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囚われた鎖29


「そうか……」

おじさんは俺の頭をぽんぽんと叩きながらそう言った。
そういえば、今おじさんと俺だけしかいないんだっけ……。
そう考えたら何故か怖くなった。

「我がして欲しい遊びはな、夜枷という遊びだ」
「ふぅん、よくわかんないけどそれってどういう遊びなの?」

俺そんな遊びしたことないなぁ、聞いたこともない。
どんな遊びなんだろ?

「それはな……」
「な、なに?」

いきなりおじさんが俺を近くのソファに押し付けてきた。
しかもおじさんは俺の上に馬乗りして俺を見下ろしている。
にやりと笑ったおじさんが、怖い。

「夜枷とは、お主が我に犯される遊びだよ」
「い、嫌だ……っ!俺初めては好きな人が良い!」
「なぁに、好きになるさ。我を自分から求めるくらいにな」

そんな訳あるか!
俺はじたばた暴れた。
暴れた際におじさんの顔を裏拳で殴ってしまったらしく、おじさんは物凄く怒って人を呼び集めた。

「こ奴を少し大人しくさせろ。我は疲れた」

呼ばれた人の中に当然ながらお兄さんはいない。
お兄さん、助けてっ。
俺、こんな……全然知らない人に犯されたくないよ。

「――助けて、お兄さんっ!」

無数の手が俺に延びてくる。
お兄さんは……来ない。
俺はただ泣きじゃくりながら暴れることしか出来なくて。でも多勢に無勢。
すぐに取り押さえられて下卑た笑いが上から降ってくる。

「誰も助けてくれない」と。

俺はその事実に絶望し、失望した。
そこからのことをあまり覚えてはいない。
ただ、気がつけば赤に塗れた自分が立っていて、手には割れた硝子を持っていた。

「あ、あ……ち、ちがう、俺、俺は……っ!」

バタンッ

「大丈……これ、は」
「お、兄さん……ち、違う!俺じゃない、俺は、知らなっ」

助けに来てくれたお兄さんは室内に入ると辺りに広がる惨劇に目を見開いて驚いていた。
その後、俺を見て更に目を見開いた。

でも、俺の言葉を聞いて優しくお兄さんは微笑んで、自分のスーツが汚れるのも気にせずに抱きしめてくれた。

「うん、君のせいじゃないよ。家に帰ろう?近くまで送るから……あ、でもその前に着替えが必要だね。僕の家に一度寄って、甥の泊まり用の服をあげるね」

だから、もう安心して。と俺を抱き上げながら言ってくれた。
でも、俺はおじさんを。
お兄さんを怪我させて、更に俺を犯そうとしたおじさんが、憎くて、憎くて仕方なかった。

あの時、あれだけの命を奪ったんだ。
今更、その過去は消えない。
俺の手は、もう……綺麗じゃない。
俺という存在は、あの時、一度死んだ。
無垢で何も知らなかった俺が、死んだ。










「……だから俺は、あいつを殺すために暗殺業に身を染めた。全てはあいつ……マーナライを殺すために」

それが俺の、生き甲斐であり、存在価値だったから。
マーナライがいなくなった今、残ったのはお兄さんのそれからを知りたいだけ。


と、そこでいきなり古泉に抱きしめられた。
ぎゅうっと力いっぱい。
でも、苦しくない程度に。

「……古泉?」
「貴方の言う、お兄さんはその後すぐに……亡くなられました」

話によると、お兄さんは俺を家に帰したことであいつの気に触れ、更に俺の家族に手を出そうとしたあいつに向かい、全部は自分の責任だからと一人で責任を取ったらしい。
それによって、俺及び家族に手を出されずに済み、俺が真っ直ぐ生きてくれることを望んでいたらしい。

でも、どうしてそれを古泉が知っている?
それに、さっきまで気付かなかったが少し震えているように見える。





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あきゅろす。
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