り出してしまう。


「あ、驚かせてしまってすみません」


 しかしレイスはあっさりとその拳を受け止め、力を受け流した。


「い、いえ。儂の方こそ、すみませんでした」


 羞恥心からレイスを殴りそうになるとは思わず、平謝りに謝るフーカ。レイスは気にするはずもなく、「熱はないみたいですね」と呑気に言った。


「そ、そろそろ買い出しにいきましょうか」

「そうですね」


 追及されると困るので、フーカは話題を切り上げて立ち上がった。


(レイさん、熱を計るためとは言えあんな大胆なこと……)


 もし狙ってやったのだとしたら、相当な意地悪と言えよう。彼に限ってそれはないだろうが。

 フーカの頭の中は、しばらく混乱したままになったのは言うまでもない。





◆◇◆◇◆





「戻りました」

《にゃあ》

「おぉ、ウーラ」


 フーカとレイスがジムに戻ると、入口でユミナと店番をしていたフーカのデバイス、ウラカンが迎えてくれた。


「しかし今は冷えきっておるから、抱けないのぉ」

《にゃっ》


 フーカの言葉を理解したのか、ウラカンは彼女ではなくレイスの元へ走っていく。足元でじゃれつくウラカンに気付き、そっと抱き上げるレイス。


「留守番お疲れ様でした、ウラカン」

《にゃあ〜》

「ユミナさんも、ありがとうございます」

「ううん。私の仕事の範囲でもあるから」


 頑張ったウラカンを賞するように、レイスは頭を撫でる。それを見ていたフーカは、自分の頭にそっと手を置きそうになり、慌てて頭を振る。


(羨ましいなどと、口が裂けても言えんのじゃ……)


 もちろん撫でて欲しいと言えるはずもなく、フーカは溜め息をつくのだった。





◆◇◆◇◆





 パーティーの当日───。

 フーカは自ら調理の手伝いを申し出て、ミウラの補助についていた。ミウラが料理上手なことは知っているため、今から完成が楽しみでならない。


「しかし、ミウさんだけで全部作るのですか?」

「まさか。ユミナさんとレイスさんも手伝ってくれますよ」

「え? レイさんも、ですか?」


 ユミナもまたミウラ同様料理が得意とは聞いていたが、そこにレイスが加わるのは意外だった。


「あれ、フーカさんはレイスさんの料理を食べたことないんでしたっけ?」

「ありません」

「味も見栄えも申し分ないですよ。ウチのリストランテで働いてもらいたいぐらいです」

「そ、そうでしたか」


 レイス本人から一人暮らしをしていると聞いたことがあったが、その時は料理の話題にならなかったためまさか彼も料理上手とは思わなかった。

 キッチンに入ると、既にユミナとレイスが下ごしらえを始めているところだった。


「あ、フーカちゃんも手伝ってくれるの?」

「はい」

「それじゃあ……レイスくんの補助をお願いしていいかな?」

「分かりました」


 まさかここに来てレイスと接することになるとは思わなかったが、フーカは深呼吸して気を落ち着かせてから隣に立った。


「フーカさん、何か料理はしたことあるんですか?」

「えっ……いえ、1度も」


 これでは役に立てるはずもない。手伝いになるか怪しいと言うのに、レイスは攻める訳でもなく、ボウルを渡した。


「では、まずは簡単なものから。空気を含ませつつ、かき混ぜてもらえますか?」

「わ、分かりました」


 気を遣ってもらったが、それがケーキに欠かせないものだと分かったフーカは、絶対に失敗できないと内心意気込む。それを見透かしたレイスは笑っていた。


「分からなかったり、できなかったら、ちゃんと言ってくださいね?」

「もちろんです」


 黙ってしまってはそれこそケーキをダメにしてしまう。甘い物が好きなフーカとしては、それは避けたかった。

 早速せっせと材料をかき混ぜていくフーカ。出だしは自分でも不思議なくらい快調だったにも拘わらず、次第に重たくなっていく。


(い、意外と難しいんじゃな……)


 ミウラやユミナがてきぱきと料理を進めていくところは何度も見てきた。手間取りながら厨房に立つ人を見る機会などあるはずがないのだから、簡単そうに見えてしまうのは仕方がないのかもしれない。


