小説
第1話 「機動六課へ」
「出張任務、ですか?」
オレンジ色の髪をツインテールにした少女、ティアナ・ランスターが、
上司である高町なのはに聞き返す。
「うん。
実は、この地点に微弱な魔力反応が7種類ほど確認されたの。」
なのはは、それを表すモニターを表示する。
そこには、魔力反応を赤で示した点が7つあった。
「それで、今回は2人にここを見に行ってきてほしいの。」
「わかりました。」
隣にいるティアナの相棒、スバル・ナカジマが返事をする。
「よろしくね。
でも、油断はしないようにね。
何かあったら、ちゃんと連絡する事。」
「了解です。」
「それじゃあ、行ってきます。」
◆◇◆◇◆
「なんだ? この感じは………。」
一方、スバル達が向かっている箇所の近くで、1人の青年が蒼天を仰いだ。
「微弱ではあるが、向こうの方からか………。」
立ち上がり、感覚を研ぎ澄ませる。
そして、正確な位置を身体に刻ませる。
「次に行く目的地が決まった。
行くぞ。 エターナル・デイブレイク。」
[Yes,Leader.]
愛機に呼び掛け、次の目的地へと飛翔する。
聖なる堕天使─────ヴィレイサー・セウリオンが。
魔法少女リリカルなのはStrikerS─JIHAD
第1話 「機動六課へ」
「ここね。」
「うん。
それじゃあ早速捜索を開始しようか。」
ティアナとスバルは目的地に到着し、早速任務を開始する。
◆◇◆◇◆
「あ、ティア、アレ!」
数十分後、スバルがティアナを傍に呼び、湖を指さす。
そこには、真っ白な本が湖上に浮いていた。
「何、アレ?」
「とりあえず、なのはさんに連絡しよう。」
2人が手早く上司に連絡を取ろうとした時、
彼女達の向かい側から1人の男性が現れた。
白衣を着ているという姿からして、恐らくは何かの研究者だろう。
彼は湖上に浮かぶ真っ白な本を見つけると、歓喜の声をあげた。
「やったぞ!
これで私は世界を手にする事が出来る!
アッハハハハハハハ。」
それを耳にしたスバルは焦る。
「ティ、ティア……どうしよう………。」
「今はなのはさんに聞くのが先決でしょ?
私が連絡するから、スバルはあいつから目を離さないで。」
「う、うん………。」
だが、そこにもう1人の客人が大空に現れた。
「あ、あれは………ヴィレ兄?」
スバルの言う通り、それはヴィレイサー・セウリオンだった。
◆◇◆◇◆
「ここら辺のはずだが………。」
[リーダー、真下にいくつか反応があります。]
「何?」
愛機の言葉に、下を見ると、1冊の本が目に入った。
そして、それに近づく研究員の事も。
「あれは、いったい………。
ここで呆けていてもしょうがないな。」
即断し、一気に本の近くに舞い降りた。
「その本、お前はなんだか知っているのか?」
いきなりの質問に、研究員は驚くが、それには答えずに本へと歩みを進めた。
「答える気は無いか………。
ならば、実力行使といくか。」
空間からエターナルを出現させ、抜刀する。
だが、その時別の方向から予想外の声が聞こえた。
「ヴィレ兄!」
「ッ!? ス、スバル?」
視線を向けた先には、バリアジャケットに身を包んだ妹の姿があった。
だが、その一瞬の隙に、研究員は本を手にしてしまった。
(っ! しまった!)
急いで駆け寄ろうとするが、それは本から発せられた見えない障壁によって阻まれた。
「チッ!」
舌打ちし、ただ見ているしかできない自分を恨む。
「クックックッ………。
ようやく手に入れたぞ、光闇(こうあん)の書を!」
「光闇の書?」
[私も初耳なものですね。]
研究員は本を開き、パラパラとめくっていく。
だが、どのページにも、何も書かれてはいなかった。
(どういう事だ?
書物なのに何も書かれてはいないなんて………。)
やがて男の手が止まった。
「このページだな。」
ペンを取り出し、何かを書いていく。
そして、それが終わった後、蒼天にそれを掲げる。
「さぁ、書物の中でのみ生きる事を許された戦士達よ、今ここに甦れ!
