囚われた鎖17 「いい加減にしろっ」 最初はまあこれくらい我慢してやる、と思っていたのだが流石に舌を入れられたら我慢できるわけがなく。 目を開けて睨み付け、怒鳴った。 威力は皆無、残念ながらな。 にこりと見た目だけは笑い、古泉は俺の顎をくいっと掴んだ。 「盗み聞きとはいけませんね、それにバレバレの寝たふりは辞めてください」 目を合わせて古泉は言う。 う……、まぁそれは正論かもしれん。何も言い返せない。 目を反らすと、負けを認めるようで悔しいが、これ以上合わしていても結局は負けを認めなきゃいけないだろうから、それならと思い、思いっきり反らしてやった。 「……聞かれたくないなら、こんな所で電話しなきゃいいだろ」 「いえ、聞かれるのはむしろ大歓迎なのですが、聞くにしても堂々と聞いてほしかったと言いますか、貴方らしくないと思いまして」 「俺の職業忘れてないか?」 俺は暗殺稼業だぜ、情報収集の為なら自分らしくないことだって幾らでもやるさ。ああやるとも。 ハルヒとの電話の内容、正直言って凄くムカついた。 俺は物じゃないし、俺は誰のものでもない、俺のものだ。 「涼宮さんはここを嗅ぎ付けるかもしれません、そしたら貴方を解放します。それからは貴方の自由ですよ」 解放されるのに、俺は何も嬉しくない。 だって、それはもう必要ないということだろ。 俺は用済みという意味なんだろ。 ハルヒがここにたどり着かなければ良いのに、と遠くで考えてしまう自分が忌々しい。 「俺がここを出るのは任務遂行後だと決めている」 淡々とそれだけを古泉に投げかける。 たったそれだけで古泉は言いたいことを理解したらしい、賢い奴だよ本当に。 結局もう一度その後古泉と一緒に寝た。 朝起きる頃にはハルヒが来るだろうと予想しながら。 古泉の腕はとても暖かくて、でもどこか冷たかった。 握られた腕は、多分その温もりに囚われてしまったのだろう。振りほどく事も出来なかった。 「キョーーーンッッ!!」 喧しい声で目が覚めると、ドアがバターンと開き、ハルヒの登場だ。 思ったより早かったなぁとぼんやりする頭で考える。 隣にいる温もりを探したが、古泉はもう仕事に行っていたみたいでもぬけの殻だった。 「ようハルヒ。早かったな」 「早かったな、じゃないでしょう!あんた何勝手に捕まってんのよ!!」 ハルヒはハルヒなりに心配してくれていたんだな。 素直に物が言えない奴だけど、優しい奴だから捕まった俺のためにとせっせと情報を集めたのだろう。 だけど、俺はまだここから帰らない。 ハルヒには悪いが、ここでまだやらなきゃいけないことが沢山ありすぎる。 「ハルヒ、俺はな、……っ!」 「?……なによ」 「バッ、伏せろ!!」 俺の言葉に従い、ハルヒは伏せた。 元々ハルヒの首があった位置に鋭い刀が振られる。 咄嗟にベッドから飛び出し、テーブルの上に置いてあった果物ナイフを投げる。 まさか俺から攻撃が来ると思っていなかったのか、古泉の部下は避けることが出来ず、腕に果物ナイフが刺さった。 「ハルヒ、お前は帰れ。俺はまだここに残ってやらなきゃいけないことが山積みなんだ」 「嫌よっ!折角見つけたのに、どうして一人で帰らなきゃいけないの?」 まあそう言うと思ったが、こればかりは譲れない。 俺はハルヒを持ち上げて、窓を開けた。そのままそこから飛び降りる。 ここは七階だが関係ない。 俺にとっちゃ七階くらいは余裕だ。 前←次→ [戻る] |