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小説
Episode 32 弱さと強さ











 ヴィヴィオが入浴している頃、レイスはなのはに出してもらったジュースで喉を潤わせつつ、未だにそわそわしていた。


「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。友達の家にいるだけなんだし」

「それは、そうなのですが……」

「それとも、ヴィヴィオとは友達じゃないかな?」

「いえ、そんなことは」

「それなら良かった。
 そういえば……レイスは、ヴィヴィオのことを全部聞いているんだよね?」

「あ、はい。合宿の際に」


 ヴィヴィオにとって聖王オリヴィエは複製母体(オリジナル)と言う話は聞いたが、それで彼女に対する見る目が変わることはない。寧ろあんなにも明るく、しっかりしているのは凄いし、尊敬してしまう。そのことをなのはに話すと、彼女は嬉しそうに笑みを零した。


「前はもっと甘えたがりだったし、泣き虫だったんだよ」

「そうだったんですか」

「でも、今はレイスのようにしっかりしてきて……親としては、ちょっと寂しい気もするけどね。まだまだ甘えてくれてもいいと思うし」

「きっと、甘え過ぎるのはよくないと思っているのかもしれませんね」

「レイスも、そう思う?」

「はい。甘えることは、弱さだと感じます」

「んー……弱さ、か。私は違うと思うけどなぁ」


 味見をして頷いてから、なのははレイスと対面に座る。ついでに彼のコップに改めてジュースを注ぎ、自分も水を一口飲んでから改めて口を開く。


「確かに甘え過ぎはよくないかもしれないけど……だけど、甘えること、自分の弱さを見せることは、寧ろ強さだと思う」

「強さ……」

「うん。他人なら猶更だけど、家族にさえ弱いところを見せられない人は多いから。
 だけど、自分だけで考え込んでいたら、もっと何もできなくなっちゃう……そう、教えてもらったんだ」

「……ラーディッシュさんに、ですか?」

「ふぇ!? な、何で分かったの?」

「いえ、なんとなく」

「あ、あはは。レイスの言う通りだよ。
 私ね、ケインくんと出会う前に無理をしすぎたせいでリンカーコアにかなりのダメージがたまっていたんだ。それをケインくんに指摘された時に、私のことを信じてくれている仲間を信じろって言われたの」

「…彼らしいですね」

「そうだね。仲間想いで、かっこいいよ。
 話がそれちゃったけど、レイスも何かあったら言ってね。遠慮なく相談に乗るから」

「……機会があれば」


 柔和な笑みを浮かべるなのはに対し、しかしレイスはいつもと変わらぬ様子で返した。中々に手強いなぁと内心で思いつつ、無理に干渉しようとはしない。


「レイスは今の考えには納得いかない?」

「そういうわけではありませんが……ただ、あまり頼ろうとする気はありません。
 幼い頃からペイルライダーと一緒でしたから、彼女がいれば大抵のことはなんとかなりましたし」

「なんとかならなかった時は、どうしていたの?」

「諦めました。然程固執する性格でもないので」


 あっさりと言うレイスに、思わず目を丸くする。確かに彼は物欲があまりないように感じてはいたが、まさかそれがかなりのものだとは思いもしなかった。


「レイスさん、お待たせしました」

「いえ。こちらこそ、なんだか催促してしまったみたいですみません」

「いえいえ」


 やがてヴィヴィオがリビングへ来たので、出来立ての夕飯をテーブルへ並べていく。もちろんレイスとヴィヴィオもそれを手伝ってくれたので、特に労することもなかった。


「ママ特製【疲労回復、明日も頑張ろう!】メニューだよ」

「わぁ、美味しそう♪」

「ありがとうございます」

「いただきまーす♪」

「はい、どうぞ。
 あれ? 2人がつけているのって、もしかして魔力負荷バンド?」

「そうだよ。
 本気のスパーリングをする時と、眠る時以外は身に着けているようにって」

「へ〜。じゃあ、それを2つもつけている辺り、レイスはヴィヴィオたちより少しは抜きんでているのかな?」

「どうでしょう。ですが、もしそうなら嬉しいですね。
 やはり強さを感じられると自信にもつながりますから」

「だね」


 その後も、たわいない話をしながら夕食を進めていく。やがてすべて食べきり、ヴィヴィオは早く寝ようと寝室へ向かった。レイスも帰ろうと玄関まで来るが、何故かなのはに引き止められてしまう。


