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Episode 20 練習試合(3rd STAGE)
「行くよ、エリオ」
「はい、フェイトさん」
「ノーヴェ、準備はいい?」
「当たり前だろ」
試合開始直後から先行を始めたフェイト、エリオ、スバル、そしてノーヴェの4人を見送ってから、レイスもコロナと共に移動を開始する。
「援護は任せて、頑張ってきてね」
「ルーテシアさんこそ、気を付けてください」
「そうだよ、ルーちゃん。私たち、みんな前に出ちゃうからルーちゃんを守れないし……」
「私は大丈夫。危なくなったらガリューにも手伝ってもらうし」
「…では、コロナさん」
「あ、はい」
ルーテシアに一礼して、レイスはコロナを先導する形で進んでいく。彼女曰く、激しく動くのは苦手らしい。そのこともあって、先行する4人とはかなり距離ができつつある。
「…フェイトさんが接敵したみたいです」
地図を見てみると、フェイトが敵チームの2人と接触したのが示されていた。エリオはフェイトに先に行くよう指示されたみたいだが、それも誰かが阻んでいる。
(妙ですね)
しかし、レイスは相手の布陣に首を傾げる。地図では相手が誰だか分からないようになっているのだが、先頭に居るであろうエリオを抑える役目をしているのが1人、そしてその先にいるのが2人と言うのはおかしい。フルバックのキャロと、砲撃型のなのはとティアナの3人がいると睨んでいたが、どうやらそうではないようだ。
(それに、これは……)
地図を見ていると、目まぐるしく動き回るメンバーに合わせて各点も忙しなく動いている。だが、どう見ても数が合わない。相手のメンバーが、1人だけ足りないのだ。
「…コロナさん、ここからは僕と別行動をお願いします」
「え? は、はい。分かりました」
「それと、例の作戦ですが……本当に、いいのですか?」
「……はい。もちろん、ブランゼルとゴライアスに悪いなぁと思いますけど、あくまで最後の手段ですし、それに……ブランゼルも、認めてくれましたから」
剣の形をした愛機をそっと撫でて微笑むコロナ。少しだけ、無理をしているのがその表情から分かった。
「コロナさんは、優しいですね。
それは、貴女にとって大事な美点です。忘れてはいけませんよ?」
「え? あ、はい」
頭を優しく撫でられ、コロナは頬を朱に染める。それに気づいているのかいないのか、レイスはしばし続けてから彼女に先へ行くよう促した。
やがてビルに1人残ったレイスは、深い溜め息をついて1つの支柱に向かって声をかける。
「いつまでも隠れていないで、いい加減出てきては如何ですか?」
「……なぁんだ、ばれちゃっていたのね」
苦笑いしつつ出てきたのは、ティアナだった。先程までは完全に気配を消していたようだが、恐らく幻術魔法の1つだろう。
「流石に、どなたかなのかは分かりませんでしたが……ラーディッシュさん、幻術魔法を……オプティックハイドを、使えたのですね」
「えぇ。そういうレイスこそ、使えるんじゃないの?」
「いいえ。あれは必要とされる魔力が多いですからね。
それにしても、まさかここまで来るとは思ってもいませんでした」
「最初はあたしも後方で砲撃支援をしようと思ったんだけど、絶対にフェイトさんとエリオが来ると思ったからね。
前中衛を一気に寄越されたら流石にケイン達だけだと無理だろうから、こうしてルーテシアを先に潰そうと思ったんだけど……まさかばれるなんてね」
「地図を見ながら移動をしていましたから。相手を示す点が足りなかったのにすぐに気付けました。
それにこのレイヤー建造物は直しても、廃ビルという設定だったので砂埃などが酷かったこともあって、ラーディッシュさんが入ってきたのが足跡ではっきりと分かりましたよ」
「流石ね、レイス。
それにしても、コロナに随分と優しかったわね?」
「彼女に無茶をお願いしたので。卑怯ではありますが、好感を持っていただかないとモチベーションが上がらないでしょう」
肩を竦め、自嘲の笑みを見せるレイスに、ティアナは微笑んだ。それが嘘だと言うのは明白だ。
「それ、嘘でしょ?
