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小説
想いを繋いで








「流石に寒いわね〜」

「だから家でのんびりしていればって言ったんだが……」


 手袋をはめていない自分の手を擦り合わせたり、息を吐いて少しでも温めようとするメガーヌは、後ろで呆れている弟分のヴィレイサーに振り返っては剥れた。


「だって、せっかく雪が降っているのよ? 外に出て楽しまなきゃ勿体無いじゃない」

「ならせめて、温かくしていないと。
 風邪をひいたら俺がルーテシアに叱られるんだし」

「ふふっ、年下に怒られる貴方も面白いと思うわ」

「面白いかどうかで決めないでくれ……」


 ヴィレイサーは溜め息をついて、自分の手袋とマフラーをメガーヌに貸した。


「いいの?」

「いいから、こうしているんだろ」

「…ありがとう」


 ヴィレイサーから貸してもらったマフラーにそっと触れると、メガーヌは少しだけ寂しそうな顔を見せる。それを目ざとく見つけたヴィレイサーがどうしたのかと問うと、「ちょっとだけ」と前置きしてから口を開いた。


「ちょっとだけ、寂しいなって」

「何で?」

「だって、貴方と最後に会ったのはうんと小さい時だったのに、まさか次に会ったら10年も経っていて……貴方も、こんなにも大きくなっていたのよ。寂しくなっても、不思議じゃないでしょう?」

「まぁ、確かに。けど、これからは一緒だろ?」

「え?」

「寂しさを忘れられるくらい、姉さんが楽しいことを探せばいいんじゃないか?」

「……なら、責任としてヴィレイサーも一緒に探してね」

「は? なんの責任として?」

「秘密よ♪」


 そう締め括るとヴィレイサーの手を取り、メガーヌは歩き出した。最初は何か言おうとしたヴィレイサーだったが、彼女の楽しそうな笑顔と先程の言葉を思い出して閉口する。


(今は素直に従うしかないか)


 呆れを感じさせるその気持ちとは違い、ヴィレイサーもまた笑っていた。

 メガーヌは現在、カルナージにてルーテシアと親子で暮らしている。そこにはルーテシアが設計したコテージがあり、ヴィヴィオを始めとする多くの友人が何度も宿泊をしていたのだが、たまにはルーテシアがヴィヴィオらの家に泊まるのもいいと言うことで、クリスマスにかこつけて遊びに来た。その際メガーヌも保護者として同伴したのだが、子供は子供と遊んで欲しいと言うことで、ヴィレイサーがメガーヌを構うことになった。


「で、何でまた映画なんだ?」

「この映画、ずっと観たいと思っていたのよ」


 カルナージにも検閲さえクリアすれば物資は簡単に届く。なにより映画ならばインターネットを介して家でのんびり観ることもできる。


「ルーテシアがミニシアターを作ったって言ってなかった?」

「そうなんだけど、この映画ってだいぶ古い上に監督の方が海賊版を危惧してDVDやストリーミングを断固として拒否しているの」

「なるほど」


 そう言った監督は少なくないため、ヴィレイサーからすれば珍しくはなかった。


(それにしても……)


 メガーヌが観たいと言った映画のポスターを改めて眺めるヴィレイサー。明らかに古めかしい雰囲気に、内心苦笑いする。


(本当に古いんだな)


 モノクロのポスターなうえに、俳優の立ち並びの雰囲気も今の時代とマッチしているとは言い難い。


「姉さん、この映画に思い入れとかあるの?」

「え? ないわよ、そんなの。
 でもどうして?」

「いや、恋愛物を観るとは思わなかったから」

「ふふっ、おばさんが観るものじゃないわよね」

「おばさんって年齢じゃないだろ?」

「…そう言ってくれるのは、ヴィレイサーだけよ」

「見え透いた嘘はいいから」


 もうおばさんだと苦笑いするメガーヌに、ヴィレイサーは否定を続ける。結局互いに譲らず、この話は打ち切りになった。


「ヴィレイサーこそ、こんな映画に付き合わなくていいのに」

「まぁ俺も気になるから。それに、姉さんを1人にしたら迷子になりそうだから」

「もう、可愛くないわね」

「俺に可愛い時なんてなかっただろ」

「あら、小さい頃は怖い想いをしたらすぐにクイントか私にくっついていたと思うけど?」

「……忘れてください」

「い・や・よ♪」


 恥ずかしそうに顔を逸らすヴィレイサーを、メガーヌは優しく撫でた。最初はそれを止めさせようと思ったが、この心地好さを手放す気持ちにはなれなかった。


「でもね」

「ん?」

「付き合ってもらえて嬉しいのは、本当よ」

「……さいですか」


 メガーヌの心からの笑顔に、ヴィレイサーはそう返すのが手一杯だった。姉と慕ってきた彼女を、いつしか1人の女性として好きになっていた彼には、その笑顔は魅力的過ぎた。

 程なくして劇場は暗くなり、いつものように新作映画の広告を流してから本編が始まった。しばらくそれに見入っていたヴィレイサーだったが、唐突に手が握られたために隣に座るメガーヌを見る。だが彼女はスクリーンに視線を向けたままで、知らん顔を貫いている。その様子にヴィレイサーも何も言わず、手のひらを向けて彼女の手を握り返した。手を通して伝わる温もりが心地好かったからなのか、映画が終わる頃には互いの指が絡み合っていた。





