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シリーズ部屋
再会町 けずる君
【2009/07/30 17:31改】
『髭田さん、ありがとうございました』

そう依頼主が笑顔で言った。
今日は霧に霞む町、『再会町』で仕事を終えた。再会町は心の奥底に眠る何かと再会できる町。人によっては思っても見ない者に会うらしい…。

そして再会町を出ようとした時の事だった。ふいに後ろから名前を呼ばれる。

『スミスちゃん。スミスちゃん…』

振り返ると霧の中から段々と輪郭が現れる。

『…母上』

母親。
母親は私が子供の頃、亡くなった。いつもほらを吹き、私を煙りに巻いていた。寝る前にその優しい声でよく創作話を聞かせてくれた。口元にある黒子。思い出なんてそんなところだ。

私達は公園のベンチに腰掛けた。私は何を喋ればいいかわからないので無言でいた。すると母親は静かな口調で語り始めた。

___________

『星になれた』

あるところに大変仲のよい恋人達がいました。

しかし、男の人は戦争に行き帰らぬ人になり女の人は悲しみにくれました。

男の人は本人の願いで脳をコンピュータの一部として人工衛星に載せ宇宙に打ち上げられました。

そして人工衛星は大好きな恋人を空からずっと眺めていました。

女の人は男の人の子供を産みました。それはかわいい女の子でした。

人工衛星は毎日二人を眺めるのが楽しみでした。

そんなある日、ささいな故障から人工衛星は軌道をそれ始め二人を眺める事が出来なくなりました。

人工衛星は遠ざかる青い地球に向け最後の力を振り絞り光りを放ちました。

地上では二人が夜空に一際輝く星を見つけました。すぐに消えたけれどとても綺麗でした。

娘は誓いました。大きくなったらあのお星様に会いに行くと…。

彼は星になれました。
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子供に聞かすにはなんとも不思議な話である。母親は本当の話とうそぶいていた。でもこの話がとても好きだったのを今も覚えている。

『スミスちゃん、いつもここで寝てしまうから、最後まで聞いて貰えなかったね…押し入れ…』

と言いかけると母親は少し寂しげに笑い、本を閉じて霧の中へ霞んでいった。多分、私の母の記憶がここまでなのであろう。


再会町を出るともう誰も住んでいない実家に車で乗りつけた。久しぶりの実家は換気をしてなかったせいかほのかに黴臭い。2階の押し入れを開けると本は奥にある段ボール箱から申し訳なさそうにちょこんと顔を出して主張していた。

本を開けると金木犀のいい香が部屋全体に広がる…。

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続き


娘は必死に勉強をして大学まで行きました。

彼女は夢を叶える為、その後も努力を続け宇宙飛行士になれました。

彼女はロケットに乗り宇宙へ旅立ちました。ミッション『アストロノーツ・ドーター』を達成する為です。

どれくらい漆黒の宇宙を進んだでしょうか…。ついに宇宙を漂う物体を発見しました。

『父さんだ!』

彼女はついにお父さんに会う事ができました。


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そこまで読むと最後の頁から一枚の古臭い白黒写真が落ちた。写真の裏には日付と『アストロノーツ・ドーター計画』とだけ書いてあった。

表は沢山の科学者やスタッフらしき人物が並んでいた。その中心で人工衛星と並ぶ、宇宙服姿で頭を出し、Vサインをする若い女性が写っていた。その女性は何とも言えない爽やかな笑顔をしている。そしてその口元には黒子。

気が付くとすっかり夕方になっていた。今日は昔よく遊んだ近くの公園で祭があるらしい。さっきから太鼓の音がズンズンと心臓に響いて来る。

公園に行くとそこは人々でごった返していた。ふと公園の隅にある昔よく遊んだ不思議な形のジャングルジムに視線をやった。錆でボロボロ…。が、一つ分かった事がある。


写真のやつによく似ていた。



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あきゅろす。
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