コロナってば、ヴィヴィオやリオと比べるととっても頑固になる一面があるからね。この練習試合に勝ちたいから、その無茶もあの子から言い出したんじゃない?」
「…さぁ、どうでしょうね」
「まったく……自分を卑下するところ、誰かさんにそっくりね」
呆れるティアナが発した後半の呟きも聞こえたが、レイスはそれが誰なのか聞く気は全くなかった。双頭刃を構え、彼女と対峙する。
「あたしにばかりかまけていていいのかしら?」
「えぇ。他の方には頑張ってもらわないと、僕が楽をできませんから」
「じゃあ、あたしも全力でやらせてもらうわ!」
片方のクロスミラージュの銃口と柄に魔力刃を展開し、ハンドガンのままの方で牽制しながらレイスへと接近する。その戦法に戸惑いを覚えつつ、レイスは応じた。
同じ頃、エリオはリオに足止めされていた。彼女の春光拳に翻弄されながらも、少しずつなのはへと近づいていく。だが、そうすればそうするほど、彼女の援護射撃を食らう可能性も高くなる。やはり、ここは自分よりもフェイトが一気に近づいた方が撃墜できる可能性は高そうだ。
「はっ、はぁ……!」
「…ふぅ」
だが、スピードを活かしてリオへのダメージは着実に増えている。息切れしているリオは、未だに攻めきれないことに焦りを覚え始めていた。
(エリオさん、相当強いな……ストラーダからの攻撃を弾こうにも、電撃を付与されちゃうし、こっちが攻撃に転じればすぐ躱して後ろに回り込まれる……きついかも)
(まだまだ攻め気が逸る時はあるけど、どの一撃もしっかりしている。
なのはさんが期待しているのも分かる気がするな)
再び互いに走りだし、ストラーダと拳をぶつけ合う。その度に電撃が走り、確かにリオから体力を奪っていった。このまま攻めようと、エリオは拳に電撃を付与する。ストラーダを弾かれはしたが、それはリオも同じ。ストラーダとぶつかり合ったことで互いに胴ががら空きになった瞬間、その拳を叩き込んだ。
「紫電一閃!」
「あうっ!?」
クリーンヒットした一撃は、リオの体力を大量に奪っていく。残りのライフが3ケタになった彼女の追撃に入ろうとしたエリオだったが、彼の行く手を阻むように氷の刃が飛来した。
「…ケインさん」
いつの間にか、ケインがそこにいた。だが、彼はダイヤモンドストラッシュを放つばかりで、その場から動こうとしない。
(これは……)
予めティアナが配置していた幻術だ──そう気づいたエリオを、背後からリオが強襲した。
「轟雷炮!」
鋭い声と共に繰り出された蹴りに、エリオは驚いたこともあってダメージを負ってしまう。幻術の援護はてっきり、リオを下げるものだと思っていたからだ。なのに彼女は下がるどころか、攻撃の手を緩めようとしない。
(回復させる気がない……? まさか!)
フルバックを担当しているキャロが回復させてこない理由に気付き、エリオはすぐさま味方へ通信を繋いだ。
「赤チーム、ガードウィングのエリオです。青チームは恐らく、フリードを……!」
そこまで言った矢先、竜の声が響く。振り返った先に見えたのは、キャロが従えている竜のフリードだった。
「フリードって、確かルシエさんの……」
「そうよ。なのはさんとキャロ以外は囮ってこと」
笑みを浮かべるティアナに、レイスは苦笑いした。召喚を成功されては、こちらに勝目がなくなってくる。だが、ここで急いで援護に回れば、ルーテシアを完全に孤立させることになるに違いない。レイスは先程から大した反撃をしてこないティアナを訝しく思いながらも、攻め続ける。双頭刃で斬りかかるが、ダガーモードのクロスミラージュに阻まれてしまう。
(ならば!)
