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囚われた鎖6


「漸く気付いてくれましたか」

少し嬉しそうに笑い、古泉はそう言った。
しかし資料で見た写真は俺が殺したあの男と一緒だった。
ハルヒが間違った情報を仕入れたなんて信じられない。確かにあそこのボスは若い癖に強いと評判だったがコイツはどう見ても若すぎる。
信じられない。
だが、本当のことだろう。俺が敵わなかったのは、それだけ相手が…古泉が強かったということだから。

「それを知った所で今の俺に何が出来るっていうんだよ。そんなのもう、今は出来る状況じゃ無いじゃないか」
「よく解っているじゃないですか。状況判断の得意な人、僕は大好きですよ」

お前に好かれても嬉しくない。





それから少しして古泉が「お喋りの時間はこれくらいで止めましょう」とか言い、更に俺に近づいて来た。
……やめろ、近づくな。
どちらにせよ俺は古泉のファミリーの一員を殺めてしまった。
ファミリーの結束力は一般の団体よりも遥かに強いと聞く。
それを冒した者は“死”か死よりも苦しい“生”を味わわなければならないという掟があると聞いたことがある。
殺す気がないなら、俺のプライドをずたずたに切り裂くような辛い生が待っているのだろう。

あの赤い鉢巻きが俺に伸ばされている。それで死なない程度に俺の首を絞めるつもりなのだろうか、解らない。


解らないから、怖い。


「それ以上近寄ってきたら舌噛んで死んでやる!」

本気だ、プライドずたずたにされるくらいなら、死んだほうが幾らもマシだ。

本気で言っていることに気がついたのか深く溜め息をついて、近寄るのを止めた。……というよりは、赤い鉢巻きをポケットに入れたという方が正しいのだが。
それを見て、少し安心した俺に反応できないほど早いスピードで近寄ってきた。

「なっ、んぐ……」
「……っ、こう、したら…舌噛めません、ね」

咄嗟に舌を噛もうとしたがそれよりも早く、古泉が俺の口の中に指を差し込んだ。
思いきり噛んでしまったのだから痛かったのだろう。口の中が鉄臭くなっているところから考えて、切れたのだろう。
綺麗な指だったのに勿体ない。なんて誰が思ってやるもんか。

勿論その指は俺の口内にあるというわけで、鉄臭さがどんどん広がってくる訳で。
生憎、そんなやばい性癖を持ち合わせていない俺は指を抜いてほしいと必死にアピールした。
顔を背けたり、舌を使って指を押したりな。

「貴方が指を抜いても舌を噛まないと約束するなら、良いでしょう」
「約束、する…からはやく、抜け」

話しにくいったらありゃしない。涎が飲み込めなくて顎を伝っているのが一番嫌なところだ。

古泉はフフ、と笑ってから少し勿体振って指を抜いた。
ぐい、とシーツで涎を拭う。
俺はその時、シーツで涎を拭うことに集中していた。
回りの…古泉の行動よりも何よりも自分の汚れの方が気になっていたのだ。
気付いたときはもう、遅かったのだが。

「んなっ!」

一瞬の出来事だった。
いきなりの、暗闇の訪れ。
そこで気付いた。あの鉢巻きのようなものは、首を絞めるための物ではなくて視界を遮る物だったのだと。

一瞬の事過ぎて、咄嗟の反応なんて何も出来なかった。ただ、呆然となすがまま。抵抗の無い俺はさぞ扱いやすかっただろう。忌ま忌ましいことなのだが、自分が気付けなかったのがいけなかったのだ、相手の動きに気付けなかった自分自身が。

「……一体なんのつもりなんだ、全くもって意味が解らん。何をする気だ、ボコる気か、それともいたぶる気か」





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