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小説
大人の姿でも ☆








「と言う訳でレイスさん、変身魔法を学びましょう」


 にこにこと笑顔を見せながら言い放つ恋人、高町ヴィヴィオの提案に対して、向かい側に座していたレイスは不思議そうに首を傾げる。


「えっと……何が『と言う訳で』なんでしょうか?」


 あまりに唐突な提案だったため、彼女に「はい」とも「いいえ」とも答えられない。レイスに作ってもらった冷茶を一口飲んで気持ちを落ち着けてからヴィヴィオは口を開いた。だが───


「細かいことは気にしないでください」


 ───どうやら深くは考えていないようだ。


「いやいや、気にしますから」

「ですよね」


 苦笑いし、ようやく理由を話してくれた。ヴィヴィオが変身魔法をやって欲しいと言った理由──それは単純にして明解だ。


「私が、レイスさんの大人の姿を見たいからです」

「えー……」


 その潔さに応えようなどと思うはずもないが、断れば間違いなく不貞腐れてしまうだろう。レイスのその逡巡を知っているからこそ彼女はいつも目一杯甘えてくる。もちろん迷惑をかけない程度に、心掛けている。


「すみません、それはちょっと」

「どうしてですか?」

「変身魔法による体格の変化は、その人物の希望と最適化によるものになるのはご存知ですよね?」

「はい」

「だから、ヴィヴィオさんが望むような僕にはならない可能性もあるんです」

「もちろん分かっていますよ。でも、見た目でレイスさんへの想いが変わったりしませんから」


 確かにヴィヴィオの言うように、望んだ見た目と違うからと言って、気持ちに変化があるとは思えない。それでもやはり、彼女にとって理想があるのならそれに応えたいと願ってしまうものだ。


「……まぁ、要望は了解しました。ペイルライダーもいいですか?」


《はい、もちろんです》


 愛機の了承をもらったところで、一先ず玄関先に出る。屋内で失敗するより自宅への被害が少なく済むからだ。幸い、人通りは然程多くないので今の内だろう。


「うまくいくかどうか……」


 レイスはこれまで変身魔法を使ったことがない。必要に感じたことがないから──これが理由だ。だから緊張するし、なにより補助をしてくれるペイルライダーへの負担も大きい。しかし望んだ相手がヴィヴィオと言うだけでここまでやるとは、自分はつくづく彼女を好いているのだなと呑気に考えていた。


「では」


 足元に魔法陣が浮かび上がり、それに合わせてレイスの体躯も大人びたものになっていく。心踊らせるヴィヴィオだったが、その時───


《System error.》


 ───予想もしなかった声に驚く。


「え……」


 やがて光が終息し、レイスがゆっくりと振り向く。ヴィヴィオと同じように髪が伸びており、襟首辺りで束ねられている。体躯もしっかりと筋肉がついているのが服の上からでも分かる。だが決して筋骨隆々と言う訳でもなく、それでいてなよなよしくもなかった。

 ここまで見れば変身魔法は成功したかに思えるが、先程のペイルライダーの声が気になって仕方がない。


「レイスさん、私のことは分かりますか?」

「え? えぇ、もちろんですよ、ヴィヴィオさん」

「じゃ、じゃあ、何か忘れちゃったりは……?」

「多分ないと思います。ペイルライダー、エラーが発生したようですが」

《……申し訳ありません。現在、魔法を解除できない不具合が発生しています》

「……え?」

《端的に申します。マスターはしばらく、大人の姿でいることを余儀なくされました》

「えー……」


 最早予想外の事態についていけないのか、レイスはただただ呆然とした。


「と言う訳で、ペイルライダーを診て欲しいんです」

《なるほど》


 頭を抱えるレイスに代わって技術スタッフのマリエル・アテンザに連絡を取るヴィヴィオ。いつもならレオンとなのはには内密にしてもらうのだが、そうも言っていられない状況だ。後で大目玉をくらうだろうが、構わない。