反撃をしようと、左手に握られたクロスミラージュの銃口が向けられると同時に、レイスももう片方の刃を差し向けた。魔力刃と魔力弾がぶつかり合い、相殺される。
そして互いに離れ、改めて対峙する。
(やはり、追撃はしてこないようですね)
彼女の魔力量は、今までの試合でかなりあることは分かっている。それでいて、何もしてこないのは甚だ不思議でしょうがない。
(彼女が使う魔法で、最も魔力の消費が激しいのは……幻術)
恐らく、これまでの道中でいくつか幻術を設置してきたのだろう。ならば、いつまでも彼女にだけかかずらっている訳にもいかないだろう。
(…来たようですね)
レイスがふっと微笑んだ瞬間、何かが近づいてくる音が聞こえ始めた。ティアナも気付いたのか、周囲を警戒する。そして、彼女がシールドを展開した周囲、そこに何かがぶつかった。
「ガリューね!」
ティアナの読み通り、高速で移動してきたのはガリューだった。彼女の叫びに応えるように姿を見せ、構えをとる。
「ルーテシアのことは、いいのかしら?」
「いいに決まっているでしょ。なんたって、私も一緒に行動するんだもの」
「っ!」
まさかルーテシアが一緒に来るとは思っていなかったのか、ティアナは後ろを振り返る。既にルーテシアの周りにはダガーが配されており、いつでもティアナを撃墜できる状態にあった。
「…あたしはここでリタイアみたいね」
溜め息を零し、ティアナは両手を挙げて降参の意思を示した。
「すみません。もっと早くに移動できれば良かったのですが……」
「気にしない気にしない。ティアナは魔力の残量が少なくても強いからね。撃墜されなくて良かったわ。
改めて状況を確認するけど、今のところ撃墜できたのはティアナとリオだけ。こっちはエリオのライフが危険域だけど、私も前に出ちゃう以上は回復に回れないわ」
「分かりました」
「ケインさんがスバルとノーヴェを足止めしているみたいだけど、フリードが召喚されたからそっち優先ね」
「なのはさんを後回しにするんですか?」
「と言うか、後回しにせざるを得ないかな」
苦笑いするルーテシアに、レイスはフリードがどれほど厄介なのかなんとなく察した。
「あら? ケインさん、どうやらエリオを撃墜しちゃったみたい。しかもそのままフェイトさんの所に向かっているわね」
「スバルさんとノーヴェさんは?」
「…うん、まだ大丈夫。じゃあレイス、作戦通りに」
「はい」
「本当はエリオを撃墜したケインさんを直接ひっぱたきたいところだけど、ここは我慢しないとね」
「…試合後に何かけしかけてみてはどうですか?」
「いいわね♪」
にやりと意地の悪い笑みを浮かべ、ガリューと共にスバル達と合流しに向かった。それを見送ってから、レイスはコロナのところへ急いだ。ちょうど、ゴライアスの創成が完了したようだ。彼女はフェイトのところへ向かうが、ケインがそれを阻んだ。
「ケインさん、随分と動き回っていますね」
「まぁな。せっかく女の子達が頑張っているんだ。ここで頑張らなきゃ、男じゃねぇ!」
ゴライアスはケインの進行方向を読んでか、少し早いタイミングで動いて接近を阻む。
「やるな、コロナ」
「えへへ。いっぱい勉強して、いっぱい練習しましたから」
「はははっ、頑張る女の子は好きだぜ」
「ふえっ!? ケ、ケインさん、他意がないのは分かっているんですが、いきなりそういうこと言うんですね」
「いや、実際コロナはヴィヴィオ達の中で一番頑張っていると思うし。
それに、本当にいいと思うからな」
「えへへ。いつも見ていてくれるんですね、ありがとうございます。
もっと頑張って、もっとケインさんに褒めてもらえるよう頑張っちゃいますね♪」
「あぁ、期待させてもらうよ。
さて、再開させてもらうぜ。ダイヤモンドストラッシュ!」
氷の刃を放つが、それはゴライアスの上半身が回転することであっさりと砕かれてしまった。
(正攻法じゃ勝てないか? これをひっくり返したって言うんだから、リオには驚かされるよ)
自分には流石にそれはできっこない。だが、他にもできそうな者を知っている。1度会ったきりで、今はどこをほっつき歩いているか分からない、放浪癖を持った青年を思い浮かべ、つい笑みを零してしまう。きっと、季節など関係なく黒のコートを着て、フードを被っているに違いない。
