「お疲れ様、アインハルトさん」
「いえ。ほとんどユミナさんに任せきりで、すみません」
「ううん。保健室の先生も手伝ってくれたし、そんな手間じゃなかったから」
採寸を終えた時には既に昼休みが終わっていた。なるべく早く戻った方がいいかもしれないが、事情を話してあるので焦る必要はないだろう。
「でもアインハルトさんの肌、本当に綺麗だったなぁ」
「そ、そんなことは……それに、ユミナさんの方が綺麗でしたよ」
「あはは、ありがと〜」
そんなたわいない話をしながら歩いていくと、2人の目にレイスの姿がうつった。彼は2人に気付かないまま、何故か階段を駆け上がっていった。
「今の、レイスくんだよね?」
「えぇ。何かあったのでしょうか?」
そんな姿を見たアインハルトとユミナも顔を見合わせ、追いかけていく。程なくして屋上へ出たと分かると、そこで立ち止まってから考え込む。このまま外に出たとして、何かあった場合に自分だけで対処するのはよくないだろう。かと言って何も起きなかったとしたら笑い者になってしまう。
(ティアナさんは忙しいでしょうし、ここはディードさんに連絡しておきましょう)
カリムから何かあった時のためにと、連絡先を聞いておいて正解だったようだ。手早く連絡を済ませると、ユミナを巻き込まないよう後ろに下がっていることを告げて、思いきり扉を開ける。
「レイスさん! 大丈夫で──え?」
しかし、アインハルトが見たものはあまりにも彼女の予想をこえたものだったため、思わず狼狽してしまう。レイスが、いとおしそうに抱き締められているのだ。それも、誰かも分からない大人の女性に。
「アインハルト、さん?」
疲れを感じさせる声だが、アインハルトはそれに気付くこともなくジト目で睨む。
「あ、あの、話を聞いて───」
「嫌です」
即答されてしまった。確かにこの状況を見られては仕方ないかもしれないが、少しは話を聞いて欲しい。
「ふーん……この子がアインハルトちゃんね。間近で見てもやっぱり可愛いわね」
「貴女は誰ですか?」
「えー、また名乗らなきゃいけないの? まぁいいわ。レイスと会えて気分がいいし」
(レイスさんのことを知っている?)
「私はプリメラ・レジサイド。レイスの実姉よ」
「あ、姉!?」
レイスに姉がいるなど初耳だ。その驚きようを見て、プリメラは楽しそうに笑む。
「そうよ。まぁレイスが産まれた直後に家を出たから知らなくて当然だけど」
「……レイスさんを離してください!」
ハスラーとの戦いを思い出し、バリアジャケットを展開して大人の姿になるアインハルト。それを目の当たりにしたプリメラはと言うと、一瞬だけ驚いた顔を見せたが、すぐに微笑する。
「可愛い♪」
「……はい?」
「レイスの恋人だけあるわね」
「ど、どうしてそれを……まさか、ずっとレイスさんを見ていたのは!?」
「えぇ、私よ。だって、こんなに可愛く育ったんだもの。姉として見守るのは当然でしょ」
ぺろりと舌なめずりすると、あろうことか動けないことをいいことにレイスの首筋を舐めた。
「うあっ……」
「あらあら、可愛い声を出しちゃって。そんなに気持ち良かったのかしら?」
妖艶に笑うプリメラだったが、咄嗟にレイスを放してその場から下がった。刹那、アインハルトの回し蹴りが先ほどまで自分がいた場所を駆け抜ける。
「レイスさんになんてことを!」
「そんなに怒らなくてもいいのに……あぁ、そういえば貴女たち、まだキスをしたこともなかったのよね」
「なっ!?」
「言い忘れていたけど、レイスだけじゃなく貴女のことも、それにもう2人のことも見ていたわ。今日、貴女たちが身に付けている下着の色までばっちりよ♪」
「この……!」
羞恥心から顔を真っ赤にしながらも懸命に攻撃を繰り返すアインハルト。その間に、ユミナがレイスの傍に駆け寄り、大事ないか確かめる。
「レイスくん、しっかりして!」
「うっ、く……ユミナ、さん?」
「良かった。どこも怪我はない?」
「え、えぇ……でも、魔力が……」
「え?」
ズンッと大きな音が響き、ユミナは真意を聞く前にアインハルトの方へ視線を奪われた。覇王流の技を振るったにも拘らず、プリメラは軽々とそれを受け止めている。そして掴んだ拳を放さず、関節技を使ってアインハルトを捉えた。
