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囚われた鎖12


中に入っている鍵は、手錠の鍵です。
外したかったら外してくれて構いません。
本当は起きるまで側に居たかったのですが、小用が出来てしまいましたので。
食事は机の上に置いています、何も怪しい物は入れていないので食べてください。
それと……先程の貴方はとても可愛らしかったですよ。




直ぐさまメモはびりびりに破き、床にばらまいた。
封筒の中に入っている鍵を取り出し、手錠を外す。
少し擦れて赤くなっていたが、気にしない。

そのまま立ち上がろうとしたが、腰と尻から鈍痛を感じたため諦めて上体を起こすだけにした。

近くの机の上には美味しそうなパンとサラダと桃があり、一日何も食べていない俺の腹は食べたいと音でまで主張してきた。

「……大丈夫、だよな?」

あの男は、俺にまだ嘘をついたことはない。
はぐらかしたりはしてきたが、嘘は一つもなかった。

皿を自分の前に持って来て、小さくいただきますをした。
これを古泉が作ったのだろうか、どことなく優しい味のするパンは市販に売っているような見事な出来映えではなかったが、美味しかった。
時間が置かれているのに桃は鮮度を保ったままで、果汁が中から出てきて口内を一杯にしてきた。

「ん、……もっと欲しい」

水分が。
果汁じゃ足りない。
もっと、もっと沢山水分が。

近くを見回してみても、水分補給できそうな物はない。
仕方ない。
桃が入っていた皿を持ち上げ、口につける。
そして中に入っていたシロップを飲み干した。

凄く甘いし、喉奥に絡み付いてくるけれど渇いていた喉が少しだけ、潤った。




……古泉、一樹。
俺の暗殺人生初の黒星相手。
俺とそう変わらない年齢、細っこい見た目の身体、甘い声。
それなのに、見た目に反して力のある腕、冷たい瞳、そして……あのマフィアのボス。
俺が知っているのはそれだけだ。
ハルヒから手渡された資料にはもう少し詳しく書かれていた記憶もあるが、読んでないからわからない。

「俺の過去を知る、奴……」

どこまで知っているのだろうか。
思い出したくもないあの恐怖と恥辱の日々も、知っているのか。

「はぁ、考えても分からんもんは分からん!」

思考を巡らそうにも情報が少な過ぎる。
と、そこで思い出した。
携帯電話は後で返すと言っていたのだ。
きっとこの部屋のどこかに…………あった。
サイドテーブルの上に置かれた自分の携帯電話。充電器までご丁寧に置いてくれている。
電源を入れ、素早くある人間に電話した。

「もしもし、ある人間の情報が欲しいんだが……。ああ、性格やら容姿やら過去やら全部、だ」





「……そうか、ありがとう。また今度な」

情報は集まった。
ハルヒが表の俺の情報屋なら、彼女は裏の俺の情報屋。
彼女はハルヒの知らない情報まで手に入れる。
知らない情報はこの世にはないと言い切れる程だ。

「さて、と……反撃といくか」

ナメられたら困る。
俺は殺し屋だぞ、安心したら俺は反撃してやる。
手錠外させるなんて、反撃してくれと言っているようなもんだ。




まあ、それより先に今は安静にして鈍痛を治すことに努めよう。
痛めたままだと辛いからな、うん。





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