小説
双六ゲーム-3 ☆
「コイツはヤベェな……」
「なんとか追い上げたい所ね」
今度は自分達がビリになり、ブルズとティアナは苦しい顔になる。
「チャンスを信じるっきゃねぇな」
「でも、別にビリでもいいんじゃない? 罰ゲームとかない訳だし、景品もなんだか分からないじゃない」
「まぁ、そうなんだけどな」
ティアナの意見に賛同しながら、ブルズはサイコロを投げる。
「お、7だな」
なんとかヴィレイサー達の所に並び、一先ず安堵する。
《イベントは……【コスプレ】……です》
「衣装替えで済むのは嬉しいけど、さすがにあんなに恰好は恥ずかしいわね……」
リインフォースUの告げたコスプレという言葉に、ティアナはフェイトとメイヤを見る。
《衣装は……【学校の制服】……です》
「制服か……」
「どこのかしら?」
せり上がってきた更衣室に入り、2人ともそそくさと着替え始めた。
「うぅー……」
「どうした、メイヤ?」
その間、メイヤが恥ずかしそうにスカートの裾を引っ張っているのに、ヴィレイサーが気付き、声をかける。
「その……スカートが短過ぎて、気になるんです」
「なら、コレでも着ておけ」
頬を紅潮させているメイヤに、ヴィレイサーは自分のロングコートを着せる。ヴィレイサーの背丈ほどあるロングコートは、メイヤには少し大き過ぎるのか、彼女はすっぽりとそれに包まれた。袖からはちょっとだけ指先が顔を覗かせている。
「少し大きいですけど、助かります」
笑顔になり、メイヤはロングコートを嬉しそうに眺める。
「いいなぁ、メイヤ……」
「1着しかないんだから我慢しろ」
「むぅー……」
羨ましがるフェイトは、またも頬を膨らませる。
「しょうがないなぁ………ほら」
執事服の上着を脱ぎ、それをフェイトに渡す。
「これでいいか?」
「うん♪」
フェイトもメイヤも、それぞれ幸せそうな顔をする。
「お待たせしました」
丁度その時、ティアナとブルズが出てきた。ティアナはどこから仕入れたのか、セーラー服であり、ブルズは制服を着崩していた。
「ゴールまで……あと7マスだね」
なのははゴールまでの升目を確認してからサイコロを投げた。
「5か……」
ゴールまであと2マスと迫りながら、惜しい所で2人は止まってしまった。
《イベントは……【コスプレ】……です》
そして、なのは達もコスプレをするはめになった。
《衣装は、レオンさんが【タキシード】、なのはさんが【ウェディングドレス】です》
「鉄板だな……」
「寧ろあの2人は、いつ着てもおかしくないからな。今の内に気慣れておくのも悪くないだろう。」
「…私とコルトは、どんな衣装になるのかな?」
「着てみたいの?」
「だって、楽しそうだし……それに、あの衣装ならどれでもコルトに似合っているし、カッコイイと思うよ?」
「そ、そうかな? スバルも、絶対可愛いよ」
「ありがとう」
いつ自分達がコスプレしてもおかしくない状況で、2人は相手の姿を想像していた。
「お待たせ」
「なのは、とっても綺麗だよ」
「ありがとう、フェイトちゃん」
真っ白なドレスに身を包んだなのはに、フェイトは率直な感想を述べる。少し羨ましそうな感情が籠められているのは、フェイトだけでなくメイヤもだった。
「私も着たいなぁ」
「フェイトちゃんなら、案外すぐに着られるかもよ?」
「そ、そうかな?」
「うん」
「なのは、中々に可愛いな」
すると、隣の更衣室からタキシード姿のレオンが出てきた。
「あ……」
「ん、どうした?」
「ううん! その……物凄くかっこいいなぁって思って」
「そうか、ありがとう。けど、なのはもとっても綺麗だぞ」
「ありがとう、レオンくん」
「甘いなぁ……」
「普段からあれぐらいだって言うのに、何故未だに結婚していないんだろうな?」
「なんだかそれが怖いわ……」
なのはとレオンの甘い雰囲気に中てられたはやては、さっさとサイコロを投げた。
「チャンスカードやな」
「ではこれにするか」
アルクがパネルに触れて、カードを選ぶ。