「もう遅いし、送っていくよ」

「いえ、それには及びません。ここから近いですから。
 それに、ヴィヴィオさんを御一人にしてしまうのは……」

「そうなんだけど、もうちょっとすれば多分……あ、帰ってきた」


 レイスを送っていくと言ってきかないなのはだったが、近づいてくる足音に気がついて顔を上げる。それと同時にフェイトが帰宅する。


「あれ、レイス?」

「こんばんは」

「ちょうどよかった。
 疲れている所申し訳ないんだけど……フェイトちゃん、レイスを送るから留守番をお願いしていいかな? ヴィヴィオはもう寝ているから」

「あ、それじゃあ私が送っていくよ。今日は事務仕事が多めだったから、そんなに疲れていないし、なのははこれから余所行きに着替える必要があるでしょ?」

「それじゃあ……お願いしようかな」

「うん、任せて。
 レイス、送らせてもらっていいかな?」

「分かりました。お手数ですが、お願いします」

「気にしないで」


 鞄をなのはに任せ、フェイトはレイスとともに夜道を歩いていく。


「レイス、特訓はどうかな?」

「やはりラーディッシュさんにいいようにされてしまいますね。
 とは言え、教え方に不服はありません。意外と指導が板についている気がします」

「多分、ティアナと一緒に執務官として頑張っているからじゃないかな。
 だいぶ人を見る目を養えたって、本人も言っているし……レイスも、少しは変わったかもね」


 にこやかにほほ笑むフェイトの言葉に、レイスは不思議そうに首を傾げる。彼女の言うように自分が変わったとは思えない。


「どうでしょう……僕は、そんなことはないと思います。
 フェイトさんが美化しすぎているだけではないでしょうか」

「ううん、そんなことはないよ。
 前よりももっと優しくなった……そう、思う」

「優しくなった、ですか……もしそうならそれは、僕が更に仮面で隠せるようになった、と言うことかもしれませんね」


 ふっと自嘲の笑みを浮かべる所は、相変わらずだ。だがそれでもフェイトは彼の言葉を素直に受け止める気はなかった。なんと言われようと、優しくなった──そう確信している。


「……フェイトさん、ここまでで結構です」

「え?」

「これ以上遅くなってはフェイトさんが帰宅するのも心配ですから。それに、ここから近いので1人で大丈夫です」

「もしかして……“尾行されている”ことに気付いていたの?」

「えぇ。家を出て、少し歩いた後なのでいつからかは分かりませんけど……」

「4、5分前だね。多分、自宅の場所は知られていないと思う」


 前を向いたまま言葉を交わすレイスとフェイト。自然とデバイスに手が伸びる。だが、そんな2人に、今度は前から1人の男性が近づき、一礼して名刺を差し出してきた。


「すみません。私、こういうものなんですが……今、お時間よろしいでしょうか?」

「記者、さん?」

「えぇ。実はインターミドルチャンピオンシップに出場する選手の意気込みを集めている仕事をしているのですが……お二人は、どちらか出場なさいますか?」

「いえ、僕たちは……」

「私の弟が、出場します!」


 レイスが否定するより早く、フェイトが両肩を掴んでレイスのことを強調しだした。何事かと思って振り返ると、彼女は目配せしてきた。どうやら何か探りを入れるようだ。


「でも、今の実力に不安があって……試合までに、もっと力をつけさせたいんです」


 続くその言葉で、ようやく彼女が何をしようとしているのか分かった。既にフェイトの耳にも、危険な薬に関しての情報が行っているようだ。


「それでしたら、いいのがありますよ」


 よもや鎌をかけられているとは思っていないのか、記者を名乗る男はにっと笑みを深くした。懐から取り出されたのは、白い粉末が入った小さな袋。どうやら、薬で間違いないようだ。


「…すみませんが、お話を伺わせて頂きます」


 すぐさま自分が執務官と言う役職にあることを明かし、フェイトは記者に詰め寄る。


「っ! フェイトさん!」


 だが、彼女が記者に問いを投げるより先に、尾行をしていた者が迫ってきた。慌ててペイルライダーを起動させるが、いつもより重たい。


(しまった……!?)


