寂しい背中3
「あ…ごめ、汚しちまった」
回りを見渡してティッシュを探したが、中々見つからない。
しょうがない。
自分の鞄にはタオルが入っているからそれを渡そう。
俺はこの時、どうにかして古泉の手の汚れを拭わそうと必死だった。自分の出したモノで古泉が汚れてしまったことに罪悪感を感じたからだろう。
「タオル取ってくる」
確かリビングに鞄は放置されているはずだ。
急いで俺は取りに行こうと、した。
「どこに行こうとしているんですか」
左手で取りに行こうと起き上がった俺の右手を掴み、取りに行かないようにか阻止してくる。
自分の右手が今どうなっているのか解っているんだろうか。
俺の…もごもご、がべっとり大量に付いているんだぞ。そこんとこ忘れてないだろ。
「タオル取りに行くだけだ。そのままじゃ色々汚いだろ」
言いながら、古泉の右手を見ると少し納得したように「ああ、これのことですか」と俺に尋ねた。
早くしないとカピカピになるから、急いで取りに行きたいのだが、左手が離れないため行くことは出来ない。
「取りに行く必要はありませんよ、用意しなくても綺麗にする物は有りますから」
にっこりと微笑まれ、俺は取りに行くのを諦めた。
笑ってるのに目が笑っていないから。
また、殴られるんだろうか。
古泉がにこやかに口を開く。嫌な予感しかしないのは何故だろうか、背中にとてつもなく嫌な汗を掻いているのは。
「これ、貴方が全部舐めて綺麗にして下さるなら、別条件も込みでですが彼女を大事にすると約束しましょう」
「――……なっ!?」
それくらい、してもらわなければこちらにメリットはありませんからね、だと?
何で俺がそんな事……!
でも、俺があれ(もう説明するのも悍ましい)を綺麗にすれば彼女への暴力は無くなるのか。
だけど、な…舐め……っ、やっぱり無理だ、気持ち悪い!
古泉をちらりと見ると俺の方へ右手を差し出した状態で大人しく待っている。
これは、覚悟を決めるしかないな。
なんとなく、これは唯の勘なのだが例え俺がどういう答えを出しても避けられないんだと思う。
それならば早い段階で決めていた方がまだマシだろうと、そういう訳である。
古泉の右手をがしりと掴み、最初に人差し指を口に含んだ。
青臭い味に少し眉が潜まるが、我慢しなければ。
一本ずつ口に含み、舌で綺麗にした。残るは、指と指の腹の所とその下だ。
ここは口に含むことが出来ないから、舌を伸ばすしかない。
一瞬躊躇したが、指の腹に舌を這わせた。
自分に宜しくない、寧ろ悪すぎる光景なので視界は自らの意志で遮った。
「……知っていますか。指を舐める行為は、フェラを連想させられるらしいですよ。僕はそんなの信じていなかったんですが、信じなければならないようですね」
古泉が話しかけてきたが全力で無視し、残っている所を綺麗にすることに専念した。
「無視しないでくださいよ、彼女を傷つけたくないでしょう?」
言い方こそ優しいものの、言っている言葉はただの脅し。
……脅しでしか、ない。
無心・我関せずで汚れを舐めていた俺は、あらかたは綺麗になっただろう古泉の手から唇を離し、口を開いた。
「……どうだって良い、そんなこと。それよりこれで満足か」
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