「おっと! ちょっとぼーっとし過ぎたかな!」
走り出し、ゴライアスの拳をかわす。その巨体は、あくまでコロナが動かしている。ならば読み違いもあろう。肉薄して、しかし拳が繰り出されると同時に後退する。そのまま突っ込むと予想していたコロナは、慌ててゴライアスの拳を止めさせるが、その巨大さ故にバランスを崩してしまった。そこを狙って、ケインはゴライアスの腕を走ってコロナへと最接近を果たした。
「ライトニングブラス!」
そして充分に距離が近づいた刹那、ケインは黒い雷を周囲に放つ。
「あぁっ!」
防御が遅れたコロナはライフからダメージとして1000、引かれてしまった。
「これで!」
「させません!」
咄嗟にレイスが割って入り、コロナを助ける。それを見ると、ケインは地図を表示して仲間の居場所を確認し始めた。
(やっぱり、キャロの言った通りだな)
練習試合が始まる前に、キャロは自分が召喚を行えば間違いなくそれを押さえるべくルーテシアがガリューを召喚し、相対しようとすると言っていた。その読みは正しく、キャロと思われる点に向けて他の点が集中していく。フェイトは恐らくヴィヴィオとアインハルトを自分に任せて、仲間を行かせるはず──その予想も当たっている。
「今なら一気にフェイトへ畳み掛けられるぜ」
ケインは追撃を止めて踵を返してしまった。
「大丈夫ですか、コロナさん?」
「は、はい。なんとか……」
手を貸すと、ほっとしたような表情を見せて握り返した。優しく立ち上がらせ、レイスは仰向けになっているゴライアスを見る。
「…やっぱり、止めますか?」
「いえ。私、この試合に勝ちたいですから」
「……分かりました」
レイスは申し訳なさそうにしながら、ゴライアスの右腕にそっと触れる。作戦とは言え少しやり過ぎな気がしてならないが、ティアナの言った通りコロナは中々に頑固だった。
「では、頼みます」
「はい!」
走り去るレイスの背を見送り、その優しさに感謝の言葉を述べるのを忘れてしまった。今から言おうにも間に合わないだろうし、なによりこれから自分には大事な役目が回ってくる。コロナはゴライアスを優しく撫で、「ごめんね」と小さく呟いた。すると───
「え?」
───何故か、ゴライアスが独りでに動いた。ゆっくりと起き上がり、掌にコロナを乗せて静かに立ち上がる。
「ゴライアス……うん、ありがとう」
涙ぐんでいた目尻を拭い、コロナは肩に移る。
「さぁ、もう一息頑張ろう! ブランゼル、ゴライアス!」
◆◇◆◇◆
「はっ、はぁっ!」
その頃、フェイトは3人を相手にしながらぎりぎりの攻防を続けていた。
(ヴィヴィオもケインも、こんなに強くなったんだ。それにアインハルトは、魔力弾は投げ返すし、バインドは利かないし……みんな、凄い)
エリオが撃墜され、フリードが召喚されてしまった今、やはり要となるのは自分だろう。だから3人がかりで来るのだが、唯一幸運なことに、なのはが援護射撃をあまり行っていない。彼女のブレイカー級は、ある程度魔力の散布が必要になってくる。もちろん全てが自分の魔力でなければならないと言うことはないが、他人の魔力ばかりでは威力が発揮できないらしい。
(そろそろ来てくれないと、限界かも)
「フェイトさん!」
疲労が顔に出始めた頃、レイスが駆けつけてくれた。
「カタラクト!」
なるべくアインハルトには放たないようにしながら、フェイトから離させるべくカタラクトを放つ。だが、魔力弾だと気付いたアインハルトは自ら前に出てきた。
「好都合です。フラムルージュ!」
剣尖に予め籠めておいた魔力を、刀身に乗せてアインハルトへと射出する。
「アインハルト!」
魔力弾を投げ返そうとしていたアインハルトを、ケインが抱き抱えて移動させる。地面が抉れ、砂煙が巻き起こる。逃げ遅れたせいで吸い込んでしまったのか、ヴィヴィオがけほけほと咳き込んでいる。その背後からフェイトが強襲しようと迫っていたが、ヴィヴィオはそれに気づいていた。カウンターを──そう思って振り返ると、何故かフェイトの姿が2つに増えている。
「えぇっ!?」
驚くヴィヴィオをよそに、2人のフェイトは彼女へバルディッシュを振り下ろすべく、上段に構える。
(どっちが幻術かなんて分からない……そうだ!)
