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私達は立つ!
惨劇、残劇。

もうすぐ夜だから、なんて言って子供達は帰路につく。幸のポケットには、今日貰った鈍い白の液体の入った容器が一つ。使い方のわからない液体は、使われる宛もないのだが。ぽちゃりと音を立てて容器の中で波打つ。

「みんな帰っちゃったね」
「夜だもの。」

着かないテレビの形をしたゲートを見つめながら、幸は少し落ち込んだ。帰れるけれど、帰る家があるかもわからないならば、まだここにいる。と答えた事に後悔した。
だが、それが正解なのだ、誰かの家に迷惑になるし、居ない死んだとされた存在がいても、親もまわりの子供たちも不便を強いる事になる。仕方ない。なんて幸が呟く。それがどちらの意味なのかは理解出来ないが、茶色の髪が闇夜に靡く。髪の間から茶色く垂れた耳が伺える。その姿はファッションの一つにも見えるが、実際は違う、遺伝子レベルで組み込まれた曖昧な存在が、そこに。

「夜は寂しいね」
「みんな寝ちゃうからね」
「寂しくないね」
「オイラ達がいるかんな!心配すんなよ!幸」
「あぁ、うん。」

でもね、やっぱり。

「…ふぇ」
「幸?」

それは何かが壊れたように襲う。
寂しさとか、悲しさとか、苦しさとか、虚しさとか、全てが一気に流れ出して幸に襲う。
どうして、みんないなくなったの。大好きなパートナーも、あんまり好きじゃない同じ仲間も。苦手だった彼等もどうしてやられる必要があったんだ。どうして、私が生きているんだ。私よりももっと他に生き延びるべき人がいたはずだ。なのに、どうして私は生きているんだ。

「どうして、いなくなるの」
「居なくならないよ。」
「あたしたちが居るでしょ。幸」
「それに僕たちがいるから」

背中に感じる温もりはデータじゃなくて暖かな命の調べ。回される腕と、目の前を飛ぶデジモンで向こう側に帰ったはずの誰かが戻ってきたのだろうか、と思考が走るが、それよりももっと先に走るのは、感情であった。

「………怖かった。」
「一人だったからね」
「……辛かった」
「長い旅だもんね」
「寂しかった……」
「でも幸ちゃんは頑張ったね」
「……でも、でもでもでもぉ!」
「解ってる。幸ちゃんがどんな旅をしてきたか」

嗚咽が治まるまで、その温もりに包まれていた。

惨劇、残劇。
(誰もいなくならないで。)(残して行かない。)

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