[携帯モード] [URL送信]
闇夜の譫言1


暗闇に紛れる黒い服を纏い
今宵もまた、誰かが犠牲となる
餌を欲する彼らは
誰か一人をと決めず、
餌を欲したときに
見境なく食らう

食らわれた餌のその先など
これっぽっちも考えず、
ただ、自分の飢えを満たすのみ

その姿は、皆一様に、
美しいと噂されていた――

「……見つけた」

僕の餌。
暗い路地裏を駆けて走る少年。
男性より女性の方が好ましいけれど、まあ良い。
今の僕は血に飢えているから血の気の多い若者であれば男であろうと女であろうとどちらでも差ほど変化はない。

しかし、彼も可哀相に。
僕なんかに見つけられさえしなければ少なからずもう少しは長生きできたのに。

「はぁ……はぁ、やっ…べ、バス出ちま、う……!」

どうやら帰り道の途中らしい。バスに乗られたら後々面倒かもしれない。
僕の飢えの方も、もう結構ぎりぎりだ。

しかし彼はまだ夕食にありつけていない。ということは今の彼の血は満腹時に比べて栄養分が足りないのだろう。
それは少し、勿体ない。
ここでは少し味見をして、満腹になってから頂こうか。

「……そうと決まれば、早速行動あるのみですね」

赤玉を作り、それを彼目掛けて投げる。一般人……人間には見えないそれは見事に彼に当たり、内部に侵入できた。
彼は確実に気付いてはいないだろう。
赤玉は所謂マーク付けと言ったもので、“これは僕の餌です”ということを証明するものだ。
これを付けられると何処で何をしているのかが直ぐに解るという優れ物。
まぁ、使う人は希少だが。

「さて、では味見を」

指をぱちん、と鳴らし空間の時間を少し止める。
この技はある程度体力を使うからあまり使いたくはないけれど、味見だけの場合は気付かれると色々と後が面倒だから(味見しづらいし)、僕はたまに使う。

彼に近寄り、その少し開けた襟首を更に開けさせて美味しそうな首筋を晒し、そこに牙を立てた。

ごく、ごく……

零さないように飲まなければ、そう思い慎重に飲もうとしていたけれど、あまりにも彼の血は美味しくて、思いきり飲んでしまう。

ここで飲み干しても良いかと思う程美味しいけれど、更に極上になるんだと思い牙を離した。

そして彼の首筋から流れる血を舐めて止血し、その上からキスを落として傷を消した。

食した後は後片付けをきちんとして、餌にばれないようにすることを僕は忘れない。
もし万が一餌が気付いたり餌の周りの人物が気付いたら面倒が増えるからだ。
それをしない低俗な吸血鬼もいるにはいるが、彼らと僕は相入れない存在だろう。


彼から離れて元の位置に戻り、空間の時間を流れ始めさせる。
彼は先程まで自分が何をされていたのか気付いていないかのように走っていた。
いや、気付くかもしれない。
彼の襟首のところに、少量ではあるが血が付着してしまった。
あまりにも美味しくて、僕にしては珍しく零してしまったのだ。

彼が聡い人でなければ良いのだけれど。

「何か御用ですか?」

後ろから感じる気配に気付いたのは、随分前だったがとりあえず彼を見届けてからで良いだろうと思い、放っていた存在を確認しようと振り向いた。

振り向いた先には、一人の小さな女性……少女が立っていた。
恐らく人間ではないだろう。
時を止めていたにもかかわらず、彼女は動いていたから。

「彼には手を出さないで」




次→
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!