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小説
Episode 13 カルナージ




 無人世界カルナージ───。

 首都、クラナガンから臨行次元船で約4時間の長旅になる。カルナージとの時差は7時間だが、1年を通じて温暖な気候をしており、大自然に恵まれた豊かな世界だ。


「むぅ……」

「まだ始まったばかりなんだから、そんなに悩まなくても……」


 船の中で周りに迷惑にならないように注意しながら、ヴィヴィオは目の前でカードを広げているコロナをじっと見て頭を抱えていた。長旅になるので既に寝ている者もちらほらいる中、ヴィヴィオ、コロナ、リオ、そしてアインハルトの4人はトランプで時間を潰していた。

 今はババ抜きをしているのだが、中々勝利を収められないヴィヴィオは今回こそはと意気込んでいた。どうやらこの中で一番顔に出やすいらしい。警戒しつつカードを引き、それがジョーカーではなかったのでほっと一安心する。しかもペアができた。早速ペアを手札から置いて、ふと後ろの席を振り返る。


「レイスさんも一緒にできたらよかったんですけどね」

「だね〜」


 リオがヴィヴィオの手札からカードを引きながら同意する。だが、残念ながらペアが揃わない。


「レジサイドさんは、あまり団体行動が好きではないみたいなので。
 今は寝かせてあげましょう」


 今度はリオからカードを引くアインハルトが答えた。しかしこちらもペアができないようで、すぐにコロナに手札を向ける。


「そういえば……アインハルトさんはレイスさんのこと、名前で呼んでいないんですね」

「え? えぇ、まぁ」


 コロナは不思議そうに思いながら問うてきたが、アインハルトとしては別にあまり気にならなかった。もちろん名前で呼び合うこともできなくはないだろうが、逆にレイスが名前で呼んでくれそうもない気がする。


「じゃあ、この合宿で仲良くなってみたらどうですか? あっ……!」


 そんな提案をしたヴィヴィオだったが、不意に声を上げた。何事かと思ったが、コロナが笑顔でいるところを見ると、どうやらジョーカーを引き当ててしまったようだ。


「ヴィヴィオ、ジョーカーを引いちゃったの〜?」

「ち、違うよ?」


 否定しつつも自分の手札を後ろ手にシャッフルするヴィヴィオ。これは完全にクロだ。その様子を見て、底抜けの明るさをもつ彼女たちを羨ましく思う。自分のように物静かでいるよりも、彼女たちの方がよっぽど可愛いだろう。

 アインハルトも、ヴィヴィオと同じように後ろの席で寝ているレイスを見る。確かにもっと親しくなるのもいいかもしれない。なによりケインの言っていたように、支えは多い方がいいに決まっている。勝手にレイスを巻き込むのもどうかと思うので、彼の意思も尊重しなくてはならないが。


「アインハルトさんの番ですよ」

「あ、はい」


 リオに呼ばれて、すぐにカードを引いた。


「あれ?」


 だが、まったく警戒していなかったアインハルトは引き当てたカードを見て思わず声を出してしまった。


「ジョーカー、引いちゃったみたいですね」


 どうやらヴィヴィオからリオへとあっという間に回ってしまったらしい。そして、こうしてコロナの傍まで早くも戻ってきてしまった。


「いえ、そんなことはありません」


 苦笑いするコロナにそう返しつつ、アインハルトはしっかりと自身の手札をシャッフルするのだった。





◆◇◆◇◆





 やがてカルナージに到着すると、2人の女性が迎えてくれた。そっくりな2人はどうやら親子のようだが、傍から見ると姉妹のようにも見える。


「ようこそ、カルナージへ」

「皆さん、いらっしゃい」

「こんにちは、メガーヌさん、ルーテシア」

「お世話になります」


 なのはとフェイトに倣い、全員がアルピーノ親子に頭を下げる。どうやら前からの知り合いらしく、ルーテシアはヴィヴィオやノーヴェと楽しく話し合っている。


「ルールー、こちらがメールでお話ししたアインハルトさんと、レイスさん」

「初めまして。アインハルト・ストラトスです」

「レイス・レジサイドです」

「はい、初めまして。ルーテシア・アルピーノです。あっちは母のメガーヌ・アルピーノよ」

「ルールー、歴史に物凄く詳しいんだよ」

「えっへん!」


 胸を張るルーテシアに、アインハルトとレイスは感心する。


「ねぇ、ルーテシア。エリオとキャロは?」

「あの2人なら、今はガリューと一緒に薪拾いだったり木の実集めだったりをしてもらっているんです。
 そろそろ……あ、帰ってきましたよ」


 ルーテシアが指差す方向にフェイトが視線をやると、確かに2人の姿が見えた。だが、アインハルトはガリューのことを知らないので召喚獣だと気付かずに思わず身構えてしまった。