「うふふ、あんまり暴れると……あの子の方に行っちゃうわよ?」
「くっ!」
もがくアインハルトだったが、プリメラがユミナのことを言っていると気付き、大人しくなる。
「でも本当に可愛いわね〜。“食べちゃいたい”くらい♪」
「え?」
ぞっとするアインハルトの恐怖を敏感に感じ取ってか、プリメラは妖艶な笑みを浮かべて、その首筋に噛みついた。
「あっ!?」
「んっ、ちゅぅ」
「あぁっ!」
びくっと身体を震わせる様を見て、プリメラはさらに強く吸い上げる。だが、当のアインハルトは困ると言うよりも苦しい表情を浮かべていた。そして、何故か次第に大人の姿を維持することができなくなり、やがて普段の姿に戻ってしまう。
「あっ、う……い、いったい、何を……?」
「ただ貴女の魔力をもらっただけよ。唇同士の方がもっと吸えるんだけど……ファーストキスがまだみたいだし、ね」
「魔力を、奪った……?」
「そう。強奪者(レイダー)……これが、私の二つ名よ。
そしてこの子が私の愛機、ブラックライダーだけど……どうやら使う必要はなさそうね」
右耳につけられたイヤリングに触れ、自慢げに語るプリメラ。アインハルトをようやく放したが、次にじっとユミナを見詰める。
「貴女のことも、食べちゃおうかしら」
「っ!」
「そうは、させません……!」
急激に魔力を減らされたレイスだったが、必死に疲労を跳ね除けようとふらふらしながらも立ち上がる。アズライトを起動させてダブルセイバーを構えるが、あまりに覚束ない足取りになってしまう。
「流石レイス。私の弟ながらかっこいいわね〜。
まさか私を夢中にさせるとは、ね」
「え……」
「え……?」
「前はこれでもレズだったのよ? でも、レイスを見てからすっかり虜になったのよ。
まぁ、それでも私は可愛い女の子も大好きなバイだけどね!」
「えー……」
目を丸くするアインハルトとユミナ。この場に似つかわしくない、あまりにも衝撃的な言葉に呆然としてしまう。だが、その僅かな隙をついてプリメラの背後からシスター服に身を包んだディードが身を躍らせる。先天固有技能、通称ISと呼ばれる能力を有する彼女はその力を発動させて双剣に赤い刃を閃かせた。
「IS、ツインブレイズ!」
「……ブラックライダー」
《Scythe form.》
刃がプリメラに到達するよりも早く、彼女の愛機が大鎌へと姿を変えた。振り返ることもなく2つの刃を受け止め、振り向きざまに鎌を一閃してディードを弾き飛ばす。
「あらあら、可愛いシスターだこと。でも……あんまり“おいた”しちゃダメよ!」
ディードを押し返し、ブラックライダーを真横に振りかぶるプリメラ。そこからすかさず一閃しようとする動作に無駄はなく、確実にディードを捉えようとする。
「くっ!」
避けられないと分かると、せめて直撃しないようにと迫り来る刃と相対するように横を向く──だが、あろうことか近づいていた刃が突如として向きを変えた。それに驚くディードを嘲笑うかのように、脇腹目掛けて柄がぶつかる。
「あっ……!」
痛みに耐えきれず、思わず怯んでしまう。それでも双剣を手放さずに済んだのは、日頃からシャッハに鍛えてもらっているからだろう。
「私のブラックライダーは刃の角度を自由に変えられるのよ。けど、武器を手放さなかったことは褒めてあげる」
つかつかと歩み寄り、ひざまずくディードの顎に指をかけ、自分の方を向かせてじっと見詰めると満足げに微笑む。
「やっぱり可愛いわね〜♪ それにしてもレイス、貴方の周りには随分と美人な子が多いわね。全部私にくれない?」
「……お断りです」
「それもそうよね。なら、強奪者(レイダー)らしく奪わせてもらうだけよ。
そうね……まずは、あの初等科の子からにしようかしら。確か、コロナ・ティミルって言ったわね」
「っ!」
プリメラの言葉に、レイスの表情が変わる。そうはさせないと言いたいのか、魔力が枯渇気味でありながらもアズライトを強く握り直す。
「……させるかあぁっ!」
ダブルセイバーを一閃し、プリメラに向かって走り出すレイス。その胸中にあるのは、誰も巻き込みたくないと言う願いだけ。
「ふーん」
