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GWのキセキ


「五月、か」
「五月ですねぇ」

彼と意味のないような会話をしながら、トランプを引く。この会話を楽しんでいる自分に苦笑が洩れそうになる。
そう、楽しいのだ僕は。
たとえ彼にとってこれが意味のないただの暇つぶしとしても、僕は楽しい。
なぜなら僕は彼と会話していること自体が幸せで楽しいからだ。
そう言うと、友達がいないと思われそうだが、それは勘違いで、僕にだって話す友人くらいは他にいる。
ただ、彼ほど内情を知っている方がいないだけで……あ、会長は除いて、ですよ?彼は何たって共犯者ですから。

「GWはハルヒに連れ回されるんだろうな、全く……」
「そうでしょうね、彼女なら毎日不思議探索をしそうですし」

涼宮さんのことを話す彼の表情は柔らかいように思う。
僕のことを話すときの顔とは随分違うくて、少し悔しい。
僕と話すときも柔らかく笑ってくれたらいいのに。

「ま、お前が変な企てするよりはハルヒの暇潰しの方が楽しいがな」
「そう……ですか」









「あ、今年のGWは家族で旅行に行くから探索は自由!」

その日の帰り道、涼宮さんはいきなりそう発言した。
僕も表に出さないだけで驚いたのだが、隣の彼はもっと驚いていた。
まあそうだろう、今までずっとイベントごとを外さなかった涼宮さんが恰好の餌食にしそうなこのGWを自由探索にしたのだから。

「そういうことはもっとだな、前以て言うことなんじゃないのか、ハルヒ」
「なによ、一応前以て言ってるじゃない。それにあんたGW誰とも遊ばないタイプでしょ」
「だからってGW前日に言うことじゃないだろ!家族旅行に一人置いてけぼりなんだぞ俺は」

と、彼と彼女は言い合っている。何だかんだと言って、彼女は今の会話を楽しんでいる。それは僕以外にも周りにいる人物……朝比奈さん、長門さんも認識していることだろう。
この調子なら閉鎖空間も発生せず、穏やかなGWが過ごせそうだ。











「そういえばこの休みの間お一人なんですか?」
「ハルヒがもっと早く言ってくれれば俺も行ってたんだがな、残念ながら妹が帰った時点で出発だとよ」

全くハルヒの奴は……とぶつぶつ文句を言う彼が可愛いと思うのは僕だけだろうか。凄く愛おしいと思ってしまう。

そこでふと名案が思い浮かんだ。そうだ、こう言うときこそ親睦を深めるときだ。

「宜しければ、僕の家にGWの間お泊りしませんか?部屋なら空いていますし、一人でご飯を食べるよりはマシだと思いますよ」

どうせ彼のことだから、「お前の家で泊まり?今度は何を企てているんだ、拒否を貫かせて頂く。そんなのごめんだ」と返すと思っていたのだが、予想外の返事が僕の鼓膜を震わせた。

何と言った?彼は今、何と言った?


「だから、べつにお前がいいなら行かせてもらうと言っただけなんだが」

悪かったか?と聞いてきた彼に即座に悪くありません!と返す。
これで僕と彼の仲が今より良くなるといいな。変に彼と壁があるように感じるから、出来るだけ……“古泉一樹”の出来る範囲で壁を薄くしたい。

「んー、このままお前ん家行ってもいいか?ジャージくらい貸してくれるよな」
「ええ、勿論です。あ、でも買い物はしたほうがいいかもしれません。ちょうどキャベツが切れてますし」

というか腐っていたから捨てた。
いろいろな食物を機関のツテで貰うけれど、一人で食べ切れなくていつも腐らせてしまうのだ。

「そうだな、スーパー寄って行くか」

それに気づいていない彼はいつもとは違った顔で答えてくれた。
振り向いた顔がやたら優しそうで、まるで兄の様な表情だったなんて……キュンと何故か胸が鳴った。この気持ちはなんだろう。













「で、だ。古泉これは一体どういうことだ」
「簡単に説明してしまうと、腐りました」
「それはわかるがそのまま捨ててはいおしまい、なのかお前もしかして」

冷蔵庫を開けるとキュウリが腐っていた。一週間前に見たときは大丈夫そうだったのに……世の中どう動くか簡単にはわからないんだと思った。
彼の質問に頷くと、やれやれまったくこれだから……と些か呆れ顔の彼に説教された。
腐ってしまうと胞子が飛び他のものにまで影響が出かねないから出来るだけ冷蔵庫を綺麗に消毒する必要があるらしい、そんなの初耳だ。そういえば最近冷蔵庫が臭かったかもしれないなと思った。

「仕方ないから掃除からするぞ」
「お手数をおかけして、申し訳ありません」













「ま、こんなもんだな」

彼の手にかかればあんな酷い状態だった冷蔵庫もこの通りだ。……いま、ごみ箱は大惨事だけれど。
確かGWも休みなくゴミの収集はあったからまあいいか。

「ありがとうございます、貴方がいなければこのままでしたよ」
「お前も案外物ぐさなんだな。たまには俺が掃除してやるよ、仕方ないからな」

全くお前は高校生にもなって……と言っているのがまたお兄ちゃんみたいだ。僕の方が少し年上なのに(誕生日的に)、彼の方が年上に見える。















その後のGWも彼と仲良く過ごしたが、僕は気づかなくていい感情に気づかされた。
ああもう、一生彼には勝てそうにない。


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