 そのせいで、距離を詰めてきた相手に向けて振るった一閃は躱されてしまい、そのお返しとして放たれた正拳が腹に直撃した。


「がはっ!」


 小柄な身体は思い切り吹っ飛ばされ、ごろごろと道路を転がされる。あちこち擦り傷ができるが、それ以上に痛みを抱えた腹部を摩ったレイスだったが、身体を起こそうとした時に頭が異常にくらくらすることに気がついた。


「うっ……げほっ!」


 強い衝撃が放たれたのは、どうやら腹だけではなかったらしい。腹部への一撃がかなり強かったせいで、頭部にまで拳を叩き込まれたことに気付けなかったようだ。必死に堪えていたレイスだが、しかし身体は吐き出すことを要求してくる。やがてこらえきれず、僅かながら血を零してしまう。


「レイス!」


 バルディッシュを起動させて応戦するフェイトは、レイスを襲撃した男を引き留めようとするが、記者が慌てた様子で逃げ去るのを見て思わず立ち止まってしまう。


「大丈夫、ですから……フェイトさんは、追ってください」

「でも……!」

「いいから!」


 食い下がろうとするフェイトを一喝し、レイスはふらふらとしながらも立ち上がる。男はフェイトが追走しようとするのを赦さないつもりだろうが、彼女の速さがあれば振り切れるはずだ。


「…フラムルージュ!」


 双頭刃の刀身だけを飛ばし、男とフェイトの間に突き刺してすぐさま爆破させる。それを目くらましとしてフェイトが走り出したのを確認し、レイスも臨戦態勢を取る。だが、男は既に件の薬でドーピングしているのか、レイスが予想するより早く動いた。


(くっ! 疲労と、リストバンドのせいで……!)


 魔力負荷が施されるリストバンドの影響で、どうしても劣勢に立たされてしまう。外そうとするよりも先に男が猛襲してくるため、外すに外せない。


「おらぁっ!」

「あっ、ぐ……!」


 再び距離を詰められ、レイスは荒々しい攻め手に苦戦を強いられる。シールドを展開し続けてダメージを減らすが、それでも徐々に蓄積されていくダメージに、膝を着いてしまう。


「それ以上はさせないよ!」


 だが、記者を取り押さえたフェイトが戻ってきてくれたお蔭で、それ以上は攻撃されずに済みそうだ。へなへなと腰をおろし、疲労に屈してしまいそうになる思考をなんとか維持させて、いつでもフェイトの援護ができるようにする。

 フェイトは男が仕掛けないと見るや、先に動き出す。バルディッシュを振りおろし、躱されても追撃をされないように更に真横へ一閃した。素早い攻撃を武器に、男を翻弄するフェイトを見て、一先ず安心する。今の内に誰かに連絡を──そう思ってペイルライダーに指示を出すより先に、ペイルライダーの方が警告してきた。


《Master!!》

「え?」


 ふっと目の前が翳った。何が起きたのかと面を挙げた時、拘束されていたはずの記者が目の前にいた。


「こちらも、商売なんでね」


 不敵に笑いながら、両手に白い手袋をはめて近づいてくる記者。フェイトは男を押さえるのが手一杯の様で、助けは期待できない。いや、レイスとしては助けられることが情けない気がして嫌だった。


(なんとか、しないと……!)


 悠然と近づいてくるのがせめてもの救いか。レイスは左手にあるリストバンドを外すと、彼の方から仕掛けた。今日の特訓で、1つだけならそこまで苦ではなかったことは分かっている。僅かな時間稼ぎしかできないだろうが、多少なりともフェイトの役に立てるならありがたい。


「虚実閃!」


 自分の四肢の位置と動きを幻術で誤魔化しながら戦うことを選んだレイス。魔法をうまく出せないので、爆破魔法を設置するのは厳しいが、攻撃していく中で外せばいい。


「ふっ、本当にインターミドルに出場するなら……もっと力がないとねぇ!」


 レイスが向かってきたのを嘲笑うかのように言い放つ記者だったが、彼が描いた拳の軌道を読んで躱したと思ったはずの一撃が顔面に強打されたことに目を見開く。それに驚いている暇を与えてくれたのはレイスにとってありがたい。