対してプリメラはつまらなさそうに鼻で笑い、ブラックライダーを真下から掬い上げるように振るい、レイスの手からアズライトを弾き飛ばす。空を舞う蒼い刃は主の手に戻ることを赦されず、プリメラの手におさまった。
「IS、ロードジャック」
そしてプリメラが呟いた言葉に従うように、アズライトは刃を消して待機形態へ姿を変えた。
「アズライト!」
「安心なさい。別に壊しちゃいないわ」
「ISを持っているなんて……」
「そんな便利なものじゃないわ。一時的にデバイスとその持ち主の関係を絶つだけだから」
それだけ言うと、プリメラはレイスの前に立ってアズライトを見せた。しかし、返してくれるわけではないようで、意地の悪い笑みを浮かべている。
「返して欲しかったら、私と一緒に来なさい。ここは貴方が居ていい場所じゃないわ」
「な、何を勝手に!」
プリメラの提案に1番に声を荒らげたのはアインハルトだった。ユミナも同じ気持ちなのか、頷き、口を開く。
「そうだよ! 第一、それは貴女が決めることじゃない!」
「……ああ言っているけど、貴方こそ本当は分かっているんでしょ?」
冷ややかだが、プリメラの言葉は確実にレイスの心を抉った。強く拳を握り締め、顔を俯かせる姿を見て、アインハルトとユミナは息を呑む。図星だなんて、思いもしたくない。
「ここに居続ければ、何れはあの子たちを巻き込んでしまうもの、ね。今回みたいに」
「それは……」
「そして守れなかったら……それこそどうするの?」
拳を握る力が、より強くなる。確かにアインハルトやユミナ、それにコロナが巻き込まれるなんてことは絶対に嫌だ。彼女たちだけでなく、過去に自分の家族が拐かしたヴィクトーリアや、彼女を助けるために奮闘したエドガーやシグルド、それに自分の処遇を軽くしてくれたティアナ達にも何か危害が及んだりしたら、今度こそ自分を赦せなくなるだろう。
「……強奪者(レイダー)の、言う通りです。確かに、また誰かが傷ついたりしたらと思うと、怖くて仕方がないです」
「レイスさん……」
「でも……でも、それでも! それでも僕は、ここに居たい! 大切な人と……大好きな人と、一緒に居たいんです!」
気付いた時には、涙を流していた。どれほど自分が今の居場所に固執しているのか、レイスはしっかりと理解している──アインハルトもそのことに気付き、自然と微笑した。
「……そう。だったら、強引にでも───!?」
ブラックライダーを構え直した瞬間、プリメラは慌てて後ろに下がる。それに僅かに遅れる形で直上から人影が飛来した。漆黒のバリアジャケットに、紫銀色の髪を一条に束ねたその姿には見覚えがある。
「ヴィレイサーさん!?」
「…大丈夫か、レイス?」
太刀の剣尖をプリメラに向けたまま、ヴィレイサーは静かに問う。
「は、はい。僕もアインハルトさんも魔力が底を尽きかけているだけですから」
「分かった。悪いが、ディードの様子を見てきてくれ」
「はい」
プリメラは未だに舞い上がった砂煙から姿を見せようとしない。油断はならないだろう。レイスがディードに駆け寄ると、彼女は平気だと示すように笑みを浮かべる。しかしどうにも辛そうに見える。少しばかり痛みを堪えているのかもしれない。
「お兄様、相手は未知数です。気をつけてください」
「あぁ」
心配される側のディードの気遣いに淡々と返すと、ヴィレイサーは躊躇うこともなく砂煙が四散するそこへと走り出した。そして刃を閃かせるとそれに応えるようにして火花が散る。的確にプリメラの位置を把握できているようだ。
「……気に入らないわ」
やがて一筋の光が駆けたかと思えば、ヴィレイサーが大きく弾かれた。続く声は冷徹で、先程までの愉悦は完全に消えている。
「気に入らない……野郎に歯向かわれるなんて、最悪よ!」
怒りに呼応するように魔力が放出され、砂煙がたちどころに掻き消された。
「ブラックライダー!」
《Lord cartridge.》
「……エターナル」
《Lord cartridge.》
互いにカートリッジを使って威力の底上げを始める。それでもすぐに放たないのは好機を狙っているのだろう。どちらもしばらく微動だにしなかったが、遂にヴィレイサーが動いた。脱兎の如く素早く走り出し、懐に入り込もうとする。
