小説 第4話 「七星 風と雨」 ヴィレイサーが機動六課に傭兵として雇われてから数日後。 フォワード陣のテスト結果が今朝発表された。 「全員合格だよ。」 「「早っ!?」」 なのはの即答に、スバルとティアナは驚く。 「ま、あんだけやったのにダメだったなんて許されねぇけどな。」 ヴィータにそう言われ、スバル達4人は苦笑いを浮かべるしかなかった。 「今回はそれの記念に、この後はお休みにします。」 「やったー!」 ◆◇◆◇◆ 「アイツらはうまくやってるみたいだな。」 ヴィレイサーは外で仲良く話しあっている4人を窓から見下ろしながら、はやてに言う。 「せやな。 ほんなら、今日の仕事の事なんやけど。」 「あぁ。」 「最近、この森林地帯で魔力反応があるんや。 しかも、以前話した例の7人の内の1人や。」 「なるほど。 それの調査という訳か。」 「うん。 頼むで、ヴィレくん。」 「あいよ。」 軽く返事をして部隊長室を出ていく。 ◆◇◆◇◆ 「あ、ヴィレ兄は今から仕事?」 「あぁ。」 「そっかぁ………。 せっかくお休みを貰ったから一緒に出掛けようと思ったのに。」 「ごめんな。 でも、今度必ず一緒に街に行こう。」 「本当?」 「あぁ、約束だ。」 「うん!」 スバルが笑顔になったのを確認してから、ヴィレイサーは目的地へと飛翔する。 「ポイント、頭に叩きこんであるよな、エターナル?」 [もちろんです。] 「そうか。 それじゃあ詳細な案内を頼む。」 [了解です。] (例の7人の内の1人、か………。) ヴィレイサーは移動しながら、前回湖畔であった事を思い出す。 ニクス、ヘイルは誰だか会話でわかったが、他はわかっていない。 (あのニクスと言ったあの少年、彼の力は底知れない感じだな。 それにあの感じは………。) そこまで考えて、それを止めるように首を振る。 (そんなはずはない。 もしそうだとすれば、俺はいったい………。) 魔法少女リリカルなのはStrikerS─JIHAD 第4話 「七星 風と雨」 所変わって、スカリエッティのラボ。 「ふむ。 逃げ出したアレの行方はまだ掴めないのか。」 [はい。 申し訳ありません、ドクター。] 「いずれその所在は掴めるだろう。」 「娘さん方はどうですか、ドクター?」 スカリエッティの背後から現れたのはニクスだった。 「やぁ君か。 何、問題無いさ。」 「そうですか。 ところで、ヴィレイサーの方がヴァンに近づいてきました。 少し遊ばせてやってもいいですか?」 「構わないよ。 あの作品は既に崩壊が始まっているからね。」 「そうですか。」 それを聞いたニクスはその場を後にした。 ◆◇◆◇◆ [ヴァン、今いいかな?] 「ニクス? 何かしら?」 モニターに映し出されたニクスを見ていたのは、 白を基調としたバリアジャケットを着た、若い女性だった。 [今そっちにヴィレイサーが向かってるんだ。 恐らく君を探しているんだろうね。] 「ヴィレイサーが………。」 [殺さずに、だけど君も殺されないように頼むよ。] 「わかったわ。」 通信を終え、ヴァンは周囲を見回す。 「まだ来ないのかしら。」 ヴィレイサーに会えるのが楽しみなのか、ヴァンは笑っていた。 ◆◇◆◇◆ 「おや、例の探し物、見つかったようだね。」 [ルーテシアお嬢様が近くにいるみたいです。] 「ふむ、協力を頼んでみてくれ。」 [かしこまりました。] 「ニクス、俺も外に出てぇんだけど。」 「ダメだよ、ヘイル。 それに、君には別の仕事をしてもらわなきゃ。」 「あん?」 「ディエチさんのサポートだよ。」 「アイツはもうあれが精一杯だよ。 今の所は、だけどな。」 「そう。 ところでゲイルは? 今朝から見かけて無いんだけど。」 「あいつなら、ルーテシアん所にいるぜ。 なんか、ゼストと仲が良くなっちまったぜ?」 「まぁ、仲が良いのは構わないよ。」 「そうなのかねぇ。」 ◆◇◆◇◆ [ルーテシアお嬢様、仕事をお願いしたいのですが。] 「うん、いいよ。」 ウーノからの指示に、ルーテシアは即座に答えた。 [ありがとうございます。] 通信が切れた後、ルーテシアの背後から仮面をつけた男─────ゲイルが現れた。 「いいのか、ルーテシア。」 「うん。 それに、ガリューもいてくれるから。」 「そうか。 俺も行くべきか?」 「大丈夫。 それに、ゲイルはゼストが無理をしないように見ててほしいから。」 「わかった。 気をつけて行けよ?」 「ありがとう。」 ◆◇◆◇◆ そして、ヴィレイサーの方にも動きがあった。 「……ッ! この感じは………。」 前を見据えると、ヴァンがいた。 「ヴィレイサー・セウリオンね?」 「そうだが、お前は?」 「私の名前はヴァン。」 「ヴァン………。 お前を含めた7人は、俺と関係があるのか?」 「さすがに気付いたようね。 けど、私達の事は大して知らないんじゃない?」 「あぁ。 情報なんて一切無いからな。」 「なら教えてあげるわ。 私達7人は太古の戦士、『七星』(しちせい)よ。」 