SS系2 隠去れ村と水晶の勾玉 道化師 (2009/8/23 16:59) 私の名前は未来。骨董屋『魔宝堂』で叶さんや猫丸さん達と暮らしているの。 私の楽しみは散歩に行くこと。 散歩していると時々玩具やぬいぐるみ達が捨てられているのよ。 私が持って帰ると叶さんが何処かへ送っているわ。 その日もぬいぐるみを拾って、帰る途中の公園で遊んでいたの。 ベンチに座ってぬいぐるみとお話していたら後ろから声を掛けられたわ。 「遊んでくれてありがとうと言ってるよ」 振り返ると5〜6年生位のお兄ちゃんがにこにこ笑っていたの。 『この子の声が聞こえるの?』 私が聞くとお兄ちゃんは答えたわ。 「うん、僕は心の中が聞こえるみたいなんだ」 それから私とお兄ちゃんはいろんな話をして一緒に遊んで仲良くなったの。 それでお兄ちゃんが困ってる事を知って魔宝堂に連れて帰ったの。 ――――――――― 『未来から大体の話は聞きましたよ。今度のテレビ出演を必ず成功させる為の道具をお貸しします』 私は奥の部屋から水晶で作られた手の平サイズの二対の勾玉を持って来た。 『この水晶の勾玉は君の力を吸って増幅させる道具だから大変危険だよ。暴走すると取り返しがつかないからね。テレビ出演が成功したら必ず返しに来て下さい』 私は二対の内から煙水晶の方を渡した。 ――――――――― 数日後、私はテレビ放送で少年が大成功した事を知るが、少年はそれから何日経っても水晶の勾玉を返しに来る事は無かった。 しかし私の方から返却を求めに行く事は無かった。 少年が水晶の勾玉を返しに来ないまま数ヶ月が過ぎた。少年は様々なメディアでもてはやされ、人気者になって行った。 ――――――――― ある日を境に少年は一切のメディアから姿を消した。 私は時期が来た事を知り少年を訪ねる。 少年は引き篭り、誰も部屋の中に入れようとしないと両親から聞いた。 私は静かにドアをノックして言う。 『水晶の勾玉を返して下さい』 ドアが少し開けられ隙間から、色が変わり黒水晶の様になった勾玉が差し出された。 私はそれを手に取り、ドア越しに少年の心の声を知る。 少年は両親の期待に答えたかっただけ、しかし今はその力に押し潰されようとしていた。 私は少年の両親に二対の勾玉のもう一つの方、紅水晶を預けた。 『あなた方からこれを少年に渡して下さい』 ――――――――― 大事なものは探し求める事に価値が有るのかも知れない。 水晶の勾玉は隠去れ村へ送ろう。愛されたいモノ達の住む村へ。 水晶の勾玉は村長になれるだろう。 |