「アインハルトさん、お二人と一緒にいる方は大丈夫ですから!」

「あはは。言うの忘れててごめんね。
 あの子はガリューって言って、私の家族なの」

「そ、そうでしたか。失礼しました」

「気にしないで。初めて会った時はみんな同じ反応をするから。
 それで、あの2人は……」

「エリオ・モンディアルと、キャロ・ル・ルシエ……2人とも、大切な家族なんだ」


 フェイトの紹介に、拾ってきた薪を足元に置いて挨拶をするエリオとキャロ。アインハルトとレイスも頭を下げた。


「1人だけちびっこがいるけど、みんな同い年の14歳なんだよ♪」

「もう! ルーちゃん!」


 憤慨するキャロだったが、確かにルーテシアの言うように3人の中でもっとも背が低い。そしてルーテシアはエリオの腕に抱き着き、自慢した。


「そしてエリオは私の彼氏なの♪」

「はっきり言われるとやっぱり恥ずかしいし、そんな大々的に言わなくても」


 苦笑いしてはいるが、嫌ではなさそうだ。


「さて、お昼前に大人たちはトレーニングかしら?」

「はい」

「レイス、お前も一緒にどうだ?」

「あ、是非」


 ケインに誘われたレイスを羨ましそうに見るアインハルトだったが、ノーヴェに呼ばれて振り返る。


「アインハルト、お前はこっちに来いよ」

「は、はい」

「そんじゃあ、水着に着替えて川辺に集合だ!」

「えっ、水着!?」


 ノーヴェの掛け声に合わせるヴィヴィオ達とは違い、アインハルトは頬を赤らめる。確かに持ち物の欄に書いてはあったが、本当に使うとは思ってもいなかった。

 トレーニングに行くことのできるレイスに視線を送るが、彼は苦笑いしつつ手を合わせて謝った。

 致し方なく、ロッジに荷物を置いてそれぞれの部屋で着替える。黒い水着を身に着け、その上からパーカーを羽織る。それでもやはり、この格好で人前に出るのは恥ずかしい気がした。


「あ……」

「…ストラトスさん」


 ロッジを出たところで、スポーツウェアに身を包んだレイスと出くわす。普段は長袖ばかりだったこともあり、半袖から覗いている腕にはしっかりと筋肉がついていた。


「レジサイドさんだけ、ずるいです」


 剥れるアインハルトに、レイスは意外そうな顔をした。彼女の剥れた顔など、これが初めてだ。


「ストラトスさんが一切トレーニングができないわけではありませんから。
 それに、川辺に行くと言っても遊ぶだけではないのでは?」

「そ、そうなのでしょうか?」

「水中では瞬発力などが、どうしても水の抵抗で落ちてしまいますからね。
 また違ったことを学べると思いますよ」

「…そうですね。すみません、なんだか愚痴になってしまって」

「構いませんよ。ストラトスさんの気が少しでも楽になったのなら」

「…で、では、失礼します」

「はい」


 赤面した顔を見られたくなくて、アインハルトはそそくさと川辺へ向かった。既にヴィヴィオ達が遊んでおり、それを見守っているノーヴェにこそっと耳打ちする。


「あの、私は練習をしたかったのですが……」

「いいから行って来いって。それに、いい発見になるぞ」

「…はい」


 ヴィヴィオ達にも呼ばれ、アインハルトはパーカーを脱いで早速川に足を踏み入れた。温暖な気候と言うこともあって、少し冷たいが心地好い。傍まで来ると、リオが競争をしようと言いだし、早速泳ぎだす。だが───


(あ、あれ?)


 ───想像していたよりも、ヴィヴィオらは速かった。距離が離されていくにつれて、アインハルトも焦り、より力を込める。


(何と言うか……皆さん、元気すぎるような?)


 泳いだり水を掛け合ったり、様々なことをしながら過ごしていく。時には水中から身を躍らせたり、或いはダンスでもするように思い切り足を上げたりと色々と行うものの、次第に疲れが溜まってきた。

 ヴィヴィオらの顔にはまだ疲労の色がまったくない。彼女らに断って、水辺に上がって手ごろな岩の上に腰かける。


「ほら」

「あ、ありがとうございます」

「どうだ。意外と元気だろ」

「はい。それに、水中では思った以上に負担がありますね」

「あぁ。あたしも救助隊に入ってから知ったんだけど、水中で瞬発力を出す場合には、また違った力が必要となってくるんだ。
 あいつらな、週2でプールに行っては遊んで鍛えてきたんだよ。だから、柔らかくて持久力のある筋力が自然とついているんだ」

「な、なるほど。いい経験になります」





◆◇◆◇◆





「はーい、それじゃあちょっと休憩しよっか」

「は、はぁ……ようやく休憩かぁ」

「こ、こんなにハードだとは思いもしませんでした」


 一方、レイスはなのはらのトレーニングになんとかついていくことで精一杯だった。ようやく最初の休憩に入った時には、もうほとんどの力を使い切ってしまったと言っても過言ではないだろう。