「『七星』………。」 「そう。 私達は別に造られた訳じゃないわ。 1人1人が大きな力を持っていた。 それを軍事に転用して、『七星』が結成されたの。 もちろん寿命もあるわ。 だけど、それを許さなかった当時の権力者達が、 永い刻を私達を生きながらえさせるために身体を弄った。」 「光闇の書に封じ込める為か。」 「その通り。 光闇の書を開いた者が、白紙のページに名前を書けば私達は外に出られるって訳。」 「研究員を殺したのは何故だ?」 「足手纏いにしかならなかったからよ。 それに、白紙のページに名前を書き込んでも、制御はできない。 できるのは私達を外の世界に出すだけ。 うるさく命令されるのは御免なのよ。」 「最後に聞きたい事がある。」 「何かしら。」 ヴィレイサーは己の感じていた事を確かめる為に、ヴァンに質問をする。 「お前の………。 ……いや、“お前達の遺伝子は、俺に組み込まれている”のか?」 「……正解。」 そう言いながら笑ったヴァンは、銃の引き金を引く。 「チッ! 戦うしかないのか、俺達は!」 「フフッ。 わかり合えるとは思えないわ。 私達が今共に行動をしている相手を知ったらね。」 「スカリエッティか!?」 「お見事。」 ヴァンに太刀を振るうが、それは素早い彼女にあっさりとかわされた。 「クッ!」 反撃に備えてシールドを展開するが、そこからの攻撃は無かった。 「何? ッ! 真上か!」 直感し、すぐにその場を移動する。 先程までいた箇所には、2本の翡翠色の砲撃が走った。 その砲撃が来た方を見ると、太陽があった。 「目くらましか!?」 「遅い!」 目を眇めて視線を逸らした時、背後からヴァンの声が聞こえた。 風を切る音が響いたが、ヴィレイサーはそれを紙一重でかわす。 「よくよけられたわね。」 「強い………。」 以前の創世の書事件の時、多数対1でも生き残ってきたが、さすがは七星の1人。 ヴィレイサーも苦戦を強いられるのは当然ともいえる。 「蒼天悠牙斬!」 ヴィレイサーの攻撃を迎え撃つ為、ヴァンはもう1本剣を引き抜き、2刀流にする。 そして、両方の剣に風が纏わりつく。 「風牙天空閃(ふうがてんくうせん)!」 ヴァンの技はヴィレイサーの攻撃を受け止めながらも、 風を纏った剣から発せられる鎌鼬により、相手を切り刻んでいく。 「クッ……ウゥ………。」 ヴァンの刃から発せられる鎌鼬に所々を切られて、ヴィレイサーは顔を歪める。 このまま鍔迫り合いを続ければ、明らかに自分が負けるのを確信したヴィレイサーは、 急いでそれを止めて退こうとしたが、それは叶わなかった。 「逃げようとしても無駄よ。 私の剣から出される風で、身動きできないようにしてあるから。」 (くっそ。 奴からの風圧で動けん………。 ここは、シャドーファントムを使うしかないか。) ISのシャドーファントムを使い、ヴァンの背後に影で模られた自分を作る。 「Astral Rain.」 数多くの光の矢がヴァンの腕、足を貫いた。 「ガァッ!? クゥ………。」 ヴァンが怯んだ隙にカートリッジを使い、ジャベリンにする。 「貫け! 光龍穿破(こうりゅうせんは)!」 ジャベリンで模った魔力を思い切り投げる。 完璧に捉えた。 そう思った瞬間、ヴァンの目の前の空間が歪み、1人の男が現れた。 男はすぐさま膝にある剣の柄を引き抜き、魔力刃を発生させる。 「レイニー・デリート(雨による消去)。」 ジャベリンに突如雨が降り、それからは煙が出てきた。 「酸性雨による技の破壊………!? 衝撃波だけ投擲して良かった。」 [危うく私まで消される所でしたね。] 「ヴィレイサー・セウリオンか。」 「レーゲン!? どうしてここに?」 「お前が危ないからだ。 さて、悪いが退かせてもらうぞ?」 「あぁ、構わない。 俺もこれ以上は命の危険を感じるからな。」 「ありがたい。 お前とは、別の形であっていれば戦友となれたかもしれんな。」 「今からでも遅くないと思うぞ。」 「そんな考えを持っている限り、貴様は我らには勝てん。」 そう言って、背中に背負っているバズーカを地上に向ける。 「撃つのか?」 「麻薬の畑だけだ。」 「知っていたのか、ここの森林区画に麻薬の元となる畑がある事を。」 「我らが主、ニクスはなんでも知っている。」 「ちょっと、レーゲン。 それは言っていいの?」 「問題無かろう。 では、遠慮なく撃たせてもらうぞ。」 バズーカからカートリッジを射出する。 「消し飛べ。 アルバレスト!」 バズーカから撃ち出された弾の速さは、思いの外速かった。 それは着弾し、周囲を焦土と化した。 威力、弾速、どちらも申し分なかった。 「そうだ。 ヴィレイサーよ、貴様の仲間が今危うい状況にあるぞ。」 「なんだと!?」 「急いだ方がいいかもね。」 レーゲンとヴァンは笑みを浮かべ、空間を歪ませて消えた。 「チッ! 急ぐぞ、エターナル。」 [Yes,Leader.] 第4話 「七星 風と雨」 了 [*前へ][次へ#] |