「レイさん、ちょっとええですか?」

「はい」

「生地が重たくなってしまって……」

「そういう時はですね」


 言いながらレイスはフーカの後ろに回ると、右手に触れて手の動かし方を指導する。


「こうやって、少しずつ───」


 レイスが一生懸命教えてくれているのに、フーカの耳には中々入ってこない。こんなにも密着したのはこれが初めてなのだから当たり前だが。


(うぅ……あ、頭に入らん)


 顔が赤くなっているのではないかと思うほど、暑い気がしてならない。その時ふと、視線を感じて顔を上げると、対面で料理をしていたはずのミウラとユミナが微笑ましいものを見るような優しげな眼差しを向けていた。当然、フーカの恥じらいは益々膨れ上がっていく訳で、今にも逃げ出してしまいたい気持ちになっていく。


「フーカさん? ちゃんと聞いていましたか?」

「はっ、はいっ!」

「……それならいいんですけど、顔が赤いですよ。体調が優れないのなら言ってくださいね」

「だ、大丈夫です」


 まさか密着することになるとは思わず、フーカの頭の中は恥ずかしさでいっぱいだ。その中に少しだけ、嬉しいと言う感情があるのは言うまでもない。


「じゃあ、続きをやりましょうか」


 レイスの言葉に改めて我に返り、フーカは再び材料をかき混ぜた。





◆◇◆◇◆





「あっという間に終わりましたね」

「そうですね」


 パーティーを始める前から全員が集まって楽しく過ごしていたはずが、その時間はあっという間に終わってしまった。ヴィヴィオ達は既に別室で寝る頃だろう。賑やかな声が微かに聞こえてくるので、まだまだ話していたいようだが。


「フーカさん、残りは僕がやっておきますから、先に寝てください」

「いえ。レイさんにばかり任せられません」

「頑なですね」

「それはお互い様です」


 ユミナとミウラは流石に疲れてしまったために先に寝てもらったのだが、フーカだけはそれに倣わず、レイスを手伝うと言い出した。そのお陰で、先に休むことを渋っていたユミナもミウラも素直に従ってくれたと言う訳でもある。


「ウラカンも、早くフーカさんと寝たいですよね?」

「ウーラに聞くのはずるいですよ。
 じゃったらウーラ、お主もレイさんに早く寝て欲しいじゃろ?」

《にゃうー》


 問われたウラカンは円らな瞳で両者を見詰める。どうやらどちらの意見にも賛成しているようだ。


「じゃあ、程よいところまでにしましょうか」

「はい」


 ノーヴェからも全部やらなくていいと言われている。ウラカンの気持ちもあるので、妥協することに。


「そうだ。フーカさんに渡しておきたいものがあるんです」


 やがて片付けが落ち着いたところで、レイスは紙袋を持ってきて差し出した。


「よかったら、使ってください」

「これは……マフラー、ですか?」

「えぇ。以前、持っていないとお聞きしたので」

「あ、ありがとうございます」


 袋から取り出し、早速首に巻いてみる。長さも程よく、ウラカンが肩に乗っている時でもきちっと巻けそうだ。


「僕が編んだので、市販のものに比べるとあまり温かくないかもしれませんが」

「えっ!? レイさんが編んだのですか?」

「そうですよ」

(女子力高すぎじゃ……)


 女子力でレイスにアピールするのはどうやら無理そうだ。だが、正直なところ今は好きな人から贈り物をしてもらった喜びに浮かれたい気持ちの方が強かった。


「でも、儂はなんの贈り物をできなくて……なにやら申し訳ないです」

「僕は別に構わないですよ」

「儂が落ち着かんのです」

「……じゃあ、フーカさんがしたいこと、贈りたい物を見つけたら、それにしましょう」

「したいことでもええんですか?」

「贈り物は、選ぶのに苦労しそうですから」


 苦笑いするレイスの気持ちはよく分かった。彼を好いている自分はなおさら、選ぶまでに時間を要してしまうだろう。

 そんな取り決めをしたところで、フーカももう寝ようと自分の寝室の扉を開けた。


「会長?」


 しかし、いつも使っているベッドは既にノーヴェに占領されており、その周りにはヴィヴィオ達がぐっすりと眠っている。全員が同じ部屋で眠るには幾らか窮屈なのは誰が見ても明らかだ。


