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受け止めて


「古泉……」

夏も終わりに近づき、朝夕が涼しい九月。
たまたま家に泊まりに来ていた彼で暖を取っていると彼が不意に僕の名前を呼んだ。

「どうされましたか」
「野郎二人でベッドでぬくぬくしてるの気持ち悪くないか」
「そうですか、僕は全然気持ち悪くないんですけど」

彼はその答えに一言そうか、と言い黙ってベッドの中で静かになった。
ぎゅっと抱き着くが反応はない。
ああ、寝てしまったのか。
定期的にリズム良く動く胸、呼吸。
それが酷く心地好くて、安心する。
いつだったか。そう、昔感じたことのある動きだ。
小さな僕を抱いて眠っていた母の動きにそっくりなそれが安心できる。

うと、と思うともうダメだった。
そのままゆっくりと闇に落ちていった。

















ふわふわした感触。
ああこれは夢だ。僕の都合のいいように作られた夢だ。

「意外と寝顔は歳相応なんだな」

彼は笑いながらまだ寝ぼけ状態の僕に言う。といってもこれは夢だから寝ぼけ状態というのはおかしいのだが。

「そういうとこ安心するよ。お前にも相応ななにかがあるんだなって」
「それじゃあ僕が普段は歳相応に見えないってことじゃないですか」
「まあそうとも言うな」

けらけらと楽しそうに笑う彼に僕も自然と笑みがこぼれる。
その表情も初めて彼に見せた顔だったからか彼は嬉しそうに「その顔もっとやれよ!いつもよりいい表情してるぞ」と言った。

この彼は普段の彼よりも幾らも子供っぽいし、感情が表に出ている。わかりやすいし、表情がくるくる変わって面白い。

「俺な、ずーっとお前に言いたいことがあったんだ!」

彼はそう無邪気に口にする。
本当に可愛い、昔の彼はこんなだったのか。


















「安心したいなら、いつでも俺を利用していいからな」

俺はそう眠っている古泉に囁いた。
ぎゅっと抱き着かれた姿勢のまま。
古泉が寒いからというただそれだけの理由で俺とベッドに入っている訳ではないのはわかっている。
ただ俺の心音を聞いて安心したいのだろう。
甘えたいし、安心したい――。
きっとそれが古泉の自分でも気づいていない気持ちなのだろう。

「俺は拒絶しないから、絶対」

せめてお前に他に甘えられる人が出来るまでは。

「俺に甘えとけ」

俺に抱き着いている大きな子供は静かに頷いた――。


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