我が名は、グリード・アバライス!」
そう言った瞬間、書物から眩い光があふれだした。
そして、それが収まった時には、グリードの周りに7人の男女がいた。
「目覚めたか、七星(しちせい)。」
グリードの最も近くにいた端正な顔立ちの少年が、
それに反応したかのように目を開く。
「ここは………。」
目を開いた少年は周囲を不思議そうに見回す。
「君達。」
徐々に目を開いていく男女に、グリードが声をかける。
「私が君達を目覚めさせたのだ。
これからは私の為に働けよ。」
それを聞いた彼らは、顔の端に笑みを浮かべた。
それを少し離れた所から見ていたヴィレイサーは、背筋が凍るような錯覚を覚えた。
(なんだ?
コイツらのこの隠しきれないほどのプレッシャーは………。)
それを感じ、更に距離を取る。
だが、それに1人の男が目を向けてきた。
しかし、興味が無いのか、すぐさま視線を戻した。
「さぁ、私の言う事を聞け、戦士達よ。」
「その前にやる事ができました。
ヘイル。」
とてもリーダー格とは思えない少年が、
隣にいた黒を基調とした服に陽気そうな男に言う。
「あいよ、ニクス。」
それに答えるかのように、ヘイルと呼ばれた男は腰に提げてある銃を手にし、
何を思ったのか、研究員に銃口を突き付けた。
「な、なにを!?」
「あなたに従う気はありません。
僕らの主は、他にいますからね。」
ヘイルの代わりに、最初に目を開いたニクスが淡々と言う。
「マズイ!」
ヴィレイサーはすぐさま移動し、スバル達の前に立ち、シールドを展開する。
「ヴィ、ヴィレ兄?」
「話は後だ、スバル。」
そう言った瞬間、スバル達の目の前で、巨大な閃光が迸り、轟音が辺りに響いた。
「オイ、ヘイル。
少しやり過ぎじゃないか?」
仮面で顔を隠している長身の男が、
グリードを撃ち殺してヘラヘラと笑っているヘイルに言う。
「ハァ? どこがだよ、ゲイル。」
「別にあれが『普通』なんだからいいじゃない。」
そうやってヘイルに味方したのは、一番背の低い少女だった。
「それより、こことは別の場所に行きましょう。
せっかく現世に出れたのですから。」
ニクスの言葉に、異論を唱える者はいなかった。
「ニクス、あの男達はどうするの?」
更に別の女が口を開き、ヴィレイサー達を見る。
「今の所は彼らに戦闘の意志はない。
こちらも、無益な戦いは避けるべきだよ。」
それだけ言い、デバイスを一切使わずに空へと飛翔するニクス。
残りの6人もそれに倣い、どこかへと飛び去った。
◆◇◆◇◆
「行ったか。」
「ヴィレ兄!」
「おわっ!」
いきなりスバルが飛びついてきて、
ヴィレイサーは彼女を止められずそのまま一緒に倒れてしまった。
「久しぶり〜。」
未だに離れないスバルの頭を撫で、ヴィレイサーはもう1人の少女に目がいった。
「ちょっと、スバル! 何やってんのよ!?」
「あ、ティア。」
オレンジ色の髪をツインで結んだ少女が駆け寄り、スバルを無理矢理離す。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、すまない。 ありがとう。」
「機動六課の者です。 あなたは?」
「あぁ、俺は………。」
ティアナの問いかけに答えようとしたが、先にスバルが答えた。
「ヴィレイサー・セウリオン。
私のお兄ちゃんだよ、ティア。」
「兄妹………?」
「まぁ、ちょいと事情があってな。
ところで、さっき君は機動六課って口にしていたが………。」
「あ、はい。
私達の………。」
「私達の所属している部隊だよ。」
今度はティアナの説明を遮り、スバルが答える。
「そうか………。
良かったら、そこに俺を案内してもらえないか?
そこに知り合いが………高町なのはがいると思うんだが。」
◆◇◆◇◆
「ヴィレくん、久しぶり〜。」
六課の隊舎に到着し、出迎えたなのはを掌底で突き飛ばす。
「にゃわ!?」
「一々来るな。 鬱陶しい。」
ヴィレイサーは嘆息し、ティアナとスバルに向き直る。
「ここまで連れてきてくれてありがとうな。」
「いえ。 それでは私達はこれで。」
「ヴィレ兄、また後でお話ししようね!」
「あぁ、約束だ。」
「待ってるからね〜。」
礼儀正しく一礼したティアナに、スバルは追いつき、一緒にどこかへと向かった。
そして、なのはに向き直る。
「2年ぶりだね、ヴィレくん。」
「そうだな、なのは。」
なのはは笑みを浮かべ、ヴィレイサーは表情を変えずにそう言う。
共に歩む事を知りながら………。
第1話 「機動六課へ」 了
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