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闇夜の譫言12


「嘘、とはなんのことでしょう?」

彼は僕の腕をぐいと引っ張って、バランスを崩した僕を腕に納めた。一体何が起きているのか解らない。
彼が、僕を、抱きしめている?

「お前はもう少し本当のことを言え。我が儘言ってもいいんじゃないか?」

彼の言葉にうっかり本音を零しそうになる。
貴方のことが好きです。
離れたくない。
そう伝えてしまいそうになる。
……言ってはいけない言葉の羅列。

「本当に欲しいなら、首からでも指からでもどこからでもあげるから、嘘はつくな」

なにか、突き放すような言葉を言わなければ。
そうでなければ、残り三日で我慢できなくなる。
あと三日で僕は彼の家から去り、一人ぼっちの寂しく冷たい部屋に戻らなければならないのだ。
それは変わらない現実。変えられない未来。

「なにか、勘違いをされていませんか?」
「はっ?」

気を張り詰めていなければ、泣きそうだ。
彼が、ではなく僕が。
からからに渇いた喉で思い浮かぶだけの嘘の言葉をつらつらと並べる。
見た目だけは平静を保って。

「貴方に本当のことを話すなんて、無理に決まっているじゃないですか。僕は貴方のこと、餌としか思っていないんですよ?餌の貴方にどうして本音をさらけ出さなければならないんですか」
「こいず……なに、言って…」

彼が今にも泣きそうだ。
すみません、ごめんなさい。

「僕が貴方に本音で話す日なんて一生来ませんよ。こうやって触られているのですら嫌悪を感じているくらいですからね」

彼は僕を腕から解放して、離れた。冷たい仮面を被っている僕を見て、彼は悲しんでいるのだろうか。
太陽が昇り、本格的に朝がやってきたが僕の心は夜の様に暗い。

「……お前はやっぱり嘘つきだ。じゃああの時どうしてキスしたんだよ?命令したんだよ?嫌いなら、餌だとしか思ってないなら、期待させるようなこと…するな」

震える声、震える身体で彼は僕に向かって言った。
全部本気だった。
好きだからキスしたし、命令もした。
今だって、命令で黙らそうとすれば出来る。けれどそれでは意味がない。
彼に本格的に嫌われなければ僕はきっと諦められない。

彼女が協力してくれると言ってくれたのは嬉しかった。
だけど本当に協力してもらうに値する者では、ない。僕はそんな素晴らしい者ではないのだ。
ただの、人殺しに過ぎない。
同胞殺しだって、躊躇いなく出来るような奴なんだ僕は。

「……全部、いつも餌にしていることですよ。ねだられれば、キスもしますしセックスだってします。欲しい言葉だって幾らでも差し上げます。血を頂くんです。夢くらい見させてあげるのが礼儀でしょう?」

その言葉に唇を噛む彼。
初めて会った時も唇を噛んでいたなぁ、と思い出に少しの間耽っていた。
最初は、全然彼を好きになる気なんて無かった。
ただ凡庸だとしか思わなかった。そのなかにある、非凡ななにかを感じるまでは惹かれなかった。
彼のその性格の非凡さに、優しさに、いつしか心奪われた。
だからこそ彼に嫌われなければならないのだ。

「……最低だな、古泉。最低だよお前は。嘘つきで、最低だ」
「そうですよ、僕は最低の嘘つき男です。騙されるほうが悪いんですよ、そんな安っぽい嘘に騙される愚かな人間が馬鹿だ」

と、彼はいきなり僕をベッドへと突き倒した。倒れた僕の上に彼が馬乗りする。
何故彼が僕の上に乗っているんでしょうか。
しかも、さっきまで気付いていなかったけれど泣いている?

「なに、泣いてるんですか」





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