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小説
Episode 17 練習試合(1st STAGE:2)






「アイススパイク!」


 ケインの吼号に振り返ると、氷で作られた錐がレイスを襲った。幻術を精巧に見せるために一時的にデバイスを解除していたせいで、展開したシールドも易々と貫かれ、レイスは大幅にライフを削られてしまった。


「残り950ですか……とにかく、ルーテシアさん、お願いします!」

《了解。それじゃあまずはノーヴェをお願いね》

「はい!」


 いつの間にかこの戦いにやる気を出していた。もちろんやるからには負けたくないと言う気持ちは最初からあったが、そこまで根を詰めなくてもいいかなと思っていたので、この変化に多少戸惑いながらも今は試合に集中することに。

 足元に召喚魔法の魔法陣が浮かび上がり、あっという間にノーヴェがいる地点まで移動する。これからある作戦を開始するのだが、まだ肝心のヴィヴィオの体力が回復していない。そのため、レイスは時間稼ぎと搖動を頼まれたのだった。

 ただ、稼いでほしいと言われた時間は然程多くない。場を乱すために色々な所に行かなければならないため、ライフの残量にも気をつけねばならないのは中々難しそうだ。


《スバルさん、参ります!》

《OK! いつでもいいよ》


 スバルに合図を送ってから、エアライナーの上を滑走しているノーヴェへと強襲する。突然現れたレイスに驚きながらも、剣を躱したノーヴェ。やはり彼女も相当できるようだ。


「ティアナ! こっちにレイスが来たけど、どういうことだ?」

《ケインから逃げたみたいね。ヴィヴィオ達のところにいかせないつもりかも》

「へっ! それならその前にレイスをぶったたくぜ!」


 ジェットエッジに命じ、ノーヴェはスピードを上げてレイスに向かって蹴りを見舞う。流石に後ろに下がっては拳による追撃があるので、レイスは1度エアライナーから飛び降りた。その先には何もないが、すぐにスバルがウイングロードで足場を作ってくれる。


「助かります」

「これくらいならお安い御用だよ」


 組むのは今日が初めてだが、スバルは連携を行うのがうまかった。救助隊にいるからとかそういうことではなく、彼女本来の優しさがなせるものだろう。レイスは跳躍して再びノーヴェへと肉薄する。エアライナーと言う狭い足場での戦いは、やはりノーヴェの方が有利だろう。だがレイスとノーヴェが競り合っている間に、スバルがウイングロードで味方の足場を徐々に形成していく。


《では、そろそろ次に移ります》

《うん、気を付けて》


 レイスはノーヴェに向かってカタラクトを放つと、それを爆破させてまばゆい閃光を発させる。彼女が怯んだ隙に、レイスは足裏を爆破させて大きく跳躍した。バリアジャケットの一部だけあって、かなりの強度を誇る靴の裏を爆破させ、推進力を得るのだ。もちろん大した距離ではないし、方向転換などできないので使いどころがかなり限られてくるが、これでもかなり使いこなせるようになった方だ。


《エリオさん!》

《いつでもいいよ、レイス!》


 今度はエリオとフェイトの戦いに乱入する。察しのいいフェイトは、エリオの攻撃を弾くとまっすぐにレイスへと向かってきた。


(いくらなんでも気付くのが速いですよ!)


 内心で毒づきながら、レイスはカタラクトをいくつも飛ばしてフェイトの接近を阻む。


(狙いが甘いよ!)


 しかし疲弊しているからなのか、カタラクトは見当違いの方向だったり手前のビルに入ったりと狙いが定まっていない。このまま一気に──そう思った矢先、フェイトが走っていた左右のビルが突然崩れ始めた。


「しまった……!」


 先程のカタラクトは、フェイト自身を狙ったのではなくビルを爆破させる目的で撃ったのだ。砂煙が巻き起こり、たちまち視界が封鎖されていく。それに崩れてくる瓦礫も避けなくてはならない。流石にこれを躱すのは厳しいだろう。“奥の手を使わなければ”の話だが。


「真・ソニック!」

《Sonic form.》


 更に軽装のバリアジャケットに変えて、フェイトは全ての瓦礫を躱して砂煙の中から躍り出た。


「くっ!」


 二刀流となったフェイトの一撃をなんとか防ぐが、続く攻撃が素早く、シールドでの防御になってしまう。これを突破されればレイスは撃墜される。なんとか出力を維持していると、エリオとなのはが援護に来てくれた。


「レイス!」

「1人でお疲れ様。これから、2on1で行くよ!」

「は、はい。……なのはさん、後ろ!」


 ルーテシアの作戦、2on1が無事開始されると分かり、レイスはほっと一安心した。それも束の間、なのはの背後から3つの刃が閃いた。すぐさまレイスが防御にまわるが、3つ目がシールドにぶつかった瞬間、耐えきれずに壊れてしまう。


