嘘つきなふたり。
「んっ……ふぅ」
放課後、誰もいない部室で俺達はキスした。
深く、深く、屠るような、キスを。
目の前で揺れる亜麻色の髪の毛があまりにも綺麗だ、と思ったがあえてそんな事は言わない。
「はっ……んん」
送られてきた唾液が、飲み込み切れなくて顎を伝う。
ああ、気持ち悪いな。
終わったら、顔洗いに行かなきゃいけなくなった。
出来れば、余韻に浸りたかったのに。
ちゅ、っと名残惜しい音を立てて唇が離れていった。
少し、残念だと思ったのは事実だ。認めたくないが、事実は変えられない。
零れ落ちた唾液を袖でゴシゴシと拭うと、さっきまでそこにあった濡れた感触は無くなった。
残ったのは、唇の感触。
少し温度の低い、程よい柔らかさの、それだけ。
「好きです」
毎回キスが終わると、奴はそう言う。
なにも、感じていない、無機質な目で。
きっと本人は気付いていないと思っているのだろうが、俺は気付いてしまった。初めてその台詞を言われたその瞬間に。
少しで良いからその瞳に俺を愛おしく思う色があったら良いのに、そんなものは一つも、一欠片も無かった。
ただ、俺を手駒として扱いたいが為に言うのであろう台詞に、いつも返している言葉を今日も口に出す。
「俺は嫌いだ」
その後、決まって俺は部室を出て顔を洗いに行く。
泣きに行く訳じゃない。
頭を冷やすために。
明日も、明後日も、ハルヒの力が無くなるその時まで、きっと続くこのやり取り。
嘘つきな俺達はまた、残酷な嘘をつく。
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