 へたり込むレイスに、ケインがスポーツドリンクを渡してくれる。それに謝辞を述べ、ふと川辺の方を見た。


「今、何か水柱が見えたような……?」

「あぁ、あれは水切りだな。お遊びに加えて、打撃のチェックもできるってノーヴェが言ってたぞ」

「そんなことが……それにしたって、高い気もしますが」

「あはは。今のはノーヴェだな。多分、指導しているんだろう」

「ストラトスさんらがやったとしたら、相当ですよ」

「だな。
 スバル、お前の妹はすっかり師匠が板についたな」

「あはは。本人は否定するだろうけどね」


 それぞれの場所で汗を拭いたりスポーツドリンクで喉を潤したりする間に、ケインはレイスの肩を叩く。


「ところで、レイス。お前は誰が魅力的だと思う?」

「…はい? なんですか、急に?」

「いや、アインハルトもそうだけど、ヴィヴィオ達とも仲がいいだろ?
 だからあっちで遊んでいる内の誰を魅力的だと思っているのかなぁと気になったんだが」

「はぁ。そうですね……強いて言うのなら、高町さんでしょうか?」

「えっ、私!?」

「え?」

「え?」


 いきなり名前を呼ばれたのかと思ったのか、なのはが頬を赤らめながら反応する。しばらく不思議そうにしていたレイスだったが、なのはとヴィヴィオの姓が同じだったことを思いだし、苦笑いする。


「すみません。ヴィヴィオさんの方です」

「あっ、そっか。あはは、からかわれたのかと思っちゃった」

「もしなのはさんのことだとしても、からかうことを目的にして言ったりしませんよ。
 ね、ラーディッシュさん?」

「そこで俺に振るか!? いや、まぁ……確かになのはも魅力的だから、からかわれることはないと思うぞ」

「あ、ありがとう」


 なのはの頬が朱に染まるが、ティアナがケインを睨んでいるので慌てて咳払いして話題を戻す。


「ヴィヴィオのこと、魅力的だと思うんだね」

「えぇ。しっかりとした足腰ですし、格闘技者として魅力があると思います」

「……へ?」

「……はい?」


 レイスの発言に、その場にいた全員が耳を疑った。一斉に視線が集まり、困惑するレイス。いったいどうしたのかと不思議そうな顔をしている。


「いや、そういうことを聞いたんじゃないんだが……」

「と言うと?」

「だから、誰が一番可愛いのかってことだよ!」

「あ、そういうことでしたか。
 でしたら、特に誰もいませんよ」

「なんだよ、つまんないなぁ。
 俺はてっきり、アインハルトだと思ったんだが」

「ラーディッシュさんはどうにもストラトスさんのことが気になるようですね。よもや妻帯者であるにも拘らず、ストラトスさんに拘るとは思いもよりませんでした」

「おいっ! 誤解を招くようなことを言うな!」

「冗談ですよ。そんなに躍起にならなくてもいいではありませんか。逆に怪しいと思われますよ」

「このっ……!」

「はいはい。ケインじゃレイスに口で勝てないみたいだし、我慢しなさい」


 からかうどころか彼に翻弄されてしまった。憤慨しそうなケインをティアナが宥め、その場はなんとか収まった。


《皆さん、ちょっといいかしら?》

「メガーヌさん? どうかしましたか?」

《張り切って料理をしていたのだけれど、予想していたより時間がかかりそうだから、誰か1人ぐらい手伝いに来てほしいのだけど……誰か、手が空いていないかしら?》

「では、僕が行きます。これ以上はついていけなさそうですし」


 レイスはなのはらに頭を下げ、メガーヌのもとへ行くべく踵を返す。だが、途中でその足を止めて振り返った。


「先程の問いに正確に答えるのであれば、そういうことに時間を割くつもりがない……ですね」


 それだけ言うと、ケインらの返事を聞かぬままトレーニングコースを下って行った。


「あーっ、もう! 本当に食えない奴だな、あいつは!」

「あ、あはは。少し個性的ですよね」


 レイスがいなくなってから、ケインは大声で頭を抱えながら文句を漏らす。だが、フェイトだけはレイスの背を黙って見詰めていた。











◆──────────◆

:あとがき
今回、レイスはまったく人と絡みませんでしたが、彼にとってはこれが普通なので。

周囲からするとちょっと苛立ちを募らせやすいかもしれませんが、レイスは人付きあいが苦手です。合宿内で多少は改善される……かも?

次回は原作に沿う形となるので、レイスとアインハルトの絡みはおやすみです。
ここでアインハルト以外と少しでも絡ませていけたらと思います。




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