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愁恋上


古ぼけたアルバムを取り出し、一枚の写真をなぞる。
皆で撮った、最後の写真。
その中でもあいつは、にこやかに笑っていた。

なあ、俺を今でも好きなら、奪い去れよ。

――――

郵便受けに届いた一枚のハガキに、動揺が隠せない。
それは彼の字で宛名の書かれた、招待状。
僕よりは幾分も読みやすい、あまり癖の無い文字は相変わらずの様でどこか安心した。
裏返し、見る。

「どうしろって、言うんですか……」

届いたのは一通の結婚招待状。
彼と、涼宮さんの。
二人仲良く並んだ写真付きで。

「僕はまだ、貴方が好きなのに……」

その写真の中の彼は、幸せそうに微笑んでいた。

――――

今頃、ハガキは届いただろう。ハルヒとの結婚式の、招待状。

「あんた、本気なの?」
「ああ、本気だ」

隣にいるハルヒが呆れたように溜息をつく。
おい、幸せ逃げるぞ。

「幸せになるわよ、その為に結婚するんだから」

そうだな、と返しながら古泉の今の状態を考え、少し笑った。
今頃、きっと放心状態かあわてふためいているだろう。

――――

彼が、結婚する?
涼宮さんと?
……これは、いちSOS団員として、またいち機関の人間として、喜ぶべきだ。
在学中も二人は仲良かったし、この結果を考えたことも何度もあった。
なのに、今どうしてその時シュミレートした行動が出来ないのだろうか。

絡みまくった僕の頭の糸は、中々解けそうにもない。

――――

「それにしても、SOS団が集まるなんて何年ぶりかしら。あんたとはよく会うけど有希やみくるちゃん、古泉君とは暫く会ってないわ」

ハルヒが楽しそうに言っているのを聞きながら、携帯電話を開く。
そろそろ、来る時間だ。

――――

「もしもし、古泉です」
「ディスプレイ見りゃ解る、あ、そうだ。ハガキ届いたか?」

震えないように精一杯頑張って声を出した。
こういうときに、機関での数々の試練は役に立つ。嘘を平気でつけるようになったから。

「そのことなんですが、」
「ハルヒがさ、SOS団が集まるの楽しみにしてるんだ。勿論お前も来るよな?」

欠席する旨を伝えたかったのだが、涼宮さんが憂鬱にならない為にも僕はイエスと答えなければならなくなった。

「ええ、勿論。当日にまた」
「ああ、また当日に」

ハガキが届いて約一日過ぎてから電話なんて、どれだけショックだったんだ、自分は。

――――

電話を切り、笑った。
ハガキは昨日届いているのに、一日経たないと電話してこないというのは、それだけショックだったということか?

「あー、面白」
「じゃあ私は試着に行くけど…あんまり古泉君に迷惑掛けないでよ」
「解ってるさ」

全ては、当日。
決着は全部、結婚式当日に解ることだ。

その日が楽しみだ。

――――

やっぱり卒業式のとき、彼と一緒に帰れば良かった。
同級生や下級生の告白リレーに付き合わずに、さっさと。
そして僕が告白すれば良かったんだ。

後悔は絶えない。

――――

結婚式前日。
ハルヒと一緒に結婚式場に行った。試着した様子を見に。

「ハルヒ……、お前もしかしてそれ持って歩くのか?」

それは些か神聖である教会に似つかわし過ぎた。
まず、そんなの持っている時点で確実に浮く。

「ばっかねー!そんな訳無いじゃない!これはあんたによ」

そう言って俺に押し付ける。
どうにもこうにも、全部は俺の為の準備だった…というわけか。

全ては明日、決まる。






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