幸いにして、足場はレイスが爆破してくれたお陰で瓦礫が散乱している。ヴィヴィオはそれを蹴ることで、どちらが偽物か炙り出した。
「それも、予想済みだよ」
「え?」
何故か、フェイトの声が背後から聞こえてきた。それに一拍遅れる形で、蹴り上げた瓦礫によって“向かってきていた2人のフェイトが姿を消した。”
「雷光一閃!」
「うあぁっ!?」
そしてそれを見届けた瞬間、背後に回り込んでいた本物のフェイトが握るライオットザンバー・カラミティによって適当なビルに吹っ飛ばされてしまった。
「最初から俺らを分断するのが目的か」
「正解です」
ケインならば、まだレイスの魔法をはっきりと目にしていないアインハルトを助けることは容易に想像できた。だから、本の少しだけ孤立するヴィヴィオに狙いを絞ることができた。
「…だけど、ヴィヴィオに防御されちゃったみたい」
「かなり削れたでしょうし、後は僕が引き受けます」
「うん、頼んだよ」
一応、ヴィヴィオにバインドを仕掛けてからフェイトはなのは達の元へ急いだ。
「俺たちを、たった1人で相手にするのか?」
「1人? まさか、2人ですよ」
レイスが微笑した時、背後で大きな音がした。それが何を示すのか気付いたケインは、アインハルトに断りを入れてから走り出した。
「ゴライアス、ブラストパージ!」
最初の練習試合で見せた、ゴライアスの巨大な腕を飛ばす攻撃。ケインは星牙に蒼い炎を纏わせて斬りかかる。せめて軌道だけでも逸らさねば──そう思っていた時、キャロが通信を寄越してきた。
《ケインさん、罠です!》
「え?」
忠告するが、もう遅い。
「グランド・ゼロ!」
レイスの言葉に呼応するように、飛来していたゴライアスの腕が爆発した。近くにいたケインは既の所で引き下がったのか、体力がギリギリ残っている。しかしアインハルトはレイスからの爆発によって戦闘不能になってしまった。
(フェイトさんが体力を減らしておいたお陰ですね)
これで人数はだいぶこちらが有利になった。後は1人ずつ倒せば楽だろう。結局、コロナとゴライアスには悪いことをしてしまった。ゴライアスの腕を飛ばし、それを爆破させるなどどうかと思ったが、驚くことにこれを発案したのはコロナ本人だった。とは言え、謝罪とお礼を言わねばならない。
「コロナさん、助かりました」
《あの……ごめんなさい》
「え?」
《私、撃墜されてしまって……》
苦笑するコロナの言葉に、レイスは耳を疑った。しかし彼女がこんな嘘を吐くはずなどない。そして撃墜できるのは、たった1人だけだ。
「……ケインさん、ですか」
「御名答。意外と遠くまで飛ばせるんだぜ、俺の刃は」
どうやら爆発を食らいながらもコロナに向けてダイヤモンドストラッシュを放っていたようだ。それを防御するだけの余力が残されていなかったのだろうが、よくここまで頑張ってくれたと思う。
「さて……初戦での雪辱を晴らさせてもらおうか?」
「意外と根に持つタイプなんですね」
ケインのライフは残り少ないが、油断は禁物だ。彼は追いつめられると、逆に力量を発揮するタイプでもある。
「…フラムルージュ!」
剣尖の先に魔力を籠め、ケインへ向けて刀身と共に放つ。ケインはそれを回避して、レイスへと肉薄した。背後で起きた爆発を気にも留めず、星牙を振り下ろす。上段、中断、下段と、様々な位置、方向から次々と繰り出される一閃。それを双頭刃で受け止め、或いは後退しつつ躱す。
(…そろそろ、限界ですよね)
ちらりと後ろを見やると、ビルが近づいてきているのが見えた。このままではやがて壁にぶつかるか、どこかで足を引っかけてしまうだろう。
(一か八か……!)
