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小説
魔法少女リリカルなのは 氷帝の麗姫








 凍てつく通路を足早に走る人影。時折滑りそうになるのを堪えながら、それでも前へ前へと歩みを進めていく。スピードも衰えることを知らないみたいに、遅くなるどころか段々と速くなっている。一条に束ねられた髪が呼吸の乱れを表すように揺れていた。やがてその人影は大きな扉の前で止まり、少しばかりの間だけ呼吸を整える。

 重たい扉をゆっくりと押していく。中から施錠されていなかったのは、向こうが慌てていたからだろうか──そんな考えがよぎるも、すぐ忘れることにした。これは好機なのだから。開けてから気にしたところでどうしようもあるまい。


「貴様……!」


 物音に気付いたのか、玉座らしきものの前で手間取っていた1人の男が振り返り、怒りを露にする。しかし、睨まれた青年はまったく意に介さない。それどころか、その瞳は玉座で氷の中に閉じ籠る少女だけを見ていた。


「……待たせて悪いな、すずか」


 少女──月村すずかから返事はない。それでも構わない。彼女が無事でいるのなら、それでいい。

 すずかに対して1歩踏み出した瞬間、足元に大きめの氷柱が飛来した。それは砕けるどころか地面を抉り、鋭利な武器であることを証明していた。


「“姫”に近づくな、下郎」

「“姫”、ね」


 相手はふざけて言っている訳ではないのだろうが、青年は嘆息する。


「何度だって言うぜ。そいつは姫なんかじゃない」

「今は、な。いずれ姫として、この世界を統治するお方であることに間違いはない」

「無理矢理統治させるんだろうが」


 舌打ちし、青年はデバイスを起動させる。これ以上言葉をかわしたところで、互いに得るものはあるまい。相手の言葉を絶つように太刀で空を薙ぎ、剣尖を突きつける。


「邪魔はさせんぞ、ヴィレイサー」

「まさか覚えてもらえるとはね。光栄だよ」


 心にもない言葉を返し、ヴィレイサー・セウリオンは走り出した。大切なものを取り戻すために。


「今度こそ消えろ! 姫のために!」


 相対する男──ソリオは双剣を手に、ヴィレイサーの一太刀を受け止める。すかさず空いている刃を閃かせるが、それは予想済みのようで簡単にかわされてしまう。


「忌々しい下郎め……!」

「お前が言うことか!」


 ヴィレイサーからすれば、すずかをさらったソリオの方が充分に忌々しい相手だった。しかもお互いに相対するのはこれが初めてではないのだからなおさらだろう。


「くらえ!」


 ソリオの剣が刀身を僅かに光らせる。それに呼応するように、天井にできていた氷柱が次々と落下していく。後退を余儀なくされるヴィレイサーだったが、一瞬の隙をついて前へ踏み出すと一気に距離を詰めた。


「チッ」


 舌打ちして迎え撃つ構えを見せるソリオに対し、ヴィレイサーはたった1度だけ刃をぶつけると力の限り強く押し込み、ソリオを吹っ飛ばす。すずかを閉じ込めている氷にそっと触れる。


(こんな無茶をする奴があるかよ)


 すずかはソリオに誘拐されてから、この世界の姫として利用されることを聞かされ、それができないように自ら氷に閉じ籠ったらしい。


「姫に触れるな!」

「だから……姫じゃないって言ってんだろうが!」


 ヴィレイサーが立つ場所目掛けて、直上からソリオが刃を閃かせる。咄嗟に下がったヴィレイサーは、続いて飛来する氷柱を破壊していく。


「それは貴様が決めることではない」

「あいつが姫になることを望むって言うのか? 言うならもっとまともな冗談にしてくれ」

「貴様こそ、何故望まないと言いきれる? 権力と財力が手に入るのだ。誰もが求める力が!」

「あいつは1度だってそんな力を欲しいなんて言ったことはない」

「その言葉が嘘偽りだとしたら?」


 ソリオの言葉に、ヴィレイサーは黙った。何か心当たりがある訳ではないが、すずかとの付き合いが最近になってから始まったため、知らないことの方が圧倒的に多いのは間違いない。


