After the Rain After A/神リナ
リナリーが神田のあの黒い傘を僕の物かと聞いたとき、これはチャンスだと思った―
『この傘神田のだったんだね』
リナリーが走り去って行くのを茫然と見つめていた。
どうしてあの傘が僕の物でないとわかったのだろう。
ただ、―フラれた、とそれだけを思った。
「あーあ。フラれちゃったか、少年」
その声に振り向くと、ラビと例の女子剣道部の部長さん。
「……見てたんですか」
「人の傘を自分のだって嘘を付くのはよくないさぁ」
「…結構前から気づいてたんじゃないですか」
どうやらこの人達には何もかも全部ばれていたようだった。
「…止めてくれればよかったのに」
「止めてほしかった?」
「………」
本当は最初からわかっていたのだ。
リナリーが神田を好きな事。
神田がリナリーをずっと見ていた事。
雨の日に神田が濡れながら走って帰るのを何回も見て、それが傘を持っていないリナリーのためだと気がついた。
なんとなくあの傘が気に入らなくて、ゴミ捨て場にでも捨ててやろうと思った。
その傘を持ったときに偶然リナリーに見られて、咄嗟に自分の物だと嘘を付いた。
でも一緒に帰ってわかった。
最近いろいろな事があったけど、それでもリナリーは神田のことが好きだという事。
「…止めてほしくはなかったです」
あのとき神田が目の前にいなければ僕の想いは届いていただろうか?
せめて返事くらいはくれただろうか?
―でも、
「後悔は、してませんから」
だって始めからわかっていたのだから。
この想いを伝えただけでも十分だった。
それを聞いて、ラビと部長さんは微笑んだ。
「あんた、やるじゃん。……私は、伝えられなかったから。」
「…え?」
「伝えようと思ったら、リナリーが好きで一緒の大学に行きたいから勉強教えてくれ、だよ。もう、言える訳ないじゃん…」
そう言った部長さんの目元がきらりと光った気がした。
何も幸せになれなかったのは自分だけではなかったのだ。
―残酷だなぁ…、神様も。
ただただ、笑うしかない。
「飲みに行きましょう」
突然の僕の言葉に、部長さんは目を丸くした。
「え?何?何言ってるの?私達まだ未成年よ?」
「誰がお酒なんか飲むって言ったんですか。ドリンクバーでいいでしょう?ほら、行きますよ」
そう言って部長さんの手を引っ張った。
僕にはそれしかできなかった。
「…あんた、いい人ね。私、好きよ」
「冗談はよしてくださいよ…」
もう悲しい顔はしていなかった。
「ねぇ〜、オレはどうするんさ〜?」
「うーん…あ、じゃあラビが奢ってください」
「え!?嫌さ。お前めちゃくちゃ食うじゃん」
「いいじゃない。私達フラれたんだから慰めてよ。今日はやけ食いしてやるー」
「勘弁してさぁ〜」
そう言って、みんなで笑った。
「あ、虹」
見上げると、空には綺麗な虹が出ていた。
目の前ではリナリーと神田が幸せそうに二人で空を見上げていた。
「あの二人はきっと幸せになるわ」
「そうですね」
ファミレスに行くために、二人に背を向けて歩き出した。
もう、僕達は前に向かって進んでいた。
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