◆◇◆◇◆





「ん〜、満足♪」

「まぁ、中々面白かったよ」

「でしょう?」


 映画を観終わり、身体を伸ばすメガーヌ。彼女の感想に賛同するヴィレイサーも、固まった身体をほぐす。


「じゃあ、次の場所に行きましょう」

「あぁ」


 映画館の外に出て一緒に地図を確認する。目的地までのルートを模索していると、一際冷たい風が吹いた。


「さ、寒いわね」

「カフェにでも入る?」

「……ううん」

「けど寒いって……」

「だから、温めてね」


 言い切るや否や、ぎゅっと抱き締められた。急に動いたことでふわりと舞い上がった艶やかな髪からは仄かに甘いシャンプーの香りが漂ってくる。


「ね、姉さん? 流石に、恥ずかしいんだけど……」

「そっか、恥ずかしいんだ」


 ヴィレイサーの反応を見て楽しそうに笑むメガーヌ。そう言われては、反撃するしかあるまい。ヴィレイサーも彼女の身体に手を回し、強く抱き締める。


「なら、姉さんは恥ずかしくないって言うのか?」

「そ、それは……」


 突然抱擁されて、今度はメガーヌの方が顔を赤くしていく。ここで終わらせたくない──その想いから、ヴィレイサーはメガーヌの耳元で囁く。


「いつまでも弟扱いされるのは、嫌なんだよ」


 だが、どうにもストレートに言うのは気恥ずかしかった。言葉を必死に紡ごうとする彼に、メガーヌは「うん」と言い、先に言葉を続ける。


「私も、いつまでもお姉さんでいるのは……嫌」

「え?」

「…もう、恥ずかしいんだから今ので察してちょうだい」


 メガーヌを見ると、先程より明らかに顔が真っ赤になっている。その反応から、今の言葉の意味を改めて実感する。


「姉さ──いや、メガーヌ」


 名前で呼ぶのはどうにも慣れない。それでも、それは尻込みしていい理由にはならない。ヴィレイサーは手を差し出して、想いを告げる。


「…好きだ」


 メガーヌは息を呑み、恥ずかしそうに顔を俯かせたが、すぐに笑顔を見せてくれた。


「私も、貴方のことが大好きよ姉弟としてじゃなく、異性として」


 手を握り返すと、そのまままた抱き寄せられる。そして互いに見詰め合い、どちらともなくキスを交わした。程なくしてゆっくりと離れると、何故かメガーヌは顔を赤らめたままだ。しばらくして、恥ずかしそうに口を開く。


「も、もう1回だけ、キスして」


 恥じらいながらの言葉にヴィレイサーは抱き締めたい衝動をぐっと堪える。しかしその希望に応える前に違和感を覚えたヴィレイサーは、はたかれるのを覚悟しつつ問う。


「1回だけでいいのか?」


 メガーヌが「1回だけ」と言うまでに間を感じて聞いたのだが、図星だったのかメガーヌは剥れた顔を見せた。


「意地悪ね」

「あー、悪い」

「……でも、ヴィレイサーならいいわよ」

「え?」

「ヴィレイサーになら、意地悪されてもいいわ」


 その言葉がどれほど魅力的なのか、恐らく彼女は気付いていないだろう。ヴィレイサーは深呼吸して気持ちを落ち着かせてから、今一度彼女と唇を交わした。





◆◇◆◇◆





「いつの間に作っていたんだよ」

「さぁ、いつかしらね」


 ルーテシアとの合流場所に向かう道すがら、ヴィレイサーはメガーヌからのプレゼントとして渡されたマフラーを見て、驚かされる。


「ちょっとした憧れがあるのは間違いないけどね」


 苦笑いするメガーヌは、自分にも巻かれているマフラーにそっと手を当てる。彼女が作ってきたマフラーは長く、ヴィレイサーの首にだけでなくメガーヌにも届いている。まさか2人で1人のマフラーを使うとは思わず、やはり恥ずかしいものがある。


「私はカルナージに戻るから、マフラーは預けていくけど……他の女の子と使ったりしたら、赦さないわよ?」

「分かっているって。信用ないな」

「そういう訳じゃ……みんな可愛いから、目移りしないか心配なのよ」

「それでも、俺が好きになったのはメガーヌだ」

「…うん、そうね」


 嬉しそうに笑むメガーヌを見て、ヴィレイサーも自然と笑みを零す。


「ママ〜♪」

「ルーテシア、おかえりなさい。みんなと楽しめた?」

「もちろん。ママは?」

「私もヴィレイサーのお陰で楽しめたわ」

「そっか」


 言いながら、ルーテシアはヴィレイサーとメガーヌを交互に見る。そして何かを察したのか、ヴィレイサーに向かって一礼した。


「ママのこと、これからもよろしくお願いしますね」

「「えっ!?」」


 仲が進展したことをあっさりと見抜かれて驚く2人に、ルーテシアは溜め息をついた。


「いやいや、気付かない方がおかしいくらいだからね?」










◆──────────◆

:あとがき
ヴィレイサー×フェイトを書くと言いましたが、あれは嘘で(ライオットザンバー)

ぐふぅ……えっと、正確に言うと嘘ではないんですが、先にこっちが仕上がりました。
果たしてフェイト編はクリスマスまでに間に合うかどうか……まぁこの流れだと間に合わない可能性が高いのですが(笑)


さて、次回はレイス側のクリスマス小話になります。
vivid strikeのキャラであるフーカとのお話しになりますので、視聴していない方には楽しんで頂けるかどうか気になりますが。






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あきゅろす。
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