「おい」


 だが、黙した理由はそんな“些細なこと”ではない。


「それは、すずかが嘘をついてまで権力と財力を求めたかもしれないって言いたいのか?」

「そうだ───っ!?」


 肯定した瞬間、ヴィレイサーの刃がソリオの眼前まで迫った。驚きはしたものの、双剣できっちり受け止めると魔力弾を使って遠ざける。


「あいつを侮辱することは赦さない」

「ほざけ! 貴様とて、姫をあいつ呼ばわりしているだろうに!」


 大きな氷の塊を作り出し、魔力弾とともに放つ。逃れようとするヴィレイサーに対し、足元に設置されていたバインドが発動し、その動きを制限する。


《Load cartridge.》

「烈光閃・突!」


 レイピアで貫くような所作で太刀を突き出し、魔力を放出する。お互いの攻撃がぶつかり合い、僅かな猶予が生まれる。その間にバインドから抜け出すと、ソリオの背後まで回り込もうとする。


「逃がすか!」


 またも天井から氷柱を落としていくソリオ。それらをかわしながら、しかしヴィレイサーは苦々しい顔をする。


(誘導されている……!?)


 このままではどこで追い込まれるか分からない。次なる攻撃をとんぼ返りしてかわすと、今まで通ってきたルートを逆走する。


「来ると思ったぞ」

「何っ!?」


 床に散らばった氷柱の破片が、一斉にヴィレイサーに襲いかかった。


「くっ!」


 慌てて顔を庇うが、鋭利な欠片が手足を痛め付けていく。その僅かな合間に、ソリオが肉薄する。気付いた時には眼前にまで迫られており、どう見ても回避は間に合わない。それでもかわさないで受けるよりはずっとましだと考え、必死に身体を動かす。


「ぐあぁっ!?」


 しかし、右肩に刃が突き刺さり、激痛が全身を襲った。愛機を手放しそうになるのをなんとか堪え、ソリオの追撃を許すまいと蹴り返す。


「ぐっ……」


 痛みを和らげる治癒魔法を使っても、この激痛がそう簡単になくなるはずもない。右肩を押さえながら後ろに下がるものの、あまりの痛みに膝をついてしまう。


「今立ち去れば、命を助けてやってもいいぞ?」


 優位に立ったことで、ソリオは嬉々とした表情で言った。しかしヴィレイサーは淡々とそれを否定する。


「ふざけるな。そいつを置いて帰るなんて選択肢、俺にはない」

「何故そうも姫に拘る?」

「……決まっているだろ」


 僅かな間を置いて、ヴィレイサーは微かだが口の端に笑みを浮かべた。


「俺のものだからだ」

「……何?」

「そいつは……月村すずかは、“俺だけの女だから”だ!
 だから、誰にも奪わせはしない!」


 自分を奮い立たせるように言い放ち、刃を一閃する。眼中にあるのは、想い人の姿だけ。


(すずか……必ず助ける)


 決意を胸に、ヴィレイサーはソリオに向かって走り出した。










◆──────────◆

:あとがき
遂にすずか編に着手……していません。
今回の嘘予告しか書けていなかったり。

ヴィレイサーがあまりに素直に想いを叫んでいますが、あくまですずかが聞こえていないから言えるだけだったり。
この時、すずかの意識があった場合はあんなこと言えません。いつも通りのツンデレなのでご安心ください(ぇ)

寧ろコラボ以外の時に素直に想いを言う時があるのか怪しいですけど。
原作キャラだと、ギンガ>フェイト>なのは>アリサ>すずか>ティアナ>カリムと言った順でしょうか。

意外と上位にいるのがフェイトさんと言う不思議(笑)


次回は何を投稿するか未定です。悪しからず。






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