《効果は……【ヴィータ副隊長登場】……っすね》
「は?」
ヴァイスが読み上げたチャンスカードの効果に、その場にいた全員が間の抜けた声を上げる。しばらくして双六をしている場所に、撮影用のカメラを持ったヴィータがやって来た。
「ちょっと待て! 何でカメラなんか持ってきてるんだよ!?」
「んなの、撮影の為以外に目的があるかよ」
「撮影って、今から?」
「いいや。このゲーム、最初から外のモニターで中継されてたぞ」
「何ぃっ!?」
「で、では、私とヴィレイサーのキスも……」
「あぁ、バッチリと見させてもらったぜ」
「はうぅ」
「メイヤ!? おい、しっかりしろ!」
まさか他の人物にまで見られていたとは露ほどにも思わなかったのだろう。メイヤはあまりの恥ずかしさから腰が抜けてしまったのか、その場に座り込んでしまった。
「もちろん、レオンがなのはのバリアジャケットを着たり、ブルズがティアナに愛を叫んだり、コルトがスバルを抱き締めたり、アルクがはやての“お兄ちゃん”発言に現を抜かしていたのも、ちゃーんとモニターに出てたぞ」
「私はそこまでやれって言うてないやん!」
「はやて達だけ楽しい思いをするのも狡いだろ。だから、職員のほぼ全員で見る事になったんだよ。
さすがに、仕事がある奴は見てないけど、後で録画した物を見せるつもりだ」
「ヴィータ、映像化は誰の発案だ?」
「ヴィヴィオだよ。皆で楽しみたいって言うから、こうなったんだ」
まさかの発案者の正体に、全員が呆然とした。これでは流石に怒るに怒れない。
「それで、ヴィータは何故登場したんだ?」
一番に立ち直ったアルクからの質問に、ヴィータはグラーフアイゼンを構えながら言った。
「これからアタシが待機している升目を通る奴に、ペアについての質問をする。正解したら通れるけど、間違えたら残りの数だけ戻ってもらう」
《順番が3周する間だけですからね》
リインが補足し、ヴィータはアルクとはやてがいるマスに立った。
「まったく、厄介な展開になってきたなぁ……」
「メイヤ、大丈夫?」
前を見据えるヴィレイサーに代わり、フェイトがメイヤの様子を心配する。
「は、はい。少しは落ち着いてきました」
「良かった」
「サイコロを振るぞ?」
「はい、どうぞ」
メイヤに確認を取ってから、ヴィレイサーはサイコロを振った。
「げっ!? 8かよ……」
出た目の数は、ゴールするにはまだ足りない上に、途中にはヴィータがいる升目がある。最悪としか言えない数だった。5マス進んだ所で、ヴィータが仁王立ちしている升目になった。
「間違えたら、3マス下がってもらうぜ」
「頼むからアイゼンでぶっ叩くなよ?」
「そいつは保証できねぇな」
ニヤリと笑い、アイゼンの尖端を向ける。
「誰がペアの問題に答える?」
「じゃあ、私が行くよ」
誰よりも早くフェイトが挙手し、一歩前に出る。
「質問内容は、このボックスからランダムで選ぶからな」
ヴィータがボックス内から畳まれた紙を1枚取り出し、開く。
「問題。【ヴィレイサーはフェイトとメイヤ、どっちの事をより愛している?】」
「なんなんだよ、その質問は!」
あまりの内容に、ヴィレイサーは憤慨する。
「さぁフェイト、答えろ」
ヴィレイサーの言葉には一切耳を貸さず、ヴィータはフェイトに答えを迫った。
「えっと……メイヤには悪いけど、ヴィレイサーは私の方をより愛してくれていると思う!」
「正解は?」
「俺が答えるのかよ!?」
「当たり前だろ。お前以外答えを知らねぇんだから。」
「はぁ……残念だが俺は、フェイトとメイヤを同等に愛している。よって不正解だ」
「…だってよ。」
「あぅ……」
ショックなのか、フェイトは肩を落とした。
「ほら、さっさと残りの分だけ戻れ」
ヴィータに押され、3人は下がって行く。
「ごめんね、メイヤ……」
「気にしないでください、フェイトさん。“他の人より自分の方が愛してもらっている”と思うのは、変な事ではありませんから」
「メイヤ……」