「すみません、レイスさん。私がせがんだばかりに……」

「いえいえ。驚きはしましたが、学院は夏期休校中ですし、生活にも問題はないですから」

《マスター、私の不手際です。申し訳ありません》

「ペイルライダーも気にしないでください。別に貴女が悪いわけではありませんから。僕が補助を任せきりにしたのがいけないんですよ」


 愛機にもそう返し、レイスはキッチンに立って冷茶の準備を始める。


「よしっ! レイスさん、私もお手伝いします!」

「大丈夫ですよ。それに、レオンさん達が心配しますから」

「むぅ……」


 たまには頼られたいと思い立ったヴィヴィオだが、レイスはあっさりとそれを断った。膨れっ面になる彼女を見て、思わず苦笑いしてしまう。


「私、そんなに頼りないですか?」

「まさか。一緒にいるだけでも嬉しいですよ。
 でも、そんな責任を感じて手伝うと言われては、お互いに気が休まらないと思ったんです」

「あ……」

「ヴィヴィオさんには、笑っていて欲しいんですよ」


 しょげる彼女の前にしゃがみ、同じ目線で見詰める。その実、いつもと違う目線に少しばかり楽しい気持ちもあった。だから、思わずヴィヴィオを抱き抱えてみた。


「レ、レイスさん!?」

「すみません。何と言うか……思わず」


 苦笑いするレイスを見て、ヴィヴィオもつられて笑む。彼の言葉を信じて、今日のところは帰ることに。


「そうだ。レイスさん、明日って空いていますか?」

「えぇ」

「だったら、お互いに大人モードでデートしましょうよ!」


 くよくよしていたって仕方がない。ヴィヴィオは満面の笑みでレイスをデートに誘うのだった。





◆◇◆◇◆





 翌日───。

 フェイトに服を貸してもらい、いつもより大人びた服装に身を包むヴィヴィオと、ヴィレイサーから服を貸してもらったレイスが予定の場所で合流し、今にもデートに向かおうとしていた。

 そんな2人物陰から伺う人物がいた。ヴィヴィオの父、レオンと、そんな彼に半ば強引に連れ合わされたヴィレイサーだ。


「なぁ、何で俺まで付き合わなきゃいけないんだ?」

「お前の将来のためだ。イクスヴェリアに彼氏ができた時、慌てふためいても知らないぞ」


 レオンはヴィヴィオとレイスから視線を外さないまま言い放った。確かに彼の言う通りかもしれないが、実際は自分よりも恋人のアリサの方がレオンに似て簡単には容認しない気がする。


(そんなこと言ったら、また『関心がないのか』って怒られるよな……)


 今日ばかりは黙り込んでおいた方がよさそうだ。

 しばらくすると、ヴィヴィオとレイスは仲良く手を繋いで歩き出した。レオンとヴィレイサーの2人も、それぞれ別の道を歩いて追いかけていく。


「なんだかこの姿で手を繋ぐのって不思議ですね」

「そうですね」


 ヴィヴィオもレイスも、まだあどけなさはあるが少しばかり違和感を覚える。ヴィヴィオもそう思ったからなのか、しばしレイスを見詰めると、唐突にその腕に抱きついた。


「えいっ♪」

「さ、流石にそれは……」

「えー、嫌なんですか?」

「そ、そういうわけでは。ただ、歩きづらくないかなぁと」

「全然。大丈夫ですよ?」

「そ、そうですか」


 レイスとしてはこんなにも密着されては困るのだが、それを素直に言うと間違いなくより身体を寄せてくるだろう。そんな茶目っ気な性格を知っているから何も言えないのだが、言わなければ言わないだけ、発育のよい胸が当たるわけで───。


「レイスさん?」

「は、はい?」

「人の話、聞いてますか?」

「えっと……すみません、聞いていませんでした」

「もう……まさかと思いますけど、他の人のことを考えていたとか」

「そんなことは」

「ならいいんですけど」


 不思議そうにする彼女の様子を考えると、わざとやっているわけではなさそうだ。もしわざとだとしたら、かなりあざとい。そんなことはなさそうなので、一先ず安堵する。


「ところで、行き先は考えているんですか?」

「いえ。だから、いつもトレーニングに使っている通りをのんびり歩こうかなぁって」


 確かにチーム・ナカジマの面々が普段トレーニングに使っている道は海沿いと言うことで、のんびり歩くには打ってつけかもしれない。


「ん〜、風が気持ちいいですね」


 次第に近づくにつれて、海からの風が心地好く身体に駆け抜けてくる。風になびくサイドテールの髪を押さえる仕草が、見た目と相まって大人びた魅力を感じさせる。見とれているとまたからかわれそうなので、レイスも目の前に広がる水面に視線をうつす。


「レイスさん、喉渇きませんか?」

「そうですね。飲み物でも買ってきます」


 ヴィヴィオには待っていてもらうことにして、レイスは自動販売機へと向かう。残された彼女は欄干に両手をつき、ぼんやりと海を眺める。しかし、何故か今日は周囲からの視線が多く感じられた。なんとなく様子を伺うが、誰も声をかけてきたりせず、ただ通りすぎていく。


(私たちって言うより、なんだか私を見ている人が多いような?)