レイスはケインの一閃を躱した瞬間、攻勢に転じた。わざと大振りになって隙を見せると、ケインはそれに乗ってきた。その刀身に蒼い炎が纏いつき、レイスへと襲い掛かる。
「フレア・ストライク!」
咄嗟に展開したシールドでも完全に防ぎきることはできず、レイスは大きく吹き飛ばされてビルへと突っ込んだ。ライフはティアナだけを相手にしていたこともあって、まだ余裕があるのが幸いした。タグを見ると、【DAMEGE900→LIFE1100】とある。
(残り、1100ですか)
ぎりぎり3ケタにならずに済んだが、やはりケインは強い。しかもこちらが隙を見せているにも拘らず、ビルの内部に入ってこようとしない。きっと爆破魔法を警戒しているのだろう。
「だったら……クリムゾン・シアー!」
幸いなことに魔力はまだそれなりに残っている。ケインの足元を爆破させたり、カタラクトで翻弄したりしながらも、レイスはビルから出ようとしない。互いに自分のベストポジションを動かずにいたが、やがてケインが仕掛けてきた。やはり彼はじれったいのは好まないようだ。
ケインが来てくれたのはありがたいことだが、レイスもまったく疲弊していないわけではないので、全力で迎え撃つべく、まずはカタラクトで牽制する。
「また放置したカタラクトを爆破させて攻撃しようって魂胆か?」
「流石に、今回は違いますよ」
距離が徐々に縮まり、再び互いの得物をぶつけ合う。ケインにはこちらの手の内が読まれているに違いない。ともすれば、爆破魔法でケインを倒すにしても何か予想外の手立てが必要になるだろう。次第に激しい剣戟のせいで手がしびれてきた。それを見透かしたのか、ケインが今一度強く星牙をぶつけてくる。その一撃によってレイスの手からペイルライダーが零れ落ちた。
「終わりだ!」
「…まだ!」
ここぞと言う時に思い切り力を籠めようとする癖があるのか、時折大振りになるケイン。それは今正に目の前で起きていた。レイスは靴の裏を爆破させると、ケインのお腹に向かってそのまま突進した。
「ぐおっ!?」
そのまま倒れ込むケインに、レイスはバインドを施した。魔力をだいぶ消耗しながらも、この試合に勝つ執念だけは誰にも負けていない。
「ごきげんよう、ラーディッシュさん!」
再び放たれたクリムゾン・シアーによって、ケインは残りのライフを全て持っていかれるのだった。爆破が収まったところで、地図で今現在の戦況を確認しようとした矢先、外で大きな音が響いた。
「今のは……」
どうやら誰かの砲撃がぶつかり合ったらしい。戦いに熱中していたせいか、キャロがノーヴェとルーテシアを撃墜したことに気付かなかった。
そしてスバルとフェイトはなのはのハイペリオンスマッシャーに負かされたものの、そのなのはも、フェイトが放ったトライデントスマッシャーとスバルのディバインバスターによって撃墜されたようだ。
残っているのは、自分ともう1人だけしかいない。その最後の1人は───
「来ましたか……ヴィヴィオさん」
───高町ヴィヴィオだった。
フェイトが施したバインドを振り解き、走ってきたヴィヴィオの腕の周りには何個かの魔力弾があった。それを放ち、レイスが避けたのを見て走る道を変更する。
「はっ、ああぁ!」
牽制で使ったソニックシューターは全て、レイスが慌てて取りに戻った双頭刃によって弾かれてしまったが、お蔭で側面から強襲することに成功した。だが、咄嗟に回避することを選んだのか、そのダメージはあまり高くない。
(私ももう3ケタしかないし……ここは、得意のカウンターで決める!)
