go through hundreds of battles1 僕たちは言葉を失った。 彼が、敵対している相手―以前戦ったコンピ研とは違う―に捕らえられた、と彼の部下から通信で知らせが着たからだ。 彼の部下も動揺したまま通信してきたのか興奮状態で何を言っているのかさっぱりわからなかったが、ただ一つわかったことは先に述べた、彼が捕まったと言う事実。 今朝までこの艦に乗って笑っていた彼が今はここに居ない。 「そ……んなの、嘘よ!そうなんでしょう?ねえ、キョンが捕まったなんてそんなの……嘘に決まってるじゃない!」 涼宮総司令閣下はそんなの信じられないと声を荒げ、通信を寄越した部下を問い詰める。 気持ちはわかる、だってここに……彼がいないなんてそんなの信じられないからだ。 長門情報参謀も黙ってはいるが信じられないといった表情を浮かべている。朝比奈さんなんて顔が真っ青で今にも倒れそうだ。 「い、いえ……参謀は……作戦参謀は私たちを助けるために身代わりに捕まってしまったんです!」 「彼、らしいですね……」 そう静かに呟いたのは僕自身で。 崩れ落ちた閣下を支えながら、今にも崩れ落ちそうな自分の足に力を入れた。ここで僕が崩れ落ちたらそれこそどうする。 「古泉君……キョンが、キョンが……!」 「わかっています、閣下」 一旦深呼吸して、これからどうするのか考える。 きっと敵から通信が入るだろう、それよりも先に僕たちは動き出しておかねばならない。彼に何一つ傷なんてつけさせてはならない。 「今から僕が指示を出します、貴方方はその通りに動いてください」 「は、はい!了解しました幕僚総長!」 彼を助ける、自分がどうなろうとも、彼は助けてみせる。 「……ん」 目覚めた場所に見覚えがなかった。 ああ、そういや俺捕まったんだっけ? ぼんやりした中でそれを思い出した。そうだ、仲間を助けるために俺は自分から捕まりに行った。 「はは、怒ってそうだな」 怒った顔のハルヒを想像して苦笑が漏れた。 それと、心配した顔の朝比奈さん、少し表情の変わる長門……そして、奥歯を噛みしめる古泉の顔が浮かんで不意に泣きそうになる。 部下の皆もきっと似た顔をしてくれているはずだ。 まあ俺がいなくてもあいつらならなんとかやってくれるだろう。 これから俺はどうなるのだろうか?取引道具?拷問? なんでも来いって言うんだ。味方の、仲間の誰かが傷つくよりはいくらもマシだ。 俺を取引に使いやがるくらいなら、自害だって選んでやるさ。他の奴の迷惑になんてならない。あいつらの迷惑になるくらいなら俺は自分から死を選ぶ。 「……古泉」 それでも、顔に浮かぶのは古泉で。 昨夜だってぎゅっと抱きしめあったのにその感触は遠い。 淋しいなんて思っちゃいけないけど、無意識に俺は自分の身体を抱きしめた。 「お目覚めですか?」 敬語ではあるが、古泉とは違った声。 それが聞こえた方向に首を回すと俺とそう歳の変わらない青年が目の前に立っていた。 驚く俺にそいつはにっこりと笑いかけてきたが、その目は一切笑っていなかった。 コイツ、ヤバい。 そう俺の脳が信号を出す、どうやらこの艦の司令を出しているのはこの男らしい。 不思議とは思ったが、俺の艦の総司令閣下様の顔がぽんと浮かんできて、それもまた無い話ではないなと思いなおす。 「最悪の目覚めだよ、で?お前らは何がしたいんだ」 目の前の男に動揺を悟られまいと必死に言葉を紡ぐ。俺には怖いものなんて何一つないさ。 だから震えてなんかいない、目の前の男が怖いなんて思っていない。 「そう、ですね……とりあえず今はまだ何も。貴方と話してから今後のことは考えますよ」 にこにこと胡散臭い男だ、古泉よりも性質が悪い。あいつはなんだかんだでわかりやすい男だったがコイツはさっぱりわからない。 その後も特に特筆すべき事は何一つなく、本当にただ単に俺と話したかっただけらしい。 しかも俺は何一つ話していない。向こうが勝手にぺらぺらと聞いていない話をしてきたのだ。俺をこの部屋に入れたのとか、着替えとか……な。 「ああ、そうそう。貴方の着替えしているときに見たのですが……この印はなんですか?」 「……っ!!!」 奴が指したのは昨日古泉がやけに吸いついてきていた場所で。 確認していないからわからないが、多分所有印が付いているのだろう。 ばっと離れ、そこを押さえる俺を見て奴は人の悪い笑みを浮かべた。ヤバい、今ので確実に俺が向こうの誰かとそう言う仲だということがコイツにばれてしまった。 幸いそれは一つしかなく、また変な場所に付いているわけでもないから男同士と言うことはばれていないだろう……多分。 「へえ、貴方には深いお付き合いをされている方がいらっしゃるんですか」 ぞっとするほど冷たい声が響いたかと思えば、奴はそこに上から吸いついてきた。 抵抗したがそれすらも封じ込められ、上から所有印を付けられる。 嫌だ、古泉の……古泉の付けた跡が消されるなんて嫌だ! 「や、嫌だ!離せ、よ!」 |