「シャドウスティンガー!」
それを阻むべく、プリメラは足元に展開した魔法陣から灰色の魔力弾を放つ。追尾性があるのか、既の所でかわしたヴィレイサーを追いかけていく。さらにそこへプリメラ自身も加わり、絶好のタイミングでブラックライダーを一閃する。
「リボークシックル!」
ヴィレイサーが体勢を崩した一瞬の隙をついて、灰色の魔力刃が解き放たれた。弱った獲物を狙うようにまっすぐに飛来するそれに対し、ヴィレイサーも太刀に纏わせた魔力を放つ。だが───
「リボーク」
───2つの魔力がぶつかり合うことはなかった。プリメラが放った魔力刃は寸前で失せてしまい、ヴィレイサーの魔力刃は虚しくも空を切っただけに終わる。
「リペア」
そしてすかさず、プリメラが次の命を下すと背後から消えたはずの刃が具現した。完全に後ろをつかれた形になり、ヴィレイサーは舌打ちする。
(間に合うか? いや、間に合わせるしかない)
それでも冷静に、淡々と自分のやるべきことをこなしていく。太刀を鞘に戻してから間髪入れずに、今一度カートリッジを使って魔力の底上げに入ると一気に抜刀した。
「ブリザードギア!」
刹那、抜刀と同時に放たれた魔力が冷気へと変わり、ヴィレイサーへ迫っていた攻撃をすべて防ぐ。
「変換資質持ちとはね」
「エターナル」
《Blaze gear.》
プリメラの苛立ちを感じ取り、ヴィレイサーはすぐさま氷の壁を消し、代わりに刃に炎を纏わせて肉薄する。
「チッ!」
舌打ちして下がるプリメラだったが、先程の氷がすべて溶かされていることに気付き、はっとする。
「ヴォルトギア」
剣尖から放たれた雷が濡れたプリメラを追尾するように駆け抜ける。
「やれやれ、面倒ね」
《Break field.》
鎌の刃を柄と一直線になるように角度を変えると、思いきり地面に叩きつけて屋上のコンクリートを粉砕した。雷はその壁に阻まれて到達することはなく消え去ってしまう。
「やっぱり、ね。3つの魔力変換資質を持っているみたいだけど、維持できる時間は短いんでしょう?」
「御名答」
「野郎なんて気に入らないし、徹底的に叩こうかと思ったけど……まぁ、レイスの考えも聞けたからいいわ」
そう言って、ブラックライダーを待機形態に戻すプリメラ。しかし意地の悪い笑みは浮かべたまま、言葉を続ける。
「けど、いつまでもここにしがみついていられると思ったら大間違いだからね」
それだけ言い残し、プリメラは転移魔法を使って姿を消した。それを確認してから、ヴィレイサーも刃をおさめる。
「ディード、大丈夫か?」
「はい。ですが、お兄様に手伝わせてしまってすみません」
「別に謝ることじゃない。俺が自分の意思で来たんだ。それにお前やレイスたちが無事ならそれでいい」
「…ありがとうございます」
淡々とした声色だが、そこに優しさを見つけて嬉しそうに微笑するディード。だが───
「レイスさん!」
───アインハルトの剣幕に思わず驚いてしまう。
「どうして、一言相談してくれなかったのですか?」
「そ、それは……」
巻き込みたくなかった──その言葉は何故か、口から出てこなかった。言ったところで、アインハルトはきっと認めないだろう。巻き込まれるのは何も、これが初めてではないのだから。
(でも……)
しかし、だからと言って彼女を巻き添えにしてしまうなど自分が赦すはずもない。結局レイスは言葉を呑み込んだまま、顔を俯かせてしまう。
そしてアインハルトもまた、彼の気持ちには薄々感づいている。それを認められないのは、レイスが何も言わずにどこかへ行ってしまうのではないかと危惧してのことだろう。
「すまないが、今回の件でちゃんと事情を聞いておきたい」
「学院の方には私たちの方から伝えておきますから、お三方は教会の方へお願いします」
ヴィレイサーとディードの助け船にいち早く気付いたユミナがアインハルトに駆け寄り、先に教会へ行こうと促す。アインハルトはそれに頷き、申し訳なさそうにレイスに頭を下げてから校内へ戻っていく。
「ディード、直にシャッハが来るはずだ。悪いが彼女と一緒に事情を説明してくれ」
「はい。お兄様は?」