 不思議に思っていると、幾人かの女性がおずおずと声をかけてきた。


「あの……高町ヴィヴィオ選手ですよね?」

「えっ!? あ、はい」


 彼女らの質問に驚きながらも、ようやく合点のいったヴィヴィオはにこやかな笑みを浮かべる。普段は自分の名前を知る同級生にしか気付かれないが、大人の姿と言うことでインターミドル・チャンピオンシップに出場していた本人だと気付いたようだ。

 インターミドル・チャンピオンシップは女性選手が数多出場することから、男性はもちろんのこと、その身近さも相まって女性のファンも少なくない。試合の感想を熱く語られたり、握手を求められたりと、ヴィヴィオは困惑しながらも応えていく。


「ヴィヴィオさん──って、これはいったい?」

「す、すみません。ちょっとだけ待っていてください」


 戻ってきたレイスに返しながら、それでも自分の試合に感動したと言ってくれる女性たちへ感謝するヴィヴィオ。その表情からは嬉々としたものが確かに伺えた。


「大人気だな」

「当然だ」


 その様子を遠巻きに眺めるヴィレイサーとレオン。娘にファンが集まっている光景に、レオンは何故か自慢気だ。だが嬉しく思うのはヴィレイサーも同じようで、胸を張るレオンに対し「そうだな」と同意する。


「幸い、野郎はいないみたいだな」

「いたらどうするつもりだったんだよ」

「そりゃあ、すぐにでもボコボ──いや、なんでもない」

「……なんかボコボコにされるだけで済む方が良さそうな気がしてきた」


 きっとその時はレイスと結託してでも声をかけてきた男性を追い込むことだろう。親バカだと言いたいが、次第に人のことを言えないのではないかと感じ始め、素直に口をつぐんだ。


