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シリーズ部屋
夢見町 けずる君
【2009/07/17 22:21】

私は私立探偵髭田。基本的には都心で仕事をしている。この不況下でも何とかおまんまを喰っている。私の探偵事務所は少し変わっているからだ。扱う事件は全て奇妙なものばかり。隙間産業といったところだろう。


初めて奇妙な事件を扱ったのは一年前の今頃の話だ。東北のある田舎町から依頼が来た。内容は『町民を救って欲しい』という事だった。


私は道中エンストしたもののオンボロの軽自動車を騙し騙し走らせ漸く田舎町に着いた。田舎町の名前は『夢見町』、昭和臭い古びた町だった。町の住人は誰もがそこに居るのに居ないかのような…なんとも言えない雰囲気を持っていた。

地図を頼りに町を的確に歩き依頼者である肇氏の元へ向かった。

肇氏は齢80位の男性。寝間着姿でベッドに横たわるその身体には幾つもの管が繋がっていた。

『わしはもう長くないもんでね…』

肇氏は自身を蝕む癌について萎れた花のような唇で語ってくれた。私は用件を聞いた。耳を疑うような話だった。


肇氏を除いてこの町の住人は全て誰かの夢だというのだ。肇氏は今、起きながらにして佐藤氏(町唯一の医者)の夢を見てる。佐藤氏自身、肇氏の夢の産物なのだという。そして佐藤氏は誰かの夢を見ている…。要するに数珠繋ぎの直列で誰かは誰かの夢なのだ。お互い自覚がないらしい。成る程…だから町民は幽玄としていたのか…。

問題は肇氏の寿命が今にも尽きようとしていることだった。肇氏の死=町の死…
町民は軽く2000人はいる。一瞬で廃墟の町になるだろう。

私は正式に依頼を受けると町の旅館に滞在し、解決策を考えだした。

その日から私は1番新しい住人を捜した。町役場に行けば済む話かと思われるだろうがそうは問屋が卸さない。町役場に記録は存在しない。新しい住人は突然現れる。そして歳もバラバラた。

一週間後、町民への聞き込み捜査から高橋氏(豆腐屋主人)に行き着いた。


高橋氏はいきなり『あなたは誰かの夢ですよ』と私に言われて酷く狼狽していたが過去がない事、何処から来たか分からない事…やがて全て自身の中で納得したようだった。

『私はこの町を愛しています。無くなるなんて嫌だ。髭田さん私が出来る事はなんでもします…』高橋氏は言った。


『町医者の佐藤さんの夢を見てあげてください』 私はそう告げると肇氏から報酬を貰いオンボロの軽自動車を走らせ町を去った。



その後風の便りで肇氏が亡くなったのを聞いた。だが『夢見町』は町民と共に存在している。


陽炎のように…。

 


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あきゅろす。
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