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かわらないもの/ラビュ?



高校の3年間はあっという間のものだった。


卒業式が終わり、外では運動部が3年に花束を渡したり胴上げをしたりしている。
もっとも、神田自身も剣道部に所属していたため、自分の脇には随分と立派な花束がある。
こういうことは苦手で、名残惜しそうな後輩をひきはがし早々に戻ってはきたが。


教室は誰もいなかった。
きっとみんな思い思いの人の元へ別れの挨拶をしているのだろう。
自分にはそんな人はいなかった。嫌われていた訳でも、孤立していた訳でもないがいかんせん人付き合いが苦手であったため特別仲の良かった人はいなかった。

ただ一人、あいつを除いては。


窓を開けると途端に風が入ってきてカーテンを揺らす。
春が近付いているといってもまだ寒い。

時計を見るともう昼時を大分過ぎていた。


(帰るか…)


一応待ってはいたものの、あの派手な髪色をしている元生徒会長はやってこない。
俺と違ってあいつは挨拶をするべき奴らがたくさんいるだろうから。
いつも通り今日だって別に一緒に帰ることを約束していた訳ではないし。

どうせまたいろいろな手続きで学校に来なければならないからまだこれで最後という訳ではない。
多くの人がそうであろうに外に出ている卒業生や在校生は泣いている人が多い。
きっと俺と違ってたくさんの思い出があるのだろう。自分は分からないがなんとなく理解はできる。

こんな日に卒業生で一人で帰るのは自分くらいだった。


校門を出て坂道を下る。

通り過ぎる車も、建物も、何一つ変わってはいない。
そう、変わらないのだ。
自分たちが卒業したって何一つ。

それが果たしていいことなのか悪いことなのかは分からないが。




信号を渡ったところで自分を呼ぶ声がした。

振り返った途端に信号が赤になり車が走り出して視界がふさがった。


(あほか)


ちらっと見えたのはオレンジの頭。
第一『ユウ』と呼ぶのはアイツしかいない。

神田はラビを待つことなく歩きだした。



「なんで待っててくれないんさ…」



教室に行ってもいなかったし今だって…とラビは拗ねた口調で言う。

信号が変わった途端全力で走ってきたせいだけではなく自分がもう帰ったことを知ってきっと急いで校門を飛び出してきたのだろう。息が切れ切れだった。


「別に約束した訳じゃないだろ」

「そうだけどいつもは一緒に帰ってるじゃん」

「お前待ってたって来ねえだろ。随分とごたいそうじゃねぇか」

そう言ってラビの抱えている花束を指す。
ラビは一瞬ぱちくりと目を瞬かせてからにっこりと笑って言った。


「あれ〜、もしかして待っててくれたんさ?さみしかった?」

「馬鹿、違ぇよ」

そんな言葉もお構いなしににこにこと笑みを浮かべながら隣を歩く。

しばらく会話が途切れたとき、ニャーという鳴き声が聞こえラビが足を止めて振り向く。


「あ、ここユウ知ってる?ネコポイント」

「知ってる。つか俺が教えたんだろ」

「え〜、そうだったっけ?じゃあ他には…」

「そこの角のパン屋だろ、あと工場の隣の路地」

「うー…、あ!あと一つ忘れてるさ」

「一つ?」


「川の隣の草むらのスズメポイント!」

「スズメかよ。ってかそれも俺だな」

「…ユウはほんとそういうの見つけるの得意さね。見た目もそうだけど心ん中も乙m…」

「うっせ黙れ」


とりあえず殴っておく。



どれだけこいつとこんなくだらないやりとりをしただろうか。果たして後どれくらいこんなことをやっていられるのだろう。
高校を卒業してしまった以上、もうそんなに時間が残されていないのは確かだ。

そんな俺を見て、ラビはちょっと寂しそうに笑った。

「ここ、綺麗な桜が咲くんさー」

まだ咲いてないけど。今年は特に遅れるみたいさ、とラビが言う。
その声はきはめていつも通りを装っていた。


「………」


これから何を言われるのだろう。怖くて何も言えない。どのみちいい知らせではない気がする。



「オレ、アメリカに行くことになりましたー!」

明るい声。


俺は思わずポカンと口を開けた。


「マジか、本当に受かったのかよ」

「うん。…入学までは時間があるけど向こうの生活に慣れようってことで早めに行くことにしたんさ」

「いつ?」

「一週間後」

「そうか…」


変わらない訳がなかったのだ。
そんなことに今更気がついた。

もう、遅いのに。
こういうことはいつも手遅れになってから気づくのだ。



「桜咲いたらさ、写真送って」

「……?」

「いつかここに帰るからさ、ユウはここで待っててよ」


だからさ、そんな顔しないで。
そう言って俺のほうに振り返って笑う。



存在している以上変わらないものなんてない。
だけど決して悪いことではないのだ。






「ああ、待ってる。」


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