「びっくりしました。まさかファンの人達だったなんて」


 やがて解放されたヴィヴィオは、レイスに手を繋がれて手近なベンチに腰掛け、溜め息混じりに呟く。


「そういえば、大人の姿ではあまり外出しないんでしたっけ?」

「そうなんですよ。パパとママが、変なことに巻き込まれないようにって」

「確かに、何があるか分かりませんからね」

「でも、さっきの中に男性がいなくて助かりました。突然加われたりしたら、慌てちゃって何もできなかったかも……」

「その時は、僕がちゃんと守りますよ。ヴィヴィオさんは、僕にとって大切な人なんですから」

「レイスさん……えへへ」


 嬉しそうにはにかみ、頬を赤らめるヴィヴィオ。レイスがそっと頬に手を伸ばして触れると、自然と互いの瞳が合った。


「ヴィヴィオさん」

「はい」


 これはキスをする流れではないだろうか──そんな淡い想いが沸き上がり、思わず声が裏返りそうになる。そして───


「今日はセイクリッドハートは一緒ではないんですか?」

「……え?」


 ───あまりに予想外な問いに、ヴィヴィオは間の抜けた返事しかできなかった。しばらく呆然としていたが、慌ててレイスの問いに答えるべく口を開く。


「い、一緒ですよ。今は私の中にいます」

「そうでしたか。いつも傍にいますから、ずっと違和感があったんです」

「へ、へー……」


 ここでセイクリッドハートを表に出せば、話題は間違いなく持っていかれることだろう。


「話しますか?」

「いえ。一緒ならそれで」


 その言葉にちょっと安堵しつつ、セイクリッドハートに申し訳なく感じてしまう。頭を振って気持ちを切り替える。すると視線の先にクレープ屋の屋台を見つけた。


「レイスさん、クレープ食べませんか?」

「いいですね」


 並んで屋台に歩き出し、美味しそうなクレープの絵が描かれたメニューをじっくり眺める。


「うーん……悩みますね」

「中々決められない気持ち、分かります」


 ヴィヴィオもレイスもしばらく悩んだものの、やがて決心がついたのか早速頼むことに。


「では、僕はクッキー&チョコレートで」

「私は……ストロベリー・スペシャル・デラックスを」

「えっ!?」

「え?」


 ヴィヴィオの注文したクレープは、この屋台で販売されているものの中で最も高価なものだ。その分大きさも最も大きいが、初等科の彼女が支払うには高値だろう。


「あの、ここは僕が支払いますから」

「流石にそれは悪いですよ。それに、フェイトママが今日のためにってお小遣いを少しくれたので」


 フェイトは未だに子供に対して甘いところがある。今回もそれ故だろうが、ヴィヴィオはもちろん全額使うつもりはないらしい。


「それでも、僕が出します。たまには、その……彼氏らしいことをしたいので」

「もう! そんなことしなくても、レイスさんは私の彼氏ですよ」

「まぁ、そうなんですけどね。では、じゃんけんをして勝った方が支払うと言うのはどうでしょう?」

「いいですよ」


 拳を握り、ヴィヴィオは意気込む。じゃんけんに持ち込まれた時点でレイスの勝利は揺るぎないことにも気づかずに。


「じゃんけんぽんっ!」

「…どうやら僕の勝ちみたいですね」


 グーを出したヴィヴィオに対し、レイスはパーだった。誰が見てもレイスの勝ちで間違いないのだが、ヴィヴィオは納得がいかないのか唸っている。


「やっぱり3本勝負にしませんか?」

「ダメです」


 にっこりと笑顔で断られてしまった。ここは引き下がるしかないかと思い、溜め息を零しながら出来上がるのを待った。


(どうやらコンタクトモードは使っていなかったみたいですね)


 いくらフェイトが資金を出してくれたと言っても、高い買い物に変わりはない。仕方なく、レイスは幻術で自分の出した手を変えたのだ。ちなみに幻術を使わなければ負けていた。


「はい、どうぞ」

「それじゃあ……ご馳走になります」


 クレープを目の前にして、ヴィヴィオはぱっと笑顔になる。はしゃぎそうになるのを抑えているようだが、そんなところも愛らしく感じる。近くにはちょうど木陰になっているベンチがあり、いそいそとそこに腰掛けてすぐさま一口。


「ん〜っ、甘くて美味し〜♪」

「えぇ、美味しいですね」


 生地と中身の甘さがぶつかり合うことはなく、しつこさは感じられない。ヴィヴィオは甘いクレープに満面の笑みを浮かべており、そこには大人の姿でありながら普段のあどけなさがあり、レイスも自然と笑む。


「あ、レイスさん、クリームついていますよ?」

「え?」

「私が取りますから、じっとしていてください」


 そこまで口早に言うと、ヴィヴィオはずいっとレイスに近付く。そして口元についているチョコレートクリームを“舐めて取った”。


「え……」

「えへへ♪ なのはママとパパがしていたので、いつかしたいなぁって思っていたんです」

「そ、そうなんですか」


 恥ずかしさのあまり声が裏返っていないかかなり気になったが、ヴィヴィオからなんの指摘もないと言うことは大丈夫なのだろう。


(いやいや、そうではなく──っ!?)


 自分にツッコミを入れた時、どこかから殺気を感じて反射的に振り返る。だが、どこにも人の姿は見受けられない。


(まぁ、やっぱり気になりますよね)


 こんなちょうどよいタイミングで殺気を感じたと言うことは、相手はヴィヴィオの親に限られる。しかしそれを話せばヴィヴィオは間違いなく剥れてしまうので黙っておく。


「ヴィヴィオ! お前はどこでそんなことを覚えた!?
 あれか? やっぱりレイスが無理矢理教えたのか!?」

「落ち着け。と言うか、十中八九お前となのはが原因だろ」


 今にも飛び出していきそうなレオンを宥めるヴィレイサー。ここで出ていけば尾行していたと決めつけられるのは必至だ。そうなればヴィヴィオからの冷たい視線にさらされてしまう。いつもからかっているヴィレイサーでも、彼が気落ちするところは見たくない。


「離せ! 問いたださないと俺の気が済まないんだよ!」

「帰ってから然り気無く聞けばいいだろ」

「どうすれば然り気無く聞けるんだよ、こんなの」


 レオンの言う通りなだけに、ヴィレイサーもそれ以上は何も言えない。


「まぁ……こういう時はフェイトが適任じゃないか?」

「くっ……あいつに任せきりにするのは申し訳ないって言うのに」


 一先ず飛び出していかずに済んだところで、安堵の溜め息を零して視線を戻す。今はクレープを食べさせ合っているが、これくらいなら見せつけられたこともあるので耐えていられるようだ。