「ぎりぎり、ですね」


 わざと同じ場所を立て続けに攻撃してきたのは、ケインだった。どうやら彼もキャロによってここまで転送してきてもらったようだ。タグを見ると、自分のライフは残り700になっている。かなりぎりぎりだ。もう然程持たないだろう。


「ケインくん、任せていいかな?」

「えぇ。寧ろ今から他の方を相手にすると、攻撃のパターンが分からないので困ります」


 今度はレイスからケインに向かって仕掛けた。恐らく幻術も爆破もかなり警戒しているだろう。カタラクトでビルを爆破するのも厳しいはずだ。ならばどう勝つか──1つだけ、まだ見せていないものがあるので、それを使うしかないだろう。なるべくなのは達を巻き込まないようにするため、まずはケインの足元を爆破させて強引に移動させる。


(…何だろう。移動させていると言うより……僕が、おびき寄せられている?)


 ケインはまったく反撃して来ようとしない。ならば、こちらも攻撃を止めて動きを見よう。レイスは1度手を緩め、再びビルの中へと入っていく。当然、ケインはそれを追いかけてきた。


(やっぱり警戒心が強いな……ティアナの集束砲で一網打尽にしてもらおうと思ったけど、ここは俺が撃墜するか)


 ビルの中に入ると、早速爆破魔法で天井が崩された。だがケインは構わず走り抜ける。爆破が起きた瞬間に少しだけ加速することで回避し、徐々にレイスとの距離を詰めていく。


「爆破させるのが遅いんじゃないか?」

「では、正攻法で行きます!」


 正攻法と言いつつ、レイスはケインと剣戟を繰り返しながら時折カタラクトを放つ。これを爆破させることは分かっているので、ケインは狙いを定めないように出鱈目に動いた。


「どうした。さっさと爆破させろよ」

「お言葉に甘えさせていただきます!」

「え?」


 足元を爆破させるにしても、カタラクトとカタラクトの間はかなり広がっている。いったい何をするのかと警戒していると、ケインとレイスの間で爆発が起こった。眼前で爆破し、困惑するケインへとレイスが迫った。


「甘いな! ライトニングブラス!」

「ぐっ!」


 接近を阻むように雷撃がレイスへと襲い掛かるが、なんとかダメージを食らわずに済んだ。


「俺もライフが危ういからな。簡単には攻撃させないさ」

「ライフが……そうですか。それは、いいことを聞きました!」


 レイスがケインへと迫ると、ライトニングブラスで接近を阻んだりしてこなかった。どうやらそろそろ魔力の限界が近いのだろう。何度も互いの得物をぶつけるが、互いに決定打を打ち込めずにいた。


「…終わりだ!」


 だが、レイスの方が疲労している。一瞬の隙をついて、ケインの一撃がレイスを捉えた。吹っ飛ばされ、壁に激突するレイス。止めを刺そうと、星牙の刀身に氷を纏わせ、刃の形となったそれを飛ばす。


「ダイヤモンド・ストラッシュ!」

「フラム……ルージュ!」


 双頭刃の尖端に魔力を籠め、刀身だけ射出した。3つの内の2つは破壊できたが、3つ目がレイスへと迫る。シールドの展開は間に合わない──だが、それはケインも同じだ。飛ばした刀身がケインの足元に墜落し、突き刺さった瞬間、彼は魔力を爆破させてケインを襲った。


「し、しまった……!」


 互いにライフが0になり、2人の試合はここで幕を閉じた。

 ちなみに、その直後になのはとティアナのブレイカー級の砲撃がぶつかり合ったらしく、それによってほとんどのメンバーが戦闘不能へ追い込まれたそうだ。最後まで残っていたのはヴィヴィオとアインハルトで、こちらもほぼ同時に2人して戦闘不能となったとか。





◆◇◆◇◆





「ちくしょう……レイスと同士討ちになるとは」

「ラーディッシュさん、自分で残りのライフが少ないと言っていましたからね。頑張らせて頂きました」

「確かに、相手に情報を与えたのは間違いね」

「ぐっ……」


 ティアナにそう言われては何も言えないようで、ケインは口を噤んだ。


「じゃあ1度休憩をはさんで、2時間後に再試合するよ」

「え?」


 なのはの言葉にきょとんとしているアインハルト。どうやらまだ試合の詳細を聞いていなかったようだ。今日1日で3試合を行うのだとか。レイスもこれには驚かされたが、最後までやるしかない。


「良かった。もっとやりたかったんです」


 嬉しそうな瞳を見せるアインハルトに、ヴィヴィオ達も微笑んだ。


「しかし、次はどうしましょうか?」

「そうだな……同じチームだけど、マッチアップ相手を変更するか。
 誰と戦いたいとかあれば、先に決めちまうのもありだな」

「あ、それいいね♪ さっきはティアナに負けちゃったから、私としてはまた戦いたいけど」

「もちろんですよ。次も負けませんからね」


 よほど自分のブレイカーが押し負けたのが悔しかったのか、なのははティアナに再挑戦することを決めた。アインハルトはノーヴェの姉と言うことで、スバルと戦うことを希望し、次第にマッチアップの相手も決まっていく。


