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闇夜の譫言10


「もう少し、待ってください。今はまだお話できません。僕の問題ですし、貴方を出来るだけ巻き込みたくない」

それは本心からの言葉。
驚いた様子で顔を上げた彼の唇に口付けた。
ごまかすようで申し訳ないとも思ったが、それでも僕は彼に罪を話すことが出来ない。

「んぅ……んっ」

ここが誰が通るか解らない道端にも関わらず、舌を絡め、激しくキスをした。
彼も僕に舌を絡めてくれた。
それが、今はまだごまかされてくれると言っているのと同意だと解った。

きっと、彼に僕の罪を言うときは最後の別れの時だろう。
それ以外では言えない。
言っては、いけないこと。

「ふは……」

どれくらいの時間、キスしていただろうか。
もっと彼の味を味わいたかったけれど、これ以上してはダメだ。
理性が切れてしまう。
彼の唇から離れると、少し名残惜しそうな顔をする彼。
……すみませんが、今回はその顔でおねだりされても希望には応えられそうにありません。

「……帰るか」
「そうですね」

何事も無かったようにそう言ってくれた彼に心の中で感謝し、頷く。
他愛もない会話を二人でして、彼の家に帰った。


彼との生活も、もう少しで終わりと思えば少し切なくなった。


食事は彼の食事終了後にするのがいつもだったが、今日は先にさせてもらった。
思っていたよりも昼の生活に慣れていなくて、疲れて眠たかったから。最近はずっと夜に行動していたから太陽に長時間浴びていたのが意外に堪えていたらしい。

「すみません、お先に眠らせていただきますね」

少し心配気味な彼に出来る限りの作り笑いをし、それだけを言うと彼が僕の為に敷いてくれた布団に横になった。

「……ベッド」
「はい?」
「今日はお前がベッドで寝ろ。体調悪いのに無理するな」

体調は他人に解る程悪いとは思わなかった。確かに今日の出来事を引いても怠かったけれど。
彼はどうして気付いてくれるのだろうか。

「すみません、有難うございます」
「良い。気にするな」

じゃあ、おやすみ。
彼がそう言って、パタンとドアを閉めた後、僕は小さく「ごめんなさい」と呟いた。

ごめんなさい、こんな優しい貴方を巻き込んでしまって。
ごめんなさい、貴方の優しさに付け込んでしまって。

ごめんなさい、貴方を好きになってしまって。


さようならとは言わない。
けれど、貴方と一緒にはもう…居られそうにないです。


夜中、彼が布団で寝ている中目を覚ました。
嗚呼、やはり……もう、彼とは一緒にいられないかもしれない。
窓から外へ出て、夜の街へと歩を進めた。

きっと、明日の朝彼の元にいる僕は汚らわしいに違いない。


「お久しぶりです」
「久方ぶりね。神の観察並びに鍵の観察の調子はどうかしら?」
「ええ、順調ですよ。…彼の優しさは付け込みやすいですから」
「そう。発展があればまた報告して。最近は神の精神も安定しているわ、彼のお陰でしょうね」
「そう、ですね」

嘘だらけの、僕。
ふらふらした足取りで彼女の元から去り、彼以外の餌を探しに歩く。
彼のことを好きで、好きで堪らなくなって、彼の血を飲む量を極端に減らしたのだ。
元よりあまり飲んではいなかったから一時的な飢えを満たすまでしか到っていなかった。
普段は、一回でかなりの血を飲んでいたのだから、こうなってしまってもしょうがないか。

「こんばんは、お一人ですか」

今はとりあえず、質より量。
その辺に歩くいまどきの若い女性に話しかけた。





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