(仕方ない。儂はソファーで寝よう)


 朝一に起きないと注意されそうだが、誰かを起こしてしまうよりはずっとましだ。とりあえず枕だけは確保して、静かに部屋を出る。そこでふと、隣の部屋へと入ろうとするレイスと視線があった。その瞬間、フーカの頭に名案が浮かんだ。


「レイさん、儂からのプレゼントを受け取ってください」

「はい?」


 そう言ってフーカが差し出したのは、ウラカンだった。差し出されたレイスもだが、ウラカンも不思議そうな顔をしている。


「ウーラと一緒に寝る……これが、儂からの贈り物です」

「えっと……では、お言葉に甘えて」


 ウラカンを受け取り、肩に乗せると部屋へと消えようとする。しかし何故かフーカまで一緒についてきた。


「あの、フーカさん?」

「言い忘れていましたが、ウーラの添い寝には儂も付随します」

「えっ……」

「よもや、渡したプレゼントを突っ返すなんて真似はしませんよね?」

「…今回ばかりは、ごめんなさい」


 畳み掛けようとしたフーカだったが、思っていた以上に早くレイスはウラカンを突っ返してきた。


「流石に一緒に寝るのはまずいですから」

「は、早く起きればええんです!」

「いや、でも……」

「儂のしたいこと、叶えると言ってくれましたよね?」

「うっ……」


 指摘されて、レイスは言葉を詰まらせる。フーカは恥ずかしさで頬を赤くしながらも彼の手を取り、必死に願いを伝えた。


「儂は……儂はレイさんと一緒に、寝たいんです!」

「フーカさん……」


 そこまで言われて、無下にできるはずもない。レイスは溜め息を零したものの、「分かりました」と言ってくれた。


「一応言っておきますが、嫌だから断ったわけではありませんからね」

「では、どうしてあんなにも頑なに?」

「恥ずかしいからですよ。それともフーカさんは、恥ずかしくないと?」

「……無論、恥ずかしいです」


 自分のことながら、とんでもないことを言ったと思う。それでもこの状況に喜ばないはずもない。いそいそとレイスと並んでベッドに入るが、彼は背中を向けてしまう。本当に恥ずかしくて堪らないようだ。


(レイさんの背中、大きいのぉ)


 まじまじと見る機会などなかった、好きな人の背中。フーカは無意識の内に手を伸ばし、そっと触れる。


(あぁ、やっぱり儂は、レイさんのことが好きなんじゃな)


 気持ちを再認識して、静かに目を閉じる。いつか、彼に追いつきたい。追いついて、そして隣に立つのに相応しくありたい。その願いを胸に、フーカは眠りについた。久しぶりに感じる、人の温もりに全てを委ねるようにして。

 余談だが、遅くまで片付けをしていたフーカとレイスは見事に寝坊してしまい、あろうことか2人で寝ているところをノーヴェに目撃されたうえ、大目玉をくらってしまうのだった。










◆──────────◆

:あとがき
そんなわけで、予告通りフーカ×レイスでございます。

と言っても、小話では珍しく恋人になっていない状態のお話ですが。
フーカだけが好きになっていることを自覚し、ドキドキする……はい、自分の趣味に走ってしまいました(笑)

このレイスは一応、誰とも付き合っていない設定なので、お師匠様から断空拳をもらったりとか、レイスをかけて云々とかはありません。
流石のレイスも、アインハルトがいるのに密着とかはしません。多分(ぉぃ)

でもvvstやるとしたら、レイスはフーカとリンネのどっちをヒロインにするか悩みますね。
どや顔が増えたアインハルトと恋仲になった状態で進めるのもいいと思いますが、これ以上ヒロイン増やしていいのかどうか……。


さて、明日はもしも万が一にでも間に合えばヴィレフェイを掲載する予定です。
えぇ、あくまで「万が一」なので、寧ろ間に合わないと思っていてください。それでは〜。







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