「レイスと少し話したいんだ。いつもの場所に行く」
「分かりました」
ディードに改めて謝辞を言い、レイスと共に教会へ向かう。ただし行き先はカリムのいる執務室ではなく、大聖堂だ。
一足先に聖王教会へとやって来たアインハルトとユミナは、オットーが出してくれた紅茶を飲んで気持ちを落ち着かせてから今回の事件について詳細を報告した。
「なるほど、レイスの姉が……」
「えぇ。口振りからして、レイスさんも姉か兄がいることは分かっていたみたいです」
「ただ、レイスくんの命を狙ったり彼に怨みがあるわけではないみたいなんです」
「……分かったわ、ありがとう」
「それじゃあ、私たちはこれで」
「えぇ。あ、アインハルトには私の方から別件の話があるのだけれど、いいかしら?」
「はい」
なんだろうと首を傾げるが、ユミナを待たせては悪いと思い、彼女には先に学院に戻ってもらうよう伝える。さらにオットーに見送りを頼み、改めてカリムと向き直る。
「それで、お話しと言うのは?」
「その前に……アインハルト、まだ怒っている?」
「え……」
「レイスが貴女に何も話していなかったこと」
「…もちろんです」
アインハルトの膨れっ面に、カリムは微笑する。
「私はもちろんアインハルトの味方だけど、レイスの気持ちは分かるわ。アインハルトも、分かっているんでしょう?」
「それは、まぁ……」
「でも、どうして男性って私たちを心配させてばかりなのかしらの」
「……もしかして、ヴィレイサーさんと何かあったのですか?」
「えっ!?」
カリムの発言と、先日の2人のやり取りを照らし合わせて問うと、図星だったのか顔を赤くしていく。
「そ、その、彼とは別に付き合ってはいないの」
「でも、好きなんですね?」
「えぇ。恋人じゃないのだから、アドバイスするのは筋違いかもしれないけど」
「そんなことはありません。それに、今は色んな方の意見を聞きたいです」
「アインハルト……それじゃあ、少し長くなるけど話すわね。私とヴィレイサーのことを」
聖王教会、大聖堂───。
絢爛なステンドグラスから差し込む光でも充分に室内は明るく、温かい。
レイスとヴィレイサーは数多く並んだ横長の椅子に腰掛け、正面に据えられた神仏を見ていた。
「少しは落ち着いたか?」
「残念ながら、あまり。今まで自分がしてきたことを思い返しています」
「悪いな。ここしかゆっくり話せそうな場所を思い付かなかったんだ」
「構いません。ヴィレイサーさんは、ここがお好きなんですか?」
「どうだろうな? 半々と言うのが正しいだろう」
「……僕はやっぱり、間違っていたんでしょうか?」
「アインハルトに黙っていたこと、か?」
「はい」
アインハルトのことを考えると、自然と顔が下を向いてしまう。自分の手をまじまじと見、溜め息を零す。
「俺は、お前の選択を責めたりしない。寧ろ同じ選択をしたはずだ」
「騎士カリム、ですか?」
「あいつとは付き合っていないんだが……そんなに親しく見えたか?」
「少しだけ」
「そうか……次からは改めておかないとな」
「ヴィレイサーさんと騎士カリムは……」
「…少し長いが、聞いていくか?」
「是非」
きっと聞かなかったら、今の自分を変えることはできない──そんな予感が、頭を離れなかった。
◆──────────◆
:あとがき
遅れましたが、4話と5話の掲載です。
レイスの実姉、プリメラの参戦と警告に対し、レイスは戸惑いながらも今ある幸せなこの場所こそが、自分の居場所だとはっきり言うことができました。
アインハルト達と一緒に居ることのできる場所を守りたいと思う反面、失った時の恐怖感はあるかもしれませんが。
しかし、それ故に巻き込みたくないと思う気持ちが強すぎるため、アインハルトを始めとする多くの人に何も言えず、反動として不安や辛さを与えてしまいます。
そしてプリメラの言葉に戸惑うレイスと、何も聞かされていなかったアインハルトの不安。
そんな2人を少しでも仲直りさせるために、カリムとヴィレイサーの話が役に立つかどうか……次回からは、カリムとヴィレイサーの過去話になっていきます。
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