「レイス。次は私とどうかな?」

「…分かりました。お手柔らかにお願いします」


 微笑しているフェイトにそう言われ、レイスは逡巡しながらも承知した。ケイン以上に手強い相手に苦戦を強いられることが必至なので、今から作戦を練っておかないとあっという間に撃墜されそうだ。


「じゃあ、陸戦場の再構成は大人たちに任せて、みんなは先に休憩して」

「はーい♪」


 なのはらに甘える形で、ヴィヴィオ達は1度ロッジへ戻ることに。大した距離でもないが、流石に疲労感がまだ拭えないので歩いていくのが多少なりとも面倒に感じてしまう。


「レイスさん、さっきはありがとうございました」

「何がでしょう?」

「私の体力が回復しきるまで、頑張ってくれて」

「いえ。大した時間ではありませんでしたから」


 ヴィヴィオに謝辞を述べてもらったが、本当に時間稼ぎをしていたつもりはない。スバルとエリオ、それになのはの援護がなければ自分が撃墜されていたに違いない。


「そういえば、ティミルさんはブランゼルとの相性はどうですか?」

「はい。ルーちゃんが頑張って作ってくれたお蔭でばっちりでした!」

「コロナの魔法は凄かったですよ〜。独特ですから、後手に回ると厄介なんですよ」

「リオ、あまり話されると次の作戦で私がレイスさんに狙われちゃうよ〜」


 楽しそうに会話をする彼女たちから少し離れたところで、アインハルトはぼんやりと先程の戦闘のことを思い返していた。最後にヴィヴィオが繰り出したあの一撃。あれは相当なものだった。やはり、彼女たちは本当に凄いと思う。


(そういえば、レジサイドさんと戦えていませんでした……次は、戦ってみたいですが、他の方とも手合わせしたいですし)


 そんな迷いを抱いている内に、あっという間に約束の2時間が過ぎ去っていった。





◆◇◆◇◆





「どう? フェイトさんと渡り合えそう?」

「どうでしょう……エリオさんから色々聞いてはみましたが、どうにも手強そうで」

「やっぱり、私が近くで援護しようか?」


 ルーテシアとレイスの会話が耳に入ったのか、なのはが聞いてくる。しかしレイスは首を横に振ってそれを断る。


「なのはさんはラーディッシュさんと再戦する予定ですし、そちらに集中してくださって構いません」

「それなら、お言葉に甘えて」

「…そろそろ時間です。僕はなるべくハラオウンさんを孤立させながら立ち回ってみます」

「気を付けてね」


 再びメガーヌが試合開始の合図を告げる。それと同時に、スバルはアインハルトへと一直線に向かい、ヴィヴィオもコロナを叩くべく走り出した。そんな2人を援護すべく、なのはが砲撃支援を始める。


(しかし、本当に元気ですね)


 先の試合から2時間が経過しているとは言え、完全に疲れがとれたわけではない。レイスもビル内部を進みながらフェイトへと近づいていく。彼女のスピードを活かさないよう内部で戦う予定だが、ペイルライダーが警告してきた。それに一拍遅れる形で、窓の向こうから金色の刃が閃いた。


「くっ!」


 靴の裏を爆破させて、加速してその一振りを躱す。ビルはそのまま支柱を失って崩れ落ち、濛々と立ち上る砂煙の中を悠然と歩いてくる人影が見えた。


「あの……いきなり本気で来られているのですが」

《み、みたいだね……流石の私も、あのフェイトちゃんを捉えるのは厳しいから、頑張ってね!》

「無茶言わないでください!」


 なのはも驚きを隠せないようで、レイスは諦めてフェイトと対峙した。彼女が真・ソニックと言っていた姿だ。戦いの最中とは言え、スタイルのいいフェイトのその格好は、レイスにとってかなり刺激的だった。頭を振って、改めて向かい合う。


「……随分と手荒い歓迎ですね」

「ごめんね。少し……二人きりで話がしたくて」


 苦笑いし、大きな光剣を背中に振りかぶって構えながらフェイトは言った。










◆──────────◆

:あとがき
第1試合は、これにて終了です。
ケインくんと同士討ちと言う形になりましたが、やはり彼がリミッターをかけていたからこそできた形ですね。レイスをどう立ち回らせるかかなり悩まされました。

そして第2試合ではフェイトと戦ってもらいます。
フェイト自身、レイスに対して想う所があるので、2人の会話も少し取り入れられたらと思っています。

では、次回もお楽しみに〜。

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あきゅろす。
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