小説 エピローグ 魔法少女リリカルなのはWars エピローグ エクシーガとの最終決戦を終えた次の日。 ヴィレイサーはベッドから起き上がる。 シャマルの治療の甲斐あってか、傷はほとんど癒えていた。 だがそれは、表面に見える傷だけだ。 内部にある傷───遺伝子暴走による破壊は、既に破滅への階段を上り始めている。 とは言え、進行がどれほどのものかはわからないので、対処のしようが無い。 (とりあえず、着替えるか。) カーテンが仕切られているのを確認してから、すぐに着替える。 隣のエクシーガはまだ寝ているのだろう。 起こさないようにそそくさと部屋を出ていく。 「あ、ヴィレイサー・・・。」 部屋を出た所で、フェイトとバッタリ出くわす。 「傷は、もう大丈夫なの?」 「一応はな。」 それだけ言って、フェイトに背を向けた。 すると、フェイトがクスクスと笑いだした。 「なんだ、いきなり?」 「だって、ヴィレイサーの髪、不揃いなんだもん。」 「あぁ?」 後ろ髪を指さされ、そこを触る。 フェイトの言う通り、確かに不揃いな感触が伝わる。 「私がバッサリ切ったからじゃないかしら?」 すると別の所からエクシーガの声が聞こえた。 「よう、目、覚めたのか。」 「お陰さまで、ゆっくり眠れたわ。」 それだけ言って、エクシーガは先に歩いて行った。 「どこ行くんだ、アイツ?」 「朝食じゃないかな? ヴィレイサーも行こう。 昨日から何も食べて無いんでしょ?」 「だから、引っ張るなと言っているだろうが・・・。」 グイグイと引っ張っていくフェイトに言うが、彼女はお構いなしだった。 食堂に着くと、ヴァンガードとデュアリスが取っ組みあっていた。 「何やってんだ・・・。」 呆れながら聞くと、リュウビが苦笑しながら説明してくる。 「なんか、料理を取り合ってたみたい。」 「下らないな・・・。」 フェイトを置いて歩いて行き、未だに取っ組みあっている2人の近くに座る。 「残ってんのなら貰うぞ。」 「「あ・・・。」」 残っていた唐揚げをヒョイと口に放り込むと、2人は静止した。 「クレームは後で聞いてやる。 コイツでな。」 エターナルを見せ、戦う事を示す。 「止めとく。 お前、今は療養中だろ?」 「なんか、そういう奴と戦うのは、罪悪感があるし。」 「逃げるのか・・・。」 試しに挑発してみるが、デュアリスがそれを鼻で笑った。 「勝てないくせに、何言ってんだよ。」 「そうそう。」 「んだと・・・。」 逆に挑発に乗りそうだったが、それをフェイトが宥める。 「抑えてよ、ヴィレイサー。」 「チッ・・・。」 舌打ちし、食事を再開するヴィレイサーに、2人は更に追い打ちをかける。 「女に宥められるなんてな・・・。」 「と言うか、フェイトに宥められて抑えたって事は、 少しだけ気があったりして・・・。」 「テメェら殺す! 今殺す!」 エターナルを起動させ、太刀を抜刀する。 「ヴィレイサー!」 再びフェイトに注意されるが、ここで止まれば、 また煽られる事は目に見えているので、抑えない。 「お、なんだ? まさかフェイトに気があるってのが図星だったのか?」 「だからってそう慌てるなって・・・。」 「ぶち殺す・・・。」 どうやら、どういう風に動いても煽られるようだ。 「まったくもう・・・。 流星剣舞。」 リュウビが嘆息し、APWの剣をヴィレイサー達3人に向けて射出し、動きを止めた。 「食事場で騒がないでよ。 子供じゃないんだから・・・。」 「武器を出したお前に言われたくない。」 「誰の所為よ!」 口答えしたヴァンガードに、更に剣を飛ばす。 「ごめんなさい・・・。」 「リュウビには口答えしない方がましだぞ。」 「命が惜しく無いのなら別だがな・・・。」 「そこの2人も、余計な事言うな!」 「リュウビ、破損部分はどうする気だ?」 クロノに問い詰められ、しばし考えるが、名案が浮かんだ。 「あの3人に請求しといて。」 「「「オイ、コラ・・・。」」」 「まったく・・・。 朝からとんだ目にあったぜ。」 ヴィレイサーは頭を掻き、隣を歩くフェイトに愚痴る。 「でも、なんだか仲が良くて微笑ましかった気がするよ。」 「まぁ、確かに仲はいいけど。 そういえばお前、食事中に誰にメールを送っていたんだ?」 「あぁ・・・。 私が保護した男の子だよ。 この子、エリオ・モンディアル。」 モニターに赤毛の少年の姿が映し出された。 「この子、私と同じプロジェクトFで生み出されたんだけど・・・。」 フェイトはそこで言葉を切ったが、ヴィレイサーは彼女の言おうとしている事が、 なんとなくだがわかった気がした。 「親に裏切られたのか。」 「うん・・・。」 「だが、お前なら救えるはずだ。 最初から諦めたりするなよ?」 振りかえり、フェイトに指を向ける。 「ヴィレイサー・・・。」 「お前が諦めたら、ソイツは今度こそ、絶望しちまうんだから。」 それだけ言って、ヴィレイサーは歩きだし、フェイトも笑って彼のあとに続いた。 「それじゃあ、エクシーガとリュウビ、 そしてデュアリスとヴァンガードは一足先にレーベに戻るのか?」 「あぁ。 早めに復興作業に戻りたいし。」 クロノの質問に、デュアリスは頷き返す。 「けど、ヴィレイサーはまだ療養だから、一緒には戻れないな。」 「構わないさ。 それより、ヴィレイサーが皆に話があるって言ってけど・・・。 クロノは何か聞いて無いのか?」 「いや、何も。 そういうのは君やリュウビの方が先に知ってるかと思っていたが・・・。」 ヴィレイサーが指定した一室に到着し、2人は会話を終えた。 そこで彼が話したのは・・・。 「えっと、つまり抑制遺伝子が機能しなくなってるって事?」 「まったくという訳じゃない。 抑制できるものと、できないものがあるんだ。 このまま対策を講じない場合は・・・。 持って3、4年って所だろうな。」 「そ、そんな・・・。」 誰もが絶望してしまったかのように思えたが、フェイトは違った。 「“講じない場合”って事は、“講じれば助かるかもしれない”って事?」 「そこまではわからないな。 だから、せめて進行を抑える薬だけでもなんとかならないか?」 ヴィレイサーはそう言ってシャマルに視線を向ける。 「私は医師です。 最初から諦めませんよ。」 笑みを浮かべ、彼女は急いで医務室へと向かった。 「でもヴィレイサー、どうして皆にその事を話したの?」 未だに一室に残るフェイトは、椅子に座るヴィレイサーに聞く。 「大きな理由は無いが・・・。」 言葉を切り、窓から外を眺める。 「もしかしたら、お前のお陰かもな。」 ボソリと呟くが、フェイトは聞こえなかったのか、首を傾げる。 「なんて言ったの?」 「別に・・・。 なんでもねぇよ。」 そう言って踵を返し、ヴィレイサーは1人で医務室に向かった。 胸に残る、1つの暖かな言葉を信じて。 あなたには、『私たち』がついてるから─── [*前へ] |