「かく言う私も、フェイトさんより自分の方が愛されていると思っていた時がありますし」
苦笑するメイヤに、フェイトも頬を緩めた。
「我儘で悪いが、俺にはフェイトもメイヤも……どちらも必要だ。俺は本当に、君達2人のことを愛しているからな」
2人の方を振り返らず言われたヴィレイサーの言葉に、フェイトもメイヤも顔を綻ばせ、互いに彼の腕に抱きついた。
「一気にゴールしたいね」
「そうだね」
スバルの言葉に同意しつつ、コルトはサイコロを放る。
「4だね」
「…ってことは、ヴィータ副隊長の1つ手前か」
「良かった……のかな?」
「イベントの内容によるね」
ヴィータが立っている升目の1つ手前に立ち、どちらのカードを引くか考える。
「じゃあ、私の方を引いてください」
《スバル達も、【コスプレ】が出たですよ》
はやてに始まり、遂にはコルトとスバルもコスプレすることとなる。現れた更衣室で素早く着替え、2人とも出てきた。
「スバル達も学校の制服か」
「ブルズとティアナの物とはまた違うな」
「コルト、なんだか生徒会長みたいだね」
「確かにな。」
きちっと制服を着こなしているコルトは、正に生徒の鑑として相応しいほどだった。
「そりゃ!」
次いでブルズがサイコロを投げる。
「5ってことは、ヴィータ副隊長のいる升目を通るな……」
「よう、どっちが質問に答えるか決めたか?」
「私が答えます。」
ティアナが前に出た所で、ヴィータは質問用紙を開き、内容を読み上げる。
「【ブルズは、カメラに向かってティアナへプロポーズできる。○か×か】……だ」
「なああああぁぁぁぁぁ!?」
その質問内容に、ティアナは顔を赤くする。
「さぁ、答えろ」
「え、えっと……」
迫るヴィータに、ティアナはブルズの顔を見たり視線を逸らしたりを繰り返した。
「い、言えると思います」
「ブルズ、正解は?」
「当然、言えます」
平然と言って、ブルズはカメラの前に立つ。
「ティア、残りの人生、俺と歩んで欲しい。結婚してくれ」
決してふざけず、ブルズは真剣な目をしていた。ティアナがそれに答えることはなかったが、特にそれは問題にされずに済んだ。
「ん、進んでいいぞ」
「どうもっす」
真っ赤になった顔を見せぬように俯いたままのティアナの手を引いて、ヴィータがいる升目より1つ進んだ所で立ち止まった。
「トップはレオン、次いでブルズ、3番はアルクで4番目はコルト、そして最後に俺達か……終盤でこれは痛いが、まぁ優勝が目的じゃないし、別にいいか」
「私は、優勝景品を欲しかったよ?」
「私もです」
それぞれの腕に抱き着いているフェイトとメイヤは、ヴィレイサーとは違い、景品に興味があるようだ。
「それに見合う埋め合わせはちゃんとするよ」
「あんまり数が大きいと、ヴィータちゃんの所にまで戻っちゃうね」
最もゴールに近いなのはとレオンは、丁度ゴールに辿り着く数を出さなくては、ヴィータの所まで戻る可能性を危惧していた。
「それ!」
「5か……」
ゴールまで行ったが、数が合わず、また後ろに戻された。
《チャンスカードですよ》
「なら、これだ」
《効果は……【バシル〇ラを唱えた】………です》
「どこの『いただきストリ○ト』だよ!?」
「バ○ルーラって何?」
《【自分以外の人を、ランダムで別の場所に飛ばす】と言う効果っす》
《ヴィータちゃんも含めて飛ばすですよ!》
なのはとレオンがバシ○―ラを唱えた結果───
レオン&なのは
コルト&スバル
アルク&はやて
ヴィータ
ヴィレイサー&フェイト&メイヤ
ブルズ&ティアナ
───となった。
「せっかくヴィータ副隊長からの質問をクリアしたのに……」
「もうやる気なくなりそうだ……」
ブルズとヴィレイサーは、同時に肩を落とした。
「なのはちゃんと並んだな」
項垂れているブルズとヴィレイサーを横目に、はやてとアルクはさっさとサイコロを投げてなのはとレオンのいる升目に並んだ。
《チャンスカードの効果は……【テレ○を唱えた】……です》
「また移動系統かよ!」