(はぁ……早く終わってくれ)


 このままでは自分かレオンのどちらかが気疲れするだろう。ヴィヴィオとしてはどう思うか分からないが、早くレイスの姿が元に戻るにこしたことはない。


「したいこと、ですか?」

「はい。ちょっとレイスさんにしてあげたいことがあるんですけど……」


 一方、ヴィヴィオとレイスはそんな願いに気付くはずもなく、会話を続けている。


「でも、ここだと人の目があるのでレイスさんの家でお願いします」


 この姿だからこそしてあげたいことがあるのだと言うヴィヴィオの要望に従い、レイスは彼女の手を取って歩き出した。





◆◇◆◇◆





「完全に蚊帳の外、だな」

「くっ……仕方ない、ここは諦めるか」


 流石に乗り込むわけにもいかず、レオンは素直に引き下がる。あの2人ならば良識があるのだからとんでもない事態になることはないだろうが、気にかけてしまうのが道理だ。


「それじゃあ帰るか」


 ヴィレイサーも踵を返したところで、2階にある部屋のカーテンが僅かに揺れたのが見えた。恐らく部屋に入ってきたのだろう。案の定カーテンが開かれ、レイスの姿が現れる。長居してはヴィヴィオに目撃されかねないので、足早に離れた。


(まだ尾行されていたんですね)


 管理局正規の魔導師だけあって、殺気を感じた時以外に尾行の気配は察することができなかった。帰っていく彼らを見送り、レイスはベッドに腰掛けているヴィヴィオに言われて隣に座る。


「それで、僕にしたいことってなんですか?」

「えっとですね……私に、膝枕させてください!」

「膝枕?」


 思わぬ提案に首を傾げると、理由を話してくれた。


「レイスさん、大人の姿になってまだ不安なんじゃないかなって思って……だから、私の膝枕で少しでも元気になれたらなぁって!」

「なるほど。確かに外だと難しいですね」

「流石に私も恥ずかしいですから。
 レイスさん。さぁ、どうぞ♪」


 そう言ってぽんぽんと自分の膝を叩くヴィヴィオ。正直なところ、周りの目がなくとも恥ずかしいのだが、せっかくの申し出だ。甘えさせてもらうことにしてゆっくりと頭を乗せる。


「ど、どうですか?」

「どうと言われても……これが初めてですからね。
 でも、なんだか安心します。きっと、ヴィヴィオさんが傍に居てくれるから、ですね」

「そ、そんなこと……」


 否定しようとするヴィヴィオの唇に、そっとレイスの指が当てられる。否定しないで欲しいと言っているのだと分かり、言葉を呑み込む。


「ですが、ヴィヴィオさんこそ少し寝てはどうですか?」

「え?」

「ちょっと眠そうにしていますよ。貴女のことですから、責任を感じてよく眠れなかったんじゃないですか?」

「えっと、その……」


 図星を点かれ、目を泳がせれヴィヴィオ。隠したい気持ちと嘘をつきたくない気持ちとが沸き上がり、困惑してしまう。それを見抜いたレイスは身体を起こすと彼女を優しく抱き寄せた。


「今回ばかりは僕の我儘を聞いてください。ヴィヴィオさんには、笑顔でいて欲しいんですから」

「あ……そうですよね。
 私、レイスさんを励ましたいって思っていたけど、本当は自分への励ましだったみたいです」

「いいじゃないですか。こうして気付けたんですから」


 笑み、レイスはヴィヴィオと唇を重ねる。甘く、優しさに満ちた口付けにヴィヴィオはぱっと笑顔になり、レイスを押し倒すのだった。










◆──────────◆

:あとがき
レイス×アインハルトなんてなかったんです(ぉぃ)

積極的なヴィヴィオですが、レイスだからこそそんな彼女の機微に気付けるのではないかなと思ったり。

ヴィヴィオは何かトラブルがあるとそれに対して凹みがちになってしまいましたが、恋人に対してだけはこういった弱い一面も見せられるといいなぁという自分の願望です。違和感しかなかったらすみません(汗)

次回こそは本編のアフターエピソードを投稿出来たらと思います。






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あきゅろす。
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