「ご忠告、感謝します。ですが……せめて僕を鎮めてから言うべきです」


 いつもの憎まれ口を叩きながら再び走りだし、記者に向かって回し蹴りを見舞おうとする。それに対し腕を交差させてやり過ごそうとする動きを見て、レイスはすぐさま幻術を活かす。交差させている腕に当たるかと思われたレイスの蹴りは幻術で、当たった瞬間に足がぶれた。そう思うより先に、記者は腹部へ走った痛みに悶える。


(やっぱり……この人、魔導師でも競技者でもない。ただ薬で一時的に強くなっただけだ)


 相手がまるで素人だと分かると、レイスは残っているリストバンドも取り去って、一気に攻めていく。腹部の痛みに苦しむ記者の顔面へ今度こそ回し蹴りを当てると、更に正拳と裏拳を使って攻めたてる。


「…今! 断空閃!」


 ぐっと力を込めた蹴りを、靴底を爆破させて勢いづけた回転でさらに威力を高めて繰り出す。断空と言う名を冠している通り、これはアインハルトが教えてくれた技の1つだ。彼女はまだ拳での技しかないが、レイスが合宿で行った練習試合の際に靴底を爆破させることで移動しているのを活かしてはと、この方法を教えてくれた。


「あとは、バインドを……!」


 吹っ飛んだ記者に駆け寄り、バインドを施そうと手をかざそうとする。だが、僅かに記者が動いたことに加え、鋭い殺気を感じて慌てて後退する。それに一拍遅れる形でひゅんっと何かが風を切る音がした。レイスの服は胸部辺りが真一文字に裂かれており、その鋭さを物語る。


「無手は苦手でね……やはり、得物がないと気が乗らないんだよ」


 自慢げに振るわれたのは、青竜刀だった。いつの間にそんなものを抜刀したのか気になって刃を見ると、段々になっている箇所がいくらか見受けられた。どうやら一閃することで収納された刃が広がる形となっているようだ。


(完全に油断してしまうとは……)


 幸い怪我はしていないが、その構え方を見るに中々の手練れのようだ。少しずつ後ろに下がって間合いから逃れようとするが、それを赦すまいと近づいてくる記者。このまま手をこまねいていては状況を悪くするだけだ。レイスは虚実閃を解除しないまま対峙する。


《Master!》

「む?」


 だが、ペイルライダーと記者が何かに気がついた。いや、2人だけでなくフェイトと、彼女と対峙していた男も同じ方向を見る。確か、この周辺はフェイトが結界を施しているので一般人は入ってこられないようになっているはずだ。だが、彼女たちが視線を送った先には、黒いコートに身を包んだ男性が1人立っている。その人影に、レイスは見覚えがあった。アインハルトのデバイスを受け取りに行く時に襲撃された際、助けてくれた彼だ。


「…貴殿は、確か日中に会ったな」

「は、はい」


 相手──シグルドも、レイスのことを覚えていたのか被っていたフードを外して言葉をかける。次いで、レイスに対して青竜刀を向けていた記者を見る。


「随分と物騒な物を持っているな」

「ただの暴漢撃退用ですよ」

「ほう? そこの少年が暴漢と?」

「えぇ」


 営業用の笑みを浮かべる記者に、レイスはシグルドに向き直る。ここで薬のことを明かせば、味方になってくれるはずだ。と、口を開こうとした矢先、フェイトが自分の名を呼んだ。それを理解すると同時に、直上から先程までフェイトと対峙していた男がのしかかってくる。頭を鷲掴みにされ、道路に強く押し付けられる。


「…少年を虐待しているようにしか見えぬが?」

「これも仕方のないことですよ」

「……ならば、俺が今から何をしようと、仕方のないことだとしてくれ」

「は?」


 何を言っているのか疑問を持った記者だったが、シグルドがちらりとレイスを押さえつけている男を一瞥すると、その背後のコンクリートから白銀の鎖が飛び出してきた。それは男の首にまとわりつくと、シグルドの命に応えるように勝手に動く。


「引け、ケットゥ」


 苦しさからレイスを押さえていた手が離れる。その瞬間、シグルドは男の顔面へ向かって真正面から蹴りを叩き込もうとする。鎖が引く力と共に繰り出せば、レイスから離れるに違いない。しかし相手は両足で踏んばったのか、その場から微動だにしない。しかも片手でシグルドの脚を掴んでダメージを和らげていた。


