まだ俺はこんなにも、
「別れましょう」
古泉にそう言われたのが昨日。
いつも通り古泉の家に行って、いつも通り夕飯を食べて、いつも通り風呂に入って、いつも通り、愛を確かめ合った。
いつも通りの、そう、いつも通りの出来事だったのだ。
このあと古泉が優しく俺に口づけてさえくれれば。
だが、口づけの代わりにそんな言葉が俺に降り注がれた。
「僕たちはそもそも、一緒になるべきでは無かった。貴方は彼女のものだ。僕のものには一生なれない」
いつもの癖の敬語が取れた古泉に、それが本気の言葉だと直感した。
俺はもう、古泉以外の誰のものでも無いのに。
ハルヒのもの?
勝手に決めないでくれるか。
言いたい言葉は沢山あったが、上手く紡げない。
ただ、頬を濡らす何かが、零れ落ちるばかりで。
「……また、ただの部活仲間に戻りましょう?」
それは確かに疑問型を成していたが、質問では無かった。
はいとしか、YESとしか答えられない、一択しかない、質問。
「わか、っ、た……」
目線をそらして一言そう呟くだけで精一杯だった。
瞳から零れ落ちるそれは、とまり方を知らないローラースケートの様に、流れていく。
「今日はもう泊まっていって下さい。僕はソファーで寝ますから貴方はベッドでどうぞ」
「いい、帰る」
返事も聞かない間々、部屋から飛び出した。
古泉が後始末をきちんとしていただけあって、変質者にならずに済んだ。
あのまま、あの思い出がたくさん残っている部屋に泊まるのは嫌だった。
思い出してしまうから。
「別れるなんて無理だ、嫌だ、やめろ」と我が儘を言ってしまいそうだから。
俺はまだ好きだよ、
お前はどうなんだ?
いつもの仮面を被ったお前の心がもっと読めたら良いのに。
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