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寂しい背中21


少し所じゃなく、かなりテンションの高い古泉(さっきから鼻歌が聞こえてくるのは気のせいだと信じたい)に若干ドン引きしながら古泉ん家に着いた。

玄関を閉めるといきなり俺を抱きしめて、驚いた。
驚いたとかそんなレベルじゃない、心臓バクバクし過ぎて死にそうなくらいだ。

「ど……どうしたんだ、いきなり」

まだ靴も脱いでないのに。
俺の肩に顔を埋める古泉にそう尋ねても答えはなく、むしろ離さないといった感じでギュウゥ、と抱きしめてくる。
それでも力加減はしてくれているのか、そこまで苦しくはない。

「貴方で充電中です……」

しばらくして漸く返答を貰ったらそんな意味不明な解答だった。
未だに男二人が抱きしめあっているという端から見たらかなりシュールな図を成している。
見る人によれば地獄絵図だ。

「そんなの、玄関じゃなくてもいいだろ」

全く、やれやれ。
そう言っても力は抜く気は更々無いらしい。ま、解ってたけどさそれくらい。

「ところでコイズミ。そのキャラはいい加減疲れないか?」
「いつから気付いてましたか」

いつ変わったのかと聞かれると彼女がいなくなって俺の席に座ってキスした後から。
一気飲みしたのもコイズミ。
鼻歌歌っていたのもコイズミ。
甘えてたのもコイズミ。

抱き着いてきた格好のまま会話を続けていた。
離れようと力を込める気も起きず、今俺の両手は真っ直ぐ下を向いている。

「うまく演じていた気がしたのですがね。残念です」

悲しげに言うそれも演技だとありありと解る。
コイズミの方が演技か本気なのか解る気がする。
もしかしたらそれすらも計算かもしれないが。

「俺以外は中々気付かないだろうよ、多分な」
「そうですね、僕の事を一番見てくれているのはきっと貴方だ」

肩に埋めていた顔を上げ、至近距離にある端正な顔が近づいてくる。
拒もうと思ったら拒めた筈なのに、何故か拒むことが出来ない。

ちゅ、と軽く口付けしその後深く舌を絡ませてくる。
恐る恐る俺からも舌を絡ませると軽く吸われて正直堪らない。
いつの間にかコイズミの手が俺の頭を支えていて、離れようにも離れることは出来そうもない。

「ん、ふ……」

くぐもった声が漏れ聞こえてくる。それは紛れも無く俺の声なのだが、俺の声ではないかのように聞こえた。
暫くは水音が回りに響くような激しいキスをしていたが、俺の腰が持たなくなる少し前に離し、最後に優しくキスをするとコイズミは瞳を閉じた。

「はぁ、は……こ、いずみ?」

次に瞳を開いたのは古泉だった。記憶が残っているのだろう、顔を真っ赤にして俺から離れ、目を反らした。
ちょっと可愛いじゃないかと思うのは失礼だろうか。

「なんで彼とのキスは拒まないんですか…?僕とは拒む癖に」

まだ頭の中でよくまとまっていないのであろう、珍しく焦った様子で古泉は俺に聞いた。
どこか必死げに肩を掴んでくるのが余裕を取り繕えない証明のようで、面白くて少し笑うと古泉は更に余裕がなくなったように見てくる。

「貴方、もしかして彼の事が好きなのですか?」

思いもしない発言に俺の頭がショートしかけた。
いやいや、おちけつおけつち俺よ、おつけち……!
……ほんと、落ち着こう。
焦りすぎて日本語もまともに思考できないなんて有り得ない。

「何言ってるんだ、お前。そんな訳ないに決まってるだろ」

呆れたようにそう返せば、古泉はじっと俺を見て何かを深く考えていたようだった。
嫌な予感がしてならない。
深い思考に入ってはいるが俺の目から一度も反らす様子のない古泉の目が、怖い。

「なら、どうして……?」
「気まぐれだ、ただの気まぐれに過ぎない」

古泉から目線を反らし、何の感情も乗せずにそう言った。
視界の端に、その言葉に目を大きくさせる古泉が入ったが気付かない振りをした。
俺にとっても、古泉にとっても、気付かない方がいいと思ったから。





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