「…その程度か。嗤わせる」


 だが、シグルドが今一度蹴りに力を籠めると、片手での防御だけでは足りなかったようで、一気に壁まで吹っ飛ばされた。


「なっ……!?」

「…少年、無事か?」

「は、はい。なんとか……あの、彼らは貴方が調査している薬について知っています」

「ほう。それは朗報だ。
 貴様、薬を入手した経緯を言えば多少なりとも手加減するが……どうする?」

「悪いが、かなり多くの仲介者がいて手に入れたものだから、知らないな。
 たとえ知っていたとしてもお断りだが」

「ならば、遠慮はせん。早々に片を付けるとしよう」


 そう言って、シグルドは懐から愛機──リベリオンを取り出す。起動させても普段の格好と相違ないが、バリアジャケットに変わっただけ多少の無理が利くようになった。


「舐めるな!」


 先に仕掛けたのは記者だった。シグルドへ向かって真っ直ぐに走りだし、そして斬りかかるかと思いきや、彼の脇を通り抜けてレイスへと向かった。自分が狙われるとは思っていなかったのか、レイスは防御が間に合わないことを悟って呆然としてしまう。


「…舐めているのはどちらだ?」


 青竜刀がレイスへ到達することはなかった。刀身を人差し指と中指で挟み、それ以上の進行を阻止するシグルド。押すことも引くことも赦されなくなった記者は、ただ続くシグルドの攻撃を受けるしかなかった。


「ぐっ……!」

「意外とタフのようだな。あちらは防御がなっていなかったが」

「あっちは薬の副作用で壊れ始めてきたからな」

「それを分かっていながら、他者に薦めるか。そのふざけた性根……圧し折ろう」


 記者の手から離れた青竜刀を鷲掴みにし、粉々に握りつぶす。それに肝を冷やしたのか、記者からは先程の覇気がなくなっていた。その一瞬の隙をついて、フェイトがバインドを施す。最初よりも、ずっと強固なものを。


「あなた方を、逮捕します」


 その後フェイトは他の局員に2人を任せ、自分はレイスの怪我の手当てを進めていく。擦り傷ばかりだけなので、そこまで親身にならなくても大丈夫なのだが、彼女が頑として聞き入れないのでこうして受け入れている。


「大丈夫?」

「はい。擦り傷がほとんどですから」

「でも、吐血していたよね? やっぱり、病院に行った方が……」

「こんな遅くにあいているところはありませんよ。無理を言うのは迷惑でしょうから」

「…それじゃあ、せめて明日、病院に行ってくれる?」

「分かりました。では、それで」

「……話は終わったようだな」

「あ……はい。2度も助けて頂いて、ありがとうございます」


 レイスとフェイトの話が終わったところで、壁に背を預けていたシグルドは2人に歩み寄る。今は人が多いこともあり、いつものように深くフードを被っていたが、フェイトが訝しい目を向けてきたので他の局員には背を向ける形で向き直り、フードを取る。


「あなたのことを、聞かせてもらってもいいですか?」

「ふむ……確か、ハラオウン執務官だったか」

「私のことをご存じなのですね」

「有名人のようだからな。もっとも、最近の者しか知らぬが。
 もう夜も遅い。明日、この近くにあるヘラクレスと言うバーに来てくれ。できればそちらの少年も、な」

「僕も、ですか?」

「あぁ。俺のことを口外せぬよう改めて頼みたい故」

「分かりました。詳細は、追って連絡します」

「うむ、助かる。では明日」


 シグルドは一礼すると、早々に2人から離れた。その背を見送り、レイスは溜め息を零す。今は早く帰って寝てしまいたい。そんな彼の気持ちに気付いてか、フェイトも彼を早々に帰してくれた。










◆──────────◆

:あとがき
レイスは基本的に、ペイルライダーさえ一緒にいればそれでいいと思っていますが、それが歪だと感じてはいません。
これがどう変わっていくのか、見守って頂けたらと思います。

後半ではフェイトから変化があったと言われたものの、レイス自身はそれについて受け入れることはありませんが、これは追々別の子によって変化をさせていきたいですね。
ちなみにアインハルトではないです(爆)

次回はシグルドとの会話と、レイスのちょっとした入院シーンになります。






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あきゅろす。
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