「ヴィレイサーは、テ○ポの効果を知ってるの?」
「確か【自分以外の人を、別の人がいる場所に移動させる】だったかな?」
《そうですよ》
またもや出た移動系統の効果により───
ブルズ&ティアナ
レオン&なのは
アルク&はやて
ヴィータ
コルト&スバル
ヴィレイサー&フェイト&メイヤ
───となった。
「今度は最後かよ……」
「大丈夫だよ、ヴィレイサー! 優勝は難しくても、少しは頑張ろう」
「イベントマスですね」
サイコロを投げると、ヴィータの所までは行かず、イベントマスに止まった。
「ここで尻込みしてもしょうがないし、俺のカードを引いてくれ」
《チャンス・イベントが出たですよ。イベントは……【出された書類の、どちらかに必要事項を記入しろ】……ですね》
「嫌な予感しかしないのは何故だ?」
冷や汗を掻くヴィレイサーの予想を裏切らず、目の前に2種類の書類が出てきた。“婚姻届”と“離婚届”と言う、まさかのタッグだ。
「ふざけんなよ!」
《拒否権はないのですよー》
喚いた所で結果は変わらず、ヴィレイサーは2つの書類を睨む。まぁ、実用性がある方を取るのなら、無難に婚姻届を選ぶのが妥当だ。離婚届に手をつけようものなら、背後からハラハラドキドキしながら熱い視線を浴びせてくるフェイトとメイヤにすぐさま泣かれるだろう。やがて嘆息し、彼は婚姻届を手にした。
「今から書いていると時間かかるから、“婚姻届を持っている”で妥協してくれ」
《分かりました》
許可がおり、とりあえず安堵の息を漏らした。
「チャンスカードはこれかな」
《【もう1度サイコロを振る】……です》
「6か」
チャンスカードに従い、再度出た数だけ進んだ。しかし、3マス進むと、ヴィータと接触した。
「誰が答える?」
「では、今度は私が答えます」
「質問は……【ヴィレイサーはメイヤの事だけを愛している。○か×か?】」
「ちょっと待て! さっきと同じ質問内容じゃないか!」
「しょうがねぇだろ、コレが出ちまったんだから……」
「誰だよ、この質問を考えたの……」
「さぁな。それよりメイヤ、答えろ」
「えっと……ヴィレイサーさんは、私だけを愛している!……と、答えたいところですが、それはないですね。答えは、×です」
「ヴィレイサー」
「あぁ、×だよ」
「ん、答えが合致したから進んでいいぜ」
残った3マスを進み、チャンスカードを引く升目に止まったので、再びチャンスカードを引く。
《【メダパ○を唱えた】……です》
「今度はメ○パニかよ!」
「どんな効果なの?」
「次の自分の番まで、サイコロは1しか出さないんだよ」
《『いただき○トリート』では確かにそうですけど、この双六では相手を指定できるですよ》
「じゃあ……」
相手を指定する前に、ヴィレイサーはあることが気になり、リインフォースUに聞く。
「なぁ、ヴィータの質問って、ヴィータがいるマスより先に進む場合の時だけ、質問されるんだよな?」
《そうですよ》
「じゃあ、悪いがコルトとスバルを指定する」
「ど、どうして僕達なんですか!?」
「いや、これ以上は被害者を出したくないだけだ。無論、コルトもスバルも、ヴィータからの質問に答えたいのなら、別の奴にするが?」
「「答えたくないです」」
「だよな」
口を揃えて質問を回避したいと言った2人に苦笑いし、改めてコルトとスバルのチームを指定した。
「良かった。1を出す以外に、ヴィータ副隊長からの質問は回避出来なかったからね」
「そうだね」
2人が今いるのは、ヴィータがいるマスと隣接しているマスだったのだ。
「じゃあ、一歩」
ヴィータが呼び出されたマスに着き、チャンスカードを引いた。
《【ルー○を唱えた】……です》
「ル○ラって……またも移動系統かよ……」
《【トップにいる人の所に移動する】……と言う効果です》
「良かった」
トップに並び、コルトとスバルは安堵した。
「これで上がれればいいけど……」
サイコロを握り、ブルズはゴールを見る。
「それ!」
ティアナがサイコロを投げる。