(恐らくカウンターを仕掛けてくると思いますが……その時にこそ、勝機があります)
ヴィヴィオは気付いていないと思うが、彼女はカウンターを見舞う時ある癖が出てしまう。強い一撃を放つためか、足の踏み込みがそれまでと違うのだ。それを冷静に待つしか、今のレイスに正気はない。
「参ります!」
だが、そう簡単にカウンターを仕掛けることなどしないだろう。だからこそ、わざと隙を見せてカウンターを誘おうとする。しかしそれはヴィヴィオも気付いているようで、中々レイスへ攻撃しようとしない。
(やはり勘が鋭いと言いますか、簡単には誘いに乗りませんね)
(うぅ……ここだって思うけど、あれはレイスさんの罠なんだから!)
(強引に乗らせることはできますが……互いに攻めあぐねていては、体力が少ない僕の方が不利。ここは僕が行かせてもらいます!)
レイスはヴィヴィオの足元にいくつかのカタラクトを放つと、それを瞬時に爆破させる。爆発に気を取られて、一瞬の間だけ彼女の視界から外れた瞬間を狙い、一気に距離を詰める。
「もらいます!」
「しまった……!」
双頭刃を構えたレイスが、すぐ傍まで迫っている。咄嗟に防御しようとシールドを展開したヴィヴィオの目の前で刃が止まった。それを見て下がろうとしたレイスだったが、その刹那、レイスは“自ら足を縺れさせた”。よろめく身体を見て、ヴィヴィオは確信する。
(今!)
絶対にはずせない──ヴィヴィオは自分の右手を強く握りしめ、そして一歩踏み込んだ。それがレイスの誘いだと気付かずに放った拳は、しかしレイスの脇を紙一重で通り抜けてしまった。
確かにレイスはよろめいたが、それはあくまで上体だけ。足をしっかりと運んでいた彼は、半身だけ身体を捻って躱すと、そっとヴィヴィオの額に手を当てて静かに呟く。
「……ロッソ・クラッシャー!」
掌から放った爆破魔法が、大きくヴィヴィオを吹き飛ばす。だが、彼女がレイスから離れる直前、左手の拳がレイスの顎を捉えた。
「あっ、う……?」
急にぐらりと身体が傾いた。まさかあそこからカウンターを仕掛けられるとは思っていなかっただけに、レイスもふらふらと後ろに下がる。ライフはぎりぎり100の値を示しているが、今にも倒れ込んでしまいそうだ。
(ダメ……このまま、倒れたら……)
遂には膝を着いてしまうが、彼は必死に上半身だけは起こしておこうとする。今ここで倒れてしまっては、それこそ頑張ってくれたコロナに申し訳ない。早く決着がついた判定が出て欲しい。そう思っていた時、目の前に試合終了の文字と、勝利を祝する文面が表示された。それを目にした瞬間、今度こそレイスは倒れ込んだ。
◆──────────◆
:あとがき
これにて、全練習試合が終了となります。
今回はアインハルトとの絡みはなく、代わりにコロナとのやり取りを増やしました。
無茶な案を出し、それを実行してくれた彼女のために奮起していますが、なんだかんだで律儀なところが前面に出せたと思います。
次回はインターミドルについてになります。
そこではレイスとアインハルトが改めてお互いについて話せる機会を設ける予定です。
もしかしたらこの合宿中に2人の仲が一気に進展する……かも?(笑)
進展するにしても、悪い方向に進むことはありません。
ですが、それが必ずしもずっと良い傾向に響いていくかは断言できませんので。
次回もお楽しみに。
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