[携帯モード] [URL送信]
寂しい背中17


「絶対…守るから」

そう言って、触れるだけのキスをした。
これが俺なりの証拠だ。
赤くなっているだろう顔を隠しつつ、ちらりと見るとなんとも阿呆な顔をしていた。
なんなんだ、その鳩が豆鉄砲を食らった時のような顔は。綺麗な顔が台なしだぞ。

「……もっと、深くしてください。そうしたら、話は聞きますから」

作戦は成功だったらしい。
覚悟さえ見せれば、きっと解ってくれると信じていた。
……根っこの部分はどちらも同じということか。

もう一度俺の方から顔を近づけて、口付ける。
自分からのキスは初めてだな、うん。今回のも回数に含めるか否かは後で考えよう。
薄く開かれた唇から舌を入れ、古泉の舌と絡める。
たどたどしい動きに少し焦れたのか、主導権を古泉にとられ、咄嗟に後ろに退こうとしたが気付けば頭を手で押さえられていて退けなかった。

「んぅ……んッ」

どちらのものか解らない唾液が俺の顎を伝う。前は嫌悪を感じていたのに今は……今は?
ああすまん、間違えた。
今も……嫌悪を感じている。

「はぁ…可愛い……」

唇を少し離し、古泉はそう呟いたかと思うと俺を押し倒した。
ってちょっと待て!

「……だから、それは話の後だっ…んむっ」

言葉を最後まで言わせないとでも言いたげに、再度ちゅっと軽く口付けして俺の口を物理的に塞いだ。

その後も思うままに唇を屠られ三十分。
その間に何か他に変な事をしてきたら殴ってでも止めてやる、と息込んでいたのだが思いの外何も変な事はしてこなかった。
部屋中にちゅ、ちゅっという音が響いて、俺の頭の中が変になりそうだ。

最後にちゅう、と唇を吸われて古泉の無駄に整った顔が離れていく。濡れた唇がやけに綺麗で暫くの間見惚れてしまった。
そのことに気付いた俺は何だか悔しくて(何が悔しかったのかは自分でもよく解らんが)唇を手の甲でゴシゴシと拭って気を紛らわせた。

「……充分です。お話を聞きましょう」

コイズミはまるで古泉かのように優しくそう言った。
その表情はシチューぶっこんだ奴のそれには見えない。

「彼女を殴ったり傷つけたことはないのか」

彼女、と言ったところで微かに眉がぴくっと動いたのが見えた。
どうやら彼女の事を好きなようではない。ならなんで了承したのだろうか。
さっさと別れれば良いんだ別れれば。
……好きじゃないなら付き合っていても苦しいだけじゃないか。
それに、なんだかお互いに可哀相だ。

「僕は貴方以外に手を出したことはありませんよ。貴方だけがとく……」

何か言おうとしていたのだが、最後まで聞けないまま倒れた。
今、胸の中に古泉がいる。
伏せられた睫毛は長く、微かにぴくぴく動いていることからどうやら強制的に眠らされたようだ。

暫く古泉を観察していたのだが、いきなりがばっと起き上がるとそれは正しく古泉の表情だった。

「…………古泉?」
「ふぅ、危なかった」

古泉は独り言を呟き、その後俺の腕の中にいると気付いたのか焦ったように俺の腕の中から体を離した。
少し寂しく思うのは、気のせいとかではない…と思う。

少し寂しそうにしていたのが古泉にもばれたのか、慌てながらも謝罪され更に寂しくなった。
謝られたくない。
そんな悪いこともしていないのに謝らないでくれ。

「お前のせいじゃないから」

気にしないでくれ、とふわりと笑ったつもりだったのだが、上手く笑えていなかったらしく古泉の表情が少し曇った。
そんな顔、してほしくなんてないのに。やっぱりさ、お前には笑顔が似合うと思うんだよ。
偽りの笑顔じゃなくて、心からの笑顔が。





前←次→
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!