「7かよ……」
ブルズの溜息に、ティアナも苦笑する。
「でも、ヴィータ副隊長の所まで戻らないんだから、それは安心じゃない?」
「それもそうだな」
《イベントマスですね》
2人が止まったのは、イベントが行われるマスだった。
「どっちがやる?」
「今までアンタがやってきたし、ここは私がやるわ」
《えっと……【AかBの飲み物をどちらか飲む】……です!》
「また選択……ブルズ、アンタならAとBのどっちを選ぶ?」
「さっきはAだったし、今度はBかな」
「それじゃあ、Bで」
《了解ですぅ》
ティアナの指定に沿うように、Bの飲み物が出されてきた。
「これ……ジュース?」
「ん? ちょっ!? ティア、それは……!」
ブルズがティアナに制止を呼びかけようとしたが、残念ながらそれは叶わず、一気に飲み干してしまった。
「…ブルズ〜♪」
「お、おい!」
ティアナが飲んだのは、クリスマス会でも口にしたお酒だった。かなり高いアルコール度数を誇っているそれを飲み、酔わない者は数少ないだろう。
「ごめんね、ブルズ。私、これからはもーっと素直になって、ブルズを愛してあげる〜♪」
「お、おう」
抱きついてくるティアナをどうする事も出来ず、更には普段なら滅多に言わないであろう言葉に、ブルズは顔を真っ赤にして行く。
「さっきまであれだけ自分から愛を叫んでいたのに、ティアナからには滅法弱いな」
「まぁ、普段と違えば違うほど、相手が魅力的に感じるからだろうな」
「レオン、さっさと投げちまえ。アイツらの番はもう終わってるし」
「そうだな」
ヴィレイサーに促され、レオンはサイコロを投げた。
「やった! 6が出た!」
「…ってことは、俺達が最初に上がりか!」
《レオンさん、なのはさん、優勝おめでとうございます! では、景品をお受け取りください》
リインからは賞賛が、そしてゴールに置かれた景品が贈られる。
「ふぇ?」
「こ、コレは……」
《優勝賞品は、ベビー用品ですよ♪》
「ふええぇぇぇぇ!?」
「何だ、お前らにピッタリじゃないか」
「まったくだな」
景品が大したものではないと分かり、ヴィレイサーを始め、アルクやコルト達はさっさと会場を出て行った。
「最後の最後で白けたなぁ……」
「でも、それまでは面白かったから良しとしようよ」
「そうですよ」
「まぁ、お前達が楽しめたのなら俺はいいんだけど……って言うか、お前らは自室に戻らないのか?」
足を止めて、ついてくるフェイトとメイヤを振り返る。
「え?」
「そのままの格好でうろつくのか……ってことだよ」
「「あ……」」
ヴィレイサーに指摘されて、2人は自分達がメイド服を着用していたことを思い出す。今はロングコートと上着をそれぞれ羽織っているのでそこまで目立たないが、さすがにそのままという訳にもいかない。
「俺は自室に戻って着替えるけど……」
「わ、私達も、そこで着替えていいかな?」
「え、マジで?」
「は、はい」
予てからそう計画していたのか、フェイトもメイヤも同じ意見を出してきた。
「…まぁ、好きにしてくれ」
断る理由が見つからず、先に歩き出し、自室に入る。
「ふぅ……」
疲労した身体を休めるようにベッドに腰掛けると、フェイトとメイヤが借りていた上着とロングコートを渡してくれた。
「ありがとう」
「助かりました」
「あぁ」
短く答え、2つとも適当な所に放り投げる。
「着替えるんなら、別室にしてくれよ」
念の為にと釘を刺すが、フェイトもメイヤも、何故か別室には行こうとせず、フェイトはヴィレイサーの左側に仰向けになり、メイヤはヴィレイサーの膝の上に頭を乗せる。
「こうしてても、いいかな?」
「私達も、疲れちゃって……」
「…あぁ」
微笑し、ゆっくりと目を閉じた2人の髪を、撫でるように指で梳く。
「雨の日も、たまには悪くないな」
背後にある窓に雨がぶつかり、奏でられる雨音を聞きながら呟いた。
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